赤子となりて   作:Seair

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短い


解放

草木も死に絶えた宵闇の中で、一つの人影が蠢く。

 

月光が天上から注ぐ広場で、数多の狂人どもが横たわる。

 

つい先程まで人の営みが続けられていたはずの村は、もたらされた人を超える智慧と存在により、赤と泥と誰かが踏み潰した肉片で彩られている。

 

築き上げられた屍の山の頂上に佇む少女は、その光景には瞳を向けず、持って生まれた平たい両目で現状を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<●>??

 

 

 

 

■■■

 

(ふむ)

 

ーーー

 

(なるほど)

 

■ー■

 

(うん、ありがとう)

 

中々面白い情報が上位者達から聞けた。私が思考の整理をしている間、どうやら眠りに落ちた人間を探して夢から夢へ ヘッドハンティングしたところ、丁度いい思考を見つけたらしい。それをそのまま私達の思考に加え入れる。彼らが自立して行動してくれるのは、私としても非常に喜ばしいことだ。()()も私に対して同じような思考を得たのだろうか。

 

頬杖をついて分析を始めると、何処からか水音が聞こえてくる。

 

目を開けると、目の前で四つ目の死喰鳥が死肉を啄んでいた。

 

ああ、そういえば随分と散らかしてしまっていた。

 

つい先程、私が彼らを、彼らが私を見つけた際、感極まって私の脳内から彼らをこの世界に顕現させてしまったのだった。

 

その影響で私が人として生きていた村は、家族との再開に狂喜乱舞する上位者達によってあちこちで人の内側をさらけ出している。

 

その時の彼らの思考といえば、余程私のことが心配だったようで、人の肉体を持つ私を抱きしめたり、巻きついたり、噛み付いたり、血管に入り込んだりと中々可愛らしい様子を見せてくれた。

 

お返しにと、私がその湿った外皮を赤い舌で舐めてやると、ボンッ という音と共に体表が赤に染まり、身をよじって倒れ込んでしまった。

 

感動の再会に愉快なものが見れて私も気分が良い。

 

(ふぅ)

 

回想から戻ると、丁度思考の解析が終わったところだった。

 

 

(迷宮都市オラリオ か)

 

 

私がこの世界を見つけるきっかけとなったあの響きは、その街から生まれているようだ。

 

どうやら、その街にはダンジョンと呼ばれる地下世界が存在しているらしい。そこには人ならざるモンスター達が生息しており、かつて地上の人々に牙を剥いたという。そして人の海から現れた英雄と呼ばれる者達が溢れ出したモンスター達と戦った、そんなおとぎ話が民草の中で語られている。

 

しかし、おとぎ話と言っても、実際過去に地上へ降臨した神々の恩恵によって眷属となった人々はモンスター達を押し戻し、バベルと呼ばれる巨大な塔を建設、ダンジョンに蓋をしたことで今に至るまでオラリオは繁栄を続けている。

 

要約するとこんなところだろうか。

 

兼ねてより追い求めていた智慧に触れることが出来ると思うと、思わず瞳が震える。特に”眷属”という存在には興味を惹かれる。

 

久々の感覚に私が短くない時間、人の世に溶け込んでいたことを思い知らされる。

 

この世界に入り込んでからどれだけの時間が経過したのだろうか。本来の私を取り戻すのにもそれなりの時間がかかったため、この体も少しばかり成長しているようだ。思えば、なんだかんだこの身体とも随分長い間の付き合いになった。私の知らぬ間に、この体に愛着が湧いたのだろう。

 

 

とにかく、ようやく準備が終わったことを上位者達に伝える。するとすぐさま交信が行われる。

 

 

(卍^q^)卍

 

 

 

_(:3 」∠)_

 

 

 

 ∧_∧

(  = ◎ = )

(  ∪ ∪

と__)__)

 

 

 

(…?)

