白の祓魔師   作:紗代

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傷だらけの青

暫くして雪男君がやってきた。しかし逆に燐は青い炎を出してしまったことで処刑が決定的に。容疑者である藤堂の捕縛と不浄王の顕現阻止のためそれぞれで動く中、私は引率者の立場もあって残っていた。

燐は今、フェレス卿の「一番防御力が高い部屋」に閉じ込められている。異空間でたった一人で処刑を待っているのだ。

雪男君が不在で他のみんなとの関係もギクシャクしている今の状態では圧倒的に不利だ。

 

「……行くか」

 

決意するように呟いて「一番防御力が高い部屋」のもとへ向かった。

 

 

 

 

****

『お前はだめだ』

『わだかまりがその足を引きづらせる』

「そ、そんな」

 

扉の前に塾生のみんなが集まっているのを見て、介入は不要だと思っていたがどうやらそうもいかないらしい。

 

「何してるの、こんなところで」

「!う、萼さん」

「せ、先生!これは……」

「あー、いやいいよ。別にヴァチカンに報告とかしないから」

「ならなんで……」

 

私に見つかったことで慌てる生徒たちを制して私も扉の前に立った。

 

「それで?杜山さんの何がだめだって?」

「わ、私じゃこの扉の先に進めないって───燐を助けられないって」

『そいつは囚人に対しわだかまりを抱えている』

『囚人に何かあってはオレたちの名に関わる』

「っ」

 

扉に言われてしえみちゃんは震えた。でも彼女は燐に対して遠慮や戸惑いはあっても恐怖するような様子なんて───いや、とにかく今は燐の救出が最優先事項だ。

 

「───なら私は行ける?」

 

そう言えば扉はざわついた。

 

『こいつ本当に人間か?』

『ありえん』

『その年までよくそのまま(白さ)でいられたな』

そういうの(私の事)はどうでもいいから、私は奥村燐に会いに行けるの?」

『……まあいい。お前ならこの扉を潜ることが出来る。しかし囚人のいる場所は広い。果たしてお前に辿り着けるかな?』

 

しえみちゃんに対する態度とはまた違う言い方で私を試してくる悪魔に私は―――

 

「上等。必ず見つけてみせるよ―――行ってくるね、みんな」

「ま、待って、萼さ……」

 

しえみちゃんの声を背に私は扉を潜った。

 

 

 

 

 

 

扉の先は本当にガラクタ以外何もない空間だった。

確かに普通の人間であれば案内無しに辿り着くことは不可能に近い。しかし、私は半人間だ。

 

「本当はあまり使いたくないんだけど……一刻を争うからね。出し惜しみは無しだ」

 

メッフィーランドくらいなら少し集中したくらいで対象を正確に捕捉することが可能だが、ここは無限に広がる(と思われる)異空間。しかも私たちにはタイムリミットがあるとなれば使うしかないだろう。

 

 

目を閉じて集中する。指先、爪先、眼球、耳、舌、鼻全ての感覚器官を研ぎ澄ませ全身に流れる血液の循環を感じ取る。

 

―――血中Rc濃度の上昇を確認。一時的な半喰種への転化へ移行。

 

久しぶりの感覚だ。

全身の血液が沸騰しているような、熱さと速さを感じつつ私は左の赫眼と鼻に集中し、燐の居場所を探る。燐の影は見つからない。けど、燐の匂い、は―――

 

「見つけた!」

 

微かに残る燐の匂いを辿って移動していくと―――やっと燐を見つけた。血中のRc濃度を下げたことで身体も感覚も元に戻してから燐に近づいていく。

 

「燐!」

「!萼!?」

 

酷く驚いたような燐。まあそうだよね。さっきも自分一人きりで途方に暮れてそうだったし。

 

「やーっと見つけた!なんで無茶するの!あそこで炎出したら下手したらあの場で殺されてたかもしれないのに!」

「わ、悪い。けど勝呂の奴と勝呂の父ちゃんが……「確かに」!」

「確かにあの二人のことや明陀のこと、いろんな問題があるし。実際燐がそうやって出たことで勝呂君も何か思うところはあったみたいだった。でもね、燐。だからといってそれが命を粗末に扱うことの免罪符―――言い訳になるわけじゃないの」

