《A.D.1989 07 30 同所》
爆撃が止んでから基地司令とパイロット達の安否を確認しに来たリジーナ達だったが……
「駄目だったか……」
地下壕に彼らの姿は無く、逃げ切れずに残骸の下敷きになったと推察した。
念の為に瓦礫の中も調べたが、グチャグチャに潰れた死体が幾つもあっただけで少なくとも生きている人間はいなかった。
今回の奇襲攻撃は全く気付く事が出来なかった。
哨戒機は恐らく全滅しているだろう。
しかもよりにもよって
その結果、迎撃機を上げるどころか参謀将校や基地司令を避難させる暇もなく文字通り全てが破壊された。
「……どうするんだよ俺達。 ここに置いてけぼりか?」
ヤンバは焦りの表情を浮かべながら聞いた。
他の整備兵達も今回の非常事態に同じような表情を浮かべている。
「どうするって……逃げるしか無いだろ」
幸いここには物資運搬用のトラックがある。
それならば全員でこの街から逃げられる筈だ。
◇◆◇◆◇◆◇
「……空襲警報が鳴ってない」
整備兵数十名とガソリン缶数個を積んだ輸送トラックは後方へと逃げるべく街中を走っていた。
道路に建物の瓦礫が飛散しており、それをトラックが踏む度車体が大きく揺れた。
「多分爆撃で放送設備が吹き飛んだな……あっ」
「どうしたの?」
「そういえば、お前の服あっちにほったらかしだったな」
「別に服ぐらいいいよ。 買い直せばいいし」
当たり障りの無い会話をしながら阿鼻叫喚に満ちたマビラの中をトラックで突き進んだ。
瓦礫に潰されて死んだ人、爆撃で跡形もなく消し飛んだ人、機銃掃射で肉塊と化した人、それらの死体がそこら中に転がっていて常人ならば吐き気を催す光景が広がっていた。
それだけでなくあちこちに火の手が回って黒煙が幾つも見える。
耳に入って来るのは街に住んでいた人々の悲鳴や呻き声。
度々こちらのトラックに助けを求める声も聞こえて来る。
リジーナ達はそれに気付かぬ振りをしながら街の出口を通ってマビラを出た。
◇◆◇◆◇◆◇
《A.D.1989 07 31 カイロント平野東方》
草原の中心を通る一本道。
その脇に彼等は焚き火を焚いて野営を行っていた。
整備兵として訓練を受けた彼等は陸軍の野営訓練など受けた事が無く、いつもとはまるで違う環境に落ち着かなかった。
時刻は既に12時を過ぎで日付が更新された。
焚き火の前に座り、缶詰のパウンドケーキを夕食代わりに食べながらリジーナは呟くように言った。
「あの敵機……エンジンの音がいつものとは違った」
無音の中で口を開いたのでそこにいた全員がリジーナの方を見た。
「エンジンの音で機種が分かるの?」
「あぁ、敵の機種はP-51マスタング。 あとスピットファイア、それも
「それって強いの?」
「かなり強い方だ。 開戦に向けて配備を進めてたんだろうな。 少なくともウチのBF109E型じゃ相手にならん」
話し終えた頃には缶詰は空になった。
「……違う話でもするか。 空賊時代の頃の話でもしてやろう」
突然自分語りを始めたリジーナだったが、不安を募らせていたキリエはその声で何となく安心出来た。
「穴の話になった時、ブレイブマンの名前を出しただろ。 そいつの話だ」
初めてブレイブマンと出会ったのはまだ空賊団に入団してから間も無い頃だった。
同時期に入団した事もあってか奴はやたら俺に構ってきて話す事が多かった。
ブレイブマンは変な奴だった。
何があってもいつもヘラヘラしていてアイツの他の表情を見たことがなかった。
それと手品が得意でよく同僚や先輩に見せびらかしていた。
出会った頃はそいつに俺は不信感を覚えていた。
何か裏があるんじゃないかって。
だから俺がいつもブレイブマンに向けていたのは警戒の視線だった。
共に哨戒飛行に出た時も常にアイツを監視していた。
それに対してブレイブマンは気付いたような素振りを見せずにいつもの様に笑顔と紙吹雪を振りまいていた。
他の仲間達は皆アイツを信用して自分だけが疑っている状態だった。
なのにブレイブマンはそれでも俺に笑顔で話し掛けてきた。
今思えばよくあんな関係から戦友と呼び合えるようになったものだと思う。
その大きな要因は四度目の仕事の日だった。
運送会社の物資を運搬している飛行船を待ち伏せして襲撃するという作戦だった。
俺達戦闘機隊は飛行船を護衛している戦闘機の相手をする事になっていた。
四度目の交戦で慣れてきた俺は今日もどうせ相手は弱いだろうから大丈夫と高を括っていた。
だが、敵は俺の思うよりも遥かに強かった。
パイロットの練度ではない、明らかに機体性能で負けていた。
こちらの当時の乗機はP-36G。
それに対する敵機はF6F ヘルキャットとタイフーンMk.Iだった。
性能差で劣る俺達は苦戦し、何発か被弾しながらも一機ずつ正確に墜とした。
俺も目前にいた一機を狙って墜とそうとしたが、後ろからタイフーンに撃たれてしかもそれがコックピットに当たった。
幸い四肢を失う事は無かったが左足と右脇腹に7.7mmが数発当たって重傷を負った。
それから意識が朦朧とする中、逃げようとしたがタイフーンがしつこく追ってきて俺が死を覚悟した時、それは起こった。
タイフーンが突然炎を上げて墜ちていったんだ。
何事かと左を見るとそこにあったのは何か。
ブレイブマンの乗る戦闘機だった。
その後俺は死に物狂いで母艦に帰ろうとし、途中で不時着したが運良く母艦のすぐそばだったから救出された。
瀕死の状態で医務室に運び込まれた俺は虫の息で意識を取り戻すのに数日掛かった。
寧ろ生きているのが不思議な位の出血量だったそうだ。
そして、医務室のベッドで目が覚めれば第一に目に写ったのがブレイブマンだった。
半身を起こすなり俺はブレイブマンに抱き締められた。
その時俺は初めてブレイブマンが泣いた顔を見た。
『良かった……生きてて……良かった……』
突然の事で何が何だか分からなかった俺はそのままブレイブマンが泣き止むまで抱かれ続けた。
それからはブレイブマンとの関係も良くなってあの時疑ってた自分が馬鹿みたいに思える位には仲が良かった。
「……まぁ、そんなブレイブマンも穴の中に消えてしまったがね」
話し終えた頃には周りの整備兵は全員眠っていた。
ふとキリエのいる右の方を見ると既に眠っていた。
「ちょっと長話し過ぎたか。 俺も寝るか」
早い所話をイジツ編まで持っていきたいところ。
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