 

何やら理解し難い思考が上位者達から飛んできた。彼らとの繋がりは完全に回復したはずなのだが、うまく彼らの思考を処理出来ない。私がいない間にまた新しい智慧を得たのだろうか。だとするなら非常に興味深い。後で啓蒙してもらおう。

 

いつの間にか椅子代わりに使用していた母と姉の遺体を蹴り転がし立ち上がる。

 

未だに小さい体を大きく伸ばし黄色くもないいたって普通の背骨を鳴らす。

 

(取り敢えず、移動しないことには始まらないな)

 

月光が注ぐ静寂の中、私が意気揚々と歩き始めた途端、何かが足首に触れた気がした。

 

視線を足下に向けると、そこには白い霞のようなものがあり、そこからやけに細く青白い腕が伸び、私の足首を掴んでいた。ひんやりとした熱とその内に流れる私達と同等の血を感じる。

 

突き出た腕を掴み真上に引っこ抜くように持ち上げると、それはするりと全容を顕にした。

 

白く濁った丸くて可愛らしい目、力を入れれば簡単に折れてしまいそうな両腕、(しわ)だらけのくぼみ過ぎた表皮に、閉じることを忘れた口。

 

苦し紛れに人の形に似せて作られた愛すべき隣人達。

 

「贈り物かな?母様も乗り気だね」

 

その者達、月の使者達が現れたということは彼らから託すべき物があるということ。

 

霜の中から次々に使者達が顔を出す。その際に垣間見える宇宙との境目に少し寂しさを覚えるが、今の私にはこの世界に留まる理由がある。必要ない極めて人間的な思考を捨て、差し出された物を受け取る。

 

「これは...服?」

 

使者達、もとい母様の贈り物は何とかつてのヤーナムでも人間が常日頃被っていた布の集合体だった。何故今更...と思ったが、よくよく考えれば私はこの世界の常識では未だに世間を知らぬ幼い人の子に過ぎない。それこそ、これから人の治める大都市へと向かうのだ。ただの人間に私の正体が見破られることはないだろうが、外界から来た幼子が今のような裾の擦り切れた仮初のボロきれを街中で着ていれば悪い意味で目立つ。それを見越して母様はこのあまり目立たずそして丈夫な服を私に授けたのだろう。母の慧眼である。

 

早速上位者達に手伝ってもらいながら手渡された服に着替えてみる。

 

その作業の最中にふと新鮮でありながら同時に懐かしさを感じる感覚があった。

 

「月の香り」

 

そう、私が悪夢を得てから初めて母様に抱かれたときと同じ香りがこの服から漂っているのだ。

 

一通り着こなしてみると、やはりというか今の私の体に丁度いい大きさだった。それに加えて、この服を着ていると愛しの眷属達との繋がりが強くなった気がする。

 

何とも嬉しい贈り物だ。今は瞳に見えぬ母様に感謝を捧げるべく、久しぶりにあの儀式を行う。

 

左の手のひらを宙に向け腕は真っ直ぐ横に伸ばし、右腕を宙からの思念を感知する針の如く上に掲げる。

 

これぞ真の交信。真に悪夢に見えた者だけが得ることが出来る秘匿された儀式であり、かつての聖歌隊の阿呆共が正道としていたそれとは逆を往く、左回りの交信である。

 

見えているか、悪夢の主ミコラーシュ。聞いているか、夢の探究者達よ。

 

私は今、貴様らの脳に星が降り注ごうとも輪郭すら得られないような智慧を得ようとしている。

 

貴様らの狭苦しい夢の中とは違う、愚かにも成長した人の子と、我らとは似ても似つかぬ神々の悪戯が跋扈し、異なる宙が続き、一歩進めば私の数多の瞳に溢れんばかりの思考が溢れかえる、そんな世界に今私は()()()()としている。

 

いや、私だけではない。傍で跳ねる星の子らも、メンシスの狂人共が造り上げた、再誕者(人なる上位者)も、アメンドーズ(叡智の完成形)も、メルゴーの乳母(神秘の伝道者)も。我ら家族全てが異世界での生の感覚に酔いしれている。

 

今尚、私の宇宙の中で古き上位者達から幼子まで問わず己の持てる限りの力で荒れ狂う興奮を表現している。

 

交信によって研ぎ澄まされた思考が、古き一柱の星を砕く光線と幼子達の輪唱によって爆ぜる。それすらも原始以来の闇と光に呑み込まれて消えていく。私の目の前には、この世界を何の制限も無く、愉快な仲間達と共に跳梁出来る驚愕的楽園が広がっている。

 

 

 

 

私は笑った

 

 

これで笑わずにいられるものか

 

 

自らの宇宙に閉じこもっていた私達にこのような出会いがあるとは

 

 

絶笑に次ぐ絶笑で讃歌を唄う

 

 

この出会いに感謝!

 

 

生まれて初めて嗤わずに笑う

 

 

この出会いに祝福を!

 

 

祈りの代わりに笑い続ける

 

 

私達の旅路に智恵あれ!

 

 

 




交信してハイになった主人公、無理矢理感が否めない。


エブたそ(...私は?)
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