Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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型月連続テレビ小説 さくら (きれいなワカメ版)


第十一話 間桐家の食卓

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 時を少し遡る。

 

 間桐邸。リビングにて。

 

「桜ッ!」

「いや! に、兄さんやめて!」

「へへへ──おまえは僕の妹なんだから、僕の言うこと聞いてればいいんだよ!」

「やめて! 私の魅力に負けないで! 私が薄幸な美少女すぎるからって、若さゆえの衝動に身をゆだねないで!」

 

 桜は慎二の凶行に対し必死の抵抗を試みるも、成す術もなく蹂躙を受ける日々を送っていた。

 絹を引き裂くがごとき少女の悲鳴は、屋敷の隅々まで響き渡る。

 

「なに言ってんだよ。ほらほら、こいつが欲しいんだろ? いつもおいしそうに頬張ってたじゃないか!」

「いや! 兄さんダメ! そんな酷いことしないで!」

 

 顔を背け、眼前に据えられたものを口にすることを拒絶する妹に対し、兄は執拗にフォークを突き付けた。

 

 

 

「いいから食べろって! 僕があのアーネンエルベから取り寄せた、“特製ミートパイ”をさぁ!」

 

 

 

 慎二が桜の口元に突き付けるもの──芳醇な肉の薫りとパイ生地の輝きに、ダイエットに邁進する乙女は果敢に抵抗を続けていたが、もはや限界に近い。

 しかし、桜は尚も堅固な抵抗を続ける。

 妹の御嬢際の悪さに、さすがに慎二も口調が荒々しくなっていった。

 

「チッ。衛宮から聞いてんだぞ……おまえ、ダイエットとか言って、最近あんまりおかわりしてないんだろう!? ライダーから聞いた話だと、日によってはお昼も抜いてるって……ふざけんなよ!! 三食ちゃんと食べないと、おまえ健康になれないだろうが!?」

「兄さんやめて! 私、食べた分だけお肉がついちゃうの! これ以上、健康になる必要なんてないから! 薄幸な美少女に美味しいご飯を食べさせたい欲求に屈しないで!」

「いいや駄目だ! 女の子は少しくらいふくよかな方がいいんだよ! 何が薄幸な美少女だ! ガリガリに痩せた身体で、貧血でふらつくなんて無様をさらすなんて、そんなこと兄である僕が許さないからな! なぁ、ライダー! おまえもそう思うだろう?!」

 

 水を向けられた先にいるのは、桜を羽交い絞めにしている共犯──桜と契約を交わした騎兵(ライダー)のサーヴァント。

 名は、メドゥーサ。

 

「はい。桜はもっと自分を大事にしなくてはいけません。過度なダイエットなど、ただの毒です」

「だ、大丈夫だからライダー! 自分の体調くらい、自分が一番わかって」

「はん! そう言って朝練でふらつくから、こうして特上のおやつを用意してやってんだろぉうが! いいから、さっさと食え、このグズ!」

「いやぁー!」

 

 さすがの桜も、食欲の誘惑には抗い難い。

 結局、用意されたミートパイの半分──四切をペロリと完食するに至った。

 

「うう。兄さん、ひどい」

「何がひどいだ! 僕の妹なら、ちゃんと体調管理くらいしろマヌケ!」

 

 ミートパイの残り半分を自分の口に運ぶ慎二は、間桐家の現当主──家長としての務めを果たしたことに満足を覚えた。

 

「お爺さまが死んで、間桐の魔術は完全に潰えた。いま、正当な間桐の後継者になれるのはおまえ一人だけなんだぞ。おまけに、今は聖杯戦争のマスターの一人だ。しっかりしろって何度も言っているだろうが!」

「……はい。兄さん」

 

 くすんと涙目を拭う桜。

 ライダーは二人の様子を微笑ましく眺めつつ、この奇妙な魔術師の家系に思いを馳せる。

 この冬木で、聖杯戦争が始まる時期を迎え、令呪をその身に宿した桜。

 だが、彼女は間桐家に養子として迎え入れられた娘にすぎない。

 これは当然の事態だ。間桐慎二には、魔術回路が一ミリも存在しない。魔術師にはなりえない身の上でありながら、慎二は間桐家の家長として、己を盛り立てているに過ぎない。

 本来であれば魔術の教えは一子相伝、外部にもらすことなどあってはならないことなのだが、残念ながら、間桐の嫡男である慎二に魔術の才能は皆無。故に、冬木の地にて同じように魔術の薫陶を受け継ぐ血筋──遠坂から養子に出された少女を、間桐の家が迎え入れた。ゆくゆくは、桜こそが間桐の教えを継ぐために。

