フランがシスコン過ぎて困っています。いや嬉しいですけどっ 作:かくてる
「フラン、入るわよ」
「は、はい」
やっぱり、いつものフランの声で敬語だと少しむず痒い。
「調子はどう? 何か思い出せそう?」
「いえ……やっぱりどこを見ても見覚えがない……ですね……」
「そう……」
フランが自分の部屋に来たら何か、思い出せるんじゃないかと思ったが、フランの記憶障害はそう甘いものじゃないようだ。
「……ねぇ、フラン」
「はい?」
「あなたは、私の事……好き?」
率直に聞く。記憶のないフランが、今私の事をどう思っているかを確認したかったからだ。
「……はい、好きです」
「それは、一人の女の子として?」
「…………はい、とは素直に言えません。まだ、私がレミリアさんとお付き合いをしていたというのにも、実感が湧きません」
「……そう……」
「申し訳ありません……私も努力はしているのですが……」
「いいのよ、あなたは頑張っている。それは私も知っているわ」
そう、記憶を無くしてからフランは必死に記憶を取り戻そうと書物や自分の衣服などを漁っていたのを知っている。
そんな彼女の努力を無駄にしないためにも一刻も早く記憶を奪った張本人を探さなければいけない。
「……今日ね、あなたの友達も来ているのよ」
「友達……ですか?」
「ええ、あなたの唯一無二の親友。今は外しているけど、晩御飯の時に会えるわよ」
こいしの存在を伝えると、フランは嬉しそうに微笑んで真上に目線をやった。
「私にも…………友達がいたんですね……」
「……どうしてそんなに嬉しそうなの?」
「いえ、きっと私は幸せ者だったんだなって思って」
ニコリと笑うその顔は記憶が無くなる前のフランとそっくりだ。まぁ、同一人物だからそっくりなのは当たり前だが、今の私には別の人に見えてしまう。
「……フランは自分で幸せを掴み取ったのよ。周りに甘やかされてじゃなくて、自分で努力して、幸せな日々を送っているの。だから今のあなたも、きっと報われる。いいえ、私が報わせてみせる。こんなにも、あなたは頑張っているんだもの」
「レミリアさん…………どうしてそこまで……」
そんなこと、分かりきっている。きっと逆の立場でも、フランはきっとこう言ってると思うから。
「たった一人の姉妹だもの。それに、私が誰よりも愛しているのも、あなただからよ。フラン」
「…………っ」
「えっ? ちょ、泣かないでよ……フラン……」
「ごめ……なさい……ぇぐっ……」
フランは目尻に涙を貯め、ダムが決壊したかのようにポロポロとこぼれ始め、嗚咽し始めた。
何かまずいことを言ったのだろうか、私は慌ててフランの肩に手を触れる。
「だ、大丈夫……?」
「……ありがとうございます…………レミリアさん……」
「え……」
「私……こんなに愛されていたんですね……」
「ええ……愛しているわ……誰よりも……ね」
フランの涙が止まる頃、フランの頭は私の肩に預けられていた。フランのサイドテールに触れるようにゆっくりと撫でる。
「ねぇ、フラン」
「はい?」
「……もう一度、恋人をやり直さない?」
「恋人……ですか……」
今の私達は姉妹ではあれど、恋人同士では無い。だからこそ、記憶がない間はまた別のフランと恋人になりたい。そう思っているからだ。
「……」
「これは私のわがままだと思う。記憶が無くてただでさえ混乱しているのに、こんな事言うのもお門違いだって分かっているわ」
「……」
フランは黙って私の話を聞いていた。表情は窺えないが、気にせず私は続けて口を開いた。
「でも、やっぱり私は、あなたの事が好き。愛してる。だから…………もう一度、私と……付き合ってくれませんか?」
「……ごめん、なさい」
「っ……」
「今の私には……レミリアさんを愛せる自信がありません。それに、今の私と付き合っても、いずれ消えてしまいます……」
分かっていた。今のフランにそんな余裕が無いことは。でも、もしかしたらフランも受け入れてくれるなんて甘い考えをしていた。
