フランがシスコン過ぎて困っています。いや嬉しいですけどっ 作:かくてる
「……黙っててごめんなさい」
霊夢は机越しに深く頭を下げた。
「……待ちなさい。霊夢、あなたが黒幕だと言うの?」
怒りが少しずつ込み上げてきている私はトントンと指で机を叩きながら霊夢に問う。
しかしその問いに霊夢は静かに首を横に振った。
「紫よ」
「……さとり」
「本当ですね。霊夢さん自身、紫さんに協力したってところですね」
「…………霊夢。あなたのような人がこんな事に加担するなんて思ってなかった。幻滅だわ」
「……」
「なんとか言ったらどうなの? 説明しなさいよ」
「……」
霊夢を強く睨みつける。
いつもなら「うるさいわね!」と反抗してくる霊夢もさすがに自分が悪いと思ったのか、黙り込んでいた。
「っ!」
「お嬢様っ?!」
「なんとか言えって言ってるの……ッ。本気で殺してあげましょうか?」
「……」
ついに堪忍袋の緒が切れた私は霊夢の胸ぐらを掴んだ。
異変解決を数々こなしてきた霊夢という大きな存在が、自分の大切な人を傷つけたのだ。
それでもなお、黙りこくっている霊夢に更に怒りを募らせた私は右手を振り上げる。
「ッ!!」
「……落ち着いて、レミリアちゃん」
冷めた声が私の怒りを鎮めた。
真っ直ぐに霊夢を見つめるこいしの目は多少なりとも怒りはあれど、落ち着いていた。
「ねぇ、霊夢」
「……なにかしら」
「紫ちゃんがどうしてフランちゃんの人格を入れ替えたのか知ってるの?」
「…………いいえ、知らないわ。ただ、萃香にレミリアを紅魔館から外すようにお願いされただけ」
「……お姉ちゃん。どう?」
「本当のことね」
「……わかった。レミリアちゃん、とりあえず落ち着いて。霊夢だって悪気があってやったわけじゃないみたいだし」
私はゆっくりと霊夢から手を離す。
そして、自分の席に座り、自分の誤ちに気づく。
「……ごめんなさい霊夢。少し頭に血が上ってたわ」
「いいえ、別にいい」
「……そもそも、フランをいじくったのは誰なんだ?」
正邪の真っ当な問いに誰も答えられなくなる。
誰がフランに手を加えたのか。
萃香や霊夢はこの時点で関与はしていても実際に犯行に及んだ訳では無い。
「……紫が動いているとなると、紫以外にも誰かいるはずなのよね」
「……霊夢さん。他に紫さんが言っていた情報はないんですか?」
紅茶を啜っている霊夢にさとりが問いかける。
霊夢は上を向いてしばし考え込むと、何かを思い出したように「あっ」と声を出した。
「そういえば、なんのためにって私が聞いたら「償い」って返してきたわあいつ」
「……償い?」
予想の斜め上の回答に全員が戸惑った。ますます問題が迷宮入りしている。
「償い……か……」
「ということは、紫自身、何かの罪を犯してしまった……?」
「……これはなんだか、結構大事件な匂いがするな……」
正邪が苦笑いをする。
「……次の参考人は紫……か」
額に手を当てて、私はため息をつく。
これ以上迷い込んでしまうと当人のフランに相当な負担が及んでしまうかもしれない。
私個人としてはそれだけは絶対に避けたい。
人格が入りこんだとはいえ「破壊」の能力を持っている。そのまま暴走してしまえば、絶対にフラン自身が抱え込んでしまう。
そんなの、姉として許せるわけが無いのだ。
「とりあえず、明日紫に会いましょう。今日は集まってもらって悪かったわね」
「……私が紅魔館に来るように言っておくわ」
「ありがとう。霊夢」
そう言って、全員が席を立ち、玄関へと歩いていった。
玄関に着くや否や、フランが頭を下げた。
「皆さん。今日はお集まりいただき、ありがとうございました」
「……ああ、困ったことがあれば、いつでも言ってくれな。あんたんとこの姉には借りがあるし」
「私も霊夢に騙されたとはいえ、責任はあると思うし、最後まで協力するさ。全部終わったら酒でも飲もうぜ」
