フランがシスコン過ぎて困っています。いや嬉しいですけどっ   作:かくてる

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7話 事情聴取

「考えられるのは、体と精神を丸々入れ替えられたってところかしら?」

 

 夜が明けて、朝食時に紅魔館メンバーを集めた。

 昨夜フランの元の人格から声をかけられたことに関して、一番最初に考え込んだのはパチュリーだった。

 

「そうなると、入れ替えられる能力を持つ者が黒幕ってこと?」

「ですがパチュリー様、入れ替えの能力を持つ妖怪や人間に知り合いはおりません」

 

 咲夜の言う通り、人の心にまで漬け込む入れ替え能力など強力過ぎて忘れられないはずだが、ここにいる全員は誰も心当たりがない。

 

「……パチェ、そういった魔法は?」

「ないわ。仮にあったとしても、入れ替える為にはその対象が必要なはずよ。つまり、媒体となるフランと今の人格のフランの元の体がないと発動しないわ」

「ふぅむ……」

 

 これは迷宮入りか……

 とそう思っていたが、おずおずと手を挙げたフランが少し萎縮しながら口を開いた。

 

「あの……能力は応用が出来ればその文字以上の事が出来ることってないんですか?」

「……? どういうこと?」

 

 ここにいた誰もがクエスチョンマークを浮かべる。フランは更に縮こまってしまったが、口ごもることはなかった。

 

「ええと……確かレミリアさんの能力は「運命を操る」でしたよね」

「ええ、運命が見えてしまうのは嫌だから最近は使わないようにしてるけど」

 

 日常生活で能力を使うのは極力控えてきた。以前までは能力を使って「今日霊夢が来る」とか「明日は大雨ね」とか予知していたが、最近は先が見えないということに楽しさを見つけてしまったのだ。

 

 明日は誰が紅魔館に来るのかな。明日は晴れるといいな。そう考えるのが心地よくなっていた。

 それっきり、運命を見るのはつまらないし、楽しくもないから使わないできた。

 

「例えば……えと……弾幕ゲームでしたっけ? それの時に相手がどういう軌道の弾幕を撃ってくるかとか、分かるんじゃないですか?」

「ええ……まぁ……霊夢や魔理沙とやった時はレベル高すぎて意味を成さなかったけどね……」

 

 霊夢や魔理沙との弾幕ゲームはもうやりたくない。そう思えるほどの強敵だった。

 弾幕ごっことか軽く言われているが、あれはもうただの戦闘だった気がする。

 

「それって未来予知……じゃないですか?」

「……まぁそう言えるわね……」

「……えっと……」

 

 思ったより反応が薄かったからか、フランは狼狽してキョロキョロと目を泳がせてしまった。

 しかし、言いたいことがまとまったのか「あっ」と閃いた顔をしてまた話を続けた。

 

「その能力の概念は「運命」だけを見れる。というものですが、レミリアさんはそれを超えて「未来」という概念そのものを超越したってこと……に……」

「?」

「……ああ、そういうこと」

 

 最後自信なさげだったのか、語尾がかなり弱くなったフラン。しかし、パチュリーだけは理解出来たようだ。さすがは図書館の主、頭の回転はかなり良かった。

 

「こっちのフランの方は頭がいいのね。感心するわ」

「え、えへへ……」

 

 パチュリーは感心したように微笑むと、フランの頭に手を乗せた。フランは頬を染めながら照れるように笑う。

 

「……」

 

 ずるい。私もフランのことを撫でたい。けど、撫でる口実がない。

 パチュリーを羨望の眼差しで睨んでいると、それに気づいたパチュリーは小馬鹿にするように笑った。

 

「あらあらレミィ。少し寛大になりなさい。束縛の強い女は嫌われるわよ」

「……うるさいわね。早く説明しなさいよ」

 

 図星をつかれて私は目を逸らす。そして、その話題から逃れるようにパチュリーに説明を促した。

 

「だから、能力を応用されてる可能性があるって事よ」

「応用?」

「そう、文字でははっきりしてないけど入れ替えるだけの能力を持ってる人例えば……入れ替えるだから……」

 

 パチュリーは顎に手を当てて考え始めた。入れ替えるという概念は無いが、入れ替えるという概念と似た言葉。

 

「……ひっくり返す……とか?」

「ひっくり返す能力……うーん……分かりませんね……」

 

 門番として、様々な交流をしている美鈴だが、そのような能力を持っている人物と面識どころか、噂も知らないようだ。

 

「まぁ他の表現でも考えてみて、それらしい能力なら色々うそうな気もする──」

「…………あぁあ!?」

「うわぁ!?」

「お、お嬢様!?」

「あっっつっ!?」

 

 唐突に叫んでしまう。そこにいた全員がビクゥっと体を跳ねさせた。

 パチュリーに至っては持っていた紅茶のマグカップをひっくり返して火傷をして、今まで聞いたことがないくらいの男勝りな口調で叫んでしまう。その後で私が全力で頭を下げた話は伏せておこう。

