年収1億円になりたいらしい主とそれを見つめる俺のお話

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※このお話は架空のお話であり実在する国、人、作品とは一切関係ありません。


年収1億円になりたいか!?

 年収1億円になりたいか? 

 

 聞かれれば大体の人はそうだと答えるだろう。

 お金というものは便利なものだからな。適当にネットで調べてみればこの国の国民の平均年収は441万円らしいぞ。

 ニュースなんかでは隠れ年収1億円が増えているなんて話も聞くから富の2極化が進んでいるわけで、その上でこの数字なんだからどんなに少なく見積もっても全体の9割位は年収1億円を超えないだろう。

 

 じゃあ自分はどうなんだって? 

 

 もちろん欲しいさ。

 何を隠そう俺の年収は300万だ。どうだすごかろう。

 え? 平均年収を下回る? ……でも1年で300万円を稼ぐのだ。300万円といえば大金ではある。多分。おそらく。

 

 ぶっちゃけ一昔前はそんなに稼いだ覚えがない。

 なんなら一昔前のお金の単位を覚えていない。

 

 というか……お金ってあったんだろうか。

 俺が覚えているのは田舎でこの世界でいう米のようなものと物々交換してたような覚えしかない。

 

 

 

 

 

 そうなのだ。

 

 

 

 

 

 どうも俺、前世?と言っていいのか分からんが別世界の記憶があるらしい。

 記憶があるといっても大したもんじゃない。精々挙げた田舎に暮らしてた、男だった、死に際は軍隊みたいなのに銃で撃たれて死んだってくらいだ。

 

 ちなみに小説でよくあるらしい神様転生みたいなのはないぞ。

 死んだらこう、魂? 自意識? みたいなのが空に昇っていって膜を越えたらなんか今の体の持ち主の夢に混ざり込んでついでに人格も混ざり込んだ。

 

 その時はまだ他の記憶があってなんとか色々保持しようと頑張ったんだが、無理だった。

 超えてみて分かったんだが意識があるから今考えてることは考え続けられるが、考えを置く場所、記憶を残す場所がなかった。

 おかげで自分の名前すら忘れる始末。悲しいぜ。

 

 まぁ、呼ぶやつがこの世界にいるはずもないし、体の持ち主の名前だってあるから困ることはない。

 

 話がそれた。本題に戻そう。

 

 

 1億円が欲しいか? 

 

 

 この問いかけに対して俺は欲しいと答えた。

 

 しかしこの問いかけには続く問いかけが存在する。

 

 そう、何故、1億円が欲しいのか? という問いかけだ。

 

 体の持ち主、もう長いから主ということにする。

 

 主はどうもその辺り適当のようだった。

 

 今あるお金だけだと欲しい物が買えない。だからお金は欲しい。

 しかし、明確な目標は思いつかない。だからキリの良い大きな数字であれば良いだろう。

 

 そんな感じだ。

 

 そんな主がとある動画を見始めた。

 

 そのタイトルがこれだ。

 

 

「年収1億円になりたいか!?」

 

 

 内容を1行で言うなら年収1億円になるためには年収1億円になるための考え方が重要でお金を稼ぐことをよく考えよう、という自己啓発動画だ。

 

 主は「なるほどなぁ」と言って年収1億円になるための思考作りの一貫であるらしい目標までのチャートを作り始め、しばらくして飽きたのだろう、別のことを始めた。

 

 

 それを見て俺は思った。

 

 

 え? お前は年収1億円欲しいんじゃないのか? 

 

 

 何かがおかしい。

 お前は年収1億円を目指すための参考物として動画を見て学び始めたのではないのか。

 

 

 俺は俺の中の認識と主の中の認識をすり合わせ始めた。

 俺と主は別人格というか別の価値観を持っているが記憶は共有物なのだ。おそらくじっくり考えればわかるはずだ。

 

 

 

 そして結論が出た。

 

 別に難しい話ではない、単純な話だ。

 

 

 

 主は、年収1億円など欲しくはないのだ。

 

 

 

 主が真に欲しいものを言葉にするならば、こうだ。

 

「怠けていても文句を言われず、我慢することなく美味しいものを食べることができ、したいと思ったときに遊ぶこと、あるいは好きなことができること」

 

 そしてそれをなんとなく出来るようになりそうな年収1億円が欲しいのだ。

 

 我ながら? 情けない話だが、そういうことなのだ。

 

 

 もしかしたら今これを見ている画面の前の者も同じことを心のどこかで思ってはいないだろうか? 

 

 

 別に誰にバレようと俺は痛くも痒くもないからはっきり言うが、俺はそんな人間が一番嫌いだ。

 

 何故かって? 