「……まぁ、分かってはいたわ。だからこそ、今のフランにも私に惚れてくれないとね」
「ど、どうしてですか? 記憶が戻ったら、恐らく私の記憶は消えて、元のフランドールに戻るんですよ。そしたら無意味じゃ……」
「無意味なんかじゃないわ」
そう、無意味なんかじゃない。例えフランの記憶が戻って、今のフランが消え去ったとしても。
「今のフランがいなくなっても、私の中には、もう今のフランも確かに存在してるのよ」
「レミリアさん……」
「それに、今のフランも私に惚れたら。どんな人格のフランも私にベタ惚れってことになるじゃない?」
「え、えー……」
「だから、今度は私がフランを虜にする番よ? 覚悟なさい」
「……は、はい。って、以前は私がレミリアさんを虜にしたんですか?!」
「ええ、そうよ。キスとか色々されて困ってたわ」
「う、うう……ごめんなさい」
「別に、今となってはいい思い出よ」
そう、今のフランが消えても、私の心の中で彼女は存在し続ける。だから、「消える」なんてことはありえない。
「お嬢様、フラン様。ご夕食のお時間でございます。どうぞ食堂へ」
「ええ、行きましょ、フラン」
「はい」
この部屋を出て、私達は食堂へと足を運んだ。フランより数歩後ろを歩く私は先程までのやり取りを思い出す。
(やっぱり……振られるっていうのはなかなかキツいわね……)
分かっていたとしても、好きな人に振られるというのは胸が痛む。
(フランだって、以前は私にアプローチいっぱいしてくれたもの。今度は私の番よ)
そう、私に拒絶されながらも、フランは諦めずに私を追いかけてくれた。多分、それがなかったら私は一生自分の気持ちに気づけなかったと思う。
「あ、来た来た。フランちゃん、久しぶり!」
食堂へ行くと、こいしとさとりがもう席に着いていた。フランはいきなり知らない人に自分の名を呼ばれて慌てていた。
「え、えっと……」
「っと、ごめんね。事情は聞いてるから、とりあえず座って」
こいしも実は記憶が残ってるんじゃないかと思っていたんだろう。もしかしたら自分の名前を覚えていてくれるかもしれないという僅かな希望に縋った結果だろう。
「私は古明地こいし。で、あっちのピンクいのが古明地さとり」
「ピンクいは余計よ……古明地さとりです。よろしく」
「お、お二人はご姉妹なんですか?」
「そーだよ、私が妹であっちがお姉ちゃん」
こいしはフランの記憶が無いことを気にせず、自己紹介を続けていく。先程、こいしと一悶着あってから、彼女も相当辛いはずなのに、無理していることが窺える。
「最初はね、フランちゃんから話しかけてくれたんだよ?」
「そ、そうなんですか?」
「私達は心を読む能力のせいで人から敬遠されてたの。それでね、幻想郷に来たら、何か変わるんじゃないかってそう思って、こっちにやってきたんだ」
こいしは自分の過去を思い出すように、上を見上げる。そういえば、こいしとフランがどうやって出会ったのか私も知らない。いつの間にか、フランに友達が出来ていて驚いた事は覚えている。
「それでも、幻想郷でも私達は気味悪がられた。そんな時、フランちゃんだけは違ったの」
「私……だけ?」
「そう、最初はね、鬱陶しかったんだ。「暇だったら一緒に甘味処行こう」って、暇じゃないって言ってるのに無理矢理連れていかれた時は本気で怒りそうだったよ」
「ご、ごめんなさい」
フランはまるで自分がしでかした事のように頭を下げる。まぁ、自分がしでかしたことだが、中身は別人だからって考えると頭ごちゃごちゃになっちゃいそう。
「あはは……でもね、フランちゃんは私の事を友達だと思ってくれてた。私の能力を見ても目を輝かせてくれた。フランちゃんしか知らない特別な場所を友達だからって言って見せてくれた。あの時は嬉しかったなぁ」
「その時からかしらね、こいしの表情が別人のように変わったのよ。そのおかげで、私も変わらなきゃって思えるようになったのよ」