 

さっきまでの明るさを消して燐に語りかけると、燐は目に見えて動揺した。

 

「お、俺はそんなつもりは「なかったんだよね。分かってる。短い間だけど一緒にいるから。きっと燐はただ思ったように行動しただけなんでしょ?けど、それは今まで燐を庇ってきてくれた雪男君の行動を無にするのと同じことなの、解ってる?」

「!!」

「塾生だけならまだしも、あそこにいるのは青い夜の―――サタンの被害者の人とその遺族がほとんどなの。そんな祓魔師の集団に力以外のものを持たない燐が囲まれて……無事でいられるなんて奇跡みたいなもの」

「……」

「はっきり言って、私は今回の任務は反対だった」

「!!」

「ばれたら即燐が死んじゃうようなところに行かせたいなんて、私は思わない。周りに過保護だとかいろいろ言われてるけど、燐が死んじゃうくらいだったら私は燐の尻尾が千切れても引き留める」

「萼……」

 

―――言い過ぎた、な。

 

「ごめん。今いろいろあって混乱してるのかも。八つ当たりみたいなマシンガントークしちゃってごめんね―――じゃあ、行こうか」

「あ、その、な」

「うん?」

「俺、俱利伽羅抜け無くなっちまったみたいでさ……悪いけどいけねーや」

「どうして」

「だって俱利伽羅が抜けねーってことは炎だせねーってことだろ。よく思うと俺、炎以外で戦ったことねえなーって思ってさ」

「それは―――仕方ないよ。まだ自分の炎でさえ修行始めたばっかりなんでしょう?つい最近まで自分の正体どころか悪魔のことさえ知らなかったのに、燐は十分うまく馴染んでいってる気がするけど」

 

そこではたと気付いた。俱利伽羅に封じられているものはなんだ?―――燐の悪魔としての力、心臓と炎。所謂もう一人の燐のようなものだ。

ならその封じている俱利伽羅が抜け無くなったのは?―――まさか、と思いつつもほとんど確信に近いそれを、私は口にすることにした。

 

「炎が、自分が誰かを傷つけるのが怖いんだね、燐」

「っ!」

「でも悪魔と戦うには炎を使わないといけない。だから外に出ても役には立てないし拒絶されるのも怖いからずっとここにいようって思ってる?」

「ち、ちが「違わないよ」

 

「何も違わない。一生懸命に燐は否定するよね。そりゃあそうだ、みんなのところに戻りたいのだって、人を助けたいのだって燐の本心だろうから。でももっと奥まったところにある自分に対しての感情は?」

「それ、は」

「燐の持つ俱利伽羅はね、言ってみれば悪魔としての燐の力の塊なの。悪魔は心の隙をついて弱みに付け込むけど、力の上下関係の強いやつらは心の弱ってる人間のいう事なんて絶対に聞いてくれない」

「だったら」

 

燐は硬く拳を握って低く唸る様に声を出すと私を睨む。

 

「だったらどうしろっていうんだよ!ああ、怖いさ!ただでさえ小さい時から力が強くて怖がられて!雪男の奴にも散々迷惑かけて!挙句ジジイを死なせて!やっと仲間が出来たと思ったらまた離れていって!!もうわけわかんねーんだよ!!好きでこんなふうになったわけじゃないのになんで……」

 

尻すぼみになっていく言葉。行き場のない心。

 

「なんで、俺がサタンの息子なんだ」

 

燐の、心の叫びを見た気がした。

 

「ならさ、いっそのこと逃げる?」

「は」

「私と一緒に。雪男くんには知らせてないから後で消息不明ってことにして合流してもらうとして」

「……ちょっと待て、逃げる?どこに」

「騎士團に見つからないところに」

「でも祓魔師って世界中にいるんだろ」

「うん、でも燐はまだ死にたくないでしょ?」

「お、おう」

「さっきも言ったけど私だって燐に死んでほしくない。でもここにはガラクタしかないし、外の世界は燐に優しくない。なら逃げちゃおうよ。ね、燐」

 

