白の祓魔師   作:紗代

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小心者は可能性を拒絶する。/似た者同士

京都からの帰り道。私たちはそのまま任務に赴いていた───

 

「……はずなんですけど」

 

熱海の海水浴場。

 

一般人はなし。

 

聖水や武器を装備して待機する。

 

が、みんな水着着用で自由に遊んでいる。

 

「私はクラーケン退治の任務だと思っていたんですけど」

「んにゃ、合ってる」

 

そう同意するシュラさんも白いセクシーなビキニである。

 

「ならなんで……」

「クラーケンのやつが罠にかかるまで時間がかかんだよ。その間は自由時間だ。つーかお前なんなんだよそのカッコ!」

 

ズビシ!と効果音が付きそうなくらいの勢いで指差された。私の今の格好はいつもと変わらず夏仕様の長袖スーツに薄手の黒い手袋である。

 

「アタシと一緒に水着買いに行っただろうが!なんで着ねーんだよ!」

「いや、あれシュラさんがチョイスしたやつじゃないですか。あれを着るのはこういう人がたくさんいるところじゃなくて、個人的に遊びに行く時にしようと思いまして。まずプールならまだしも潮風と海水で全身ベタベタはちょっと……」

「なんだよノリわりーな!」

「人前でそういう格好するのに抵抗もあるので」

「ふーん、いい大人がそんなこと言っちゃうんだ」

「──何ですか」

「別にー?お前がそうやって意地張ってることを生徒たちは乗り越えられたのに教師のお前は出来ないのかーそっかー」

「は?塾生が乗り越える?」

「今回はなんとあの杜山も水着だぞー」

「え、しえみちゃんも!?」

「嘘だと思うんなら呼んでやる。おーい!杜山ー!」

 

あのついこの間まで着物しか着方が分からなかった典型的な箱入りのしえみちゃんが!?

 

「はーい。!萼さん」

「しえみちゃん!」

 

そこにいたのは───真っ白な可愛らしいビキニ姿のしえみちゃんだった。

 

「可愛い」

「に、似合う、かな」

「凄く似合ってる」

「!!──えへへ」

 

照れながらも嬉しそうに笑うしえみちゃん(てんし)悪どい笑顔を浮かべたシュラさん(悪い大人)が絡んでいく。

 

「おーう、聞いてくれよ杜山。せっかくアタシが選んでやった水着着ないっていうんだぜ、萼のやつ」

「ええ!?萼さん水着着ないの!?」

「え、ええと。うん」

「そっかあ……見たかったな、萼さんの水着姿」

「ん゛」

 

しょぼんとする姿が仔犬!私何も悪いことしてないのに罪悪感が!!

 

「杜山だって任務のために頑張って着たのになあ?大の大人がわがまま言ってよお。教師の自覚っていうのが足りないんじゃねえのー?」

「っ~」

 

この煽りに負けたら終わりだと、理性では分かってる。分かってるんだけど──

 

「分かりました……着ます」

 

―――負けてしまった。

 

 

 

着替えて外に出ると人の視線が気になる。自意識過剰なことは分かってるけど戦闘以外で自分から目立つって言うことに慣れてないから余計に気にしてしまう。

 

「おー、似合ってんじゃん。やっぱりアタシの目に狂いはなかったな!」

「はわわ、萼さん大人っぽいね!似合ってる!!」

「―――ありがとう、ございます」

 

シュラさんが私に選んだ水着それは―――なんと黒ビキニである。個人的には白がいいと言ったが「アタシと被るからダメ」と却下されてしまった。今思えばこの任務の事を言っていたのだろう。

 

「てゆーか」

「?」

「お前着痩せするタイプだったんだなー」

「……ほっとけ」

 

仕事でスーツを着る場合、スマートに見えた方が受けがいいと思ってそれっぽいの見繕ってるんだから。そう見えていないのであればオーダー先にもっと細かい注文をつけなくちゃならなくなる。

 

「あ、あの萼さん!」

「……何、しえみちゃん」

「もしよかったら私と燐と遊ばない?」

 

もしかして燐と二人きりで遊んでたんだろうか。だとしたらごめんよ燐。

 

「いいよ」

「ホント!?」

 

こくりと頷くとしえみちゃんに手を引かれて波打ち際に行く。

 

「りーん!」

「おう、おかえりしえ、み───」

 

振り返った燐が固まった。

 

「……ごめんねしえみちゃんだけじゃなくて」

「う、萼!?お前スーツじゃ」

「わ、私がわがまま言って着てもらったの!!」

 

呆然と私を見る燐に内心ため息を吐きたくなる。

 

「そ、の……に、似合ってる」

「―――ありがとう」

 

すごく言いづらそうにしながら言ってくれるのはいいんだけど、その視線が胸に向いてるのわかってるからね?

