Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第十六話 柳洞寺の熱戦

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 一方。

 柳洞寺にて戦端を開いたキャスター・メディアも、ガウェインの途方もない強さに舌を巻いていた。

 

「これだけ手を尽くして……傷ひとつ付けられないとはね……」

 

 太陽の騎士は、宙を舞い後退するするキャスターの魔術や竜牙兵をまったくものともしない。

 メディアが結界に費やしていた魔力、それすらも駆使して大魔術を行使しているにもかかわらず、騎士の身体を薙ぎ払い削ぎ落すどころか、その歩みを妨げることすら、できない。

 ガウェインは前進する。

 斬り捨て、引き裂き、捻じ伏せ、打ち砕く。

 剣士(セイバー)のサーヴァントとして、ガウェインは完全無欠な強者たりえた。あまりにも尋常でない力の権化でありながらも、その穏やかな美男子の顔つきに、(おご)(たかぶ)りの気配は絶無である。

 

「これほどの魔術は、私が生きていた時代には存在しない。『おそらく神代の魔術師であろう』という我が妹(ガレス)の評価は正しかったようですね」

 

 何事かを勝手に理解するガウェインの様子に、メディアは鼻白んだ。

 

「キャスター殿。女性を、それも年上であろう方を手にかけるのは真に不本意ですが──我が王への忠節は揺らぐことはない。この手はいかなる醜行にも染めることを辞さない──どうか、ご覚悟されるがいい」

「……覚悟? 覚悟、ですって?」

 

 年上の女扱いされたことへの憤懣はなかった。

 それよりも何よりも許せない大言と壮語を吐かれたことが、メディアの逆鱗にふれたのだ。

 

「そう。私からまた奪うつもりね……気に入らない。──気に入らないわ!

 金髪で眉目秀麗な男なんて、目の前にしただけで吐き気がする!」

 

 いつかの誰かを思い出すメディアは、渾身の魔力砲を騎士の全方位から解き放ち、蒸し焼き同然という形に押し包む──が、やはりガウェインは無傷。防御した素振りすらない。彼の対魔力性能は、大儀式や儀礼呪法をもってしても、傷をつけることは難しかった。

 それでも、メディアは(わら)う。

 特大の魔術障壁を幾重にも張り巡らし、中空に浮遊するキャスターは、狡猾な表情を浮かべて太陽の騎士を嘲笑する。

 

「覚悟するべきなのはあなたの方よ。どんなに強力なサーヴァントであろうとも、魔術で使役される傀儡(かいらい)という事実は(くつがえ)らない!」

 

 何事かをするつもりだと直感したガウェイン。

 今までこれといった有効打をもたなかったキャスターであるが、その語気に宿る力強さは警戒に値して余りある。

 

「受けなさい! 我が宝具を!」

 

 言って、彼女が虚空に展開した魔力陣から無数の光弾が紫電を纏って、斉射。

 さらに、騎士が斬り砕き続けた無数の竜牙兵、その残骸を集積し編成し作り上げた巨人兵が、騎士の総身を叩き伏せるがごとく異形の骨の掌を伸ばした。

 ガウェインは(いぶか)しんだ。

 これのどこが宝具だというのか。

 己を包み込む魔力の練度と総量は驚嘆と畏敬に値する暴力の塊であるが、これらが一切通用しないことは、先刻承知済みのはず。事実、魔力の砲熱も、竜牙兵の巨腕も、(ことごと)くガウェインの前に消滅を余儀なくされる。

 キャスターの他の狙いとは何か。

 一拍一瞬の思考に身を沈めたガウェインの死角に、────枯れ果てた亡霊のごとき男が突っ込んできた。

 

「な──」

 

 あまりにも静かな歩法と存在感に、百戦錬磨を誇る最強の騎士が不覚をとった。

 葛木宗一郎をガウェインの死角に運んだのは、メディアが無数に放った魔力の光弾──その影に、キャスターのマスターは見事に隠れ潜むことで、このような蛮行を可ならしめた。

 ガウェインの刹那の思考にわきあがったものは、二つ。

 ──ただ普通の人間が、何故サーヴァント同士の戦いに参じるのかという当然の疑問。

 ──魔力など何も感じられない人間が、マスターであるはずがないという冷静な判断。

 騎士の二つの思考を刈り取るがごとく、空虚な殺人鬼は騎士の剣を素手の一撃で叩き伏せた。

 

「ばッ!」

 

 馬鹿な、という言葉が紡がれるよりも早く、殺人兵器として完成された拳撃の軌道が、的確に冷酷に、人体の急所を抉り貫いた。

 

(み、見事です!)

