帰りがすっかり遅くなったものの、当のフェレス卿には合宿に関わらないようにと言い含められているので自室には帰るに帰れない。一日二日程度なら寝なくとも平気だけど、せっかくの自由時間なのでどうせなら落ち着ける場所がほしい。
クロに会いたかったけど門に行ったらいなかった。モフモフできない……寝ころべない……
仕方ない……普通にホテルに泊まるか。正十字学園町はやはりというか、それはそれは立派なホテルが何か所か建っているのだ。幸い私はお金の使い方が下手で必要最低限以外使わないため、そういったところに一泊したくらいでは困窮しない。
「ただ移動が面倒なんだよねー」
そういうのはなぜか上の方にあるので必然的に階段を上っていくことになるのだ。
「馬鹿と煙と偉い人は高いところがすーきー、って」
私は思わず固まった。旧男子寮の方が光った。
―――ただ光ったんじゃない。あれは、青い炎、か?
私は急いで携帯を取り出して電話をかける。
「フェレス卿。奥村燐は今どこに?―――いえそれは分かっています。私が言っているのは奥村燐は今屋外で炎を使用しているのかの確認です。――ええ。はい、やはりというか……いいえ。了解いたしました。それでは失礼いたします」
通話を切って今度は業者に連絡をする。
「夜分遅くに申し訳ありません。正十字騎士團の白代萼です。大変お世話になっております。ええ、急遽必要になりまして。はい。そうですねそれでは……御神酒を100リットルほど。――はい。はい。ありがとうございます。では届き次第……ええ、本当にありがとうございます。失礼いたします」
連絡も終わって画面を消す。じゃあ一回学校の搬入口に行かないといけないか。
「うーん、今日は徹夜かな?」
さすがに作業が終わる頃にはきっと深夜を回っているだろうし。ホテルでの休息は諦めた方が賢明だろう。備えあれば憂いなしともいうし、後始末のこともある。
「♪~」
私はそのまま遊ぶように上に登って行った。
合宿を終えて無事に候補生になった塾生たち。そして消息を絶ったネイガウス先生。
ネイガウス先生は青い夜の被害者にして遺族だ。なんとなく、あの合宿の夜何があったのかわかってしまった。
「……ネイガウス先生に関しては仕方ないか」
奥村君に罪はないとしても、あの人は青い夜で奥さんと子ども両方を亡くしているから。我が子が死んだのに、自分の家族が死んだのに、加害者の子どもはのうのうと生きている。という現実はさぞ辛いものだろう。
……なんて邪推じみたことを考えるのはやめよう。うん。
「そうだ、奥村君のところに行かないと」
塾が終わって私も奥村君のいるであろう旧男子寮に向かった。
「ただいま」
「おう、おかえりー」
扉を開けると既に夕食の準備をしている奥村君がいた。
「奥村君、大事な話があります」
「お、おう?」
私が呼ぶと奥村君は手を洗ってこっちに来た。
「私は今、朝ご飯と夜ご飯、それとお昼の弁当―――食事にまつわることのほぼ一切を奥村君にまかせっきりにしています」
「おう」
「奥村君の経済状況についてはフェレス卿からの2000円と雪男君からの食費で合ってるよね」
「……おう」
「今まではそれで間に合ってたのかもしれない。でも私という人間が増えたことによってかなりひっ迫させることになると思うんだ。だから―――私からも食費と生活費として月4万円、家計に入れることにします」
「!?よっ」
「ただし条件として、基本的に食費として換算すること。無駄使いしないこと。どうしても何か使いたいものがあるときは私に相談すること。それさえ守ってくれたらいいから。というわけで、はいこれ」
現金の入った封筒を渡すと奥村君は震えながらそれを受け取った。
それで主婦のようにお札を数える。
「……あれ、3万多くないかこれ」
「この間の合宿で候補生になったからそのお祝い―――候補生昇格おめでとう、奥村君」
「~~っ!一生付いていきます萼様ー!!」
「うむ、苦しゅうない!あ、でも私に言いづらい買い物とかで使うときは雪男君に相談してね」
「言いづらい?」
「うん。えっとその、エロ本とかAVとかそういうのとか。いくら先生で同居人みたいなものだとしてもそういうのって異性に言いづらいでしょ?」
「!!そ、そう、だな」
うん、誰にだって知られたくないプライバシーとかあるからね。見てないよ私は、ベッド下なんてなんともベタなところに隠してあった巨乳の水着姿の女の子が写ったエロ本なんて。
……あの本の内容から察するに奥村君は巨乳でセクシーなお姉さん系が好みと見た。シュラさんなんかストライクっぽそうだなあ。
「じゃあそういうわけだから。それで美味しいご飯これからもたくさん作ってね」
「!任せとけ!!」
この日の夕飯はハンバーグとデザートにサクサクのアップルパイでした。