Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第十話 花の魔術師からの忠告

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 アルトリアたちを代表するかのように、セイバーが訊ねた。

 

「ほんとうに……本当に、マーリン、なのですか?」

「マーリン? マーリンって?」

 

 疑問符を浮かべる士郎であったが、あまりの状況に自失の体を現すセイバーたちから答えは返らない。代わりに、イリヤが士郎の問いかけに応じた。

 

「アーサー王伝説に登場する魔術師・マーリン。聖杯戦争のカテゴリーだと“グランドキャスター”に位置する存在だけど──いったい、どういうこと?」

「どうって?」

「説明は省くけど……私はマーリンが召喚されているなんて知らない……冬木の大聖杯は、マーリンを召喚していないはず、なのに」

 

 イリヤにグランドキャスターと称される花の魔術師は、まるで我が娘を愛玩する父のような笑みを浮かべて、士郎やイリヤ、そしてアルトリアたちを見下ろしていた。

 

『やぁやぁ、久しぶ』

 

 呑気に手を挙げて挨拶をかわそうとする、その頭上から、

 

『り?』

 

 黒く染まり果て、もはや元の光輝を何一つ灯すことがないほど歪んだ聖剣を振り下ろす、漆黒の王が。

 

「──卑王鉄槌!」

 

 漆黒の極光に変換された魔力の暴刃が、ローブ姿の魔術師を、屋敷の屋根ごと完全にとらえた──かに見えた。

 

「ちっ。いつもの手口──幻術か」

 

 草原を吹く風──花びらが空を舞うように魔術師の姿や破壊の跡が、瞬時に掻き消えた。

 直後、衛宮家の塀の上に移動した青年の姿が見えた。魔術師はいとも簡単に庭へと着地。

 

『ひっどいな~、黒い方のアルトリア。僕は君たちの先生(ししょう)だぞ?』

「だまれ、ロクデナシ。その()っ首、今ここで叩き落としてやる」

 

 完全武装を帯びたセイバーオルタの剣が、鋭くも禍々しい輝きを放ち始めた。

 

「我が眼前に立ちはだかった以上、貴様であろうと容赦はせん。

 此度の戦争の敵として、我が手で刑してやるのは王の情けと知れ」

『おやおや。僕は殺し合いは苦手だって知っているだろう? いきなり敵認定なんて、そんな乱暴な』

「我が心臓は竜の炉心。体内の魔力(オド)は、世界の息吹に拮抗する──」

 

 膨大な魔力は濃霧の如く彼女の肉体を覆い、黒い面覆い(バイザー)甲冑(メイル)──そして魔力の余波が万物を焼灼・破砕していく。

 尋常でない魔力の放出であった。

 

『ああ──本当にやめておいた方が賢明だと思うけどー?』

 

 真剣に忠告を送る円卓の魔術師に対し、セイバーオルタは聞く耳を持たなかった。

 相手が身内である以上、宝具の開帳を躊躇する意味などない。

 

約束された(エクスカリバー)──、ッ!?」

 

 瞬間、彼女から放出され黒剣に満ちていた魔力が、途切れた。バイザーも面覆いも、あらゆる武装がほどけ、与えられた当世風の衣服に逆戻り。

 漆黒の剣が輝きを失い、宝具の発動にまで至れなかった。

 

「馬鹿な。おい、マスター! ……な?」

 

 オルタが振り返った先で、士郎は両膝を地に叩きつけている。至近にいたセイバーらに支えられなければ、そのまま大地に突っ伏していてもおかしくない変調っぷりだ。

 

「シロウ! 大丈夫ですか?!」

「ッ、だい、じょう、ぶ、だ」

 

 身体の中心、心臓の辺りをきつく押さえつけ締め付けるマスター。荒い呼吸を繰り返し、玉のような汗を流す少年を支える、イリヤとセイバーたちの姿。

 

「魔力が乱れてる。シロウあなた────中に“何が入ってるのよ”?」

 

 イリヤの疑念する声があがったが、士郎は朦朧とする意識でそれを聞き逃した。視界が霞んで目も開けていられない。

 攻撃を受けたわけではない。純粋な肉体の──魔力の不調とみられる。

 その光景を見て、黒い騎士王は理解した。

 それでも得心がいかない。

 

「馬鹿な。あれだけ魔力を補給したというのに?」

 

 朝食を終えたセイバーオルタに、空腹はない。

 この身に満ちる魔力は十分だという実感はあるのに、結果はこれ。

 

『君らは今回の聖杯戦争において、正規の召喚とはかけ離れているからね。宝具を全力で使用することは、現状では不可能な感じだと思った方がいい』

「それはどういうことだ? マーリン」

 

 そう問いかけたのはセイバーオルタではない。

 こちらもまた漆黒に染まり果てた聖槍を構える騎士王──ランサーオルタが、庭に降り立った黒馬に跨りつつ、槍の穂先を魔術師の首に突き付けている。

 

「貴公は、何か知っているのだな?」

『無論、知ってはいるさ。僕の千里眼は飾りじゃないからね。

 けれど。それを君らに懇切丁寧に話すかどうかと言われたら』

「答えるはずがない…………ああ、そうだ。貴公はそういう性分であった」

 

 呆れたように、あるいは諦めたようにロンゴミニアドをさげる──ことなどなく、より深く首の下へ近づけるランサーオルタ。

 

「しかし、だ。これだけは答えてもらわねばならない」

 

 そこへさらに、重火器を魔術師の左のこめかみに押し付ける漆黒のメイド──ライダーも訊問(じんもん)に加わった。

 

「マーリン…………貴様は、我々の敵か?」

 

 頭巾(フード)をかぶった魔術師は、ランサーとライダーに左右を挟まれ、顎に手を添えて考え込む。

 

『うーん……それは難しい質問だね』

「なにが難しい? 己の旗の色も判らぬほど耄碌(もうろく)したのか?」

『おいおい。僕はれっきとしたおじいちゃんだぞ? 耄碌してもしようがないよね、という寛容さが欲しいね』

「ぬかすな、夢魔の混血──さっさと問いに答えろ」

 

 ライダーの差し向ける銃口にせっつかれるまま、マーリンは答えた。

 

『ここにいる僕は、敵でも味方でもない(・・・・・・・・・)よ。ただ、あちらにいる“僕”の方は、なんともいえないかな?』

「──なんだと?」

『夢をさすらう僕がここに来た理由はひとつだけ。この冬木の聖杯戦争において、君たちの敵となるものくらいは、教えておこうと思ってね』

「それは、どういうことです、マーリン!」

 

 士郎をリリィとアーチャーに託し、セイバーが声をあげた。

 

『やあ、白い方のアルトリア。できればじっくり、どこかの赤い弓兵さんが営む食堂とかで茶飲み話に花を咲かせたいところだけど、残念ながら今の僕には時間がない。加えて、彼らはすでに、冬木の各陣営に攻勢をかけている(・・・・・・・・)……簡潔に言おう』

 

 そうしてマーリンは告げた。

 

 

『君たちの敵となるのは、“円卓の騎士”たち。

 君たちの別側面のひとつ──調停者(ルーラー)“水着獅子王”が率いる、かつてのブリテンの同胞たちだよ』

 

 

 厳かな声音で紡がれた真実。

 

 

 それを聞いたアルトリアたち七人の反応は──

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「 …………はい?  」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 言葉が出なかった。

 

 

 

 

 

 

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