「へぇー、フラン。そんな功績を残してたのね」
「わ、私ではありませんが……」
フランは少し照れていた。そうだ、フランはこんな人達にも影響を与えていたんだ。姉ながら誇らしい。
「まだ忘れられないなぁ。その時からフランちゃんの存在はお姉ちゃんと同じくらい大きかったんだよ?」
「フランドールは……そんなことしてたんですね」
「ええ、素晴らしい子よ。あなたが妹で本当に良かったわ」
「まぁ、姉の方は赤い霧で太陽を隠そうとした極悪人だけどね」
背後から声がする。ここにいる4人の声では無いことは確かだ。しかし、聞き覚えはあるし、つい最近聞いた気がする。
「れ、霊夢!」
「おいっす、レミリア。あら、あんた達も来てたのね」
右手を上げて挨拶したのは紅白色の博麗の巫女、霊夢だった。
そして、余った私の隣に座る。
「ていうか、極悪人じゃないわよ」
「極悪人よ。あの時は本気で殺してやろうかって思ったんだから」
「え、ええ……」
「れ、レミリアさん。この方は……」
「ああ、博麗霊夢。私の友人よ」
「……よろしく。フラン、あんた本当に記憶が無いのね」
目を見張る霊夢にフランは少しクエスチョンマークを浮かべる。
「よ、よろしくお願いします……」
「とりあえず、事情を聞きたくて呼んだのよ。というのは表向きで、一緒にご飯でもどう? って誘っておいたの。少し前にね」
「そーいうこと、まぁ、色々フランの事も気になるけどね」
元々この日は、霊夢と食事をする約束をしていた。いいタイミングだし、霊夢にも相談をする。
「ね、霊夢。フランの記憶に関して、あなたはどう思う?」
「そうね……」
食事が来るまで、私は霊夢に問う。フランの記憶が消えた昨日、霊夢に呼ばれたと嘘をつかれた私は席を外してしまっていた。
そうなれば、これが人為的な犯行だとしたら、犯人はおおよそ目星が付く。
「萃香が怪しいの。後、霊夢も」
「わ、私?」
「ええ。一応関与はしていた。霊夢と萃香がグルだって考えも捨てきれないもの」
「……私は知らないわ。本当に」
「さとり、どう?」
私は対面にいるさとりに聞く。読心の能力を持つ彼女の前で嘘をついたら直ぐに分かってしまう。しかし、さとりは首を縦に振った。
「嘘は言ってないです。霊夢さんは関係ないでしょう」
「そう。疑ってごめんなさいね、霊夢」
「……いいえ、あなたは妥当な考えをしたまでよ」
「そうね……咲夜」
私はこの場にいない咲夜の名を呼ぶ。しかし、咲夜はすぐに私の後ろに現れる。咲夜の耳は本当に妖怪並みだ。
「はい、お呼びですか」
「昨日、私が席を外した後、萃香は姿を現した?」
「いえ、あの後萃香はあれっきり姿を見せていません」
「……そう……ねえ、霊夢」
「ん?」
「萃香が嘘をついた事、ある?」
「それは無いわね。自信を持って言える。そもそも、萃香は嘘が一番嫌いなはずよ?」
「そう、よね……」
謎が深まるばかりだ。いくら考えても答えは出てこない。そもそも、この記憶騒動に黒幕がいるかも怪しい。
「まぁまぁ! 今は沢山食べよ!」
こいしがこの雰囲気を断ち切った。我に返った私が机を見ると、いつの間にか料理が並んでいた。どれも美味しそうだ。
「……そうね、今は食べましょうか」
「じゃ、いっただっきまーす!」
こいしの合掌に私達も続く、そして、次々と料理を口に運んでいく。
「やっぱり咲夜さんの料理は美味しいですね」
「ええ、見事な味付けね。流石メイド長と言ったところかしら」
さとり、霊夢が次々と咲夜の料理を褒めていく。従者が褒められるのは主として悪くない。
「私もこれくらい作ってみたいわね……」
「霊夢も料理出来るじゃない」
「そりゃ最低限の料理は出来るわよ。でも、ここまで美味しいのは出来ないわ」
「あ、霊夢のご飯も今度食べに行きたい!」
こいしの名案にみんなが「おぉー」と感嘆の声を漏らす。当の本人は少し嫌そうな顔をしていた。
