白の祓魔師   作:紗代

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探る覚悟

あたまたちは、おかあさんの声でささやくのだ。

 

「あなた」

「あなた」

「あなた」

 

「あなた」

「どうして愛されると勘違いしてしまったのかしら」

「そんなに醜いのに」

 

―――高槻泉『黒山羊の卵』より

 

 

 

 

 

「はっ」

 

呼吸できなくなって目が覚める。

昨日フェレス卿からもらった本が本物かどうか内容を熟読してしまったためか、酷く夢見が悪かった気がする。はっきり言って休んだ気がしない。

 

「影響されすぎでしょ……」

 

女々しい。内心自分自身を毒づきながら準備を始める。

 

「えーっと、今日の予定は……」

 

手早く準備を終わらせて携帯に目を通していると部屋の扉からノックする音がした。

 

「はい、どうぞ」

 

扉を開けて入ってきたのは、奥村君だった。

 

「その、朝飯あるけど……食うか?」

「いいの?」

「おう」

 

奥村君君の御厚意に甘えて朝ごはんをいただくことにした。

部屋に行くと既に雪男君の姿はなかった。

 

「雪男君は……ああそっか、今日の授業の準備」

 

授業で使う薬品が品切れ中で今日入荷するって祓魔屋の女将さんと話してたから朝一でもらいに行ったんだろう。

 

「ああ、俺が起きた時にはいなかった」

「ふうん、勿体無いなあ。こんなおいしそうなご飯食べていかないなんて」

「そ、そうか?」

「うん」

 

奥村君は照れているが、これはお世辞ではない。まさに理想的とも言える朝食が私の目の前に盛り付けられていた。

 

「いただきます」

 

パクリと一口。薄くもなく濃すぎるわけでもなく好みである。もぐもぐと食べていると他に音がしないことに気づいて奥村君の方を見る。

 

「あの、どうしたの?」

「な、なんでもねえ」

 

もしかして、口に合うのか不安なんだろうか。昨日の夜ごはんにも呼んでもらったけど結局荷ほどきと本の事で断っちゃったからなあ。

 

「この味、好みなの。ありがとう」

「!そ、そっか」

 

一気に表情がほぐれて明るくなった。尻尾もちぎれそうなくらいブンブン揺れている。

 

「……かわいい」

「?なんか言ったか」

「ううん。なんでもない。気にしないで」

「?」

 

男子に可愛いと思っても言ってはならない。と、どこかで聞いた気がするのでとりあえず聞こえてないのをいいことに曖昧にしておいた。

 

****

それから数日後の昼。あれから少し仲良くなった奥村君に朝渡された弁当を食べ終わり、高槻泉について検索する。

 

高槻泉。ミステリー作家。主な作品は「拝啓カフカ」「小夜時雨」「虹のモノクロ」「なつにっき」「ルサンチメンズ」「黒山羊の卵」「吊るしビトのマクガフィン」etc…

残虐で揶揄的表現の多いことや主人公またはその大切な人が必ず死ぬという救いの無さから人を選ぶ作風ではあるが、独特且つ斬新な文体、緻密で大胆なストーリーなどから数多くのファンを擁する人気作家。

彼女本人はやや小柄ではあるものの酷く整った容姿をしており、作品よりも彼女自身にファンが付いているともささやかれている―――

 

向こうと一緒じゃないか。と思いながら騎士團協力者のデータベースをのぞいてみる。

……が、名簿に名前が載っていない。

 

―――フェレス卿個人の繋がり、ということだろうか。

 

持ってきた黒山羊の卵をパラパラと捲っていくとクローバーの栞が挟まっていた。

不思議に思い手に取る。そこには小さく電話番号が書いてあった。

 

「―――」

「白代先生?」

「!、あ、ああ。奥村先生、お疲れ様です」

「それ、黒山羊の卵ですか?」

「ええ。先生も読みますか?」

「いえ僕はそんなには……読書は好きなんですけど、どうにも救いの無さに苦手意識を抱いてしまって。何度か目を通してそれっきりです」

「そうなんですか……」

「ハッピーエンド主義ではないですけど、高槻泉の作品はその、あまりにも……」

「描写も結構過激ですし、抽象的な表現も深く読み込んでみると笑えないぞっとするものだった、なんて高槻作品ではざらですからね」

「はは……」

 

雪男君が苦笑いで応える。そういう人は多い。けれどもそれでファンを増やしているということは、理解できてしまうところが所々あることで深く読み込もうとする中毒性を発露させているのだろう。

 

「さて、と……じゃあ私はこれからフェレス卿のところに行ってきます」

「気を付けて」

「はい」

 

そしてそのまま廊下を歩いていると―――見知った人が、そこにいた。

 

「あ、う、萼さん!!」

「しえみちゃん、どうしたのこんなところで」

「えっと、その、これ!!」

 

真っ赤になったしえみちゃんに差し出されたのは、青い薔薇と赤い牡丹とカスミソウの花束だった。

 

「ちょっと前から、育ててたんだけど……おばあちゃんがいなくなって悪魔に寄生されてて……燐と雪ちゃんのおかげで動けるようになったから萼さんに早く渡したくてその……」

「しえみちゃん……」

 

きっと私が知らないところでいろんなことがあったんだろう。悪魔に付け入られるなんて相当だ。いくらあの二人に祓魔されたからと言ってもここまで回復したのはしえみちゃん自身の力だ。

 

「偉いね、頑張ったね」

 

そういうと泣きそうだったしえみちゃんの涙はとうとう溢れて止まらなくなった。

 

「う゛ん、私。ちゃんと、がんばれた?」

「うん、うん。素敵な花束、ありがとう」

「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!!」

 

しえみちゃんを抱き寄せながら思う。

しえみちゃんも前を向いて歩き始めた。なら私も、ぬるま湯に浸ってばかりはいられない。

 

「……」

 

私のスーツの内ポケットに入った電話番号入りの栞を思い浮かべて、私は覚悟を決めるのだった。

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