 

 鮮やかに過ぎる殺しの手技──敵の酷烈無比な殺人術への賞賛を送る暇もなく、背後に転移してきたキャスターの気配を感じる。

 

 (ザン)、という音色。

 

 対魔力のスキルや、白銀の鎧と新緑のマントすらも貫通して突き立てられた凶刃────宝具“破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)”。

 メディアが逆転勝利を確信した。

 此度の戦争で最強の駒を使役できたという安堵。至上至福の笑みを浮かべた魔女の身体を、宗一郎が疾風(はやて)の速度で抱き上げ、その場から一瞬の内に退避する。

 

「な! そ、宗一郎さ──ま?」

 

 年頃の生娘(きむすめ)のように紅潮するメディアであるが、マスターが緊急脱出を強行した意味を知る。

 

「っ──なるほど。これが、あなたの宝具……本当の切り札というわけですね」

 

 燦々と陽光をうけて輝く聖剣──ガウェインの放った一閃から、宗一郎とキャスターは辛くも逃げ果せたのだ。

 悠々と剣を構え直すガウェインの様子に、危機的な色は見いだせない。

 

「この短刀の呪は、魔術破り──なるほど、確かにこれは、私でなければ(・・・・・・)危険な宝具でした。我が王の采配は、(まこと)に的確です」

 

 ルールブレイカーによる魔術契約の完全破棄──その兆候が、何ひとつとして確認できなかった。

 

「そ、そんな、馬鹿な」

 

 メディアが畏怖と絶望に硬直する掌で、宗一郎の胸に縋りつく。

 ガウェインは、おもむろにルールブレイカーの歪んだ刃を抜き取り、大地に放り落した。

 ついで、彼は自分の腰帯を指し示す。

 

「私が身に着けた装備品であるこちらは、“ベルシラックの帯”。

 EXランクに属するこれ(スキル)は、我が友「緑の騎士」からの贈り物です」

 

 ベルシラックの帯。

 アーサー王の宮殿に現れた「緑の騎士」は、いわゆる「首切りゲーム」をガウェインにもちかけた。誰もが怯え恐れた狂戯に、円卓の騎士の栄誉をかけ、ガウェインは果敢にも挑んだ。

 円卓屈指と称される太陽の騎士によって、容易(たやす)く首斬られた騎士。

 だが、「緑の騎士」は、おもむろに斬られた首を持ち上げ、一年後に同じことをガウェインに施すことを言い残し去っていった。

 時は流れ、ガウェインは旅の途中に、とある城の城主・ベルシラックと友誼を結ぶ。その後ガウェインは(くだん)の「緑の騎士」と再会し、「返しの一撃」を受けて立った。今度は太陽の騎士の首が斬られる番だと。ガウェインは騎士として、運命を従容と受け入れた。

 彼の命運もついに尽きようかという時、「緑の騎士」は二度も斬首の斧を寸止めし、三度目にしてようやくガウェインの首に傷をつけるだけにとどめた。

 実は。この「緑の騎士」の正体は、直前にガウェインと友誼を結んだベルシラックその人であり、二人は互いの度量と礼節、そして武勇を称え合った──その際に贈られたのが、ベルシラックの帯とされている。

 

「我が友からの贈り物──“ベルシラックの帯”によって、私は自身への危機的な状況に一度だけ耐えうる能力を授けられた。たとえそれが、対魔術兵器であろうとも例外ではないということ。……付け加えて申せば、私を完ぺきに奇襲すべく、万全の準備と布陣と策略を整えた、そこまでの“時間”も、命取りだったようです」

「……じかん?」

 

 そう言って、硬直を余儀なくされるメディア。

 茫然となる彼女を優しく抱き下ろした宗一郎──彼の腕時計を、彼女はふと目で追った。

 無言を貫く宗一郎は、太陽の騎士の身に起こりつつある変化を、つぶさに察知し始める。

 

「貴女の宝具が発動する間際、時刻は“午前九時を過ぎた”のです」

 

 それまでにも尋常でない力を(かも)しだしていたガウェイン。その総身が、まるで太陽のごとき赫灼(かくしゃく)とした光輝を帯びていく。今までとは比較にならぬほどの、力の充溢(じゅういつ)

 彼の有するスキル──“聖者の数字”EX──が、発動してしまった。

 太陽の騎士は(おごそ)かに告げる。

 

 

 

「────いざ、すべてを白日の下に」

 

 

 

 太陽のごとき聖剣の輝きが、柳洞寺の境内(けいだい)に満ちみちる────

 

 

 

 

 

 

 

 




「サーヴァントのスキルが、破戒(ルルブレ)できないのは変じゃね?」という意見もありましょうが、「ベルシラックの帯」「聖者の数字」が“EX”ランクスキルってことを考慮し、今回はガッツが的確に働いた……ということで、ご納得いただければ幸いです。
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