同行と言いつつも、先行はシュラさんと候補生たちでまず京都に向かい。私は日本支部に封印してあった左目のプロファイルをしてから行くことになった。
「で、何かあったんだね」
「何「雪男君の『何もありませんでした』は何かあったっていうことだからだめ」……」
図星だったのか雪男君は黙って俯いた。
「言いたくないなら言わなくてもいいけど。にしても藤堂上二級が悪魔落ち、ね……藤堂家は名門だし藤堂三郎太上二級もそれなりに場数を踏んだベテランだったはず……」
「……」
「まあそれは後々か――――――まあ、なんとなく察するものはあるけど」
「え……」
「それはさておき、雪男君。私はもう行くけど絶対無茶しないでまず寝なさい。あと、前も言ったけど何かあったら即頼ること!」
「前から思ってましたけど、結構僕たちに過保護すぎやしませんか?」
本人にまで言われてしまった。
「君たちが私のことをどう思ってるのかは任せるけど、私は私の家族を守りたいだけ!」
「!」
ちょっと大きい声を出してしまったせいか雪男君は目を見開いた。
「じゃあね、京都で待ってる」
「萼さん……」
「あ、あとそれから……」
「?」
「やっぱり訂正する。私は―――私の家族を手元に置いて手放したくないだけ。それだけなのよ」
長い付き合いで藤本さんと一緒にいた雪男君にだけ言えるこの本音は、きっと他の人に打ち明けることは不可能だ。
****
『京都の方を混乱させないためにもくれぐれも犯人の事は内密にお願いします』
フェレス卿―――日本支部よりそう言い渡され私は新幹線に乗り込んだ。
京都に着いて、いつぞやの生徒からもらった手書きの地図を開いた、が―――
「なにこれ」
思わず声にしてしまった私は悪くないと思う。
京都駅はいいとして、そこから延びる一本のうねったフリーハンドの線と点と「ココ」としか書かれていない。
そんなアバウトすぎる地図でどうやって着けというのだろう。
仕方ない……観光案内所は観光スポットでもない限り案内してもらえないと思うので、交番に行くことにした。
それから寺に着いたのはよかったけど、人が少ない。まばら。聞いてみるとどうやらほとんどの人員は勝呂君のお母さんが経営する旅館「虎屋」にいるらしい。お礼を言ってそこから少し離れた虎屋まで徒歩で行くことになった。
「ごめんください」
「お出迎えできず申し訳ありません―――!騎士團の――」
「はい。日本支部より派遣されて参りました。上一級祓魔師の白代萼と申します」
「まあ!じゃあ竜士たちの言うてはった先生ですか!?いつも竜士がお世話になってます。私はこの虎屋で女将やらせてもらってる勝呂虎子いいます。竜士の母です」
「お母様でしたか!てっきりお姉様かと、すみません。あとそれからつまらないものですが……」
「口がお上手な先生ですねえ、そない気い遣わんでええのに……!長旅でお疲れでしょうにすみません。今みんなのところに案内させてもらいます」
和やかに話しながら母屋に案内してもらう。
「皆さんお集りのところ失礼します。正十字騎士團の白代萼さんが到着しました」
「なんやて!?」
虎子さんがそう言うと部屋の中から聞き覚えのある声がした。とりあえず障子が壊される可能性も考えて障子を開けて挨拶する。
「日本支部より派遣されて参りました。上一級祓魔師、白代萼と申します。遅くなり申し訳ございません」
「白代先生!」
「久しぶり金造君」
「はい!お久しぶりです!!相変わらずめっちゃ美人ですね!!」
「うふふ、ありがとう。―――今回の任務に関してですが、私は斥候のようなものでして。のちに本格的な部隊がこちらに到着します。それで、先発で来ていた候補生たちはどこに?」
「それが……」
「見事にばらばら……」
みんなと溝のある燐、明陀の三人、しえみちゃんに神木さん。それぞれが別行動をとっている。とりあえず虎屋の手伝いとかはしてるみたいだけど……これではどうしようもない。大体、内輪揉めが酷くなってきているような状態の今の明陀に―――ここにいる全員に誰かを気に掛ける余裕なんてないのだ。大人も、子どもも。
