学園祭当日、そして2日目。
私たち祓魔師はスタッフ・警備員としてそれぞれ配置され、かく言う私も見回りに回っている。
「とりあえず特にこれと言って異変はないなー」
遊撃や見回りと言えば聞こえはいいが、要は異変さえ見つからなければ暇人である。
同じところを回っても違和感がないように『案内係』の腕章を着けて校内を歩く。
そういえばもうそろそろお昼の時間だ。
……ちょうどいいし、燐のクラスの模擬店に行ってみよう。
たしか1―Dは教室じゃなくて屋外出店だったはずだ。と外に出るとまさに夏祭りの縁日のごとく様々な露店が並んでいる。
露店の道をしばらく歩いていくと、『おむすび』『1-D』と大きく書かれた一画を見つける。間違いない、ここだ!!
さすが燐というか、客入りが凄まじい。メニューは……おむすびだけじゃなくて汁物もある!
お腹を満たすだけじゃなく、満足感を感じるようにかな。でも燐の事だからきっとそういう事考えずに感覚とか直感レベルで気遣いとか心配りするから今回もそんな感じなのかなあ。
それはともかく……休日以外でお昼に燐の出来立てのご飯を食べられるなんて!なんて贅沢なんだろう!
ここでお昼食べていこー。
「いらっしゃい!」
「鮭と梅とおかか、スパムと梅ひじきと豚汁お願いします」
「ひえ!?」
「え、もしかして材料ないんですか!?」
「い、いえ……」
驚く男子生徒は会計を済ませると気まずそうに厨房に声を掛ける。
「しゃ、鮭・梅・おかか・スパム・梅ひじき一個ずつと豚汁一つ!」
「あいよ!……って、萼!?」
「りーん。ご飯食べに来たよ!」
「おう!今作るから待ってろ!!」
燐はすごい勢いでおむすびを作っていく。
「うおおおお!」
「うわ、奥村君滅茶苦茶早っ!?」
私の頼んだおむすび五個と豚汁は、ものの数分で出てきた。
「い、いただきます!!」
パリっと一口。美味しい!!
海苔がパリパリ。お米は最低限形を整えるくらいしか触っていないんだろう。ふっくらほろほろで固くないし、塩加減も絶妙。具も全部燐の自家製の味がする~。冷えても美味しいけどやっぱり出来立てって格別だよね~。
豚汁も学園祭の模擬店なのに具沢山で燐の作ってくれるあの豚汁の味がする~。
「萼!味どうだ?」
「美味しいよ燐!!」
「そっか!よかった!!」
すっごい満面の笑みに後ろでブンブンと振られている例の先っちょ。
「―――ここは天国か」
「?」
「おうち、帰りたい……っ」
「ええ!?」
もう一刻も早く寮に帰って燐の夕飯が食べたいの。だって上司に付き添おうとしたら「私は一人で堪能いたしますのでお構いなく☆」って言って消えやがったし、スタッフの仕事にしてもただの見回り兼案内係で特にこれと言って何もないし。ぶっちゃけ私が
「お、おう。いろいろあったんだな……」
「でもご飯美味しいからいっか」
我ながら単純である。
「ごちそうさまでした!」
「おう、お粗末様!」
「じゃあね。燐も学園祭楽しんで!」
「―――ああ!」
こうして私の大満足なお昼は終わり―――夜のダンスパーティーの時間になる。
燐はおむすびから離れられないだろうし、雪男君はスタッフに変わりなかった。となるとしえみちゃんはどうするんだろう?
とりあえずあてもなくしえみちゃんを探していると―――たすき掛けした着物姿で舞台裏から出てきた。
「しえみちゃん!」
「萼さん!」
呼ぶと私に気付いたのか着物が乱れない程度に走ってくる。
「ダンスパーティー、参加しないの?」
「うん。えっと、雪ちゃん誘うの失敗しちゃったし……私、転入したことですっかり忘れてたけど学園祭にウチのお花卸してるからお母さんの手伝いもしなくちゃならないから」
「そっか……」
「う、萼さんは?燐とかから誘われたりしなかったの?」
「私は学校関係者であっても生徒じゃないから。ダンスパーティーには参加しないよ」
「そ、そう、なんだ」
会話が途切れた。てっきりしえみちゃんのことだから燐や雪男君以外にも誘われてるんじゃないのかと思ってたけど、やっぱり人見知りは直すに直せないものだからなあ。
「あ、の萼さん」
「ん?」
「わ、私ね。やっぱり誘う側だからダンスはちゃんとできないとだめだと思って特訓したの。い、一応、男の人の方も」
「うん」
「だ、だからその、わ、私と―――「萼!しえみ!」!燐……」
しえみちゃんが何かを言いかけていたところに息切れしながら燐がやってきた。
「今休憩?お店の方大丈夫なの?」
「ああ!後醍院たちが何とかしてくれてる」
「そっか。よかったねえ―――それでしえみちゃんなんて?」
「う、ううん!なんでもない!何でもないの!!燐は萼さんと踊るんでしょ?私の事は気にせずいってきていいよ、二人とも」
でもそうするとしえみちゃんは一人になっちゃうし、まず私は生徒じゃないから参加しない。一応目立たないようにドレスには着替えたけど……踊る気なんて更々なかったからね。
すると燐は何か思いついたように私たちの手を引いた。
「行こう、二人とも」
「え!?」
「行くってどこへ……」
わけもわからず引っ張られていくと―――そこには雪男君がいた。
「ゆっきっお~♪」
「兄さん?しえみさんに……萼さんまで!?」
「どうしたの。僕は今仕事中で……」
「雪男/雪ちゃん!―――私たちと踊ってください…!」
「!?」
「……なるほど☆」
一人で言って玉砕するなら土壇場に数で、有無を言わさず。うん。燐は無自覚にやってのけるよね。
―――学園祭史上初のダンスペアならぬダンスグループの誕生である。
「じゃあ私はこれで」
「何言ってんだよ、お前も一緒に踊るんだぜ?」
「でも私は生徒じゃ「大丈夫だって!ほら」
「!」
「シャルウィダンス?」
まさかあの時の誘い方をそのまま返されるとは。ならこっちも仕返ししよう。
「yes,with pleasure.」
「え」
混乱する燐の手を取って、隣の雪男君の手も取った。
「うふふ。『はい、喜んで』って言ったの!―――じゃあ、時間の許すかぎり踊ろうか」
「―――ああ!」
せっかく4人いるのでカドリーユ……ではなくマイムマイム。形式ばったことは大事かもしれないけど、やっぱり一番は楽しむことだ。
このダンスパーティーが終われば学園祭も実質終わりである。世界に起こり始めていることから目を背けることはできないだろうけど……今くらいは、目を閉じても誰も何も言わないだろう。
この夢のような時間が崩壊するまであと―――……