稲妻の咆哮   作:COTOKITI JP

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せめて20話までは頑張って出していきたい……。


白鯨は常闇に飛びいれり

《A.D.1989 07 31 イストラル連合空軍 アウヴスト泊地》

 

この戦争に於ける最前線に位置するこの泊地。

そこにはもうすぐ始まるある場所(・・・・)への本格的な侵攻作戦の為に編成された飛行船を軍用に改造した飛行艦の大艦隊が出撃の時を今か今かと待っていた。

 

その旗艦、ヴェンジェンス級飛行戦闘母艦一番艦、ヴェンジェンスの操舵室に一人の男が艦長の席に座って寛いでいた。

 

「もうすぐ始まるなぁ、ミラス中佐」

 

隣で直立していた副長のミラス・べカート中佐ははっ、と一言返し、また前方に向き直った。

 

艦長席で気だるげにしている彼こそが、このヴェンジェンス級飛行戦闘母艦の艦長であり、この大艦隊、第01派遣飛行艦隊の総司令官を務めているレギール・ロングレイ少将である。

 

彼は艦隊の指揮能力に秀でていた。

しかし、過去の戦闘(・・・・・)で彼は抗命罪を犯しており、寧ろこの任務はどちらかというと厄介払いの左遷にも近かった。

他の優秀な提督達は皆本土での艦隊戦を待ちわびているというのに、自分は訳も分からぬ異郷の地へと特使兼陣地防衛隊兼物資輸送係として送り出されるのだ。

 

まあ元から結構面倒くさがりな性格の彼は特に嫌がるという訳でもなく空軍元帥からの通告を真摯に受け止めた。

 

これから始まる戦争。

恐らく本当の戦場になるのはここではない。

そうレギールは予測していた。

 

我が軍のワームホールを制御する技術は既にあちらのクロイツァーク同盟も所持している。

 

この戦争、表向きには勢力圏外にある資源地帯を巡ってのものと言われているが実際は違う。

全てはあのワームホールが起因していた。

 

クロイツァーク同盟が設立された当時はそこまで敵対している訳でもなく、貿易だって普通に行っていた。

だが、クロイツァーク同盟が次第に勢力を拡大させてくると連合はそれを警戒し、仮想敵国と看做すようになった。

 

問題が起きたのは去年だ。

連合のスパイから同盟がワームホール制御技術の開発に成功したという暗号が送られてきたのだ。

 

それから連合は資源地帯の占有権を建前に同盟への禁輸措置を敢行。

同盟も事態を察し、議会での臨時軍事費予算や戦時統制立法等の可決を経て準戦時体制へと移行した。

 

そして昨日開戦し、早速空軍が攻撃に出たが、どうやら同盟軍は最前線にあるマビラ等の基地は見捨てて戦線を勢力圏内まで引き下げるらしい。

 

大方、縦深を伸ばさせてそこから縦深攻撃を仕掛ける気なのだろう。

正直、陸軍や海軍の連中がどうなろうと知ったことではない。

 

「艦長、間も無く作戦開始時刻です」

 

腕時計を見たミラスがこちらを見て言った。

自分も腕時計を見ると確かにあと一分足らずで作戦開始時刻だった。

 

12時へと近付いていく秒針を見ながらこの世界で何かやり残したことは無かったかと考える。

 

特にやり残したことが無い事を確認し、これで未練なく行けると安堵した。

 

60秒などあっという間に過ぎ去り、副長のカウントダウンが始まった。

 

「作戦開始まで、5……4……3……2……1……」

 

秒針が遂に真上に到達し、それと同時に泊地にサイレンが鳴り響いた。

 

「ゼロ!」

 

「現時刻を以て、RL作戦(レッドランド作戦)を開始する! 全艦、浮上開始!!」

 

白鯨の群れの如き第01派遣飛行艦隊が飛んだ先には深海のように闇に包まれた空間領域が発生していた。

 