「ええ、レミリアには私も世話になってるしね。それに、私は完全に異変に加担してしまった側だからね。博麗の巫女として、異変解決には全力を尽くさせてもらうわ」
「レミリアさんとフランさんには感謝していますから、こいしもお世話になってますし」
「私はいつでもフランちゃんの力になるよ! あ、そのまま私に惚れちゃってもいいんだよ?」
本当にありがたい。
私の妹のためにここまで協力してくれるのは単純に嬉しい。そう思った私は思わず笑ってしまう。
「……あ、ありがとうね。みんな」
礼を言う。
私自身、ここまで素直にお礼の言葉が出てくるとは思わなかった。
気恥ずかしくなった私は少しだけ頬を染めてそっぽを向いた。
「……フランちゃん、誇っていいと思うよ。こんなに優しいお姉ちゃんがいるんだから」
優しく微笑んだこいしに、私はギョッとする。
しかし、話しかけられたフランはこいしと同じくらい優しく笑いかけた。
「はい、優しいお姉さんで大好きです」
「ッ……」
「……はいはい、ご馳走様でしたー。じゃあ、またね」
満足したのか、こいしや他の面々はにんまりと笑いながらそれぞれの帰路についた。
それを見送った私とフランはお互い顔を赤くして黙ったままだった。
「……ふ、フラン。早くお部屋に戻りましょ?」
「は、はい。そう……ですね」
気まずい。
今までこんなに妹に対して気まずく感じたこともないし、距離を起きたくなる事も全くなかった。
でも、それでも、たまらなくフランが愛おしい。
「……フラン。今日は一緒にお風呂入る?」
「えっ!? そ、それは恥ずかしいので無しです。なので……」
すると、フランは更に顔を赤く染めて俯いた。前髪で顔全体が隠れているが、耳がかなり赤くなっていた。
「……き、今日も一緒に寝てくれますか?」
「……」
その上目遣いはずるいと思う。
こんな可愛い生物が私の妹なわけないだろうと電流のように私の頭の中で思考が張り巡らされる。
「……喜んで」
瞬間、恥ずかしがっていた顔から一気に明るくなって笑う。その顔も割と反則な気がするわ。
「……じゃあ、冷えるから早く戻りましょ?」
「……はい!」
そう言って、私達は照れながらも手を繋いで紅魔館へと戻っていった。
「……」
レミリアさんが現在、お風呂に入っている。
私は風呂を終えて窓から外の空気を吸っていた。
(……私って……どんな人だったんだろう)
私がフランドールの体を乗っ取ってしまってから今日で二日目。
短いような長いような。
フランドールという体に馴染んでくる頃になってきたが、度々疑問に思ってしまうのはそれだ。
フランドールというこの少女がとても可愛らしくて、あんなにも友達がいて、とても人望が厚い人だったんだなと思える。
そして何より、「姉」がいて。
「……あれ?」
どうして、「姉」がいることを羨んでいるのだろう。
無意識に感じたこの思考に私は疑問を抱く。多くの友達を持って、胸がいっぱいになった。
でも、「姉」がいてくれたことで胸が満たされた。
──そういう事だったんだね。
「……ふ、フランさん……ですね」
昨日の夜に聞いた幼くも可愛らしい声。
きっとこの声の主がフランドールさんなんだろう。
──あなたの事、悪い人だと思ってた。
「は、はぁ……」
──ごめんね。そんな思いをしてたなんて。
「そんな思い?」
悟ったような口ぶりのフランドールさんに私はオウム返しで聞いてしまう。
──そう。そんな思い
「な、なんですかそれ」
──それは、あなた自身が気づいて欲しい。それに、私の体はもう自由に使ってくれていいよ。
「は、え?」
昨日とはほぼ正反対の事を言っているフランドールさんに私は更なる疑問が浮かんでしまう。
「ど、どうしてですか!? 昨日はあんなに追い出そうとしてたのに……」
──あなたの思いは、私と同じだから。
「……え?」
──……私はもう、全部分かった。紫が関与してることで、確信がついた。
「ほ、ほんとですか!?」
