「失礼しまーす」
ノックして、引き戸のドアを開ける。
「おや、どうしたんだい?」
「緑谷のお見舞いですよ。派手に怪我してたから、ちょっと気になって」
リカバリーガールにそう言うと、保健室の一番奥のカーテンを引いてある場所へ案内された。
カーテンを開けると、緑谷が寝ておりその横にオールマイトが立っていた。
「オールマイト。緑谷は大丈夫そうですか?」
「緑谷少年なら大丈夫だそうだ。ただ、すぐには回復できないから治療には日を跨ぐようだがね」
まずは緑谷を心配し、ここへ来たことに対しての疑問をなくさないといけない。実際ちょっと気になるけども。
「オールマイトは緑谷の個性をどう思いますか?」
「いきなり質問かい!? そんなことを聞くと言うことは、君も何か感じているのか?」
君
「個性の発現は4歳頃が一般的。それから約12年間もあんな個性を持っていたなら、さすがに扱い方を覚えるはずです。しかし、爆豪の話からするとかれは最近まで無個性だと思われていた」
「何が言いたいんだい?」
「そこから考えられる仮説は3つあります。一つ目が緑谷が個性を持っていたにもかかわらず、隠していたという説。しかしこれは、個性を扱いきれていないことから可能性は低い」
俺は人差し指を立てて言う。もちろんオールマイトの表情、オーラを見ながら。
「次に、例外的に個性の発現が遅かったという説。これが一番説としてはまともです」
中指も立て、自説を論じるがオールマイトの表情は変わらない。
「最後の説は……こんなのを思いついたのがアホらしくなりますけど、誰かに個性を貰ったという説。世界にはいろんな個性で溢れてる。そんな無数の中には人に個性を渡せるものだってあるかもしれない」
俺はついに3本目の薬指も立てた。相変わらずオールマイトの表情に変化はなかったが、確かにオーラは揺れ動いている。
「俺だってこんな説思いつくとは思ってなかったですよ。あんたと緑谷のオーラが同じって事に気づかなかったらね!」
さあ、オールマイト。ここからどう切り抜けるというんだ?
「……」
「黙ったままですか……。俺は見たんですよ。あの日──ヘドロの敵をオールマイトが倒した日、あんたがガリガリに縮んだ姿を……」
「み、見られていたのか……!? その事は誰かに言ったりしたのかい!?」
「そんなの言えませんよ。もし言ってもNo1ヒーローが本当はヒョロい人でしたとか、信じてもらえないですし」
俺が誰にも言っていないことを知ると、心なしかほっとした表情になったオールマイトだが、また真剣な顔に戻る。いつもテレビで見る笑ったオールマイトとは別人のような顔だ。
「そうか……。そこまで知られていたなら、君に真実を話そう。ここでは他の学生が来てはまずい。場所を移そう」
俺はオールマイトの後ろについて保健室を出た。
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
オールマイトと一緒に歩くだけで、たくさんの学生の目に触れながらたどり着いたのは校長室。俺はそこで、トゥルーフォームのオールマイトと校長の2人と向かい合って座るという、なかなかの緊張感を感じていた。
「君が気拉君だね。まずはどうしてこの姿の彼がオールマイトと同一人物だとわかったんだい?」
「オールマイトの姿が変わる瞬間を見た事と、オーラの本質が同じだったからです」
ここは正直に答えた。ネズミにハイスペックという個性が発現した校長の頭脳はもはや人間レベルではない。嘘なんかついても無駄だし、つく理由もない。
「私の事はいいとして、気拉少年。緑谷少年と私のオーラが同じと言っていたが、それはどういったことなんだい?」
「全く同じではないんですけど、緑谷が個性を使ったときのオーラがあいつとオールマイトのオーラを重ねたように見えたんです。でも、だんだん個性を使っていないときでもオーラが混ざってきてるんですよね」
元々小さかった緑谷のオーラはあの個性を使うごとに大きく、オールマイトに近づいているように見える。
「それはきっと、私たちの個性が原因だろうな」
オールマイトと校長がアイコンタクトをとる。今から話す事への許可をとってでもいるのだろうか。
「私たちの個性に冠された名は『
「こ、個性が受け継がれる!?」
引き継げる個性なんて聞いたこともない。親から似たような個性を遺伝的に変質しながら受け継ぐことはあるが、血の繋がりもない他人にそのまま個性を譲るだって!?
「驚くのは無理もないが、この話は誰にも話さないでくれるかな。知れ渡れば、力を奪わんとする輩に溢れて社会の混乱を招きかねない」
確かに平和の象徴が持っている個性が手に入るかもしれないというのは、敵味方関係なく魅力的な話に思える。
「わかりました。このことは決して話しません」
「そうか。安心したよ。重ねて悪いが、もう一つ頼まれてくれないかな?」
「何をですか?」
「いや、私がヒーローとして戦える時間というのはあまり長くはないんだ。しかし、緑谷少年はまだ個性を使いこなせていない。だから私にもしものことがあれば、彼を支えてあげて欲しいんだ。私の──いや、『OFA』の真実を知る1人としてね」
まさかこんな事になるとは、あの日の俺は思っていなかったな。ずっと憧れていたヒーローからの頼み。そんなの断れるわけがないだろうが。
「はい! 任せてください!」
この時、敵によるオールマイト殺害計画が立てられていることを、誰も知る由もない。