◇◆◇◆◇◆◇

《A.D.1989 07 31 カイロント平野東方》

 

「…………」

 

かれこれ何時間もトラックに乗っていたリジーナ達だったが、ある違和感を感じ始めていた。

 

「……おかしい、友軍の戦闘機一機飛んでいないなんて……」

 

ヤンバが空を凝視しながら呟いた。

 

「まさか……俺たちは見捨てられたのか?」

 

「おいリジーナ!縁起でもない事を言うなよ!」

 

ヤンバが叫んで、それからまた会話が途切れて無言の状態が続いた。

終わりのない草原に退屈になってきた頃、空を見ていたキリエが声を上げた。

 

「みんな!あそこに何か飛んでる!」

 

キリエが荷台から身を乗り出して前方を指指差したのでそこを見ると確かに発光体が複数見えた。

 

次第にエンジン音も近くなって来て機影もはっきり見えるようになってきた。

 

「やっと友軍機が飛んで来やがったか……ふぅ、ひとまずこれで───」

 

「待て!あれは……友軍機じゃねぇ!敵のヤーボ(戦闘爆撃機)だ!!」

 

それらは高度を下げながら明らかにこちらへ向かって来ていた。

あの胴体の形状からして機種はP-47 サンダーボルトだろう。

 

胴体や翼下に爆弾や無誘導ロケットを積んでいない所を見ると既に任務を終えた後のようだ。

 

つまり時すでに遅し、だった。

 

両翼に搭載された計八丁のM2ブローニングから放たれる弾幕は装甲の無いに等しい輸送トラックなんかが喰らえばひとたまりもなかった。

 

まず運転席と助手席にいた二人が12.7mmを浴びせられて死んだ。

その一機は高度が低過ぎたのかそのまま通り過ぎたが、後ろにいたもう一機が更に攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「おい!降りろ!早く!!」

 

パニックになり、一目散にトラックから逃げ出そうとする整備兵達だったが、こちらは既に奴の射程範囲に収まっていた。

 

「キリエぇっ!!」

 

せめてキリエは救おうと背中に手を回し、荷台から飛び降りようとする。

その間に後ろにいた整備兵が次々と蜂の巣以下の肉塊へと加工され、目の前で大量の血と肉片が舞った。

 

奇跡的に他の整備兵が肉壁になってくれたお陰で被弾はせずに脱出出来た。

 

トラックから飛び出し、地面に這った。

他の生き残った整備兵も地に這って死んだフリをしていたが直ぐに次の三機目の餌食となった。

 

トラックの後ろに隠れていた二人はバレなかったがこのままでは見つかるのも時間の問題なのでキリエを引っ張ってトラックの下に潜り込んだ。

 

「ここでじっとしてろ……通り過ぎるのを待つんだ」

 

「うぅ……ひっ!?」

 

突然目の前で繰り広げられた殺戮に気が動転していたキリエだったが目の前に転がっていた死体と目を合わせると小さな悲鳴を上げた。

 

「落ち着け、まだ敵は去ってないぞ」

 

絶対に動かずにヤーボが去っていくのを待ち続け、ヤーボも全員殺ったと思ったのかエンジン音が遠のいていった。

 

顔を僅かに覗かせ、周囲に敵機がいないのを確認すると、トラックの下から這い出てキリエも出てきた。

 

「どうして……どうしてこんな……」

 

目の前に積み重なる死体の山を見てキリエは嗚咽の声を漏らす。

 

「……空しか知らない戦闘機乗りには地上がどんな場所か分かるまい」

 

地に膝をついて泣き続けるキリエにリジーナは更に言葉を続けた。

 

「まぁ、イジツとは違うだろうがね…………ここは地獄だよ。 空の戦場とはかけ離れた……」

 

 

 




リジーナくんの友人だったヤンバくん、たった数話で退場。
ショッギョムッジョ、ナムアミダブツ!
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