Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第十五話 間桐邸の激戦

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 間桐邸の戦いにおいて。

 ライダー・メドゥーサは窮地に陥っていた。

 

「くっ!」

「ライダー!」

「桜、さがって!」

 

 祈るように戦いを見守る主人に対して、ライダーはひたすらに後退を願う。

 騎兵の英霊に対し、剣を握る英霊は超然とした語調で宣告。

 

「あなたがいかなる英霊であろうとも、我が剣の前では等しく無意味です」

 

 騎士道を体現した理想の存在、そのように称すべき鋼の一刀を、ライダーは手中にある鎖で必死にしのいだ。

 英霊同士の戦闘による破壊の波濤(はとう)が、広いリビングの机や椅子や調度品を塵芥(ちりあくた)に変えていく。

 

「あいにく、手加減できるほどの器用さはない──お覚悟を」

 

 無毀なる湖光(アロンダイト)の凄烈な輝きに、類稀なる武芸の手練が加わることで、その一撃はまさに必殺の領域に位置していた。

 それにも関わらずライダーが拮抗できているのは、彼女が早々に解放した魔眼・キュベレイによって、ランスロットに石化の状態異常を与え続けているから。魔力・Bランクの騎士には判定次第で肉体を石に変じさせる。その重圧(プレッシャー)を付与される湖の騎士は、しかし、今も尚──健在。

 

「先ほどから発動しておられるその魔眼ですが、…………我がスキルのひとつ“精霊の加護”。これによって、この身は戦場にある限り、優先的に幸運を呼び寄せることができるのです」

「なるほど」

 

 つまるところ、ランスロットには石化の魔眼は通用しないということ。

 彼が騎士として戦いの場に立ち続ける限り、精霊からもたらされる幸運が、彼へくだされる石化判定において、終始有利に働き続ける。

 卑怯などと評するつもりは毛頭ないライダーであるが、戦況はいかにも彼女にとって不利なものだ。

 それでも、ライダーは抗い続ける。

 彼女の背後に、守るべき少女(マスター)がいる限り。

 

「ライダー!」

 

 桜から潤沢に送られてくる魔力の支援。怪力という魔獣の攻撃特性を発揮し、半ば強引にランスロットの攻勢をはねのけた。

 騎士は惜しみない賞賛の言葉を連ねる。

 

「その痩躯(そうく)にして、これほどの力を──なるほど妖艶にして異様な雰囲気の女性だと思っておりましたが、どうやら“魔獣”の(たぐい)であるようですね」

「…………だったらどうだというのです?」

 

 武芸のみならず、ライダーの正体に勘付く知性も飛びぬけているとは、まったくもって完璧に近い。

 ランスロットは訥々と応える。

 

「いえ。魔獣討伐は騎士の華──英霊召喚で魔獣種が召喚されることには疑問もありますが──ここからは、情け容赦なく()りにいきます」

 

 ライダーは沈黙を貫いた。ランスロットより漂う闘気が、女を相手にすることへの躊躇と遠慮が抜け落ちるのを痛感する。

 脂汗が魔眼のふちを伝うのが煩わしいが、それを(ぬぐ)う余裕すらない。

 

「桜」

 

 メドゥーサは背後の主に声を発した。

 

「ここは、私がくいとめます。貴女(あなた)はどうか、今のうちに逃げてください」

「そ、そんな、ライダー!」

 

 自分のサーヴァントへ駆け寄り縋りつこうとする桜の掌を、背後から近づいた人物が掴んだ。

 

「に、兄さん?」

「馬鹿か、おまえは! 来い! さっさと逃げろ!」

 

 間桐慎二は、巨大なたんこぶのできた額にかまうことなく、妹に避難を強く促した。

 

「ま、待って! ライダーを置いていけない! 兄さん!」

「ここにおまえがこのままいて! 何ができるってんだ!」

 

 正論であった。桜は間桐の正当な後継者だが、敵のサーヴァント(ランスロット)に通じる魔術などあろうはずもなし。

 先ほど、ライダーの大暴投によって開いた大文字の横穴に、桜をつれて逃げ込む慎二。

 メドゥーサは妹を思う彼の行動力に、無言の首肯で賛辞を贈る。

 ──これで後顧の憂いはなくなった。

 

「二人を追われないのですね?」

 

 怪物の乙女からの問いかけに、湖の騎士は少しだけ(かぶり)を振った。

 

「確かに。マスターを殺すほうがサーヴァントを打倒するよりも楽なのでしょうが、我が騎士道は無辜(むこ)の民を──年若い兄妹を(あや)めることを良しとはしない────それと、何故か個人的(・・・)に、あの桜という少女を傷つけることへの抵抗がありますので」

「……抵抗?」

「なんというのでしょうか……既視感? いつか、どこかの私が見たことがあるような……そういう奇妙な感慨があるのです。あの少女は害しにくい、というより、害してはいけない、救わねばならない対象だと、私ではない私が感じ取っているような──いえ、このような話をしてもつまりませんね。お気になさらず」

「──いいえ、それを聞いて、安心しました」

 

 メドゥーサは宝具の開帳に踏み切った。

 

「御覚悟を」

「──ッ!!」

 

 刹那、ライダーから(ほとばし)る閃光。

 身構えるランスロットの総身に、とてつもない衝撃が(はし)る。その駿足は間桐邸のリビング──天井と壁面を一瞬で破砕し、湖の騎士を中庭に叩き落としてみせた。

 

「い、今のは」

 

 防御に使った聖剣から伝わる威力の余韻に、ランスロットは愕然となる。

 ついで、ライダーが騎乗した神代の獣の姿を仰ぎ見て絶句した。

 光り輝くがごとき白馬──二枚の翼を持つ神獣の騎乗者は、愛する我が子を愛おしむ手つきで馬首を巡らせる。

 

「さぁ、いきますよ────騎英の手綱(ベルレフォーン)!!」

 

 有翼の天馬(ペガサス)を伴っての超突進。

 その途上にある対象を粉砕・撃滅する絶対の物理攻撃と化す。

 半端なサーヴァントでは防ぐことは勿論、逃亡することも不可能なライダーの真骨頂に対し、ランスロットもまた宝具を構える。

 

「────縛鎖全断(アロンダイト)・」

 

 ランスロットの両腕にある刀身より、魔力が漏出し始める。

 意識的に過負荷をかけられる聖剣の使用は、湖の騎士自身も強大な負荷を強いられるが、致し方なし。

 かの騎士王が持つエクスカリバーと起源を同じくする神造兵装は、所有することを認められた最高の騎士の手中にて、光を天に刻む。

 

「────過重湖光(オーバーロード)!!」

 

 宝具と宝具の衝突が、間桐邸のすべてを閃光のうちに包み込んだ────

 

 

 

 

 

 

 


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