「さてっと」
「ん?早いな衛宮、部活はいいのか?」
「あぁ、今日は俺が夕食当番だからさ」
放課後の校門前で自転車にまたがろうとしていた少年、衛宮士郎は、彼の親友であり学園の生徒会長でもある
「お兄ちゃん!」
入れ替わるようにやって来た何者かによる声が士郎の耳に届いた。
士郎が知る限り、自身を兄と呼ぶ者は一人しかおらず、振り返ってみると案の定接近していたのは彼の義理の妹であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルン(小学5年生)であった。義理の妹なので容姿は士郎と似てるところが皆無であり名前から察せるように外国人の血が流れていて見た目だけで言えば日本人には到底見えない娘である。そんな彼女ではあるがちゃんと日本人の血も流れており日本人とドイツ人のハーフであるらしい。苗字も士郎とは別であるものの士郎の苗字はイリヤの父から譲り受けたものなので特別な理由があって別々の名を名乗っているわけではないらしい。ただ単に合わないからという理由らしい。実は母親がどこかの貴族出身だからという理由も含まれているかもしれないがそこの所は士郎には詳しく分かってない。
母親譲りの綺麗な銀髪をパタパタと跳ねさせながら彼女一直線に士郎へと走り寄っていた。
普段部活で一緒に帰宅する機会が少ないからかその足はどこか嬉しそうに見えた。
そんな嬉しそうな妹の笑顔に心が温まり、士郎は軽く口元を吊り上げて近寄ってくる妹を迎える。どうやら義理ではあっても兄妹の仲は良いらしい。
「イリヤも今帰りか?」
「うん!一緒に帰ろうお兄ちゃん!」
「いいけど・・・友達はいいのか?」
ふとイリヤの後方を見ると見知ったイリヤの友人達が揃ってイリヤの後を追ってきていた。どうやら友人達を置いて真っ先に士郎の元に来たらしい。不思議そうな顔をしながら友人達はイリヤを追いかけ、その視線をイリヤ・・・の奥にいる士郎へと向けると納得したように呆れるのであった。
「イリヤ兄の言う通りだぞ、勝手に走り出してどうしたのかと思えば___なるほど、理解した」
「まぁ大体予想は出来てたけどねー」
「イリヤちゃんはお兄さんが大好きだもんね」
「おっす!イリヤの兄ちゃん!」
呆れるように言うメガネのかけた少女。
語尾を延ばし、のほほんとした糸目の少女。
苦笑気味にいうおとなしそうな少女。
元気よく男口調で挨拶する少女。
それぞれが登場と共に別々の言葉を口にし、イリヤと合流を果たすのであった。その声に反応して振り返ったイリヤは苦笑気味にそれでいて申し訳なさそうに謝罪し、友人達の事は頭のなかから抜けていたのか士郎の質問に即答できずに、『えーと、えーと』っとオロオロしながら頭を悩ませていた。
そんな妹の姿に士郎も苦笑する。自分と帰ろうと誘ってもらったのは嬉しいが、それで友人を置いていくのは士郎の望むことではない。かといって、住んでいる家も同じでせっかくの誘いを断る理由もなく友人達と帰らせることもできない。なので困ってるイリヤにこの場の年長者としてある提案をする。
「みんなも途中まで道は同じだし小学生だけで帰すのも心配だから一緒に帰るのはどうだ?」
その提案にイリヤは首を縦にふり、友人達もイリヤ同様文句もなく同意してくれた。知らない仲でもないし一人でも
士郎一人だけが自転車に乗り、小学生五人を歩かせることにも行かないので士郎は自転車を横に並走させながらイリヤ達の歩幅に合わせつつかつ歩道の内側を歩いていた。そんな小さな気遣いではあるがおとなしそうな少女、
他の少女達はと言うと男口調の少女、
そんななんてことはない平和な下校中の光景であった。
しばらくすると徐々に友人達はそれぞれの家へと向かうべく分かれ道で別れ、最終的には士郎とイリヤの二人だけになっていた。二人だけになった途端、さきほどまでの賑やかな空気はなくなりあたりも打って変わって静かなものへとなっていた。
「相変わらずタツコちゃんは元気だね」
「うーん、元気というか・・・元気すぎるというか・・・今日だってねぇ授業中に__」
士郎がそういうとイリヤも続くように感想を言い、そこから思い出すように今日起こった出来事を語り始めた。楽しそうに今日の出来事を語るイリヤを眺め、ズキリといつかの地獄の光景が頭をよぎる。今の状況とは似ても似つかない、そもそも連想するようなものが何一つとしてないのに何故かその記憶が映し出される。それはまるで虫の知らせのように、この状況とは正反対の光景がみえてしまった。
何故そんな記憶がこんな時に思い出せれたのか?
