Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第十二話 柳洞寺の攻防

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 一方。

 柳洞寺の山門にて。

 

「これはまた──面妖な客だな」

 

 現代日本には珍しい、雅な陣羽織と袴姿に、身の丈ほどの長刀をおさめた鞘を背に担いだ侍は声を発した。

 寺の参拝者とは断じて思えぬ──二人の英霊に対して。

 

「その西洋甲冑、見れば見るほど見事なものだ。両名、さぞかし武名のある将だとお見受けするが……何者であろうか?」

 

 問われた騎士の一人が応えた。

 

「お褒めにあずかり光栄至極──騎士の作法に倣い、名乗らせていただ」

「はあ? おいおい何を呑気なこと言ってんだよ? 今から殺し合いをする予定の相手によお?」

 

 緑のマントの下に白銀の鎧を着込む青年の高潔さとは対照的に、真紅を基調とした鎧にフルフェイスの兜をかぶった騎士が語気も荒々しく吠えた。

 

「あーあ! せっかくの出陣だってのに、なんでこんな陰気な山登りに駆り出されなきゃいけねぇんだよ!」

「言葉を慎みなさい──今は“あちら”に手を出す時ではないという我らが王の判断を疑ってはなりません」

 

 舌打つ騎士。

 二人のやり取りを見て、長髪の侍は微かに苦笑する。

 

「ふ。野犬狂犬を連れての遠征行とは、騎士殿は難儀な務めを与えられたようだな?」

「……てめぇ、このオレを犬と呼んだか? あ?」

「落ち着きなさい、モードレッド」

 

 兜の下にある表情を間違いなく憤怒で染め上げている騎士の肩を、緑の騎士が掴んで離さない。

 

「聖杯戦争のルールに則すならば真名を秘しておくのが道理というところ。ですが、命をやり取りする相手に対して礼を尽くすことこそが騎士たる者の本懐──私は、水着獅子王様に仕えるセイバーが一人、「太陽の騎士」ガウェイン。こちらは同じくセイバー、モードレッド。短い間になりましょうが、どうかお見知りおきを」

「ふむ。ガウエインと、モオドレッド、か。浅学の身故、そのような名に覚えはないが、貴殿は真に見事な傑物のようだ」

「ごちゃくそ、うるせぇ!」

 

 モードレッドが牙を剥く猟犬のごとく跳ねた。

 石畳の階段を砕き、山門よりも下の広場に佇んでいた敵へと斬りかかる。

 

「まったく。かようなまでに礼節の欠けた武士(もののふ)と相まみえようとは」

 

 赤い騎士の攻勢に対し、山門の番人は即座に応じていた。

 三尺の長刀──物干し竿と呼称される刀を抜き払い、騎士の猛剣を見事に受け流していた。

 

「はん! 殺し合いに礼も節もいるか! そんなつまんねぇことに(こだわ)っている連中は、さっさと殺されて終わるだけだ!」

 

 どこぞの誰かを思い出しているような口ぶりと共に、モードレッドは侍と切り結び続ける。

 二撃三撃が積み上がり、二桁に届いても尚、両者ともに剣技の冴えは失われない。

 

「ほう。凶犬にしては鮮やかな刀捌きだ。荒々しいながらも、どこか(みやび)なものを感じる」

「そりゃそうさ! このオレは円卓の騎士の一人にして──騎士の王たる、アーサー・ペンドラゴンの嫡子だからな!」

 

 燦然と輝く王剣(クラレント)を袈裟斬りに振り下ろし、名も知らぬ侍を後方へ弾き飛ばす。

 

「ふむ。王侯(おうこう)継嗣(けいし)、か──しかし、(にわ)かには信じられぬな。ここまで乱暴粗野な性根(しょうね)では、王の後継にふさわしいとは──」

 

 赤雷の速度で突貫する剣閃を、

 

「思えんな」

 

 侍はいとも容易(たやす)くしのいだ。

 

「──チッ!」

 

 すれ違いざま、鎧の隙間を見事に引き裂かれていた。まるで風そのもののごとき風雅な身のこなしに翻弄される。

 モードレッドは軽く左腕を振って、煩わしい流血と痛覚を石畳に振り落とした。生じた傷は主から送られてくる魔力で塞ぐ。

 ふと、二人の戦闘を眺めるままでいたガウェインが、モードレッドに訊ねた。

 

「加勢が必要ですか?」

「んなもんいるかッ!」

「それは何より。──では私は、この地にいるキャスターの方へ向かいます。よろしいですね?」

「さっさと行きやがれ! 巻き込んでブチ殺しても謝らねぇからな!」

 

 微笑みながら肩をすくめるガウェイン。

 同輩にして異父妹の言葉に、少なからず仲間への気遣いめいたものを感じたのだ。

 それと同時に、モードレッドに傷を負わせた剣士への賞賛も惜しまない。

 

「山門の守護者殿、貴公の名をお聞きしても差しつかえないだろうか?」

「──佐々木小次郎といっておこうか」

「小次郎殿……かなうならば是非に、是非に貴公と剣を交えてみたいところでありますが、今は我が君主の王命を優先させていただかねばなりません」

「命令────あの女狐、我がマスターを狩れとでも?」

 

 小次郎の指摘にガウェインは静かに頷きながらも、階段をのぼりはじめる。

 

