フランがシスコン過ぎて困っています。いや嬉しいですけどっ 作:かくてる
「んっ……んんっ……」
フランは私の服を掴み、必死に抵抗している。しかし、私はそれを離さない。フランの唇全てを感じる。舌は使わない、唇同士でただ重ねるだけ。
「ちゅ……ん……」
「れみ…………りあ……さん……」
その他人行儀の呼び方も、遠慮しがちな目も、奪うようにキスを続ける。
フランの髪はいい匂いがする。肌も白い。少し肌が荒れがちな私にとっては羨ましい。
「んっ……はぁ……」
「はぁ…………はぁ……れ、レミリアさん……なにを……?」
ようやく唇を離した。私達、舌を使っていないのに、銀色の唾液の糸が伸びる。
「あなたは私のモノになるの」
「ぇ……」
フランのか弱い声が吐息とともに漏れる。
「……こいしになんか奪わせない。あなたは私の恋人なの」
「で、でも私達は姉妹なん……んむっ!?」
もう一度唇を重ねる。これは、ただ唇を重ねただけ、それでも、強く離さないように押し付ける。
「姉妹なんて関係ない。あなたは私のモノ。私はあなたのモノ。分かった?」
「わ、わかったので……1回離れてください……」
顔をりんごのように赤くしたフランは顔を逸らして、私をどかそうとグイグイと押す。
「あと……髪、乾かしてください」
「あ」
そういえば、まだ髪を乾かしていなかった。ポタポタと垂れる水滴はフランの頬に落ちて頬を伝っていた。
「ごめんなさいね、乾かしてくるわ」
「は、はい……」
私は慌ててベッドから降りて、洗面所へ向かう。フランは起き上がると、自分の唇に触れて、
「……レミリアさん……あなたは……本当に私が好きなんですか?」
そう呟いた。
鈴虫の音が聞こえてくる。それ以外の音は遮断されているかのように聞こえない。
レミリアさんが帰ってくるまでの時間、私はただ天井を見上げていた。
──私の体で何をしてるの?
「ッ!?」
突如、どこからか声が聞こえた。
──誰の許可を得て、私のお姉様とキスをしてるの?
「だ、誰ですか!?」
辺りを見渡すが、誰もいない。どこから声を出しているのかも分からない。だが、耳には確かに届いている。
──誰でもいいでしょう。今は私の質問に答えて。
「は、はい」
とりあえず、言われるがままどこからか聞こえる声に応じることにした。
──あなた、私の体を使って何をする気?
「ま、待ってください! 何の話ですか?」
──とぼけないで、私の体と入れ替えてまで、私のお姉様や家族に何をする気なのか聞いているの。
「な、何もしません!」
──じゃあどうして、私の体を奪ったの?
「知りませんよ! というか、あなたは……フランドールなんですか……?」
そう問いかけると同時に、ガチャリと扉が開く。レミリアさんが戻ってきたみたいだ。
すると、どこからか聞こえた声も不満そうな声を上げた。
──ここまでみたいだね。いつかまた、こうして話す時には色々理解してちょうだいね。さよなら。
「えっ、ちょ、ちょっと! 待ってください!」
「ふ、フラン? どうしたの?」
私が声のする方に手を伸ばすが、それは虚空を掴んだだけだった。ちょうどその時に帰ってきたレミリアさんに心配そうな目を向けられてしまった。
「い、いえ……ごめんなさい、なんでもないです」
「そう……」
今のは誰だったのだろうか。
もしかしたら、この体の持ち主かもしれない。確証はないが、言い方からしてその線が一番可能性がある。
(どうして体を奪ったの……か)
その言葉は今の私の状況には、あまりにも的外れな発言だった。しかし、その言葉が嘘とも思えなかった。
「……」
私が髪を乾かして部屋に帰ってから、何だかフランが上の空だ。
怪しい、とまでは思わなかいが、何か思うところがあるのだろうか。
「フラン、どうしたの?」
「へっ? い、いえ。何でもないです」
「……そう。まぁ、無理してはいけないわ。今日はもう寝ましょう」
「はい……って、ええっ? レミリアさんはどこで……」
「ここで寝るわよ。あなたと一緒に」
フランは顔を真っ赤に染めて後ずさる。その反応も何だか新鮮でついつい口角が上がってしまう。
「え、ええと……」
「安心しなさい。さっきみたいに無理やり襲ったりしないわよ。あれについては反省してるわ」
「そ、そうですか」
「じゃあ、早く寝ましょう」
「は、はい……」
半ば諦めたようにため息をついてベッドに入ったフラン。それに続くように、私も同じベッドに身を潜めた。
さすがに正面で向き合うのは私も恥ずかしい。なので、最初はお互い外側を向き合う。
「……本当に、何があったんでしょうね」
「ええ……心配になります……今、この時も本当のフランドールはどこにいるのか……」
「……安心したわ」
「え?」
フランの言葉に私は心底安堵する。別の人格、というと聞こえが悪いからか、悪人のような性格が飛びててくるのかと思えば、こんな心優しい人格だったことに。