フランドールさんはそのまま黙る。きっと、首肯しているということだろう。
「お、教えてください!」
──それはダメ。
「……え」
予想外の返答に私は戸惑ってしまう。
そして、フランドールさんは少しの間を開けて、優しく、ゆっくりと語りかけた。
──きっとそれを知ってしまったら、あなたが妹としての幸せを無くしてしまうから。
「妹……として……」
──あなたはまだみんなから愛されるべき。あなたが幸せになり続けてくれるなら、その体は好きなだけ使ってくれていい。
「……そう、ですか」
今、フランさんからこれ以上のことを聞けないことを理解した私はこれ以上の詮索をやめた。
──あなたはまだ、幸せになれていない。だから、まだダメ。
フランドールさんはまるでこの体を私に使って欲しいかと言わんばかりに強く言ってきた。
「……分かりました」
──幸せになってから…………消えなさいよ
「……ん? 最後なんて言いました?」
──いいや。なんでもない。そろそろお姉様が来るから、今日はここら辺で
「あ、はい。ありがとうございました。フランさん」
──うん。おやすい御用だよ。あ、それと……
「はい?」
フランドールさんの表情はこちらからは見えないため、少しだけ恥ずかしがっているのか、ただ単に言い淀んでいるのか分からない。
──私のいるところはとてつもなく暇だからさ。夜はこうやって話し相手になってくれると嬉しいな。
「……はい! いいですよ」
──ありがとう。
最後のお礼の言葉は間違いなく笑っていてくれたと思う。そう言えるくらい、優しい声音だった。
そうして、フランさんからの声は一切聞こえなくなると同時に、扉が開いて、ネグリジェ姿のレミリアさんが入ってきた。
「さ、寝ましょ」
「あ、はい」
灯りを消して、二人で一つのベッドで向き合って寝る。
すると、暗闇の中で、レミリアさんは私の右手を優しく握ってきた。
そして、それをレミリアさんの顔の前まで近づける。
「……ブレスレット。付けてくれてるのね……」
そう、私の右手には、七色の小さな宝石が輝く美しいブレスレットを付けている。
「……これ、レミリアさんがプレゼントしてくれたものなんですね」
「……そうよ」
「……あぁ、だからか」
私がブレスレットを外さないのには理由があった。今まではその理由がなぜだか分からなかったが、今確信に至った。
「……このブレスレットだけは大切にしたくて」
「……」
「きっと、レミリアさんがプレゼントしてくれたから。無意識に大切にしていたんですよ」
すると、レミリアさんは少しだけ目を見開くがすぐに優しく微笑んでくれた。
私は、その顔に大きく心臓が跳ねた。
「……ありがとう。フラン」
「……いいえ」
「私もね。このネックレス。フランがプレゼントしてくれたものだから、ずっと付けているのよね」
「へぇ……フランさんはセンスがいいんですね。とても似合ってます」
「ふふ、ありがとう……」
私は優しくレミリアさんの首元に手を伸ばし、紫色の宝石が埋め込まれたネックレスを手のひらに乗せる。
レミリアさんらしい、なんとも可愛らしく、なおかつ美しいネックレスなんだろうか。
「……素晴らしい姉妹だったんですね」
「……その姉妹にはあなたも入っているのよ」
「え……」
レミリアさんは優しく私を抱き寄せてくれた。
暖かくて柔らかい肌の感触がネグリジェを通してしっかり感じる。この心地良さは妹の特権かもしれない。
「……人が変わっても、あなたは私の妹。ずっとずっと……大好きよ」
「……レミリアさん……」
ああ、そういう事なんだ。
今、レミリアさんに抱き寄せられて、悶々と考えていたことが頭の中で点と点が線で繋がった。
私も、レミリアさんの背中に手を伸ばし、更に体を密着させる。
ああ、レミリアさんが好きだ。愛おしい。この感覚がとてつもなく嬉しくて、心地いい。
私はずっと「姉」のような存在に甘えたかったんだ。
「ありがとう……お姉様」