Fate/Unlimited Engel's cofficient 作:空想病
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間桐邸の戦いにおいて。
ライダー・メドゥーサは窮地に陥っていた。
「くっ!」
「ライダー!」
「桜、さがって!」
祈るように戦いを見守る主人に対して、ライダーはひたすらに後退を願う。
騎兵の英霊に対し、剣を握る英霊は超然とした語調で宣告。
「あなたがいかなる英霊であろうとも、我が剣の前では等しく無意味です」
騎士道を体現した理想の存在、そのように称すべき鋼の一刀を、ライダーは手中にある鎖で必死にしのいだ。
英霊同士の戦闘による破壊の
「あいにく、手加減できるほどの器用さはない──お覚悟を」
それにも関わらずライダーが拮抗できているのは、彼女が早々に解放した魔眼・キュベレイによって、ランスロットに石化の状態異常を与え続けているから。魔力・Bランクの騎士には判定次第で肉体を石に変じさせる。その
「先ほどから発動しておられるその魔眼ですが、…………我がスキルのひとつ“精霊の加護”。これによって、この身は戦場にある限り、優先的に幸運を呼び寄せることができるのです」
「なるほど」
つまるところ、ランスロットには石化の魔眼は通用しないということ。
彼が騎士として戦いの場に立ち続ける限り、精霊からもたらされる幸運が、彼へくだされる石化判定において、終始有利に働き続ける。
卑怯などと評するつもりは毛頭ないライダーであるが、戦況はいかにも彼女にとって不利なものだ。
それでも、ライダーは抗い続ける。
彼女の背後に、守るべき
「ライダー!」
桜から潤沢に送られてくる魔力の支援。怪力という魔獣の攻撃特性を発揮し、半ば強引にランスロットの攻勢をはねのけた。
騎士は惜しみない賞賛の言葉を連ねる。
「その
「…………だったらどうだというのです?」
武芸のみならず、ライダーの正体に勘付く知性も飛びぬけているとは、まったくもって完璧に近い。
ランスロットは訥々と応える。
「いえ。魔獣討伐は騎士の華──英霊召喚で魔獣種が召喚されることには疑問もありますが──ここからは、情け容赦なく
ライダーは沈黙を貫いた。ランスロットより漂う闘気が、女を相手にすることへの躊躇と遠慮が抜け落ちるのを痛感する。
脂汗が魔眼のふちを伝うのが煩わしいが、それを
「桜」
メドゥーサは背後の主に声を発した。
「ここは、私がくいとめます。
「そ、そんな、ライダー!」
自分のサーヴァントへ駆け寄り縋りつこうとする桜の掌を、背後から近づいた人物が掴んだ。
「に、兄さん?」
「馬鹿か、おまえは! 来い! さっさと逃げろ!」
間桐慎二は、巨大なたんこぶのできた額にかまうことなく、妹に避難を強く促した。
「ま、待って! ライダーを置いていけない! 兄さん!」
「ここにおまえがこのままいて! 何ができるってんだ!」
正論であった。桜は間桐の正当な後継者だが、敵の
先ほど、ライダーの大暴投によって開いた大文字の横穴に、桜をつれて逃げ込む慎二。
メドゥーサは妹を思う彼の行動力に、無言の首肯で賛辞を贈る。
──これで後顧の憂いはなくなった。
「二人を追われないのですね?」
怪物の乙女からの問いかけに、湖の騎士は少しだけ
「確かに。マスターを殺すほうがサーヴァントを打倒するよりも楽なのでしょうが、我が騎士道は
「……抵抗?」
「なんというのでしょうか……既視感? いつか、どこかの私が見たことがあるような……そういう奇妙な感慨があるのです。あの少女は害しにくい、というより、害してはいけない、救わねばならない対象だと、私ではない私が感じ取っているような──いえ、このような話をしてもつまりませんね。お気になさらず」
「──いいえ、それを聞いて、安心しました」
メドゥーサは宝具の開帳に踏み切った。
「御覚悟を」
「──ッ!!」
刹那、ライダーから
身構えるランスロットの総身に、とてつもない衝撃が
「い、今のは」
防御に使った聖剣から伝わる威力の余韻に、ランスロットは愕然となる。
ついで、ライダーが騎乗した神代の獣の姿を仰ぎ見て絶句した。
光り輝くがごとき白馬──二枚の翼を持つ神獣の騎乗者は、愛する我が子を愛おしむ手つきで馬首を巡らせる。
「さぁ、いきますよ────
その途上にある対象を粉砕・撃滅する絶対の物理攻撃と化す。
半端なサーヴァントでは防ぐことは勿論、逃亡することも不可能なライダーの真骨頂に対し、ランスロットもまた宝具を構える。
「────
ランスロットの両腕にある刀身より、魔力が漏出し始める。
意識的に過負荷をかけられる聖剣の使用は、湖の騎士自身も強大な負荷を強いられるが、致し方なし。
かの騎士王が持つエクスカリバーと起源を同じくする神造兵装は、所有することを認められた最高の騎士の手中にて、光を天に刻む。
「────
宝具と宝具の衝突が、間桐邸のすべてを閃光のうちに包み込んだ────