Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第十四話 アッくんの懸念、水着獅子王の微笑

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 冬木市上空。

 

「ランスロット(きょう)、ガウェイン卿、モードレッド卿、トリスタン卿──皆、予定通り戦闘を開始したようです」

 

 高機動大広間・エハングウェンの玉座にて。

 清廉な王の席に座る水着獅子王は、補佐役を務める騎士をまっすぐ見やる。

 

(けい)の采配、見事に冬木の陣営を絡めとりつつある──大儀でした、アグラヴェイン卿」

「勿体なき御言葉」

 

 漆黒の鎧を纏う騎士は、礼拝するかのごとき謹直さで応じていく。

 昨日までに行われた、ランサー・ガレスによる敵情視察任務。

 その任務にて収集された冬木のサーヴァントの情報をもとに、円卓の騎士をどのように配置し、攻勢をかけるべきか計略を巡らせたのは、玉座の下で膝をつくアグラヴェインの功績に他ならなかった。

 

「しかしながら──いえ」

「おや、どうしました? 意見具申ならば遠慮などする必要はありません」

「……は。可能であれば、私も騎士を、“騎士団”を引き連れて参陣することができれば──そのように愚考した次第です」

 

 水着獅子王アルトリア・ルーラーは優しい語調で頷いた。

 

「卿の当初の策──宝具で強化した我が騎士団を率いて、冬木の地を掃滅するというやり方は、卿ひとりへの負担が重すぎます。

 常々言っておりますが、あなたは『働きすぎるのが唯一の欠点』です。もう少し己を大事になさい」

「はっ……しかし」

「つけくわえて言えば、エハングウェンを守る兵力を、これ以上減らす事態は避けた方が無難でしょう。我が円卓の騎士四人が攻撃をかけている現状、我が陣営には卿とガレス、それに“騎士団”、そして、──宮廷魔術師のみです。卿には引き続き、我が宝具エハングウェンの防衛任務、その要を担っていただきたいのですが」

「無論、重々承知しております」

 

 老け顔と呼ばれる面に壮烈な皴を幾重にも刻んだ表情は、円卓内部の者でも、その内心を窺うことは難しい。

 哀しみの子と称されるトリスタンが、天然すぎて意味が分からないというのに対し、アグラヴェインの場合は鉄のような意思で本心を秘匿することに長けている傾向にあった。

 まさに「鉄のアグラヴェイン」──統治能力や実務能力に長けた文官の最高責任者、策謀において敵を誅する悪鬼羅刹、敵のみならず味方の騎士たちからをも蛇蝎(だかつ)のごとく忌み嫌われる騎士であるが、ルーラーは慈母のごとき友愛の笑みを浮かべ忠臣の労苦をねぎらい続ける。

 

「円卓においては年若い部類に入るあなたには、生前から苦労を掛け続けてきました。円卓の騎士は数多くあれど、卿より年下だったのは妹であるガレスやモードレッド、そしてギャラハッドくらいだったというのに」

「とんでもございません、我が王よ」

「生前、私が狩りに出た時に、獣をいぶり出そうと聖剣ブッパで周囲の見晴らしをすっきりさせた時も、あまりの蛮行ぶりに死んだ魚のような眼をさせてしまって、本当にすまないと思っておりますよ」

「と………………とんでもございません」

 

 磨き上げられた剣のように実直だった視線が、ふぃ、とそらされる。

 

「こうして、卿らとゆっくり話ができる日が来るなんて、かつては思いもしませんでしたね。真に、この聖杯戦争は、これだから面白い」

「──はっ」

「“あちら”に召喚された私とも、ゆっくりお話したいものですが。

 アグラヴェイン卿はどうです? かつての私そのものと言えるセイバーがいると聞き及んでおりますが?」

「──いえ。我が忠義を尽くすべき王は、今まさに目の前にある御身以外にありえません。かつてと違う霊基などと、そのような物言いをなさる必要もまったくございません」

 

 アグラヴェインの言うことに、ルーラーは自分の衣服に目を落としつつ訊ねた。

 

「私の水着、ロイヤルバニーは目のやり場に困りませんか?」

「──問題ありません、我が王よ」

 

 アグラヴェインは可能な限りの速度で即応した。

 漆黒の騎士は告げる。

 

