トゥルーフォームの目撃者   作:瀬戸 暁斗

9 / 11
悪意との対峙

「あいつ何しやがった!?」

 

 闇が晴れ辺りを見回すと、なんと火に囲まれていた。

 

「まだUSJ内か……って、くっ!!」

 

 詳しく情報を把握しようとする前に、俺に向かって飛んできたのは投げナイフ。ギリギリ気づいて、スレスレの所で間一髪かわす。

 

「大丈夫かっ!?」

 

「お、尾白か! 他の奴らは?」

 

「ここに飛ばされたのは、俺達だけみたいだ」

 

 俺と同じように火災ゾーンに飛ばされてきた尾白の言う通り、他の1-Aの生徒の姿は無い。見えるのは炎と敵だけだ。

 ともかく、まずは敵を倒して皆の元へ戻るのが最優先事項だな。

 

「尾白、こっちに来い」

 

 俺は尾白を近くに呼び、彼の肩を掴む。出来る限りの手は尽くさなくてはいけない。後悔してからじゃ遅いんだ。

 

「直接の戦闘なら、お前の方が上だ。だから、俺がサポートするから敵を頼む」

 

 尾白のオーラを活性化させてから、肩から手を離して戦いに送り出す。

 俺の個性で尾白の能力が引き上げられている今、思っていたよりも彼の活躍が凄い。俺も自らを強化したり、オーラを放ったりして戦ってはいるが、尾白の尻尾の個性はシンプルゆえによく使いこなせている。彼も自分が想像以上に動けているのに、少し驚いているようだ。

 しかし、多数対二の数の差は深刻だ。いつまで経っても終わる気がしない。

 

(使いたくはなかったんだが……。いや、そんなの言ってる場合じゃねぇ!)

 

 俺の持つ必殺技。それは本当に人を殺せる技だ。

 それは、相手のオーラを抜き取る事で倒す技。オーラは魂のエネルギーだから、空になれば死ぬ。薄めるのと失くすのとでは失くす方が簡単だが、加減を間違えば殺してしまう。だから、俺はこの技を使いたくはなかった。人を殺す可能性のある技を使うのは、ヒーローを目指す身として疑問を持ったからだ。

 

「こっちに……来るなよ!!」

 

 向かってくる敵からオーラを奪い、そのオーラをまた別の敵にぶつける。

 やっていることは単純だが、殺さないように個性をコントロールし続けるのは精神的にも肉体的にもキツくなってきた。

 

「ちゃんと、しないと……。もっと精密に、もっと確実に。もっともっともっともっともっと──」

 

「やめろ、気拉!! もう終わったんだ」

 

 気がつけば敵は全員倒れており、立っているのは俺と尾白だけになっていた。

 

「悪い。取り乱してた」

 

 ばつが悪くなり、俺は尾白に背を向ける。俺を気づかってか、尾白は何も言ってはこない。聞こえてくるのは、炎の燃える音と戦いで荒くなった息遣いだけだ。

 しばらくして息が整うと、俺は尾白の方に向き直った。

 

「俺達は乗り切れたとはいえ、一人で飛ばされたり、攻撃手段がない奴がいたらまずい。早くみんなと合流しよう」

 

「でも、俺達みたいにいろんな場所に飛ばされてたらみんながどこにいるか……」

 

「心配するな。位置はもうわかってる。13号の所に先に向かうから、ついてきてくれ」

 

 敵の襲撃によって得た収穫が一つある。俺の個性の成長だ。それは視覚以外でもオーラを知覚できるようになった事で、背後や建物の裏など見えなくてもオーラを感じとる事ができるようになった。

 複数の敵を相手にした戦闘では、目に頼っていては死角からの攻撃に対応が遅れた。加えて炎や瓦礫で視界が奪われる中、視界以外のオーラも感じとる必要があった。そこで、目に頼らず感覚に身を投じる事で俺は一歩上のステージへと登る事ができた。

 充分個性を伸ばしていると思っていたが、まだ伸びしろがありそうで自分自身への期待感が増している。

 この個性の成長もあってか、幸い敵に出くわす事もなく最初のセントラル広場まで戻ってきたが、そこで俺達が見たのはかなり衝撃的な場面だった。

 

「……っ先生……!!」

 

 相澤先生が怪物に押さえつけられていた。血塗れでボロボロになり、腕はありえない方向へ曲がってしまっている。

 プロのヒーローがここまでやられる相手だとは、俺達は誰も思っていなかった。飛ばされた先に現れた敵に生徒の俺達が勝てたなら、すぐに鎮圧してくれるだろうと。負けるはずがないと。

 しかし現実はどうだ? どうこうできる次元を超えてしまっている。

 怪物が強いのが個性によるものなら、相澤先生の個性で消せるはずだが、その上で負けているということはそもそもの能力が桁違いということだ。

 