 

 それはつまり自分のことしか考えていない馬鹿でわがままな貴族そのものだからだ。

 いや前世のことは覚えていないんだがな、お金を知らないような田舎なのに銃殺されているのだ。

 今の主の知識と合わせて考えると上の方にはそういう奴らがいたとしか思えんのだ。

 

 少なくとも、そんな力があるのに下の人間を救おうとしなかった人間がいたはずだ。銃なんてものが作れるのだからな。

 しようと思えば出来たであろう。それよりも自分の欲を優先しただけだ。

 

 

 しかしまぁ、そもそもどうしてそんなに自分のことしか考えないのだろうか。

 元々俺は田舎者だ、そりゃあ学がなかっただろうとは思うが主は、この世界の大学院という一番上の学府まで進んでいるのだ。

 

 それならもう少しまともな考え方をするものではなかろうか。

 せっかくの機会だ、また記憶と認識をすり合わせしてみようではないか。

 

 

 ……なんともため息の出るような話だ。ああ、うん、結論は出たよ。

 その結論から言うならば、主に学はなかった。

 

 最高学府まで出たのに学がないとはなんという矛盾か。

 しかしだ、その最高学府で学ぶことが紙上の問題の解き方とはこれ如何に。

 

 そうなのだ。

 俺の中の学があるとはすなわち、目的を達するための知識や教養、あるいは経験があることを指す。

 

 実を為すための学ということだ。

 当然だろう? 作物を育てるために紙に書かれた問題の解き方なんぞ何の役にも立たん。

 精々子供の遊びで優劣を競い、話の種になるくらいが関の山だ。

 

 であるのにこの世界、いや、この国だけなのかもしれんが、

 

 

 学ぶための目的を深く教えないまま、知識だけを教え込むのである……!! 

 

 

 ……馬鹿なんじゃねえのか? 

 

 

 そりゃ主も知識だけを得て満足するわけである。

 もう学府に通っているわけでもなし。試験に出ないから覚える必要もない。気まぐれに少しでも行動すれば良いほうかもしれん。

 同じような人間は知識を得て賢くなった、良い気分に満足するのではないだろうか。

 

 一般常識、つまるところの学ぶための学びなら良いんだけどな。文字とか数字とか、単語とかだ。

 こういったもんは確かにさっさと覚えるだけ覚えて後は使い倒せばいい。けど、そこから先も同じように詰め込むだけ詰め込んだ、では駄目だろう。使わない知識なんだから不要な記憶として消えるだけだ。

 

 記憶を辿ればそんな教え方をしているこの国、どうもこの世界の中でも上位の立場らしいが最近落ち目であるようだ。然もありなん。

 

 主の記憶だけの認識でしかないが、知識人達もどうすればいいのか分かっていないのか、落ち目であることを声高に叫ぶだけらしい。

 

 

 ……馬鹿なんじゃねえのか? 

 

 

 落ち目であることを声高に叫んでも徒に不安を煽るだけだ。

 不利な情報を晒すのであれば必ずそれを覆す情報を広めるものだ。

 誰だって大規模な蟲害が起きたときに「自分の米は虫食いだらけだ」なんて声高に叫ばないだろう。

 叫ぶのであれば「周りの米は虫食いだらけだが、貴重な俺の米には虫食いはねえ!」だろう。

 冷静に考えれば俺の米だって虫食いの被害は甚大だが、それを取り除いた良質の米であることを宣伝するわけだ。

 

 俺の、いや主の記憶の知識だけでは分からないだけなのかもしれないが、もしかしてこの国の知識人も目的のないままに知識を蓄えてるんじゃねえだろうな。

 もしそうならこの国の先はまあ暗いとしか言えないだろう。

 

 なにせ国民全員無学に等しい。

 

 やべえな、国民全体的に田舎者の俺並みってことだもんな。

 

 やべえわ。

 

 それこそ国の指導者が明確な方針を打ち出して全体でそれを目指すしかないだろう。

 そうしなければ民も国のためにすればいいか分からない。それってつまり国民が存在しなくなるってことだからな。

 実質的に国が滅ぶ瀬戸際にこの国は立っていると考えて良い。指導者ってのがいればの話だが。

 

 とりあえず、主の記憶の印象ではこの国は少子化と貧民化が大きな問題らしい。

 主のためじゃねえが俺とて美味いもんは食いたいしな。国のためにもせめて金の稼ぐ方法くらいは考えるか。300万でも美味いもんは食えそうなもんだが、それだけじゃ日々の生活で手一杯のようだし。

平均年収上げるためにも何もしないよりはマシだろうよ。

 

 

 それでも、主が行動に移すかは、保証できねえのがな。ため息出ちまうな。

 

 なあ、主よ、見てるか? 

 

 

 

 

 

 

 お前、年収1億円になりたいか? 

 

 




俺「もし学がないなら今からでもいいんだ、学ぼうな、主。」

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