 

「とりあえずこの炎天下でずっと遊んでたら熱中症とかになりかねないし、何か飲み物持ってくるよ」

「あ、それなら私が」

「いいからいいから。こういうのは年上にまかせなさーい☆」

 

しえみちゃんからの申し出を断ってパラソル下の保冷バッグのところに行くとシュラさんと雪男君がいた。

 

「すみません、飲み物もらってってもいいですか?」

「おー、持ってけ持ってけ。クラーケンが来る前に倒れて使い物にならなかったらそれこそ本末転倒にゃ」

「ありがとうございます」

 

シュラさんから許可をもらって保冷バッグから三人分飲み物を取り出すと雪男君と目があった。

 

「……」

 

けどそれは一瞬のことで、すぐに逸らされてしまう。

―――まあ、仕方ないか。

 

苦笑してその場を離れる。だから私もあの場にいてほしくなかったんだし。

 

「……やるせねえなー」

 

シュラさんの呟いた言葉を、私の耳は聞かないふりをした。

 

 

 

 

 

 

海人津見彦の助力もあり、クラーケンの祓魔に成功した。その場の全員が海人津見彦を悼み、作戦成功に歓喜するなか、私は一人焼きそば片手に階段の隅に座っている。

 

「よー、こんなとこでぼっち飯かよ」

「シュラさん」

「隣、座るぞー」

「どうぞ」

 

ほんのりと赤くなったシュラさんが私の隣を陣取った。これはもう飲んでるなあ。

 

「にしても海人津見彦ねえ、そんな神様みたいなやつの縄張りだったとは」

「土地神、ですか―――随分とこの海を愛していたんでしょうね」

 

でなければいくら燐がきっかけとはいえ自分を祓魔するかもしれない私たち祓魔師に助力を乞うなんてありえない。

 

「かもしんねーな……ところで、お前雪男となんかあったか?」

「どうして?」

「んにゃ、あのビリーとことんお前のこと避けてっからさ」

「あー……不浄王の時に藤堂の事を尋問するよう上司から言われてたんですよ。でも私が駆け付けた時にはもう藤堂は迦楼羅を喰ってて、どうやら本命に対しての忠誠心も高かったようなのできつめにしたんです」

「お前の尋問、元々きっついからな……」

「なんでそれを見せたくなくて先に行くように促したんですけど、途中で引き返して見てたみたいなんですよ」

「なんかわかった。でもヴァチカンだってそういうの容赦ねえだろ」

「だから、ですよ。おそらく悪魔と悪魔に関与した人間に容赦のない二面性のある人物として警戒されてるんだと思います」

 

燐のことを思っての事だとは想像しやすい。信用してた相手が自分たちをいつでもえげつないやり方で殺せる輩だったというのはそれなりにくるものがあるのだろう。

 

「なるほどにゃー、まあお前昔っから雪男に過保護だったし、獅郎のやつもなるべくそういうの見せないようにしてたかんなー」

「ええ。ま、拒否されてるとしても私はこのまま陰ながら見守っていくだけですよ」

「そっか―――なあ、萼」

「はい?」

「お前さ、燐のことどう思う」

「燐?日に日に成長していってますよね。炎とか感覚とか。人間的な印象で言うなら不器用で優しい男の子、でしょうか」

「あー、聞き方がまずかったか。燐の事、どういう『好き』で見てる」

「―――」

 

どういう好き?―――そんなの決まってる。

 

「燐はお前の事が「好きですよ、弟みたいで☆」!」

 

言って見れば距離の近いアキラさんとハイセ。ハイセとクインクス。家族、だ。

 

「私の身体はおそらく18か19。なら残りはいくら怪我や転化を避けたとしてもおそらく40ならないくらい。それに―――この間、転化しました。燐をあのガラクタ部屋から見つけ出すために」

「!!」

「私は長生きするように設計されていませんし、それにほら燐も年頃ですから『恋』と『本能』を勘違いしてる可能性も十分ありますし、ね」

 

大体半同居人みたいな関係で理想をぶち壊すようなだらしないところも見られてるのに、『盲目』である恋が成立するとは思えないし。というか男子高生の脳内の約80パーセントくらいは性欲だってニムラが言ってた。あのそういう意味ではリゼにしか興味がないニムラが!!

……なんて分析しつつも、実のところシュラさんの言おうとした燐の気持ちに関してはそんな素振りはなかったので分からない。でもたとえそうだったとしても、私はその感情を返すことはないだろう。

 

「顔と性格はともかく胸は好みだと思うので」

 

私がそう言うとシュラさんは決まりが悪そうに「あー、たくっ」と頭を掻いた。

 

「冗談だよ、ジョーダン!!……雪男じゃねーけど、アタシはもっとあんたも自由に生きていいと思うけどな」

「……十分自由にさせてもらってますよ」

 

どうやら私に気を遣っての例え話だったらしい。なんとも心臓に悪い。

私たちはお互いの生まれの事もあって刹那主義者だと思っていたのだが……シュラさんにも心境の変化が現れ始めているのかもしれない。

向こうでは、友人というものがいなかったから、こうしてシュラさんと話してるだけでも満足なんですよ。そう言えばシュラさんに小突かれた。

 

「これで花火でもあると、いいんですけどね」

 

全てをかき消してくれる風物詩のない夜空を見上げて呟く私の声は、誰にも通じなかった。

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