もしルイズに公爵令嬢としての余裕があれば   作:売ル座布団

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 ご訪問ありがとうございます、こんな甘えがあるような作品に、最後まで付き合っていただいて、何度も、くどく、お礼を申し上げさせてください。

 クライマックスからもいくつか話が飛んで、才人を地球に送り返したいという話になり、揉めるが、そもそも方法がないという話になった場面です。

 そこでのルイズの応答から始まります。


才人との別れ、物語の終わりと始まり

「いや、確信があるわ」

 

 

 私は水のルビーを虚無の魔導書にかざした、今、この時こそ現れるはずだ、でしょう?

 私の予測通り、ルビーが輝き、虚無の魔導書に文字が記されていく。

 そこには、才人を送り返すための呪文が、確かに記されていた。

 

 

「待てよ、俺は確かに地球に戻りたい。 母さん、父さんやみんなに無事を報告したい、皆ともう一度話ししたい」

「なら、何の問題もないでしょ」

 

 

 才人には助けられた、これからもその知識で……いえ、知識がなくとも、友としてその明るさで助けてくれたら、と思う。

 だけど、私は強がってそう言う。 言わなきゃならない。

 

 才人は”今”送り返さなければ、と思うから。

 

 今やらなければ私はきっと、ずっと才人を手放すことなんて、できやしないのだから。

 

 

「でも! でもさ、俺はルイズの物語も見届けたいんだ。 だって、ルイズみたいなスゲーやつと一緒に物語を紡ぐことなんて、俺は地球ではできない。

 俺は本当にただの庶民で、オレ一人居なくなっても、知人以外は誰も気にしないようなやつだったんだ……

 たしかに家族や皆には悪いと思う。 けど、だけどさ……ルイズ、ダメなのか?」

「ダメよ…… わかってよ…… 私だって本当は……」

「ルイズ……」

 

 

 本当はそうした方が、ハルケギニア全体にとって良いだろう。

 対して、才人がいないことで、才人の家族や友人は困っても、地球全体ではそんなに困らないのも確かだろう。

 

 だから、私がジョゼフだったら、迷いなく才人をここに縛り付ける。 そうする方がハルケギニアはずっと良くなるだろう。

 

 でも、今の私にとっての、タバサが地球に呼ばれたら? キュルケなら? シエスタなら? 父様や母様、姉様なら?

 そのことを考えたら、私は私を許すために、才人を送り返さないわけにはいかなかった。

 

 私は胸を張って生きるのだ、そうしないのならば、なんのためにジョゼフを殺したのか。

 

 

「……わかったルイズ、俺が悪かった、わがままだったな」

「そうね、才人ったら本当にいつもわがまま。 ま、あんたのわがままは、たいてい皆にも嬉しいことだから、叶えちゃいたくなるけど、これだけは……ね?」

「ああ、俺たちの物語に、俺自身がケチつけちゃあいけないよな…… やってくれ」

 

 

 才人は本当に私には過ぎた使い魔だった。

 鋭くて、賢くて、何より明るくて前向き。

 そんなあんたが居なかったら、と思うと、自然と涙が出そうになる。

 

 そのことが嬉しい、きっと、才人も同じような気持ちで、泣きそうな顔をしてくれているのだろう。

 彼と、お互いにこんなに自然に想い合うことができるなんて…… なんて、わたしは……

 

 

「……ええ、ワールド・ドア!」

 

 

 抑止力として、絶大な効果を持つ、虚無系統の魔法を使えることは便利だ……だけど、それだけだ。

 だから、これはきっと、私が最後に使う虚無の魔法になるだろう。

 

 だから、ほんとうに必要な最後の呪文として、この移動魔法は魔導書にも記されたのだろう。

 

 私にも予感がある、きっと、虚無でない私は……生きる理由をたくさん持っている私は……もうゼロと呼ぶにはふさわしくない。

 だから、いつも寄り添ってくれていた、馴染み深い魔力が全身から抜けていくのがわかる。

 代わりに、直接この身に感じたことはないが、何度も見たことがある、そんな魔力が少しずつ満ちていく。

 

 ……そうだ、ゼロではなくなり、虚無を失ったなら、私は母様と同じ、風の……

 

 そして、虚無の魔力が尽きる感覚と同時に、見慣れぬ扉が姿を現した。

 

 

「俺のルーンが……」

 

 

 才人の方にも変化があったようだ、私が虚無でなくなって、なぜかコントラクト・サーヴァントによるルーンが消えたようだ。

 伝説にもそんなことは書かれていないし、私たちが史上初かもしれない。

 

 恐ろしいはずの使い魔のルーンを、才人はむしろ大切なモノを失ったかのように困惑して見つめている。

 

 

「あら、さすが私ね、こんなに完璧に魔法を行使するなんて。 普段は魔法なんて使わないのに、本番には強いみたいだわ」

「強がり言っちゃってさ…… 本当は自信なかったくせに……」

「……なんのことかしら?」

 

 

 あるいは、才人は願っていたのかもしれない、私の魔法が失敗してくれるようにと。

 

 才人が、彼の故郷の景色を垣間見せているであろう、その扉を睨みつける。

 

