あの会話から二日後のことだった。
「死、んだ?……藤本さんが」
突然齎されたのは藤本さんの訃報だった。
あまりにも急だ。頭が付いていかない私はただ茫然とするしかなかった。
私とフェレス卿は南十字男子修道院に向かった。着いた時にはもう既に葬儀は終わっていて、人も疎ら。長友さんたち修道士の人々が申し訳なさそうにこちらに頭を下げた。
「白代さん、私は少々野暮用がありますので席を外します」
「―――了解しました」
私はそのまま木造の教会へ入った。あちこち歴史を感じさせる古さは感じるものの、清潔感のある雰囲気。もう既にいろいろ片づけられてしまっていて祈りも献花も出来ない場所になってしまっているのを承知の上で白いカーネーションを置いた。
「藤本さん」
私の向こうに見ていた人と再会できましたか?
貴方は言わなかったけど、気づいてました。私を通して誰かを見ていること。別にだからといって恨んでいるとかそういうのことではないので。ただ貴方はそのたび私の事を一瞬酷く切なそうに見ていたのでそのことだけが気がかりです。
貴方にそんな顔をさせてしまうような、そんな人と今度こそ一緒になれていることを祈ります。
「どうか、安らかに」
雨の音だけが響く教会で目を閉じて祈った。
どのくらいそうしていただろうか。
「萼さん?」
「―――雪男君、お邪魔してます」
久しぶりの声に振り返る。そこには学生服姿の雪男君がいた。今まで任務と祓魔屋で会うことがほとんどだったせいか、こうして騎士團のコート以外の姿で会うのは初めてである。
「藤本神父のこと、お悔やみ申し上げます」
「いえ、こちらこそ。来てくださってありがとうございます。それから、すみませんでした。本当は葬儀にも出てもらおうと思っていたんですけど……」
「いいよ。分かってる」
おそらくお兄さんのことを気遣ってのことだったのだろう。実際、参列者に騎士團関係者はこの修道院関係者以外いなかった。本当に近親者だけで済ませたのだ。
「私は私でこうやって勝手にさせてもらったから、いいの」
「―――はい」
「あ、そうだ」
「?」
「これ、よかったら」
私はゼリー飲料を取り出して雪男君に渡した。
「雪男君のことだから、どうせ昨日から碌に休んでないんじゃないのかなって思って持ってきたの」
「すみません」
「そこは謝るんじゃなくてありがとう、って言ってよ。それともアップル味苦手だった?」
「いえ!……ありがとう、ございます」
「こちらこそ、それから追い打ちをかけるようで申し訳ないんだけど……悪魔薬学の担当が雪男君に決定した」
「そうなるとは思っていました」
「非常勤からの繰り上げ、ってことになるのかな。ごめんね、せっかくの高校生活なのに。私の担当科目にしてもらえるように書類書いて提出したんだけど突っぱねられちゃってさ」
「そ、そんな。萼さんだって植物学と防衛・回避の2教科を担当してるじゃないですか、そのうえ任務とフェレス卿の秘書業務もあるのに……これ以上甘えるわけにはいきません!!」
「高校生活は楽しむべきだし、子供は年上に甘えるべきだと私は思うよ。押しつけかもしれないけどね」
そう言うと雪男君は黙った。
「……甘えるって表現が嫌なら頼るでもいいけど。まあデスクは前と同じで私の隣だし、何かあったら……いや何もなくても言って」
「……はい」
『あくまで保険だ。俺だって簡単にくたばるつもりはねえよ。でもな万が一ってこともある』
現実になるの、早すぎでしょ。
……寂しく、なるなあ。
理事長室に戻ったフェレス卿は開口一番に言った。
「―――大至急今から奥村燐の入学・入寮・入塾手続きとそれに関わるものの手配をしなさい」
「は、い?」
フリーズした私は悪くないと思う。だってそれ要は裏口入学……いや、多くは語るまい。
「奥村燐が養父の仇討ちをするために祓魔師になることを志願してきました」
「!」
「全く、血気盛んなことで……一体誰に似たのでしょうねえ……というわけでよろしくお願いしますね☆」
「了解しました」
とりあえず、一息吐く暇もなく今度は裏口案件の事で奔走する羽目になることだけは確実だった。
雪男君のお兄さんか、会ったことはないけど……まあ、大人しくしていてくれることだけ願っておこう。
そういえば寮の方はどうしようか。男子寮は定員ギリギリだったから……空いてるとしたら旧館くらいしかないんだけど。
ああ、そうだ。一応雪男君にも連絡しておかないと。
携帯のアドレス帳の『奥村雪男』の表示に電話をかける。
「……ああもしもし、雪男君?うん、えっとお兄さんの件なんだけど……いや、そういう物騒な方じゃないよ。ただそのまま放置はしておけないから。お兄さんも明日から正十字の生徒で祓魔塾の塾生になることになったからそれを伝えようと思って。……ごめんね、私もついさっき聞いたばっかりで今手続きとかしてるところだからさ。――いいのいいの。ただ男子寮の方がいっぱいいっぱいだからお兄さんは旧館の方に……え、いいの?本当に?――ああそう、わかった。うん、じゃあそういう風に手、回しておくね。大丈夫だよ。じゃあまた明日学校で」
通話を切って仕舞い込み、深呼吸する。
「雪男君も旧館に、ね……まあ監視のことも考えたらこれ以上の適任もいないか……?」
やることが増えたことにちょっと重くなりつつ私は廊下を進んでいった。