オールマイトに真実の話を聞かされてから一夜明け、俺はほとんど眠れないまま登校時間を迎えた。
眠い目を擦りながら学校近くまで来ると、そこには大勢のマスコミの姿があった。
「チッ。どうせオールマイト狙いなんだろうな……。どんな授業してるのーとか聞かれるんだろ」
さて、そのまま通り抜けるか。もしくは個性で存在感を消すか。
「でもなぁ、個性をヒーローでもないのに使ったら相澤先生に何て言われるか……」
とんでもない量の反省文か、除籍宣告だろうな。あの人ならやりかねない。
仕方なく人の間を縫って校内へとたどり着いた。進んでいた間にいろいろ聞かれたけど、無視してやった。眠すぎて声が頭に響くんだよ。
頭を押さえながら、教室まで歩きドアを開く。さて、授業が始まるまで寝ていようかな──。
「やあ、気拉君! って顔怖いな君!」
頼むぜ飯田。寝させてくれ。
「ちょっと寝不足でさ。授業まで寝とくわ」
これでゆっくりできるな。俺の眠りを妨げる奴は許さんぞ。
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「学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいの来たー!!」
全員がマスコミを抜けてのHR。ようやく学校らしくなって生徒達の歓喜の声が響く。
それと同時に委員長への立候補の声、高く伸びる手が並び立っている。
普通校なら、こんな風にほぼ全員が立候補するなんて事にはならないだろう。しかしここは雄英高校ヒーロー科。統率力を磨くにはうってつけの役職だ。
(委員長なんてよくやるよな。ほんと)
俺は手を挙げていない少数派。正直まとめ役なんてのは苦手だし、個性も周りを支える方が向いているのもあってか、影から手を貸すのが今までのパターンになっていた。
「静粛にしたまえ!! "多"を牽引する責任重大か仕事だぞ……! 『やりたい者』がやれるモノではないだろう!!」
騒ぎが収まらず、いつまで経っても決まる気配すらしなかったが、飯田の一声で一旦教室は静まった。
「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……! 民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!」
この言葉だけ聞くと、すごくまともで立派な事を言っている。そう、聞いているだけならな!
「そびえ立ってんじゃねーか!! 何故発案した!!」
彼の手は誰よりも真っ直ぐ、堂々と伸びている。この流れ、側から見ていたら結構面白い。本人は真剣なんだろうが。
「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」
「だからこそ、ここで複数票を獲った者こそが真にふさわしい人間という事にならないか!?」
多数決という提案には賛否があったが、他に決める方法もないので自己推薦可の投票で決めることとなった。
(さあ、俺はどうしたもんかな)
別に委員長になりたい訳でもないから、自分に票を入れる必要もない。でも梅雨ちゃんの言う通り、この日の浅さでふさわしい人を探すのも至難の技だ。
(なら、こうするか──)
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「僕、三票ー!?」
投票の結果、なんと緑谷が三票獲得して委員長に、八百万が次いで二票で副委員長に就任した。
選ばれた緑谷は喜び以上に緊張感や驚きが勝っているのか、ガチガチに固まっている。
そんな中発案者の飯田はというと、肩を落として落ち込んでいた。
「0票……。わかってはいた! さすがに聖職といったところか……」
自分には票を入れなかったんですね。何してんだ。
「つーかさ、この無効票誰だよ」
「悪い、それ俺」
そう、俺は何も書かなかった。クラスで決まった意見に従います、っていう意思表示のつもりなんだけどな。
「ったくよ、委員長やりたいのに自分に票入れない飯田といい、何も書かない気拉といい、一体何考えてんだよ」