 しかし、数秒睨みつけた後、悟ったように嘆息して肩を落とし、こちらを向く。

 

 

「ルイズ、俺、異世界チートの物語を書くよ」

 

 

 今にも泣きだしそうな顔で才人が言う。 私もきっと似たような酷い顔をしている。

 

 

「……誰が主人公?」

「俺自身が主人公ってのが、ウケはいいだろうけどな。 でも、もちろん、ルイズ以外には主役は考えられない」

「きっとつまらない物語になるわ、主人公はまさにその異世界の人だし、肝心のチート魔法をあんまり使ったこともないし、容姿以外はなにも魅力がない。

 もっと主人公にふさわしい王様も殺しちゃったし、復讐劇として人気を博しただろう、クールビューティな女の子の役割も奪っちゃって、余計なことばかりする子よ」

 

 

 私は精一杯、強がりを言う……言わなければ、引き止めてしまう……後ろ髪を引かれているのは、才人だけではないのだ。

 

 

「……こんな時まで、ルイズの軽口は変わらないな。 それが嬉しくて、だから悲しいよ……

 でも、この話は……この物語は……俺にとっては間違いなく、生涯で最も面白いものになる。

 この先は、想像で書かなくちゃいけなくなっちまったけど、想像どおりになるって信じてる」

「ええ、任せておきなさい。

 私は心から信じられるものを、たくさん持てた……あんた含めて、皆にもらったんだわ。

 それらを背負う以上は負けられない、という確かな気持ちがあるわ。

 肝心の能力の方も、ガリア王にだって負けないつもりよ……だから……行きなさい」

 

 

 私の言葉に、なんとか言い返す方法がないか探しているのだろう、才人は諦めきれない様子を隠しもしない。

 でも、私の覚悟を感じてくれたのだろう、ついに折れたようで、なんとか私に笑いかけようとした。

 

 

「……ああ、さようなら、ルイズ」

「……ええ、さようなら、才人」

 

 

 嘘でも、また会いに行くと……会えると……言いたかった、それくらいの嘘が許されないとは思わない。

 でも、最後まで私たちは私たち ”らしく” ほんとうのこと を言った。 だってもう、絶対に会うはずがないのだから。

 

 なぜなら、私はこの責務を果たすために、生涯を費やさねばならないからだ。

 それなら、会えるための方法は別にしても、いつ会いに行くのだと? いつ会えるのだと?

 

 そんなことは言わなくとも、お互いに十二分に承知だった。

 だから、それが嘘だと知りつつもつくような、優しい嘘をつくより、私たちは ”らしさ” を選んだ。

 

 お互いに、ボロボロに泣いていた。 それを隠す気もなかった。

 

 隠さないことがお互いにまた、私たちらしい、と思った。

 

 あんたとの別れは身を裂かれるように辛い……あんたもきっとそう……でも、行ってもらわなきゃならない、見送らなきゃならないの。

 

 それが、私の、いえ、私たちの選んだやり方だから……それを私たち自身が裏切ることが出来ないから。

 

 

 ……そして、才人の姿が扉を通って消える。

 

 扉も、役目を終えたと言わんばかりに、才人が姿を消すと同時に消えた。

 

 私は消えたはずの扉の先の才人の姿を、睨むように凝視し続けた。

 

 私は遂に

 ”半身とも思える人物を、この手で殺めるのと”

 ”無二の友とも言える人物と、この手で永遠に生き別れるのと”

 どちらがより辛いのか、知ることとなった。

 

 そんなものは、知りたいことではなかったが、私はまたひとつ、賢くなった。

 

 

 

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 この世界とどこかで繋がっている、しかし、こことは違う場所に……だが、どこかこの世界とよく似た……ハルケギニアという異世界があるという。

 

 その、我々の親戚とも言える世界で、ある時、ひとつの……ハルケギニアの歴史そのものにも語られる……叙事詩が紡がれたという。

 

 驚くべきことに、その一連の出来事の一部始終を、直接その目で見て、その身で感じたという一人の男が日本にいる。

 

 言葉のとおり、本当にその場に居合わせたかのような、真に迫るリアリティーをもってして、彼は淡々と語る。

 

 

 ハルケギニアの歴史は、その物語を契機に変わったのだと。

 

 

 少しだけ不幸だった、そのハルケギニアという世界は

 ……ある気高く、美しい少女と、

 ……彼女を見込んだ、頼りになり、信頼しあっていた仲間たちと、

 ……彼女たちに負けないくらい、立派な一人の王様によって、

 とても幸福な世界へと改革されたのだ、と。

 

 彼は静かに、しかし確かな想いをにじませて、そう述べる。

 

 彼の語るその内容が真実かどうか、確かめる術はきっと我々にはないだろう。

 

 だが、ハルケギニアという世界は、社会構造を激変させ、激動の時代を超え、信じられないほど豊かになったと、彼は確信するように告げる。

 

 これはその、ハルケギニア改革時代のきっかけとなった ”序章の物語” を、ある側面から綴っただけのものに過ぎないと、叙事詩のはじめには書かれていた。

 

-fin-

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