白の祓魔師   作:紗代

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変調を齎す

ゴーストの任務から少しした頃、ヴァチカン―――正確に言うとアーサー・A・エンジェルから手紙が来た。

なんでも藤本さんの後任として聖騎士に任命されたらしい。

要するに祝えということか。

 

《そういえばお前からもらった育毛剤を使ったらカリバーンに大変好評だった。感謝する!》

 

―――皮肉のつもりだったんだけど、一切効いていないらしい。

今度はやっすい業務用の脱毛剤でも送りつけてやろうか。なんて思いながらとりあえず返信することにした。

 

「《それはよかった。聖騎士就任おめでとうございます。益々のご活躍を期待しております》と、こんな感じでいいでしょ」

 

それで私たちの仕事が減ってくれればまさに万々歳である。

というかヴァチカンとしてもそれ以外に実力のある祓魔師でまともな人選がなかったんだろう。四大騎士の面々は今の地位から動こうとするような人間はいない。ライトニングはまず一番上に立つタイプじゃないし。シュラさんはあの性格だし、私はフェレス卿の秘書という立場だ。

エンジェルさんは性格こそあれだけど基本的に騎士団に対して従順だから条件も含めて尤もだったんだろう。

 

「けどなんかなあー。なんでよりにもよって……」

「どうした?」

「ちょっと、ねえ……奥村君おかわり」

「おう」

 

食卓で辛気臭い顔を出してしまうとは、不覚。奥村君がよそってくれたご飯をもぐもぐと再び咀嚼する。

 

「この前からですよね、本当に何かあったんですか?」

 

雪男君にも気づかれてたのか……とりあえず飲み込んでから喋り出す。

 

「うーん、なんていうか。別に今の私たちに関係のあることじゃないし、私の先入観というか、思いっきり私情が入ってることなんだけど……藤本さんの後任の聖騎士が決定した」

「!」

「誰になったんですか?」

「……アーサー・オーギュスト・エンジェル」

「!!」

「あーさー?」

「それは……なるほど」

 

奥村君は分かっていないけど、雪男君は察したのか納得したように同情の視線を向けてくる。

 

「なんでよりによって藤本さんの後任があれなのかな……ヴァチカン勤務じゃないから別にいいけど、でもフェレス卿がいなくなったらあれの部下扱いになりそうで……皮肉も通じないし一体何なのあれ」

 

どよどよと沈んでいくのをお茶を飲んで無理やり切り替えた。

 

「まだ二人とも学生だし奥村君に至ってはまだ候補生だからないとは思うけど、もし魔神の落胤だってバレたら逃げなさい。あれは祓魔に対する英才教育を施された騎士團の申し子だから」

「?おう」

「……はい」

 

林間合宿が目前に迫るある夕飯での会話。―――人はこれをフラグと言う。

 

****

「で?君はまた除け者にされて私と話していると」

「一々癪に障る言い方しますよね貴方……まあ状況だけ言えば概ねそんな感じです」

 

結局、また私は林間合宿についていくことは叶わず―――その代わりに高槻先生との約束を取り付けてもらった。その時上司から「まったく、上司使いの荒い部下ですね☆」なんてお小言ももらったがそんなの知ったことか。

 

「この間の遊園地の襲撃。あれはフェレス卿からの指示ですか?」

「一応聞いておこうか。どうしてそう思った?」

「ほぼ同時に奥村君のところに地の王が来ていたそうなので。いくらなんでもタイミングが良すぎる。それに本当に生徒や私を試すような抜き打ちの殺し合いだったら、あの初撃の時点で使い魔どころか私以外の生徒諸共殺せていた。ほとんどお遊戯みたいな短い滞在時間。―――すべて、ですよ」

「ふうん、そこまで私を買ってくれているとは意外だねえ」

「事実です」

 

片や私以外戦闘慣れしていない学生数名と、片や単体で戦闘慣れしていた特等捜査官を幾人も葬ってきたSSSレートの怪物。どちらに勝機があるなんて考えるまでもなく明白である。

 

「そこまでわかってたならやっぱり隠すまでもないか。うん、私はヨハン君に頼まれて君のところに行ったのさ」

「やはり―――」

「おっと、余計な勘繰りはやめておいたほうがいいぜ?ヨハン君にはヨハン君の考えがあってのことらしいし。まあなんにしても―――過保護はよくない。たとえこの世界での恩人との約束だったとしても自分でどうにかできることは自分でさせないと」

「雪男君の精神的な安定と私の約束の確実性からクリーンルームにでも入れておきたいくらいなんですけどね。本当は」

「でもしない」

「そりゃあそうでしょう。なんだかんだ言いつつ今の暮らしを気に入ってますから」

「へえ、幼い頃に得られなかった『家族』っていうのを疑似体験できているからかなあ?」

 

くすくすと私を挑発するようににやけながら高槻泉は強調した。

 

「……それもあるんじゃないんですか?」

「認めるんだ」

「ええ。癒されていることに違いはありませんから」

「―――いつまで持つかな」

「―――は?」

「別に?」

 

わざとらしく話を逸らされてそれ以降聞くことはできなかった。

 

「せいぜい、騎士團と外部の連中には気を付けなよ」

 

そんな言葉を置いて、また一人私は喫茶店に残された。

 

 

 

 

 

それから寮に帰ってくると携帯が鳴る。

 

「はい、白代―――――――――奥村君が、ヴァチカンに捕らえられた!?」

 

変化は呆気なく、突然に起こるのだ。

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