「いやいやいや、妖怪に料理を振舞ってるなんて人里にバレたら面倒だから……」
「でも、妖怪の館にご飯に来るのはいいんだ」
「それとこれとは話が別よ」
「どこが別なんだか……」
やはり、大人数で食事をするというのは楽しいものだ。いつもフランと2人での食事だから、新鮮だ。
毎回、咲夜達とも一緒に食べたいって言ってるのに、「お嬢様達とお食事をするのは恐れ多いので」と断るから大人数の食事もいいものだ。
私はみんなと話しながらフランに視線をやる。ボーッと机を眺めながら次々とスプーンを口に運んでいく。
「? フラン、どうしたの?」
「あ、いえ。なんでもないです」
不思議に思った私はフランに聞くが、はぐらかされてしまう。まぁ、急に初対面の人達とご飯なんて言われても混乱するのは当然だろう。
そうして、1時間弱の食事を終え、全員が帰ろうとしていた。私とフランは玄関まで見送りに来ていた。
「フランちゃん」
「な、なんですか、こいしさん……」
振り返り、こいしはフランの両肩に手を乗せる。そしてグイッと引き寄せた。
その瞬間、こいしはフランの唇を塞ぎ、キスをした。
「んっ!?」
「ん〜〜〜っ……ちゅ…………えへへ……」
「こ、こいしさん!?」
「フランちゃん、元気出して。私は、いつまでもフランちゃんの味方だよ……」
「だからと言ってキスはないでしょう……恋人じゃあるまいし……」
「え? フランちゃん、私を恋人にしてくれるの?」
「え、ええ!?」
フランはこいしに好意を抱かれていることを知らないから、こういう反応になるのだろう。
軽々しくフランにキスをしたこいしを私はフランの後ろから睨みつける。
「こ〜い〜し〜っ!」
「げっ、正妻が怒っちゃった……じゃあまたね、フランちゃん、レミリアちゃん!」
古明地姉妹と霊夢は私たちに手を振りながら、夜空へ消えていった。私は見えなくなるまで手を振っていた。フランはというと、俯いて自分の唇に触れていた。
「さ、フラン。戻りましょ、少し冷えたわ」
「…………」
「フラン?」
「は、はい!」
「…………そんなに、キスが気持ちよかった?」
「い、いえ……初めての感覚に少し驚いただけで……」
「そう……」
私達は部屋に戻った。そして、別々にお風呂に入る。
「(……こうして一人で入るのも、久しぶりね……)」
いつもフランと2人で背中を流しあったり、隣で湯船に浸かったり。たまに行為に発展しちゃうこともあるけど、色々思い出があるこのお風呂。それを一人で入るのもなかなか懐かしさを感じた。
「…………はぁ……」
でもやっぱり一人はつまらない。かと言って、誰でもいいから二人で入りたい訳でもない。
「やっぱり……フランと一緒がいいわ……」
何よりも辛い。フランがこの場にいないことが、実際に存在しているはずなのに、どうしても今のフランが手の届かない場所にいるみたいな感覚に陥る。
フランの存在を確かめたい、フランの身体を感じたい。そう思う頃には私の頬に涙が伝っていた。
「……フラン……会いたいわ…………」
また、「お姉様!」と呼んで欲しい。「レミィ」と呼んで欲しい。でも、今はそれが叶わない。
わがままで、傲慢かもしれないけど、愛されたい。誰でもない、フランただ一人に。
ガチャ……
「あ、レミリアさん。お風呂お先しました」
「ええ……」
風呂上がり。
私はフランの部屋に来た。髪もまだ乾ききっていない。ぽたぽたと私の髪から水滴が落ちてくる。
「……レミリアさん?」
「…………」
私はずっと俯いていた。今の顔をフランに見られたくない。
「……っ!」
「え、ちょ、レミリアさん? きゃあ!」
ベッドに座っていたフランを、気づけば押し倒していた。
今の私の顔は真っ赤で、泣きそうな顔をしているのだろう。鏡で見なくても分かるくらい。
「レミリア……さん……」
「ごめんねフラン。私、もう我慢できない」
「え、な、何が…………んっ……」
フランが返事を言い切る前に、私はフランの唇を自分の唇で強く塞いでいた。