 だが、その計画も間桐臓硯の死によって頓挫した。

 すべての悪の根絶を願い戦っていた師の不在────

 十年前に何が起こったのかは、避難同然に冬木の外に出されていた慎二には預かり知ることではない。

 それでも、魔術の血脈を担うものとして、慎二はそうあろうと努力し、錬磨し、妹・桜……次の間桐を継ぐ存在のために、ひたすら献身する道を選んだ。無論、自分自身が魔術を扱えないことに対する羞恥と絶望、運命の残酷さを呪い怨む感慨はあったが、それよりもなによりも、世界に一人だけしかいない妹への愛着が勝った。それを矯正──もとい歪曲する怪物が存在しなかったのも功を奏した。

 

 家の書庫のすべてに目を通した。

 魔力がないながらも魔術の叡智を蓄えた。

 

 その途上で、慎二は桜を衛宮士郎の家に通わせるようにした。

 怪我によって弓道を引退した友人の為を思ってやった行動であったが、意外にも桜は衛宮家に通う生活にすぐさま馴染んだ。

 おかげさまで、桜は少しばかり引っ込み思案で思い込みの激しい気質は残ってしまったが、健康で年相応の少女に成長した。慎二が得意ではない家事の類も教わって、今ではいつでも嫁に出してもいいレベルの女子力を身に着けている。

 そして、衛宮士郎に対する淡い思いを育んでいることも、慎二は承知の上だ。

 だからこそ、それを台無しにするような杜撰すぎる健康管理は許されないと考えただけであった。

 ──桜の兄として。

 

「ったく、もうこんな時間か──おまえがさっさとミートパイを食べていれば、衛宮の家に行く時間も減らなかったろうに」

「うう、兄さんのいじわる」

「なにが意地悪だ。いいか。罰として、今後一ヶ月、毎日僕の前で軽く食事してから衛宮の家に行けよ。衛宮のとこでもちゃんと食事しなかったら、ライダーに報告(チク)らせるからな」

「うう……ライダー」

「桜。少しは反省してください」

「うう…………はい、兄さん」

 

 観念した桜は頭を垂れた。

 満足げに頷く慎二。

 妹の身を案じる兄の姿を目の当たりにし、ライダーが目元を完全に覆う顔帯(マスク)の下の表情を和らげた──

 

「──ッ?」

 

 その瞬間、サーヴァントの気配を感じた。

 異変を感じた慎二と桜がライダーへ振り返る。

 

「どうした、ライ」

 

 尋ねかける慎二のすぐ背後に、全身鎧を着込んだ英霊が佇んでいた。

 

「危ない!」

 

 叫ぶのと同時に、ライダーの武装である鎖が慎二の身体を捕縛し、部屋の壁へ投擲。

 

「なにぎゃあああああああああああああああ────ッ!」

 

 コメディマンガのように壁へ大文字の型を残し、退室を余儀なくされた間桐家の現当主。

 

「ふぅ。危ない所でした」

「に、兄さん!」

「大丈夫です、桜。慎二なら、いえ、ワカメであればこの程度のダメージ屁でもありません」

 

 隣の隣の部屋辺りから「カニファン時空みたいな話してんじゃねえ!」という叫びが聞こえてきた気がする二人。

 兄の後を追うべきかどうか迷う桜を背に護りながら、ライダーは喫緊の課題──侵入者へ詰問を開始する。

 

「それで────何者ですか、あなたは?」

「よりにもよって女性が相手とは…………いえ、英霊が相手となれば、侮ることは致しますまい」

 

 詰問を受けたサーヴァントは、涼しい表情でライダーに受け答える。

 

「恨みはないが、我が主君の命に従い、この冬木の地に住まうマスターとサーヴァントを討つべく馳せ参じた……」

 

 純白と黄金の鎧、青いマントに身を包んだ騎士の声は清明であり、戦いに赴く高潔な調べを宿していた。

 

 

 

 

 

 

「私は、我等が水着獅子王につかえるセイバーが一人、ランスロット──抵抗や逃亡は無用に願います」

 

 

 

 

 

 湖の騎士の手中で、無毀なる湖光(アロンダイト)が誇り高く煌めきを放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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