フランがシスコン過ぎて困っています。いや嬉しいですけどっ 作:かくてる
3話 不可解だらけの午後
「あら? お客様?」
「紅魔館に来るなんて珍しいね。しかもちゃんと呼び鈴鳴らすし」
屋上のバルコニーにて、私とフラン、そして咲夜は午後3時のティータイムを嗜んでいた。
「では、行ってまいります」
咲夜は一礼し、この場から姿を消した。私達は気にせずに、紅茶をすする。
「ね、お姉様。今日はこいしちゃんと遊びに行ってきていい?」
「分かったわ。かくいう私もさとりに用があるのだけど」
「あ、そうなんだ。じゃあ、地霊殿まで一緒に行こ?」
「ええ」
フランと恋仲にはなったが、束縛はしていない。フランだって、一人の時間や友人との一時を大事にしたいと思っていると思うし、私だって、霊夢やさとりとの仲は続けたい。
「お嬢様」
「あら、咲夜。おかえり」
「誰が来たの?」
「ご無沙汰しているわ。レミリア・スカーレット」
咲夜の背後からひょこっと顔を出したのは、茶色の長髪、側頭部から生えている二本の長いツノ。
「鬼が紅魔館になんの用かしら?」
「いんや? 紅魔館には美味い酒があるって霊夢から聞いたもんだから、お邪魔しに来ただけさ」
「ねぇねぇ、この人誰? お姉様」
どうやら、フランはこいつと知り合ってなかったみたいだ。
「ああ、こいつは……」
「どうも、伊吹萃香だ。同じ鬼同士、仲良くしよう。フランドール・スカーレットちゃん」
「……鬼?」
「ああ、鬼さ」
ニヤリと笑う萃香。
「今は紅茶を楽しんでるのよ。酒を飲むなら夜にして頂戴」
「えぇー? つれないなぁお嬢様は。フランドールちゃんは?」
「私も、お姉様が紅茶を飲むなら私も紅茶飲む」
「おぉ、お姉ちゃん子だねぇ……」
「だって恋人だもん」
「そうかそうか、レミリアとは恋人……………………えっ」
萃香の驚いた顔は珍しい。目に焼き付けておこう。
「えっ、恋び…………えっ?」
「あら萃香? どうしたの?」
「あっ……えと……ごめん。誰と誰が恋人?」
まだ頭の整理がついてないのか、額に手を当てて難しい顔をする萃香。
「私と」
「レミリアと」
「この子」
「フランちゃん」
自分自身を指さし、その後フランを指さす。
「……スカーレット姉妹は変わってるって霊夢から聞いてたけど……」
「ええ、随分変わってる姉妹ね」
「……さ、さすが幻想郷だなぁ……」
感服するように呆れる萃香。
「っとまぁ、前置きはこのくらいにして、霊夢が呼んでたぞ、レミリア。なんか色々話があるらしいよ」
「……大事なことは先に言っておきなさい」
紅茶をすすりながら萃香を睨む。こいつはいつまで経ってもマイペースで自由な奴だ。
「でもごめんなさいね。今はフランとのお茶を楽しんでるの。後にして」
「……幻想郷指折りの最強妖怪のレミリアが、博麗の巫女よりもお茶を優先するなんてね」
「当たり前よ。フランと一緒にいることはどんなものにも変えられないもの」
「お姉様……」
キラキラとフランの目が輝いていた。少し臭いセリフを言ってしまったが、これは紛れもない本心だ。
「まぁ、急ぎじゃないんでね。今日中のどこかで博麗神社に来てくれよ。もちろん一人でな。割と重要な話らしいから」
萃香は諦めたように伝言だけ残してどこかへ飛んでいってしまった。私は何事も無かったかのようにクッキーへ手を伸ばす。
「んふふー、お姉様から言質取っちゃったっ」
フランは両手を頬に当ててくねくねしていた。
「「フランと一緒にいることはどんなものにも変えられないもの」…………きゃっ……」
「は、恥ずかしいからリピートはしないでちょうだい……」
さすがに同じことを繰り返し言われるのは少々恥ずかしい。
「しかし……めんどくさいわねぇ……」
めんどくさいというのは、言わずもがな、先程萃香が尋ねてきたものだ。恐らく妖怪と人間の間のいざこざの話だろう。
私がこの幻想郷で力を付けてから、いつの間にか幻想郷の妖怪代表になってしまっていた。だから、何か亀裂が生じると霊夢に呼ばれるのは決まって私なのだ。
「ではお嬢様、私が代わりに行ってまいりましょうか?」
「いえ、私が行くわ。あの酒飲み鬼に重要な話って釘打たれたもの」
「ふぇえ……お姉様行っちゃうのぉ?」
「ごめんなさいねフラン、帰ったらお茶会の続きしましょ?」
今にも泣きそうなフランの頭を撫でて、唇を重ねる。
「んっ…………お姉様……早く帰ってきてね」
「ええ、もちろん。早くフランに触りたいもの」
「…………えっち」
「お互い様よ」
くるりと踵を返し、私は博麗神社へ飛んでいく。気だるさとフランに会いたい欲が絡まって何だかイライラしてきた。
「……早く終わらせられるかしら……」
萃香曰く、重要な話なのだ。今後の幻想郷にも関係してくることならば、端的に済ませていい話題では無いはずだ。
ため息混じりになりながらも、私は切り替えて博麗神社へ向かった。
紅魔館から中々の距離なのが、少々不満だ。霊夢が紅魔館に来ればいいのにと思う日は無いくらいだ。しかし、霊夢に紅魔館に来てとお願いしても、来るのは2週間後くらいになってしまうので、私が行った方が早いのだ。