「……あなたのその優しさに……ね」
「は、はぁ……」
「……」
「あの、レミリアさん」
「何?」
静寂が訪れたと思ったら、フランの方から声がかけられた。
「私は……記憶喪失じゃないかもしれないです」
「……え?」
思いがけない言葉に私は思わず素の反応を見せてしまう。その場で目を見開く。
「き、記憶が戻ったっていうの?」
「違います。そうじゃなくて……」
一度、フランの口が噤む。しかし、意を決したように一度深呼吸してから、口を開いた。
「……レミリアさんが髪を乾かしに行っている間、誰かの声が直接私に話しかけてきたんです」
「……誰かの……声?」
「はい。最初に「私の体で何をしているの?」と言われました」
「ッ!?」
驚いた私は起き上がってフランの肩を掴む。
「それから! それからなんて言われたの!?」
「おっ、落ち着いてください。話しますから」
フランに宥められて、私は自分のしている事にハッと気づいて、もう一度寝転がった。
「ごめんなさい。少し落ち着きがなかったわ」
「いえ……それでその後は……先程のキスのことを言われました」
「……あの場に居たと言うの?」
「はい、まるでその場でキスを見ていたかのような言い方でした」
あの場には私とフランしかいなかった。それなのにその事を知っているということはどこかにいたのだろうか。
「いや、あの時感知したのはフランだけだった……」
半径50メートルに生き物の反応は無かった。咲夜もパチェもみんな部屋は離れているからそれは確実だ。
「そして……「私の体で何をする気だ」と言われました」
「……元のフラン?」
「はい、そして「どうして私の体を奪ったのか」って問われて……」
「……奪った?」
記憶喪失ならば「体を奪う」などと言われるはずがないのだ。それに本人であるフランがそういうのならば、それも間違いではないはず。
「……今のあなたがフランの体を奪ったというの……?」
「ち、違います! 奪ってなんかいません!」
「……フランはそう言ったのでしょう?」
「そうですけど……私はそんなことできません!」
フランの必死な弁明に私は考える。それに、今のフランの眼差しに嘘の要素はひとつもない。
「……わかっているわ。今のあなたの性格からして、あのフランの体を奪うような肝は座っていないものね。それに、私はあなたを信じているから」
「レミリアさん……ありがとうございます」
「ええ」
フランの謝罪に応じた後、私はもう一度顎に手を当てて考えた。
「……奪うということは……今のあなたの人格はフランのものじゃなくて……」
「今の私にも元の体があるかもしれない。そして……」
フランも同じことを考えているだろう。
「今のフランはあなたの元の体に乗り移っている……」
「そういうことかもしれないですね……」
「じゃあどうやって私に語りかけて来れたんでしょうか……」
「…………」
色々、仮説は立てられるが、今は夜だ。何を考えても他の人物に相談もできない。諦めた私は布団を被った。
「今考えても仕方ないわ。今日はもう寝て、明日また話し合いましょう?」
「そうですね…………レミリアさん」
「ん?」
フランは私を見据えた。紅い瞳が薄暗い中で少しだけ光る。そして優しく微笑んだ。
「ありがとう……ございます」
「……」
いつも言われる謝礼の言葉だが、この時だけは何故か重みを感じた。
「フランの為なら、私はなんだってする。大切な家族で、恋人なんだから」
「そうですか……じゃあ恋人になりましょう」
「え?」
またまたフランの発言に私は言葉を返せなかった。そして、今のフランの頬は暗くてもわかるくらい真っ赤だった。
視線を下に落としてモジモジと指を合わせていた。
「……正直、レミリアさんを恋愛的に見ることは出来ませんが……それでレミリアさんが活力になるのなら……って思ったんですけど……」
「そう……ありがとう、フラン。いつか、本気で惚れさせてあげるからね」
「……はい」
今のフランは心優しくて人のために努力して、そして本気で人に感謝が出来る。理想的な妹だ。
こんな妹がいたら、姉としてなんとも誇らしいのだろうか。胸を張って、「私の大切な妹よ」と言えるだろう。
だが、それは「妹」だ。
いつもベタベタ引っ付いてどこでもキスをせがんで、私が他の奴と話すだけでキレて、欲望のままに私を貪る。
こいしという大切な親友の告白すらも断って、肉親である私にずっと想い続けて。
正直、迷惑な妹だ。でも、私は大好きだ。
どんなに問題を起こして、幻想郷から嫌われた妹でも、私はずっと味方になれる。
これは「私の妹」だ。
でも「
私の唯一の肉親だ。フランがいてくれたおかげで私は「姉」として、そして「
幸せのために私は妹もフランドールも救う。そう誓えたのは、フランドールという存在が私の中で大きいからだろう。