《A.D.1989 07 30 マビラ飛行場》
「おーい、着替え終わったか?」
「終わった!」
声と共に開かれる扉、そこから出てきたのはリジーナと同じようなツナギを着たキリエだった。
ここにある予備のツナギはサイズが結構大きかったので袖や裾を短くしたりして調節はしたが、どうやら上手くいったらしい。
帽子からボブカットの髪がはみ出てるのが少し気になるがそこは別にどうでもいいだろう。
こうなった経緯はキリエの怪我がある程度の運動も出来るようにまで回復した時から始まる。
数日の治療期間を経て漸くベッドから降りれたキリエだったが、そこにある一つの問題が発生した。
それはキリエの行き場所である。
キリエはこことは違う世界から来た人間であり、家も、引き取ってくれる家族や親戚もいない。
そこでキリエの扱いを同僚と話し合った結果としては、リジーナがキリエを引き取る事になった。
二人で暮らすにはあまり金銭的に余裕の無いリジーナだったが、別にキリエを拒むような事はしなかった。
リジーナは昔から
なので彼は嫌がる素振りも見せずに引き取る事を了承した。
それだけでなく、キリエ本人がリジーナに引き取られる事を望んだというのもある。
顔見知りで且つ付き合いの一番長いリジーナの方が一緒にいて過ごしやすいそうだ。
キリエをあっさり受け入れたリジーナだったが、勿論条件は付けた。
今キリエがツナギを着ている事にもそれが起因する。
「よし、サイズもバッチリ。 これなら整備兵として違和感もねえな」
リジーナがキリエに出した条件は飛行場で整備兵として働き、所謂共働きをする事であった。
話に拠ればキリエは戦闘機の操縦だけでなく整備の経験もあるという事なので今回はそれを活かして貰う為に飛行場で正式ではないが臨時の整備兵として雇う事にした。
キリエは喜んで了承し、同僚達も反対しなかったので直ぐにこれが決定された。
「もうすぐ哨戒飛行に出ていた連中が戻って来るな。 格納庫の前で待機するぞ」
腕時計を見ながら兵舎を出て滑走路脇にある格納庫へと向かった。
今日もまだ夏が始まって間も無いというのに飽き飽きする程の晴天で青空の向こうには山の如き入道雲が見えていた。
炎天下の中を汗を流しながら歩き、その先にあった格納庫の中に半ば駆け込むように入った。
五分も歩いてないのに関わらず、二人は既に汗だくで下着が肌に引っ付いて不快感を生み出していた。
「あっつ……!」
「今日は気温が結構上がってるからな、アスファルトを敷き詰めてる滑走路の方は地獄だろうな」
暫く歩いていると格納庫の中で暑い日差しをやり過ごしていた他の整備兵達が集まって話をしていた。
何事かと二人は歩み寄り、一番近くにいた整備兵に話し掛けた。
「おい、何かあったのか?」
「あぁリジーナ、とキリエか。 実はさっきラジオから国営放送が流れてな、昨日の未明、イストラル連合が俺達クロイツァーク同盟に最後通牒を突き付けやがったんだ」
「おいおい……まぁ近い日にこうなるとは思ってはいたがこうもあっさり交渉決裂するとはな……」
イストラル連合。
それは世界の西側に存在する殆どの勢力が加盟している大きな組織連合である。
この世界において一二を争う組織の規模を有しており、経済、軍事のいずれに於いても西側の絶対的な王としてその座に君臨している。
そしてそれに対して敵対していたのがクロイツァーク同盟と呼ばれる組織。
とある一つの
工業力を高め、高い技術水準を誇るクロイツァーク同盟だが、イストラル連合と互いの勢力圏の間にある鉱山資源と化石燃料を巡って去年から対立状態に陥っていた。
重工業を中心としているクロイツァーク同盟は勢力圏内にあまり資源の取れる場所が無く、他の勢力からの輸入に依存しており、金属と石油は欠かせないため、殊更それを諦める訳にはいかなかった。
同じく更なる工業化を進めようとしていたイストラル連合と対立するのは必然的であったと言えよう。
◇◆◇◆◇◆◇
《A.D.1989年 07 30 マビラ飛行場より150km先の上空》
《くっくそっ!!振り切れないっ……!!があぁぁぁぁぁぁッッ!!》
《何であの戦闘機が!?あんな奴ここら辺の空域にはいなかった筈だ!!》
《こちら第2小隊!!二番機と四番機を喪失!!》
《敵は新型機だ!!いつものP-40じゃない!!》
《なんなんだよこの数は!?》
《この数はどう考えても普通の攻撃じゃないっ!!イストラル連合の大規模攻勢だッッ!!!》
あの空にて、この戦争に於ける最初の犠牲者が出た。
主人公、リジーナの専用機はまだ出て来ません。
ヒントは、『ゴーストファイター』です。
航空機好きならすぐに分かるかと。