「モードレッド、油断や浅慮は許しませんよ。その御仁は間違いなく、この極東の地で剣の道を究めし英傑。重々承知の上で」

「わぁってるよ! 足止めしてりゃいいんだろ! ったく、とっとと行きやがれ!」

 

 広場で向き合う二人をおいて、太陽の騎士は(きざはし)を一段一段のぼり続ける。

 そして、ガウェインが山門の内側に進んでいく。

 彼の背後で、赤雷と斬撃が折り重なるように空を引き裂いていた。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「な、なんてこと!」

 

 山門の攻防戦を遠視の魔術で観察しているキャスターは、アサシン・佐々木小次郎が敵サーヴァントの一人を押し留められなかったことに憤懣やるかたない様子で爪を噛んだ。

 境内(けいだい)に踏み込んだサーヴァントは、彼女が発動した他の結界や迎撃用の魔術、護衛の竜牙兵たちを、悉く無に帰していく。

 

(寺の者たち五十人は、魔術で眠らせた。彼らの居住スペースには防御の障壁をはっておけば、戦闘での被害は軽微で済む。けれど……)

 

 宗一郎と共に朝餉(あさげ)を済ませたばかりの時間帯。学校へ出勤する直前の襲撃とは、なんとも間が悪いことこの上ない。

 昨日の威力偵察じみた槍兵の襲撃から、わずか一夜にして再襲撃を受けるなど、考えもしていなかった。

 

「キャスター」

「そ、宗一郎……さま……」

 

 眼鏡の奥にある男の黒い瞳に、神代の女魔術師は狼狽した。

 

「敵だな」

「…………はい。申し訳ありません、宗一郎。アサシンが二体の敵を留めきれず、うち一体が、こちらに」

 

 寺の者たちとは別に使わせてもらっている離れで、許嫁も同然に同居している葛木宗一郎とキャスター・メディア。

 

「ならば悠長に構えている場合ではない。さっそく迎撃を」

「お、お待ちください! いかにマスターに戦いの技能があろうとも、相手はサーヴァント! それもセイバー! 正面から戦うなど、そのような危険は!」

 

 おかせない。

 おかしたくない。

 おかすべきであるはずがない。

 メディアがようやく掴んだ今生の幸せ。その象徴にして根源である男が、英霊と真っ向から戦うなど、許せる法がなかった。

 しかし、葛木宗一郎は冷徹に、まるで機械のごとく正論を述べる。

 

「だが、敵は待ってはくれまい。早急に策を講じなければ」

「…………ですが」

 

 メディアは黙考する。

 極上の霊地に建立された柳洞寺。せっかく得た難攻不落(だったはず)の要害を捨てて再起を図るべきか、どうか。──否。相手はセイバー。キャスターと宗一郎の速力に、三大騎士クラスが追いつけないはずもない。では徹底抗戦は? 残念ながら不可能だ。魔力への高い耐性を有するセイバーと戦うには、魔術師であるキャスターには不利な状況にある。せめて、相手の戦力や戦法、弱点を熟知するまで穴熊を決め込むべきところへ、敵は一挙に勝負を仕掛けてきたのだ。

 

(……しかし)

 

 それにしても──おかしい。

 

(セイバークラスが“二体”なんて、いったいどういうこと?)

 

 山門で小次郎と刃を交わし続ける騎士……あれほどの剣士が、佐々木小次郎と技で渡り合える剣の使い手が、狂戦士(バーサーカー)というのは無理がある。昨日まで市内を遠視してきた限り、確認が取れているのは、アーチャー、ライダー、そしてキャスターであるメディアがルール無視同然に召喚したアサシン──直接戦ったランサーの少女。残りの枠で該当するのは、剣兵と狂戦士のみのはず。

 モードレッドは確かに血気盛ん過ぎる帰来が見られるものの、意思の疎通も可能な様子からして、間違いなく剣使い(セイバー)であるはず。

 しかし、モードレッドと共に現れた太陽の騎士ガウェインは、自らを「セイバー」と名乗った。

 これはいったいどういうカラクリなのか、メディアには判断がつかない。

 

(冬木の聖杯戦争に関する知識は、ある程度まで聖杯から与えられているけど、複数のクラスが重複するなんて……それが同じ主に仕える? 令呪の奪取が行われた? というか、ミズギシシオウ──水着獅子王って、一体)

「キャスター」

 

 思考の濁流に呑み込まれるメディアの意識を、宗一郎の力強い腕が引き上げてくれた。

 

「戦うにせよ逃げるにせよ、もう時がない」

「…………わかりました」

 

 孤立無援。キャスターは覚悟を決めた。

 黒いローブを身に纏い、ロッドを片手に強く握る。

 

「────こんなところで、私の望みが終わってなるものですか!」

 

 マスターとの……宗一郎との生活を守るべく、メディアは戦支度を整えた。

 

(何も恐れることはない……私には、この宝具がある)

 

 歪んだ輝きを放つ短刀“破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)”。

 究極の対魔術宝具であるこれを使えば、敵のサーヴァントをメディアの支配下に置くことも可能。山門から動けない小次郎(アサシン)以外にも強力な駒を揃えることができれば、万能の願望機──聖杯へ確実に近づくことができる。

 メディアは確実な勝利の道筋を見つけほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




某神父「柳洞寺、五十名が昏睡…………ガスだな」
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