「え、雪男君エンジェル聖騎士のところに行くの?」
「ええ。藤堂の事は情報共有しておかなければならないと思ったので」
「だ、大丈夫?良ければこれ持ってく?」
「なんで業務用の脱毛剤?―――大丈夫ですよ」
「そ、そう?気を付けてね。なんかあったら言ってね」
「ハイハイ。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
雪男君を見送るとそこにちょうど燐が帰ってきた。
「おかえりー燐」
「た、ただいま」
「どうしたの?」
「な、なんでもねえ!!」
そのまま燐は自分のスペースに入ってしまう。
「あ、そうだ。今日雪男君はヴァチカンに行くから授業は私と代理の人が来るからねー」
「おう……」
なーんか元気ないなー……
「あのさ」
「うん?」
「お前雪男のこと、どう思ってるわけ」
燐のスペースをのぞき込んでみるとこっちに背中を向けて胡坐をかいて……尻尾がへたり込んでいた。
ふ、不謹慎かもしれないけど……っ
「え、同僚で―――弟?」
「……本当、か?」
「うん。本当」
尻尾の先っちょが、先っちょがふよってちょっと浮上してる!!
「燐」
「なん、っ!?」
よし驚いてる驚いてる。気配を消して近寄った甲斐があった。逃げられないように後ろから覆いかぶさるように、ね。
「お願いが、あるんです」
「ど、どどど、どんな」
「燐の―――」
「ひっ!」
尻尾を触れるか触れないかの位置で撫でる。
「燐の尻尾、撫でさせて☆」
「も、もう撫で、てる!!」
「ごめんね、距離が空いてると即逃げられると思って―――だめ?」
「だ、だめって、いう、か」
「握ったりしないから、ね?」
もう撫でちゃってるけど。本当に毛がモフモフだ。痛くないように力を入れずに先っちょまで撫でると燐は分かりやすく震える。
「っ!~~」
「♪」
そしてそのまま念願の先っちょ!すっごくフワフワのモフモフ!燐はこういうの手入れとかしないだろうけど、手入れしないでこれっていうことはお手入れしたらもっと……
「も、もういいだろ!!」
「あ」
先っちょを堪能していたら燐は私を振り切るように逃走してしまった。
「……かわいかった」
燐の悪魔の部分だから燐は何とも言えない思いなんだろうけど、でもあの手触りにあの先っちょ……また触らせてくれないかなあ。
そして放課後。私たちは七不思議のひとつである「家族の肖像」の前に来ていた。
「で、なんでここにいるんですか、フェレス卿」
「奥村先生と霧隠先生の代理です☆」
胡散臭いことこの上ない。見守ってるとか言ったくせして結局ゲームしてるし。
にしても「家族の肖像」ね。私には美しい女性が一人描かれているようにしか見えない―――
「!」
異変はすぐにあった。絵の中の女性が姿形を変えてゆく。そこに描かれたのは間違いなく
焦点の合わない虚ろな目で少し微笑んでいるだけなのにどことなく廃退的な美しさを持つ女性は哀れにも狂気的にも見えた。
「なんか、わかりました。この絵の内容の条件が」
「―――ほう」
そして絵を抜け出してやってくる彼女を微笑んで迎えるのだ。
『吉時さん!!』
『やっと来てくれたのね!私、いい子で待っていたのよ。ずっとずっと!!』
虚ろな目で美しい笑顔を向け抱きしめようと近づくお母様を抱きしめた。
『愛して―――』
「―――まだ殺され足りないのですか?」
「―――そうおっしゃっていただけたらいくらでも殺して差し上げますのに」
お母様。
そう言って私は抱きしめた両腕に力を込めて―――鯖折にした。
『ギエエエエエエエエ!』
シェイプシフターたちは同胞がやられたことにより標的を私からみんなに変えたらしく移動していく。
「―――フェレス卿、これは私の正当防衛ということで生徒たちに力を貸したことにはなりませんよね?」
「……ええ。勿論です☆」
「そうですか。ではあとは塾生たちの立ち回りに専念します」
がんばれみんな、多分これは今までの七不思議のなかで最も面倒なものになる。大量のシェイプシフター。私のところに来たのより小さいのが多いせいなのかなんか昆虫とかゴミみたいに見えてしまう。
「気色悪☆」
おっと、思わずニムラの言いそうな内心が出てしまった。
多分今自覚してないだけで凄い機嫌悪いんだろうなあ、私。悪魔の血で汚れたコートを脱いで手袋も新しいのに付け替える。
「ホント、さっさと消えてくれよー。マジ邪魔なんだけど。コートも手袋も新調しなきゃだし。いっそのことここにあるもの全部燃やせばよかったんじゃないのー?最悪ー。マジムカつく。このゴミ死んでくれよー。燐のご飯食べられなくなったら千切り殺してやろー」
「貴方って人は本当に変わりませんよね。悪魔の私でさえぞわっとするんですけど」
「?何がです、フェレス卿」
「―――いえ、こちらの話ですからお気になさらず」
こういう機嫌が悪化してニムラ化したのはこの世界では初めてのことだと思ったんだけど。エンジェル聖騎士の前ではともかく(出してはいないが内心そうなりかけてるのを抑えてる)、フェレス卿の前でなんて出したことないと思うんだけど……
とりあえず深く追求するのをやめて再び生徒たちを見守ることにした。
「皆さん僕の話を聞いてもらえますか!?」
さすが三輪君。状況と相手を見る洞察力はこの中でピカイチだ。まあ周りが我の強いメンバーばっかりだからなかなかそういうの進言できる機会ってないよね。うん。えらいえらい。
結局、シェイプシフターはみんなの同時攻撃の下に祓魔された。
「これにて学園七不思議の祓魔任務は完了、っと」
実習終了と同時に燐は目薬を持って例の後醍院君のところにいってしまった。悪魔の血塗れだけど大丈夫なのかな?後醍院君に引かれないといいけど……
そのあと燐が出てくるのを待って、みんなでもんじゃ焼きを食べにいきました。
「友達作るって、難しいよな」
「そうだねえ。でも―――その友達になるかもしれない子のために頑張る燐は、かっこよかったよ」
「そ、そっか!!」