「ダメだ……。あんなオーラ、格が違う……。勝てる訳がない……」

 

 怪物のオーラは人の域を超えているように見えた。多くの色を混ぜて最後に残る黒。それが俺の見たオーラの印象だ。

 あまりの力の差に俺達が動けずにいると、リーダーとみられる手を体中につけた男の元に、先程俺たち生徒を方々に散らせた黒いモヤの男が戻ってきた。

 

「死柄木弔」

 

「黒霧、13号はやったのか?」

 

「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」

 

 怪物のオーラに圧倒されて他のオーラが確認できていなかったが、確かに13号のオーラが小さくなり動いていない。それに、一つ遠ざかっていくオーラもある。オーラと動くスピードから、飯田だろう。彼ならすぐに他のヒーローを呼んできてくれる。

 

「黒霧、おまえ……おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ……。さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。今回はゲームオーバーだ、帰ろっか」

 

「帰るだと?」

 

 これだけ好き放題暴れておいて、何を考えているんだ? そういえば、こいつらが言っていた目的はオールマイトの殺害。オールマイトが来ないからか? 

 

「けどもその前に、平和の象徴としての矜持を少しでも……へし折って帰ろう!」

 

 黒霧のモヤに包まれた死柄木が現れたのは、水難ゾーンの際にいた緑谷達がいる場所。そのまま死柄木は梅雨ちゃんの顔へ手を伸ばし、触れる。そこで見えたのは、個性発動のオーラの揺らぎと、それがかき消えたものだった。

 

「あいつ一体何を……!?」

 

 敵の個性を知らない俺には何が起こるのかはわからない。しかし、そばにいた緑谷が焦りと共に起こした行動は死柄木への攻撃だった。

 

「SMASH!!」

 

 力が暴発することなく放たれた一撃が死柄木に直撃する、と思われたが土煙が晴れた先にいたのは相澤先生を押さえつけていた怪物だった。

 この一瞬で移動したとでも言うのか!? 瞬間移動の個性でも使っているのかと思うほどのスピードだった。

 しかもオールマイトほどではないとはいえ、OFAの一撃を受けてなお無傷で立ち塞がるのは恐怖でしかない。

 緑谷の攻撃を防いだ敵達は、再び三人を襲う。緑谷の腕は怪物につかまれており、もう一度攻撃をするのは不可能だ。

 

「っやめろォォ!! そいつらに手ェ出すな!!」

 

 仲間の危機に思わず手が出る。勝ち目がないと分かっていても、このまま目の前で傷つけさせる訳にはいかない。

 距離があるため、目一杯のオーラを放つ。オーラは死柄木へと真っ直ぐ飛んでいき、その体を吹き飛ばした。

 

「チッ、まさかガキに邪魔されるとはな……。もうこいつらはいいや。脳無、あいつを先にやれ」

 

「へぇ、脳無って言うんだそのバケモン。脳みそむき出しなのに脳無って面白いネーミングだな」

 

 全身の筋肉は緊張でこわばり、震えが止まらない。でも平静を保つため、頭を回し口を動かし続ける。少しでも止まれば恐怖と絶望に飲み込まれてしまう。

 

「尾白、今の間に先生を頼む」

 

「お前一人であれに立ち向かうのか!? 無茶だ!」

 

「無茶でもやるしかないだろ。時間は稼ぐから早く行け!」

 

 手遅れになる前に尾白を逃す。完全にぶちギレて俺を殺すつもりの死柄木は、去る尾白の事など見向きもしない。

 

「死柄木弔、あの子供も逃していいのですか?」

 

「おまえがミスったおかげで、もう終わっちゃってんだよ。わかるか?」

 

 ポリポリと顔を掻きながら、死柄木は黒霧を睨みつける。掻きすぎて血が出ているが、その事を気にしている様子はなかった。

 

「そうそう、すぐにヒーローが何人も来るから撤退したら?」

 

「うるさいなぁ。おまえを殺した後でな!」

 

 押し寄せる悪意と恐怖を前にしたとしても、立ち向かわなければならない時がある。それが今だ。

 圧倒的な力の差はわかりきっている。それでも俺は戦わなくてはならない。負ければ死に、ヒーローの夢は絶たれる。

 今の俺にできることは限られている。いつものような小手先の技だけではどうしようもない。

 だからこそ勝機があるとすれば、限界を超える事。つまりは"Plus Ultra"だ。

 この数時間の間に、俺の個性は一段階進化した。ならば、さらに過酷な今の状況ならばもう一段階上へ進めるのではないだろうか。根拠も全くないが、今はそれに懸けるしかない。

 戦闘体勢をとった俺の頭の中からは、もう弱気な思いは消え去っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。