「私が……我々円卓の騎士が、水着獅子王陛下に召喚されたのは、今回で“三度目”ともなれば」

「ふふ──さすがに慣れましたか?」

「多少は」

「だったら嬉しいのですが」

 

 王にあるまじき砕けた物言いであったが、アグラヴェインは動じない。

 

「ふむ──いっそのこと、円卓の騎士たる卿らにも、水着やらパーカーやら、なんならアロハシャツに着替えてもらえば万事解決かもしれませんね?」

「それ、は…………主命とあれば否も応もありませんが」

 

 さすがの補佐役も焦りの色をこぼした。

 鉄のような無表情に、困惑の雫を一滴浮かべる忠臣の姿に、水着獅子王はくすりと微笑む。

 

「冗談です。皆が喜んで袖を通してくれなければ、意味のないことですので」

 

 アグラヴェインは惑乱する内心を制するように瞼を伏せた。

 

「ですが。卿もたまには羽目を外すように。その重い鎧を脱いで、少しばかり兄妹で戯れてみるのも、存外良いかもしれませんよ」

「……それは」

 

 さすがに答えに詰まってしまった騎士の姿に、ルーラーは任務と命令という形で辞去を許した。

 

「我が騎士、アグラヴェイン。退室し、己の務めを果たしなさい。この城の守り、任せましたよ」

 

 与えられた命令に忠烈な男は、心の裡に満ちる充実感を宥め隠しながら、玉座の間を後にする。

 肩から力を抜く。ほんの一ミリ程度の所作であったが、鋼鉄のごとき自制心の鬼にとっては、このぐらいのことでも一大事に匹敵した。

 巨大な飛行宝具たるエハングウェンの廊下を進むと、ひとつの隊伍が縦列を築いて現れた。

 エハングウェン内に存在する粛正騎士…………ではなく、獅子をデフォルメ化したぬいぐるみの“獅子の騎士”であった。

 かつて、円卓の騎士が一人であるユーウェイン卿は獅子と共に戦ったという。

 ならば我等が主君たる王が、光の獅子を従えることに、なんの不思議があるものか(いや十分に不思議である)。

 

「……ご苦労」

 

 漆黒の騎士が声をかけると、ぬいぐるみ五体はしっかりとした答礼を返して獅子王の騎士として先達のアグラヴェインに道を譲る。ファンシーな外見とは裏腹に、その動きは騎士の礼法と遜色のない立派なものであった。

 なんともなごやかな空気に、アグラヴェインは眉間を抑えながら歩を進める。

 

「ん──?」

 

 ふと、アグラヴェインは何者かの気配を感じる。

 振り返った先には、白い頭巾(フード)付きマントをかぶった魔術師の姿が。彼はそのまま廊下の角を曲がって姿を消す。

 騎士は首をひねった。

 

(なんだというのだ……この違和感は?)

 

 あの宮廷魔術師への、言い知れぬ不安や懸念は何なのか。

 王の指南役にして助言者である魔術師に対し、すすんで声をかけるのも憚れられた為、アグラヴェインはそのまま防衛任務に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 粛々と受け答え終えた王の補佐役を、ルーラーは扉が閉まるまで見送った。

 アルトリア・ルーラーは立ち上がり、玉座の(きざはし)を降りて考える。

 ランサー・ガレスによる敵情視察を完遂した直後の翌日、ガレスとはまったく別のサーヴァントによって同時多発的に各陣営へと戦いを挑む速度は、確実に冬木の陣営を圧倒しうる。無論、一番最初に敵と対峙するガレスへの負担は相当であるが、彼女も、その策を練りだした彼女の肉親も、まったく躊躇なく任務に励んでみせた。円卓の騎士の勇猛さと忠誠心は、生前のそれか、あるいはそれ以上という段階にあると見える。

 

(いずれにせよ、これで(さい)は投げられた)

 

 玉座の間の奥にしつらえた王の私室領域であるラウンジ──その中の一角に併設させた特別賭博場(カジノ・キャメロット)で、ルーラーは遊技台に腰掛け、ダイスを振るう。

 カランコロンと黄金の杯の中に出た目を見るでもなく見つめつつ、アルトリア・ルーラーは薔薇が咲くかのような微笑を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

「────もうすぐ会えますね…………シロウ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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