数十分で博麗神社に到着する。博麗神社へ続く山の階段前で地に降りる。というのは、博麗の巫女の特殊な結界で、博麗神社に直接奇襲がやってくる事の無いように、強力な妖怪でも通れない決壊が張ってあるのだ。
「……やっぱり長いわ……」
その階段は毎日登るには相当の体力と根気が必要になるほどの長さ。幻想郷の中枢とも言える博麗神社が重要なのは分かるが、もう少し段数を減らしていいと思っているのは私だけではないだろう。
登りきった私は鳥居をくぐって霊夢の元へ行く。
「霊夢。来たわよ」
「あら? レミリアの方からここにやってくるなんて珍しいわね?」
「…………は?」
予想外すぎる返答に私は素っ頓狂な態度で返してしまう。
「……? ……何よ」
「え、霊夢……今なんて……」
「だから、あんたの方から博麗神社に来るの珍しいわねって……」
「え? 霊夢が私を呼んだんじゃないの?」
「はぁ? 呼んでないわよ」
さも当然かのような返答をされ、私は更に戸惑いを見せる。
「萃香に霊夢から話があるって言われて来たのだけど……」
「萃香?」
「ええ、重要な話らしいからって……」
「聞いてないわよそんなの。話も何も……」
どういうことだろうか。萃香か霊夢。どちらかが嘘をついているということか。しかし、どちらにも私に嘘をつくメリットが存在しない。
「……霊夢、嘘ついてる?」
「な、何よ急に……何でこんなとこで嘘つかなきゃならないのよ」
「…………」
どうやら嘘はついていない。さとりでは無いが、私にも観察眼は持ち合わせている。嘘をついてるかついていないかの嘘発見器くらいの役目なら私でもこなせる。
ということは萃香が嘘をついたのだろうか。いや、そもそも鬼は嘘が嫌いなはずだ。萃香や勇儀は特に嘘をつく生き物を嫌っているはずだ。恐らく、萃香も嘘をついていないのだろう。
「……まぁ、いいわ。急に来てごめんなさいね」
「…………萃香に会ったら言っておくから」
「助かるわ」
私はさっさと博麗神社を後にした。早くフランに会いたい。ただ一心で飛び続けた。
帰りは行きよりも五分ほど早く着いた。まだ日も暮れていないし時間はある。
「フラン……!」
紅魔館の門に降り立った私は美鈴に話しかける。
「お嬢様、お帰りなさいませ。お話はもう住んだのですか? 随分お早いおかえりですが……」
「ええ、どうやら霊夢の勘違いだったそうよ」
「左様でございますか」
それだけ言うと、門の扉はすぐに開いた。私は完全に開き切るのを待たずに門を通り抜け紅魔館内に入る。
「咲夜」
「はい、こちらに」
背後に現れた咲夜。私は振り向きもせず口を開く。
「夕食は何時からかしら」
「19時半でございます。今から3時間15分後です」
「ありがとう。紅茶だけでいいから、後で私の部屋に持ってきてくれるかしら? 2人分」
「かしこまりました」
一礼し、咲夜はこの場から消える。そして、私はもう一度歩き出す。
3階まで上がり、自室の扉に手をかけ、開ける。
「……あ、フラン」
「…………」
私のベッドの上に、フランがちょこんと座っていた。しかし、先程までのテンションなら「お姉様!!」と言って抱きついてくるのがルーティンなのだが、今日は何故だが、私をボーッと見つめていた。
「……フラン? どうしたの?」
「…………だ……」
「え?」
「誰…………?」
世界が止まったのかと思った。フランのその言葉を聞いてから、自分の中で1時間くらい固まってしまったんじゃないかと思うくらい体が硬直していた。
「え……ちょ、ちょっと、何よその冗談」
「……いや……誰……来ないで……」
いつものフランからは伺えないような怯えた態度。両腕を抱き、必死に私から距離を取ろうとしていた。
「……ふ、フラン…………やめてよ……そんな……」
まさか、こんなことがあっていいのか。まだ私は信じ切れていない。いや、信じたくない。
「フランって……誰………………あなたは……誰なの……」
「何よ……それ……レミリアよ! あなたの姉! レミリア・スカーレットよ!」
ついついムキになって大声で叫んでしまい、フランはビクッと身体を震わせた。
「……私の……姉……わ、たし……は……誰……なの……」
「…………そんな……」
別に、こんなこと出来る奴なら幻想郷には多く存在している。別に記憶が奪われることは珍しくない。
しかし、生まれてきてからの記憶を根こそぎ奪える魔法や技術を持ち合わせている妖怪なんて指折りだ。
「……自分の名前すら…………思い出せないの……」
「…………」
「あなたが何者なのかも……私のことを好いてくれているのも…………何もかも……思い出せないの?」
コクリとフランが首を縦に振る。
私はその場で膝をつく。
何より、私のことを忘れられたのが大きなショックだった。今まで生きてきたどんな困難よりも辛い現実だった。
今この場に私のことを愛してくれているフランドールはいない。
「ふ、らん……」
「………………ごめん、なさいっ……」
頭を抱え、涙をこぼす。この辛い真実に、皮肉で残酷な現実に目を背けてしまいたくなった。
こっからシリアス編です。
イチャイチャはちょっとお預け?
恋愛ストーリーっぽくしたいと思います。
今回から、レミリアちゃんがフランちゃんの為に奮闘するストーリーとなります。