不浄王の一件が終息し燐たちの夏休みも終わって、私はいつも通りの日常に戻って―――
「朗報です。奥村君の処刑は保留になりました☆」
「!!―――そう、ですか」
「おや?てっきりもっとオーバーなリアクションをすると思っていましたが」
「驚きすぎて言葉が出ないだけです。しかし、騎士団にとって奥村燐という存在は目の上の瘤であるはず……それを後回しにするほどの案件が?」
「―――、察しがいいですねえ。イエメン支部の方で不浄姫が復活したのは御存じで?」
「はい」
「不浄姫を復活させたのは一人の女。その女は件の藤堂元上二級と同じように
「!まさか」
「ええ。『
このタイミングの良さ……この二つの事件は繋がっている、もしくは組織的なものの背景を感じる。
そう思った私の思考を察したのかフェレス卿は続ける。
「間違いなくこの二つの事件は繋がっています」
「!」
「今後は我々も警戒を強めなくては。貴方は今まで通り引き続き奥村燐の監視を」
「―――奥村雪男はいかがいたしますか」
「ああ、そういえば彼も藤堂に悪魔落ちを勧められていたんでしたね」
「……」
なんだその今気づきましたみたいな反応。報告書にもちゃんと載せたし、知らないはずがない。言われなかったら話題にさえ上がらなかったのかもしれない。
「そう怖い顔をなさらずとも大丈夫です。奥村先生については霧隠先生が付いていますから」
「しかし」
「霧隠先生では信用ならないと?」
「―――そういう、わけでは」
信用ならないわけではない。ただ、シュラさんだってずっと雪男君の様子を見続けられるわけじゃないし、何より二人とも反りの合わない相手の言葉を心に残しておきはしても素直に従うことはほぼないのだ。
「―――時には囲わずに見守るのも保護者の務めですよ、白代先生☆」
「……承知いたしました」
いろいろ、いろいろ言いたいことはあるが……そう言われてしまうと私も言うに言えなくなり、そのまま退室した。
「ただいまー」
「おう、おかえりー」
寮に帰ると迎えてくれたのは燐だけで雪男君はいなかった。
任務かな、支部の相談窓口とかは基本定時で閉まるし。
「クロもただいま」
「にゃーん」
モフモフを堪能しつつ一応ノミがいないかチェックする。うんとりあえず表面的にはいなさそうだ。
「メシできたぞー」
「ありがとう燐!」
出来上がった食事をテーブルの上に運んで燐と向かい合う。
「「いただきます」」
うーん、今日もおいしい。
「燐はいつでも嫁に行けるね!」
「お、俺は嫁に行くんじゃなくて嫁を貰うんだよ!!」
「ごめん☆でも夫婦両方とも家事ができるっていいよね。もし忘れてたり具合が悪い時に補い合えるし」
「補い合える……」
燐はなにかを想像してるみたいだけど……世の中には俗にメシマズさんだったり、私みたいに一通りできても燐ほどのクオリティを持ってない人はザラ……というかおそらく大多数を占めてるから燐が想像するような家庭というより、大半は燐に家事の一切を任せて働くキャリアウーマン的な家庭になると思う。
「そういや萼に聞きたいことあったんだった」
「私に聞きたいこと?」
「ああ、俺のクラスに後醍院ってやつがいるんだけど、そいつどうも悪魔が見えてるみたいでさ」
「魔障?大丈夫なの?」
「それがあいつここんとこ怪我してねーんだって。変だよな」
「うん……普通は悪魔から魔障を受けることで視えるようになるはずなんだけど」
「だよなあ、あいつ悪魔見るたびに怯えてるからさ……なんとかならねえかな」
真剣に悩む燐には悪いけど一回見えるようになってしまったからには一生その目と付き合っていくしかないのだ。
「ごめんね。せっかく頼ってくれて嬉しいんだけど、悪魔を見えなくする方法は私にも分からないの」
「そっか……」
「んー……そういうことならフェレス卿に聞くのが一番手っ取り早いかもしれないね」
「メフィストの奴に?」
「うん。フェレス卿は正体を隠してるけどかなり高位の悪魔だから。じゃなければ騎士團に協力してる時点で消滅してるよ」
「は!?悪魔!?」
「え、う、うん……もしかして知らなかったの?」
「だってあいつ元々胡散臭ェから」
「あー、まあ、ね。でも犬に変身したり、こんな大規模な結界張ったり……それから燐を閉じ込めた『一番防御力が高い部屋』を出したのだってフェレス卿だったでしょう?それから一番身近なもので言えばいろんな場所につながる鍵、とか」
「そういえば……」
「ね。それでなければ勝呂君たちとかかな?明陀宗は江戸時代からある由緒正しい祓魔の家系だからひょっとしたら……」
「おう、明日聞いてみることにする」
「あんまり役に立てなくてごめんね」
「いや、萼のおかげでアテが見つかったから。ありがとな」
「それならよかった。―――じゃあ食事再開ね」
「ああ!」
美味しそうに夕飯を頬張る燐と二人での食卓は一人で食べるよりずっと暖かい。これで雪男君もいれば完璧なんだけど。
そんな風に思う反面、私の中で蠢く小さな胸騒ぎは決して消えはしなかった。