白の祓魔師   作:紗代

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まだ温めさせて

学園で厳重に保管されていた不浄王の左目が盗まれ、そして京都出張所が襲撃されたらしい。

日本支部は今そのことで混乱している。

 

「だからと言ってなぜ候補生まで……」

「だからこそ、ですよ☆」

「人手不足……それにあの三人ですか」

「ええ」

 

候補生の勝呂君、志摩君、三輪君の三人は不浄王を倒したとされる不角を開祖とする明王陀羅尼宗に連なる生徒だ。きっとこの任務は候補生全員に行き渡らずとも彼らには必ず届いたことだろう。

 

「しかし、奥村君をよりによってあそこに派遣するのは……」

「青い夜で壊滅的な被害に遭ったところですからねえ、ですがこちらはそうもいっていられない状況なんです。それに過保護はよくありませんよ、白代先生」

 

過保護。過保護か。

 

「―――分かりました」

「ご理解いただけたようで何よりです☆それから、今回は貴方にも候補生たちに同行していただきます」

「了解いたしました―――失礼いたします」

 

頭を下げると理事長室を出て足早に廊下を進む。急いで準備をしなくては。

 

『おっと、余計な勘繰りはやめておいたほうがいいぜ?ヨハン君にはヨハン君の考えがあってのことらしいし。まあなんにしても―――過保護はよくない。たとえこの世界での恩人との約束だったとしても自分でどうにかできることは自分でさせないと』

『幼い頃に得られなかった『家族』っていうのを疑似体験できているからかなあ?』

 

―――家族に過保護で何が悪いっ……

 

思わず壁を叩く。すると年期の入った旧男子寮の壁では衝撃を吸収しきれなかったのか自室の本棚が倒れた。

 

「……」

 

やってしまった。倒れた本棚を起こして散らばってしまった本を集めていく。

 

「萼ー?」

「開いてるから入っていいよ」

 

そう返せば燐が扉を開けて入ってきた。

 

「ああ、燐。ごめんね、寝てた?」

「いや、明日京都に行く準備してたらお前の部屋から凄い音がしたから気になって」

「ちょっと本棚が倒れちゃって。今片づけてるの」

「手伝うか?」

「うーん、じゃあ悪いけどお願いしようかな」

「よし!」

「まずはこれを一番上の棚に―――」

 

 

 

ほとんど全て片付け終わり、残ったのは私の持つ黒山羊の卵だけだった。

 

「ありがとう燐」

「おう!ってそれはいいのか?」

「うん。これはよく読むから。旅先なんかにもよく持っていくし」

「へえ……雪男のやつもだけど萼も凄いよな。俺なんか漫画じゃない本開いただけでも眠くなるのに」

「まあそれは人それぞれだし、漫画は絵で分かりやすいのに比べて小説は自分で場面を想像して読み進めていくものだから」

「面白いのか?それ」

「これは燐にはちょっときついかな。ページも結構あるし、何よりストーリーが過激で救いがないから」

「え゛ー……」

「綺麗な文章ではあるんだけど賛否両論な人を選ぶ本なの。この高槻泉って作家は」

「たかつきせん」

「うん」

「なあ萼」

「ん?」

「なんか無理してないか、おまえ」

「……そう見える?」

「いやその、なんとなく、だけど」

 

決まりの悪いような気まずそうな声色で燐は言う。───こういう直感的に判ってしまうところが燐の長所の一つであり、逆に扱いにくいところだ。

 

「無理、無理か───無理というよりは悩んで迷ってるっていう感じ」

「迷ってる?」

「うん。例えばさ、雪男君が心底大事にしてたペットの小鳥がいるとする」

「なんで鳥?」

「物の例え。―――でもある時雪男君がどうしても面倒をみれない状態になって、燐が世話を頼まれた。燐は今のところクロしか動物で一緒にいたことがないから、様子を見ながら一生懸命に世話をする」

「おう」

「小鳥は一生懸命に世話してくれる燐に物凄く懐いて燐もそんな小鳥が可愛くて仕方なくなるの」

 

でも

 

「小鳥はいつしか成長して大きな鳥になった。家庭用のゲージだと窮屈そうに見えるくらい」

「白鳥、とか」

「白鳥……そうだね。白鳥でいいかも。白鳥は天然記念物だから野生に帰さないといけない。───燐ならどうする?」

「俺か……俺だったら―――」

 

燐はまさか自分の事で聞かれているとは思ってもいないだろう。あくまで例え話の鳥の話だ。

 

「―――仲間のところに返してまた帰ってくるまで待ってる」

「!」

「あ、もちろん雪男の許可取ってからな!」

 

付け加えるように言う燐。私は思わず問いかける。

 

「もう助けてあげられないのに?―――もう会えないかもしれないのに?」

「それでも、そいつが狭いところで辛そうにしてたならきっとそうする。俺はそいつの帰る場所になってやるだけだ」

「帰る場所―――」

 

燐らしい答えだった。帰る場所になる。戻ってくることを信じて居場所を作って守り続ける―――そんなことが、私にできるだろうか。

 

「そっか……ありがとう、燐」

 

燐の考えを聞いておきながら心の迷いは消えなかった。むしろ更に迷ってしまっている。

 

「なら萼はどうするんだ?」

「私、は―――手放せないからずっと一緒にいるかな」

 

ごめん、燐。でも私の本音なんて声にしちゃだめなんだよ。

 

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