黒い高級感のある物々しいコートは白いトレンチコートに変わった。
聖水と火薬、簡易的な医療器具を装備していたホルスターもない。
三年間使い続けた銃と剣はクインケに変わった。
「(当の、私は)」
飛び掛かってくる喰種をクインケの刃で頭を輪切りにして、やや奥にいた方をもう片方の手に持った羽赫クインケで撃墜した。
硝煙の匂いはしない/焼けた肉の匂いと焦げた匂い、それから赫子の匂い
路地の建物の間から見えた青空はここにない/暗い地下は光も通さずただ辺りに散らばった肉や血や焦げの匂いが充満している
見慣れた下級の悪魔が一切いない/そりゃそうだ、世界が違う
「(迷って、ばっかりだよ)」
―――ねえ奥村燐
内心でここにはいないヒトに語り掛ける。
返事は当然返ってこない。分かりきったことにほんの少し笑ってしまう。
いつかこうなると思っていた。
こうなることを望んでいたはずだ。少なくとも最初はそうだったはずだ。だからこそあの世界に存在することを許されていたわけなのだし。だから手騎士の資格を取らなかった。あの世界に繋がりを残さないようにしておきたかったのだ。念のために持っていた印章紙も最低限しか使わず契約する前に破り捨てた。
全部、終わって。みんな無事に帰還して、久々に会った高槻先生に神妙な顔をされて。夢の終わりが来たことを悟った。それで、一人の時にちょうど消えようとしてたのにあなたが来た。いつもの任務みたいに後腐れも未練もなくあの世界を去れると思ったのに。
「台無しだよ、もう」
なんでよりによって最後に来ちゃうの。
「まあ、とにかくあれだ」
生きていてほしい人たちはなんとか生き残ってくれたし、物質界も虚無界もなんとかなったと思うし。とりあえず大団円っていうことで。悪魔と祓魔師なんていう喰種以上のチートがいたおかげで私が何かを生かせるなんていう幸運に恵まれたわけだし、未練以外は満足のいく結果だった。
――だからきっとあの世界の私は幸せな夢。目が覚めて
おやすみなさい、白代萼上一級祓魔師。
だれか
だれか
だれか
だれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれかだれか
私を―――
『どうして愛されると勘違いしてしまったのかしら』
『そんなに醜いのに』
記憶の中に生き続ける