和修のないこの世界でなら、私にも可能だろう。

世界が優しくない代わりに私がたくさん甘やかそう。

いつか騎士團の追跡もなくなって落ち着いたら、どこか田舎にでも定住して燐と雪男君がそれぞれ家庭を持ったのを見届けてから旅に出るのもいいかもしれない。まあ寿命に関しては二人とも今年で16歳だからギリギリなんとかなるだろう……白髪にはなってるかもしれないけど。

戦わなくてよくて、自然の中で程よい距離感で暮らしていけるスローライフなんて夢みたいでしょう?

 

同意を求めるように燐と目を合わせて笑いかけ、手を差し出した。

 

 

 

「悪い、萼。俺は、俺はみんなのところに戻る」

「―――そう」

 

残念だと思い手を下げた。でも同時に燐らしいとも思う。

燐はきっと、私の甘言に乗ることは無い。そんな確信めいた何かがあった。

 

「じゃあみんなの所に戻るためにも早く降魔剣抜けるようにならないとね☆がんばれがんばれー」

「だああああ!そうだよチクショウ!!つーかお前なんかメフィストに似てきてねえか!?」

「失敬な!私あんなピンクピンクしてないし、無茶ぶりもしてないよ!」

「今してんじゃねーか!!」

 

ふぬおおおお!と一生懸命に引き抜こうと奮闘してるとこ悪いけど、だからそれは力じゃなくて心なんだってば。

 

「ねえ、燐。燐は青い炎と燐自身に良くない印象ばっかり持ってるみたいだけどさ、その燐の行動力と炎で助かった人だっていたでしょ」

「?いたか」

「……しえみちゃんと塾生」

「!」

「特にしえみちゃんに関しては私も何もしてあげられなかったから、しえみちゃんとしえみちゃんのお母さんと私、三人纏めて救ってることになるね。これで少なくとも三人以上は救ってる計算になる」

「けど」

「うん?気にすることないんじゃない?世の中には恩を仇で返してくる人だっているんだし。まあ今回の事に関してはギクシャクし過ぎかなーって思ってたけどね」

 

あの三人の場合は恐怖だけじゃなくて周りの大人の影響もあるだろうけど。

 

「燐。私は燐の監視役、別名燐の保証人。たとえ燐が一人になっても燐の味方でいるし、もし燐が力に呑まれたら燐を殺す。だから、大丈夫。燐が大丈夫になるまで一緒にいるから。だから、怖がらなくていいんだよ」

「萼……」

「そうだ、じゃあこの遠征が終わったらまたあのお肉屋さんにいこうか。今度は雪男君の分も買って食べよう。―――ほら、これでここを生きて出る理由もできた」

「……おう!」

 

これできっと燐は降魔剣を抜くことが出来るだろう。

 

「頑張れ、燐」

「うおおおおお!」

 

燐の雄叫びとともに噴き出した炎。それは私の方にも降りかかった。

 

「っ萼!」

 

燐が蒼白になりながら慌てて駆け寄ってくる。けど―――

 

「……あったかい?」

「だ、大丈夫か!?ごめん俺」

「うん。大丈夫燃えてないよ。むしろ……」

 

微睡みたくなるくらいあったかくて痛くない炎―――これが、燐の炎。

 

「燐の炎は、あったかくて優しいね」

「っ―――そっか」

 

泣きそうな燐に再び手を差し伸べる。

 

「行こう、燐」

「ああ!」

 

そして私と燐は元来た道を戻っていった。

 

外に出てみんなと合流する。体感時間が一緒ならそれなりに時間が経ってしまっている。雪男君たちは大丈夫だろうか―――

 

「私は先に山へ向かいます!」

「萼―――雪男をよろしく頼む。それから……ありがとな」

「―――了解!」

 

燐や塾生たちに見送られて私は雪男君のもとへ向かった。

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