 そう、私だけは分かってしまった。この能力が誰によるものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、何も知らねぇよ?」

 

 紅魔館を出て、パチュリーと小悪魔以外の4人である人物を探しに来た。すると、思いの外あっという間に見つけてしまった。

 妖怪の山を歩いていた「ひっくり返す能力」の人物に出会う。開幕早々グングニルをぶち込むのは良くないので、とりあえず事情を聞くことにした。

 

「はぁ、本気で言ってるの?」

 

 何でもひっくり返す程度の能力を持つ天邪鬼、鬼人正邪と邂逅して問いただしたところ、答えは白だった。

 

「そもそもなんで私がこいつと見ず知らずのやつの人格をひっくり返すことになるんだ?」

「確かに……」

 

 そう言われてみればそうだ。明確な動機もない。

 

「そもそも私はレミリアとそこのメイド以外面識ないっての。レミリアに妹がいたことは知ってたが、会ったのは今日が初めてだぜ?」

 

 ぺこりとフランが頭を下げると「随分可愛らしい妹だな」と微笑む。フランは照れ笑いを浮かべていた。

 隣にあった三色団子を口に入れながらフランの頭を撫でると、よほど美味しかったのか口端が緩むのが見えた。

 

 なんでどいつもこいつもフランの頭を撫でたがるのか。確かにさっきパチュリーが言ったように寛大でいなければ紅魔館の主も務まらないし、威厳もないのだが、嫉妬くらいはさせてもらおう。

 

「……困ったわね」

「お嬢様。この天邪鬼では無いのですか?」

「そうみたい。さとりを呼んで心を読んでもらうのもいいけど、確かに動機もないし……それに、こいつ以外に入れ替えの能力を使えるやつなんて……」

「なぁレミリア」

 

 推理を続けていると、それを不思議に思った正邪から声をかけられた。

 

「何かしら?」

「今日は何もやることないし、手伝おうか?」

「……え?」

 

 輝針城異変を終え、お尋ね者としてその身を追われ続けた正邪は少名針妙丸という小人の協力もあって、幻想郷での生活、そして永住を認められたばかりである。

 そんな正邪は再び悪さや問題を起こすことなく、角が取れて丸くなったのだ。

 

「いやなに、お前とそこのメイドにも迷惑はかけてしまったからな」

 

 そう、この輝針城異変に駆り出されたのは紛れもない咲夜だったのだ。妖器を用いて、この異変を一から最後まで攻略してみせた。

 

「協力してくれるのはありがたいけど……」

「なんだよ? なんか不満か?」

「あんなに下衆野郎だったあんたがこんなにも物腰が柔らかくなるなんてね。それに、何かを企んでいそうで怖いわ」

 

 正邪と言えば、下衆なことでも有名だった。小人である針妙丸を騙し、利用した。打出の小槌のためとはいえ、さすがに腸が煮えくり返る思いになったのを覚えている。

 そのため、これも何かを丸め込もうとしているのではないか。また愚行をしてしまうのではないかという不安があった。

 しかし、正邪の返答は全くもって純粋なものだった。

 

「う、うるせぇな……また悪さして欲しいのか?」

「そんなことは誰も言ってないわ。そうね、よろしく、天邪鬼さん」

「おう」

 

 こうして、新しい協力相手が見つかったのはいい事だが、正邪が白である以上、この謎解きは白紙になったわけだ。

 

「フランの当ても外れたか……どうしようかしらね」

「とりあえず、昨日来た霊夢やさとりさん、こいしさんにもお話を伺ってみては? フラン様の昨日の用件もありますし」

「それがいいわね。咲夜、美鈴。三人を呼んできてもらえるかしら?」

 

 咲夜の提案に、私は乗った。

 

「かしこまりました」

「ああ、後、出来れば萃香も連れてきて」

「萃香さん……ですか?」

「ええ、フランが記憶を失くす前、最後にあった身内以外の人物って萃香でしょう?」

「分かりました。では、どこで落ち合いますか?」

「紅魔館でいいわ。バルコニーでお茶を出して待ってる」

 

 咲夜と美鈴はそれぞれの方向へ飛んで行った。それを見送るや否や、私は他の四人へ向き直る。

 

「さて、私達は紅魔館へ戻りましょう」

「了解です」

 

 歩を進め、開けた場所に出てから私達は飛んで紅魔館への帰路を辿った。

 

「なあ、レミリア」

「ん? 何?」

 

 飛んでいる最中に正邪が隣まで来て話しかけてきた。

 

「とりあえず、あんたの妹が記憶喪失になった経緯を教えて貰っていいか?」

「ああ、そうね」

 

 協力してくれる以上、話さない訳にはいかないだろう。

 そう思ってはいるのだが、赤の他人に軽々と「フランの記憶が消えた」というのは少々気が引ける。

 そう思って口を噤んでしまう。我ながら情けない。しかし、助け舟を出してくれたのは意外にも正邪だった。

 

