トゥルーフォームの目撃者   作:瀬戸 暁斗

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終焉……そして……

 どれくらい気を失っていたのだろうか? 

 目が覚めると、隣に寝ていたのは相澤先生。13号は別の場所にいるようだ。

 

「目が覚めたのね、気拉ちゃん」

 

 梅雨ちゃんと尾白が介抱してくれていたようだ。他には梅雨ちゃんと一緒にいた峰田、暴風・大雨ゾーンから合流した常闇、口田が守ってくれていた。

 俺も寝ている場合じゃあない。立ち上がって現状を把握しなくては。

 立ち上がろうと足に力をいれる。

 

「痛ぇぇぇ!! 折れてたの忘れてた!」

 

 なけなしのオーラで折れた左足を強化して立ち上がろうとするも、支えとなる棒がないと立たないほどフラフラだ。生まれたての子鹿よりも足がプルプル震えている。何とも情けない姿なもんだ。

 

「そうだ、状況はどうなってる?」

 

「オールマイトが到着した。終焉の時は近い」

 

「それなら安心……!?」

 

 常闇の黒影(ダークシャドウ)が指差す先に見えたオーラは、確かに見覚えのあるものだった。

 だが、オールマイトのオーラは弱々しいトゥルーフォームのものに戻りつつあった。

 

「まずいな……時間切れか……」

 

 幸いにも、脳無は天井に開いた穴を見るにオールマイトが倒したようだが、まだ凶悪な敵が二人も残っている。

 

「オールマイトが今は動けない……それに気づいてるのは……」

 

 気づいてるのは俺とOFAの継承者である緑谷くらいだろう。

 他の皆は知らない。オールマイトに限界が近づいている事を。

 

「俺が行くしか……何するんだ?」

 

 主戦場に戻ろうと一歩踏み出した俺の腕を、尾白が掴む。

 

「どこに行くんだ?」

 

「わかってるだろ。加勢に行く」

 

「その怪我で何を言ってるんだ! 君のおかげでオールマイトが来るまでの時間が稼げた。もう君は十分に役目を果たしたじゃないか」

 

 火災ゾーンで背中を預けた者同士だからとかではなく、俺も尾白が心配してくれていることくらいはわかる。

 でも……

 

「ありがとう、尾白。……でも、俺にはまだ役割が残ってるみたいだ。厄介な個性のおかげで、それが見えちまった」

 

 俺は走り出した。折れた足なんて知ったことか。武器なんて鉄パイプ一本で十分だ。

 脳内麻薬が過剰に分泌される。足の痛みなど、もうほとんど感じない。

 俺は無心で走るだけだ。

 

(オールマイト!!)

 

 視線の先に土煙と、それに混ざった蒸気が見えた。

 その中には、ボロボロになったオールマイトが立っている。

 もう動くこともままならないだろう。

 

(少しだけで良い。時間が稼げるなら!)

 

 俺は生命活動に必要な分だけを残して、オーラを全て右手に集めた。

 消費し切った俺のオーラ量では、オールマイトがパンチ一発繰り出すのも難しいだろう。

 だが、無いよりマシだ。

 

(さあ、届いてくれ!)

 

 射出したオーラは光の糸を引きながら、オールマイトに吸い込まれていく。

 

(よかった……。届いた)

 

 俺が再び意識を失う直前、オールマイトと目が合った気がした。

 

 ⬛︎ ⬛︎ ⬛︎

 

 後日譚……というか、俺は丸2日寝続けていたらしく、既に過去となってしまったUSJ事件なのだが、飯田が呼んでくれたプロヒーローである先生たちが到着したことで、なんとか収束したらしい。

 オールマイトが倒した脳無も捕獲されたが、主犯の死柄木と黒霧には逃げられたそうだ。

 この事は病室に事情聴取に来ていた塚内という警部から、聴取の合間に聞いた。

 

「協力してくれてありがとう。君の事はオールマイトも心配していたよ。まさか君には、リカバリーガールの治療ができないとはね」

 

 リカバリーガールの個性「癒し」は、人の治癒力を活性化させて傷を治す個性だ。

 対して俺の個性は、治癒力を含めたオーラを消費する。オーラが尽きかけていた俺の状態では、「癒し」の個性は逆に死に繋がる。

 だがらまだ、俺の足は砕けたまま繋がっていない。ギプスで固められている。俺の治療はオーラが回復してからになるだろう。

 