その答えを士郎は持ち合わせていない。
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「ただいま~」
「おかえりなさいイリヤさん、士郎も一緒でしたか。」
玄関を通ると洗濯中だったのか同居人であり衛宮家の家政婦であるセラが洗濯籠を抱えながら出迎えてくれた。お手伝いさんだったり家政婦と本人に言うと何故か怒る。本人はメイドと主張しているが明確な違いがあるとは士郎には思えない。なにかプライド的な何かがあるのだろう。にしては姉妹の片割れはそんな事を気にしている様子はないが。
というか家事万能な士郎を敵視している様子もあり他の皆には礼儀正しくも士郎にだけはあたりが強い。なんでさ。
そんなセラは普段は部活で帰宅時間が違う士郎がイリヤと一緒に帰宅した所をみてそういえば今日は士郎が夕食当番だということを思い出し、同時にその事に少しばかり腹を立てていた。
困ったことに必要ないと言っても衛宮家の長男は進んで家事をやりたがる、それも完璧といっても良いほどの手際でだ。家政婦メイドとして仕事が奪われるようで納得がいかないことばかりである。これが母親であれば助かったり感謝したりもするのだろうがセラはアインツベルンのメイドでありそんな自分の仕事に誇りを持っている。なのでそんな自分の仕事を横取りされるのは許せないしそれよりも許しがたい事にこの男、料理に関してはセラよりも上であるということである。そこいらのシェフですら負かすような腕を持つセラであったとしても昔はともかく最近の士郎には勝ったことが一度もない、連戦連敗である。昔から見よう見まねが引くほどうまかったのは分かるがまさかこれほど簡単に追い越されるとは思いもしなかった。一体どこでそのようなスキルを身につけたのかは未だに謎だがそれはセラのプライドをズタズタに引き裂いていた。どこかへ修行にでも行ったわけでもないのに本当に謎である。何度勝負を挑んでもあまり乗り気ではないしたとえ乗り気でなかったとしてもやはり士郎には勝てたためしがない。昔はこちらが教える側だったのに腹立たしい長男である。
ならば家事はどうかと言えば負けたことはないが勝てたこともない。つまりは互角なのであった。ムカツクことに
もう一人のメイドであるリズに至っては居間でゴロゴロしてばかりで士郎が家事をしてくれるのを良いことに好き勝手やっている。それでいいのかメイド。
最近では士郎の夕食当番を楽しみにしていたりするまでである。それでいいのかメイド。
一度、メイドが長男に料理をやらせてあまつさえは楽しみにしているなどとはどう言う事だと強く言ってみたら_『だって士郎のほうがおいしいし』_などと言われてセラは膝から崩れ落ちたのを覚えている。
そんな士郎に対抗するためにセラは暇さえあれば士郎がこれ以上家事を出来なくするために手をつけられる家事を全て終わらし、料理の勉強を始めていた。何百と言う本を読んでは料理の腕を上げ、しかしそれでも士郎にはかなわなかった。腹立たしい
一度士郎に迫るほどの料理を完成させ後一歩のところで勝利を収められそうだった時、次の日には士郎は更に腕を上げてきてそれを見てセラが頭を抱えて暴走しそうだったことも覚えている。
無欲なことが多い士郎だがこのことに関しては割と負けず嫌いであるらしい。