「無理に全部話せとは言ってねぇよ。ただ、いつ、どこで記憶が無くなったとかだけでいいんだ」

「……そう、やっぱりあなた。別人みたいになったわね」

「まぁ、あの時の事はこれで水に流そうじゃねぇか」

「ええ」

 

 輝針城異変のことを思い出すとやはり違和感を覚える。あの時は咲夜に出動してもらったが、ここにいるのが咲夜なら鳥肌が立つほどでは無いだろうか。それくらい、正邪の変わりようには目を見張るものがあった。

 

 それから、私は話せることだけを正邪に話した。萃香が来てからおかしくなったこと、名前すらも思い出せない重症であること、それらを全て話した。

 

「……萃香……だっけ? その鬼」

「ええ、そうよ」

「確かその萃香って奴嘘が嫌いなことで有名だよな。それなのにお前が霊夢に呼ばれてるって嘘をついたんだ?」

「そこなのよね」

 

 多分、正邪も同じことを考えているのだろう。顎に手を当てて口を開いた。

 

「恐らく、萃香とやらに化けた何者か、だろうな」

「その線が一番可能性が高いわよね。化ける妖怪ならそこらに沢山いるだろうし」

「後は……そうだな、萃香が騙されたか。そのどっちかだな」

「……あの萃香が?」

 

 萃香といえば、とんでもない力の持ち主でもあり、最も嘘を嫌う人物でもある。

 それならば、嘘か本当かの見分けは絶対的につくはずだ。そうなれば、騙した相手はかなりの手練れか萃香の弱みを握って手中に収めたか。このどちらかだ。

 

「まぁ、詳しい話はまた後で……だ」

「そうね」

 

 話していたらあっという間に紅魔館に着いた。妖怪の山からは人里を挟んで反対方向なので、少し遠いが話していたらあっという間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあとりあえず人が集まったところで、色々話し合いを続けていくわね」

 

 全員が紅魔館に集まった時にはもうお昼時だった。

 咲夜に昼食を作らせている間、私、フラン、正邪、霊夢、さとり、こいし、萃香の七人で話を進めることにした。

 

「じゃあまず、萃香」

「なんだい? いきなりここに呼び出すということはやっぱり何かあったのかな」

「霊夢から聞いた大事な話ってなんだったの?」

 

 少し前に萃香からの伝言で博麗神社へ呼び出されたあの時、あれがきっかけと言っても過言ではないだろう。

 おそらく、萃香か霊夢のどちらかが黒。もしくはどちらかに化けた妖怪。

 これがはっきりするだけでもだいぶ進歩だと思っている。

 

「私は何も言われてないぞ? 神社で酒を飲んでたら霊夢が真剣なご様子で私に話しかけてくるからさ」

 

 そこから、萃香はその時のことをこと細かく説明してくれた。

 

 

 

 

 ────

 

 

 その日は暇を持て余した萃香だけが神社でお酒を飲んでいた。とくとくと瓢箪から流れるお酒が萃香の口の中を通っていく。

 

「萃香」

「おわっ、どうしたんだ霊夢」

 

 背後から現れた霊夢の姿に驚きつつ、その霊夢の顔を伺う。すると、そこには真剣な面持ちの霊夢がいた。

 

「幻想郷のバランスについての話を今からするの。レミリアと二人で」

「ほぉ」

「だから、今日はもう出てってくれないかしら」

 

 博麗の巫女という責務を果たすべく、時々こうしてレミリアと会議をしているのは知っていた萃香は二つ返事で首肯した。

 萃香とて、最初は人間も妖怪も下に見ていたが、今ではだいぶ角が取れて霊夢を信用するようになった。

 

「分かったよ。ついでにレミリアを呼んでこようか?」

「そうね。頼めるかしら」

「応よ」

 

 そう言って、萃香は霧散して姿を消した。

 萃香とレミリアはあまり仲がいいわけではなかった。

 鬼という種族に誇りを持っている萃香とレミリアには大きな価値観の違いもあった。

 しかし、初めて邂逅して戦闘した時から萃香もレミリアも互いに実力を高く評価していたのは事実だった。

 そんな萃香をわざわざ博麗神社から離した理由は霊夢は知っている。

 

 

 

 

「…………これでいいのかしら、紫」

 

 誰もいない空間で霊夢はそう呟いた。

 すると、霊夢の隣の空間が酷く歪み、切れ目を作り上げた。そして、そこから扉が開くように境界が生まれた。

 

「……いいわよ。ありがとう、霊夢」

「全く、萃香やレミリアに嘘をついてまで何がしたいのかしら」

 

 その境界からひょこっと顔を出した金髪の少女は扇子を口に当てて妖しく笑う。

 

「後でお礼はするわよ」

「それはありがたいけど、一体どうしてこんなことしたのよ?」

 

 霊夢のその質問に紫は少しだけ間をあけた。

 そして口を開く。

 

「償いよ」

 

 その言葉の意味を、霊夢は理解出来ずにいた。




こんな優しい正邪をわたしゃ知らん。

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