「そういえば、そろそろ雄英体育祭の時期だね。今年は警備を強化してやるそうだよ」

 

「そうなんですか。中止しないんですね」

 

 雄英体育祭。

 それは、日本におけるビックイベントの一つであり、「スポーツの祭典・オリンピック」に代わるものとして、日本全国から注目を集める催しである。

 もちろん、プロヒーローが視察に訪れるため、ヒーロー科の生徒なら絶対に活躍したいイベントだ。

 

「君の活躍を期待しているよ」

 

「ありがとうございます、塚内さん」

 

 警部と聞いていたから少し警戒していたが、フレンドリーで話しやすい人だと感じた。

 その後も雄英体育祭の話をしていると……。

 

「奥弥!! 大丈夫なのか!?」

 

「気拉少年! 君が起きたと聞いたぞ!」

 

 病室に騒々しく駆け込んできたのは、家族と大男だ。

 

「奥弥……無事で本当によかった……」

 

「心配かけてごめん、母さん。それに父さんも」

 

 車椅子に乗った母さんは入院している病院の病衣のままで、父さんもよれたスーツに汗が滲んでいる。相当急いで来てくれたのだろう。

 

「オールマイト……息子を守ってくださってありがとうございました。あなたがいなければ、奥弥は今頃どうなっていたか……」

 

「いえ、お父さん。私は彼に対して何もしてやる事ができませんでした」

 

 ブンと音が鳴るほどの勢いで、オールマイトが父さん、母さんに頭を下げた。

 

「ちょ、ちょっとオールマイト!? やめて下さい! そんな、頭なんて下げなくても——」

 

「私は平和の象徴として、敵から生徒達を守る責任がありました。しかし、気拉少年……奥弥少年が重傷を負ってしまった事は事実。私の不手際です」

 

 No.1ヒーローが一個人の親に対して謝罪する。そんなオールマイトを俺は生まれて初めて見た。

 

「彼は自分の身も顧みず、私や他のクラスメイトを助けるべく尽力してくれました。絶望にも負けない強い心。そして、冷静な判断力。彼はそれを兼ね備え、素晴らしいヒーローとしての素質を持っています。どうか、雄英で彼を育てさせてはもらえないでしょうか!」

 

「……雄英で学ぶ事は、奥弥にとって一番良いと私は思っています」

 

 長い沈黙の後、母さんは静かに話しだした。

 

「私は奥弥のヒーローになりたいという夢を、これからも応援し続けるつもりです。ですから、息子の事をどうか守ってください。勝手な親だと思われるかもしれませんが、奥弥が傷つく姿は見たくありません」

 

 いつも病室で優しく微笑む母さんはここにはいなかった。真剣な眼差しでオールマイトと話す。もはや、No.1ヒーローという立場は無かった。

 

「では、お父さんにお母さん。事件のことで少しお話がありますので、少しお時間よろしいでしょうか?」

 

 塚内警部に連れられて、両親が病室から出た。

 残された俺は、オールマイトの2人きりだ。

 

「すまないね、気拉少年。敵にやられていた私の体を動くようにしてくれたのは君だろう?」

 

「俺にはそれくらいしかできませんから。オールマイトも体は大丈夫なんですか?」

 

 オールマイトは知らないだろうが、俺は彼が病院に来た時からマッスルフォームだった事を感じ取っている。

 

「君は本当に鋭いな。実は私の活動限界が50分前後に縮まってしまった。マッスルフォームの維持だけなら1時間半はできるだろうが」

 

 思ったよりも短いその時間に、俺は危機感を拭いされなかった。

 もしも今回いた脳無が複数いた場合、1時間で片付けるのは難しいだろう。

 

「この事は緑谷には?」

 

「言ったよ。緑谷少年は私の後継だからね。でも、君に頼みがある。No.1としてヒーローを引っ張るのは、OFAだけじゃなくてもいい」

 

 目力の強いオールマイトが更に威圧感を増す。

 

「君もいる! ってことを世の中に知らしめてほしい!!」

 

 なんとも重い責任を背負ったものだ。

 トップヒーローにそこまで言われては、何がなんでもやらなくてはならなくなった。

 俺は、布団の下で拳を握りしめた。




USJ編終了!
次回、体育祭編開幕!
案の定爆豪に目をつけられた奥弥は、爆死を免れる事はできるのだろうか?
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