リズやイリヤは料理勝負の日にはいつも以上に豪勢な夕食を毎回楽しみにしていたり、更においしくなるのであれば止める理由もなくむしろ望むところでもあるのでそんな二人の小さな争いを止める気などサラサラなかったりする。
一度セラが士郎に台所侵入禁止令を出したことがあったがそんなセラに対して士郎ではなくイリヤとリズが強く反対したためすぐに撤回された。リズならともかく仕えているイリヤにまで言われてはセラは何も言い返すことができず渋々反対意見を聞き入れた。しかしこのまま好き勝手やらせるわけにも行かないので士郎を制限させるべく料理は当番制に落ち着いた。最初は週に一回にする計画であったがまたも反対意見がでたので週に二回に落ち着いた。不満の声もあったがこれ以上はセラが譲る気がなかったので
なのでリズとイリヤは今日を楽しみにいていたりする。当然セラはこの日が嫌いである。夕食の時間にはどうしても自分との差を感じてしまうからである。なのでこのまま大人しくするつもりは毛頭ないので士郎が料理中は後ろでジッと観察して盗める技術を盗むつもりでいる。そんな視線を浴びることになる士郎はあまりいい気はしないし今でもまだ慣れていなかったりする。というより落ち着かない。
そのような理由からセラはとりあえず玄関を通る士郎に鋭い視線を浴びせておく。
本人は苦笑するだけで余り効いている気配はないが。
イリヤはと言うと夕食を楽しみにしており上機嫌で部屋へと上がろうとしていた。
「あっそういえばイリヤさん」
部屋へと上がる途中にかけられた声にイリヤは振り返る。
「先ほどイリヤさん宛てに宅配便が届きましたよ、確か品名は・・・・DVDだったと思います」
「DVD?あっもう届いたんだ!」
品名から何か心当たりがあったのかイリヤは部屋へと上がるのを中断して早足に居間へと駆け込んだ。
そんなイリヤの様子に士郎とセラはなんだろうとイリヤの後を追ってみる。
その途中、士郎がセラの隣に並んだ瞬間、未だに抱えている洗濯籠を見て士郎が「やっておこうか?」などと言ったが当然セラは不機嫌気味に「結構です!」と断った。
イリヤの後を追っていると居間からイリヤの大声が聞こえてきた。
『あぁ~!リズお姉ちゃん先に見てる!』
『おっイリヤお帰り。』
『なんで勝手に見ちゃうのさ!』
『払ったの、わたし』
『そうだけどさ~!』
居間に入ってみるとリズ(*メイド)がいつも通りお菓子を片手にアニメを見ていた。机の上に詰まれたパッケージを見るにどうやらこれが件のDVDらしい。先ほどの会話とこの状況から察するにイリヤが帰ってくる前にリズが見てしまったらしい。そんな二人が争っているのを背景に士郎は苦笑し、セラは額を抑えていた。
「何事かと思えば・・・」
「アニメのDVDか」
「あぁ、すっかりイリヤさんも俗世に染まってしまって。これでは奥様たちに顔向けできません」
「俗世って・・・いやまぁ、こういうのは個人の趣味だし。なによりイリヤの年齢だとこれが普通なんじゃないか?」
「普通って!何を言っているのですか!このままエスカレートしてしまえばどうなるか分かっているのですか!大体、義理とはいえ兄であるあなたがしっかりしていないからこういうことになるのです!」
「なんでさ・・・・(ていうかいつも通りすぎてリズに対してはノーコメントなのね)」
「いいですか貴方は長男なんですから__」
今日もセラの士郎へのあたりは強い。
リズ「だって士郎のほうがおいしいし(意味深)」
セラ「!!」
*冗談です