一人で廊下を歩いていると縁側に一人で座る燐を見つけた。
「燐」
「萼!?なんでここに……」
「本当は燐たちと一緒にここに来ることになってたんだけど、日本支部の方で強奪された左目のことで駆り出されてたから……遅くなってごめんね」
「……おう」
やっぱりちょっと沈んじゃってるなあ……
「燐ー」
「なん……っ」
「もし、もしさ。ここに……学校にも塾にも居づらいなら―――」
燐の青い目と目を合わせる。海を思わせる虹彩に赤い瞳。綺麗なのに。君は素直でこんなに傷付きやすいのに。
―――なのに世界は優しくない。
いっそのこと―――
「おんどりゃああああああ!!」
「うおおおおお?!」
「……金造君」
私たちの間に割って入るように錫杖を叩き付けたのは金造君だった。
「し、志摩の兄ちゃん」
「青臭いガキがいっちょ前に色気づきおって!俺の恩人の白代先生に手え出すなんぞ百万年早いわボケ!!」
「ストップ、金造君。別に手を出されても出してもいないから。というかよく私と燐がここにいるってわかったね」
「金髪のほわほわした嬢ちゃんが教えてくらはったんです」
金髪のほわほわ……しえみちゃんか。
「そっか……そういえば金造君。私はここに来るにあたって金造君のくれた地図をあてにしてきたんだけどね―――さっぱりわかんなかった!京都は同じような道が多くて迷いやすいのに!なんで「ココ」だけで他の目印ないの!?交番の人に引かれて、金造君の家のお寺に残ってた人にも哀れまれてやっとここにきたんだよ私!!」
「す、すんません先生!だ、だから折檻は堪忍―――」
怯える金造君を尻目に私はきつく拳を握り―――
「問答、無用」
金造君の脳天へ叩き込んだ。
「ギャー!!」
「金造君、正座」
「はい……」
半泣きになっているけどとりあえず言いたいことは言わせてもらわなければ、私の堪忍袋の緒が切れたままになってしまう。
「君は方向音痴じゃないし、生徒の時もみんなの前を歩いたり案内したりしてたから自分に対してちょっとルーズでも他人に対してそこまでな子じゃないと思ってたんだけど。でもまさかね、私も『ぜひ遊びに来てください!!』って嬉々として渡された地図が京都駅とココ以外の単語がなくてうねったり角張ったりしただけの一本線だけだなんて思わないよ」
「……はい」
「なんとか無事に着けたけど、今回のことも含めて任務は時間勝負なところもあるんだから今度から気を付けるように!!」
「はい!この志摩金造、先生からの言葉は一生忘れません!!」
「……いや、そんな大げさに言わなくてもいいんだけど。まあいいか、以上!」
「はい!失礼します!!」
嵐のようにやってきた金造君は嵐のように去っていった。
「待たせてごめんね、燐」
「いや別に気にしてねえけど。ていうかお前と志摩の兄ちゃんって知り合いだったのか」
「うん。私が祓魔塾の講師に就任した時の生徒。まあ臨時講師だからそこまで一緒にいたわけじゃないけど……任務ではよく一緒になったかな」
「へえ」
主に手綱役として。さっきのように何故か私の言うことをちゃんと聞いてくれるのでよく組まされていた。
「燐」
「ん」
「いい子、いい子」
そう言って撫でると思いのほか抵抗された。
「こ、子ども扱いすんな!!」
「うふふ、燐の頭は触り心地がいいから。もうちょっと、お願い」
「……ちょ、ちょっとだけだぞ」
「ありがと」
燐の事、明陀の事、そしてその場に居合わせた私―――フェレス卿が何か企んでいるのは目に見えてわかる。まあ、隠す気なんてないのだろうけど。シュラさんも気づいているし。
もしくはこの目の事件そのものが目的のためのシナリオの内の一つ、とか。私がこうして考えているのも予測済みだったりして、ね。
―――気に食わないが、まあいい。
掌の上で転がされるのは慣れているし、恩もある。燐と雪男君が生きて笑ってさえいてくれれば私はそれでいいのだ。
To describe happiness is to diminish it.
「幸せは心の中にしまっておこう。」
「幸せを言葉で語ると幸せを減らしてしまう。」
スタンダール(フランス)