ああ、父さん母さん、じいちゃんばあちゃん。ついでに先祖の皆様。変わり者の多いと思われるヒーロー科の中でも、私は変わっているようです。
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午前の授業が終わると、待望の昼休み。ランチラッシュの食堂に向かう前に、誘いたい人物がいる。
「轟、一緒にメシ食わね?」
「ああ」
意外にもすんなり一緒に来てくれることに内心驚きながら、共に食堂へ向かう。
「……」
向かう途中は二人とも無言で歩いていた。俺、そんな無口キャラじゃなかったと思うんだけどな。なんだか、轟といると話し辛さを感じる。まだあまり仲良くないからかもしれないが。
「あのさ……」
俺がようやく口を開いたのは、轟が蕎麦を、俺がカレーを頼み席についてからだった。
「訓練の時は悪かったな。あんまり触れて欲しくはなかっただろ」
「別にいい。あいつが父親なのはどうしようもねえ事実。それに動揺した俺がまだ未熟だっただけだ」
「未熟ねぇ。俺にはそんな風には見えねえけどなぁ」
轟の実力があれば、今プロヒーローになってもそこそこの実績はあげられるだろう。それほどの高い身体能力とオーラを兼ね備えている。
「お前はなんでヒーローを目指してる?」
「いきなりどうした? そんなの興味あるか?」
轟からいきなりの質問に少し慌てる。こんなに急な話題転換するとは。
「話題がねえから。黙って食うのもアレだろ」
「気遣いサンキューな」
これは親切心だと受け取っておこう。
「うーん。誰にも言わないなら教えてやるよ。俺の父さんは無個性でな、俺の個性は母さん譲りの物なんだ。で、小さい頃に個性が暴走して死にかけた。それを母さんが責任に感じて病んで入院してる。だから、その個性を使いこなして立派にヒーローやって、母さんに誇れるヒーローになろう、って思った。これでいいか?」
「そうか、お前の親も……」
なんだかしんみりとした雰囲気になる中、それは突然起こった。
『セキュリティ3が突破されました!! 生徒の皆さんは、すみやかに屋外に避難して下さい!!』
食堂内のみならず、校内に警報音が鳴り響く。生徒がほとんど集まる食堂では、逃げる生徒ですぐにパニック状態に陥った。
「おいおい、何だ!? セキュリティ3って!?」
「校舎内に誰か侵入してきたってことだよ!」
人混みの中の問い掛けに、また人混みの中から返答が返ってくる。名前も顔も知らない誰かに感謝しておこう。
セキュリティ3のことを知ったとはいえ、何の解決にもならずただ人の流れに流されて、俺は食堂の窓に激突した。
「痛えな……。って、こいつらマスコミじゃねぇか。雄英バリアはどうなってんだ?」
通行許可IDを持っていないマスコミが普通に校内に入り込むのは、不可能だ。
セキュリティの警報が鳴ってたから、装置自体は作動してると思うんだがな。
「おい、轟。大丈夫か? って、いねぇし……」
こんな僅かな時間ではぐれるとは。仕方ないかな、この人混みのだもんな。
だが、こんなに人が集まるとオーラが見えすぎて酔いそうになる。街で見えるオーラは多少距離が離れているのと、オーラの小さい人もいるから平気だが、今は違う。ゼロ距離でヒーローの卵のオーラがたくさん溢れている。
「やっべ、吐きそ」
吐き気を堪え、どうにか耐えようと窓越しに遠くを見る。小さいオーラのマスコミのそのまた向こうに意識を向けた。
「ん? 何だ、あのオーラ?」
見えたのは2つの黒いオーラ。雄英の教師陣に匹敵するほどのオーラの大きさだが、異様に暗い雰囲気だ。深海のように深く、暗い闇のような悪意。初めて見る種類だ。
それらのオーラの持ち主の近くに人はいないようだ。一番近いのは相澤先生とプレゼント・マイクだが、マスコミへの対応で動けそうにない。
それにしても、周りがうるさすぎて集中できない。一度雑念を払うように俺は目を閉じて集中する。そして目を開けた時、先程までいた2つのオーラは消えて無くなっていた。
「は? 一体どこに!?」
周辺を見るが、どこにもいない。まさかあの数秒で移動したとでも言うのか? それとも、瞬間移動出来る個性か?
考えを巡らす俺の耳には、食堂の生徒に落ち着くように叫ぶ飯田の声は入って来なかった。