白の祓魔師   作:紗代

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鮮明な前夜

フェレス卿特性の鍵を使って扉を開けると―――そこは祓魔師御用達の祓魔道具専門店。名前を祓魔屋。私もお世話になっており、今はとある私情から毎日ここに通い詰めている。

 

「ごめんください」

「ああ、いらっしゃい白代先生」

「こんにちは、やっぱりまだ慣れませんねえ、その呼び方」

「何言ってんの、元々臨時講師もしてたんだし今年は正式な講師になったんだろう?だったら毎日じゃないか」

「そうですねえ……あはは。―――今日、しえみちゃんは?」

「今日も、さ。私の話なんて聞いちゃくれないし……先生が来てくれたらきっと顔を出すと思ってたからそのままだったんだけど先生が来ても返事もないし」

「すみません。じゃあ今日は買い物だけにしておきます。下手に刺激してもよくないでしょうし」

「すまないね。先生だって忙しいだろうに」

 

女将さんは申し訳なさそうに話しながら品物を包んで私の会計を済ませ、私は袋に入った品物を受け取った。

 

「いいんですよ。じゃあまた来ますね」

「ありがとうございました」

 

この世界にきてから親しくなった祓魔屋と関わりの深い(そう紐付けしている)友人二人を思い浮かべる。奥村雪男君と杜山しえみちゃん。雪男君とは任務の時に会えてるからいいけどしえみちゃんはしえみちゃんのおばあちゃんが亡くなって少ししてから会っていないので気になる。任務で一緒になる雪男君も会えていないらしい。女将さんに言ったように本当はあんまり刺激しない方がいいんだけど、気になるのだ。たぶん妹みたいな存在として接してたからかもしれないけど。

祓魔屋を出て校舎に戻り、また鍵を使って今度は祓魔塾に入る。相変わらずギシギシと音のする木造校舎の廊下を歩いて職員室の自分の机に向かうと、珍しく藤本さんがいた。

 

「藤本先生?」

「おう、誰かと思ったらお前か」

 

聖騎士の任務と奥村兄弟(兄の方とは面識がないけど)のこともあってあまり職員室に来ることなく、塾に来てもそのまま直接教室に行って直帰してしまうため藤本さんがここにいるのは本当に珍しいことなのだ。と、よく見てみると私の隣の机―――藤本さんの机は何も置かれていなかった。それどころか綺麗に拭かれてある。

 

「講師、辞めちゃうんですか?」

「いやそういうわけじゃないんだけどよ。今年からは雪男もここ使う回数増えるだろうし、ちょっとは綺麗にしておかないとと思ってな」

「ああ、雪男君が正式に非常勤講師になるんでしたっけ」

「おう、俺が任務で出れない時とかな。ま、仲良くしてやってくれよ」

「お小言もらわないよう気を付けますよ」

「はは、違いねえな!」

 

ああ。

現・聖騎士なんて厳かな名称よりもそっち(父親として)の方がよっぽど似合ってる。

 

「敵いませんねえ」

「ん?何がだ」

「いえ、なんでも」

「変なやつだな……まあいいか、もしなんかあったら俺に直接じゃなくてもいいから雪男経由とかで知らせろよ」

「?はい」

「前ほどじゃないにしても相変わらず無茶してるだろ、お前」

「いや、やったとしても月一です」

「アホ!そういうのはしないのが一番いいんだよ!ただでさえ上一級は生きて帰ってくる奴は殆どいないんだ。だからな、自分を大切にしろ。自分を大切にできないやつは周りも守れねえ」

「そう、ですね」

 

―――本当に、前の世界とは大違いだ。

 

「あ、でもこの前のヴァチカンでの騒動の約九割はエンジェルさんのせいです」

「あー、あいつな。つーかお前あいつに何したんだよ」

「イラッとすることを平然と言われてうっとうしくなったので髪の毛を引っこ抜きました」

「ぶほっ」

 

正確に言うと藤本さんをなめ腐ったようなことを上品に言われたのでさすがにキレた、のが正しい。ちなみに近くにいたシュラさんは大爆笑して「お前が本当のハゲになる日も近いかもな、ハゲ!!」と過呼吸になりそうになってむせていた。私は当たり所として目の前にあったエンジェルヘアーを引っ掴んで思いっきり引っ張っただけである。

 

「で、事の顛末は?」

「お互いに反省文書いて―――まあ謝りました」

 

お互いに渋々だったけど。でもそのあと一緒に任務に行ったら滅茶苦茶機嫌よさげだった。育毛剤渡したからかな?皮肉のつもりだったんだけど。よくわからない人には関わらないのが一番だ。

ちなみに私の雇用主フェレス卿もシュラさん以上に笑い転げていた。エンジェルさんは相当いじられキャラの素質があると見た。

 

「そーかそーか。ぶふ、ま、いんじゃね?ぐふ、ふははははは!」

「笑いすぎですよ」

「わ、悪い悪い。いやーでもそうか。お前は周囲に溶け込むのも早いけど、ちゃんとうまくいってんならそれに越したことはないな。安心したぜ」

「私が言うのもあれですけど、結構な堅物でしたねえ。下で働くとなると大変そうです」

 

いや本当に。正統派正義を振りかざす人は単調な人が多いから下の人や陰の人がお膳立てするのが当たり前なところが多い。あの人は一応上一級に実力で上がったわけだしそんなタイプではないと思いたい。思想と思考は違う。

私がそんなことを考えていると、目の前の藤本さんは神妙な顔つきになった。

 

「萼」

「はい」

「もし俺に何かあったら、雪男ともう一人―――燐を、あの二人の事を頼んでもいいか」

「……なんです、急に」

 

縁起でもない。

 

「あくまで保険だ。俺だって簡単にくたばるつもりはねえよ。でもな万が一ってこともある」

「それは―――そうですけど」

「頼む」

 

私に初めて旋毛を見せて頼み込む姿に、結局承諾してしまったのは、私の甘さか情か。

―――存外、父親というものは怖いものではなく強いものなのかもしれない。

それを私は今日初めて知ったのだ。

そしてこの会話を最後に、私と藤本さんは生きて会うことはなかった。




エンジェルさんの機嫌がよかったのは萼さんが一番欲しいものの条件「有能で忠実な部下」に当てはまったことと、皮肉が通じない=「ちゃんと育毛剤もくれて気にしているのか。反省の色は確かに感じたぞ。感心感心!」みたいなふうに自動変換されているからです。
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