Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第十七話 山門での戦い

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 一方。

 柳洞寺の山門にて。

 もはや三桁を軽く超える刃の交錯を終えて、二人の英霊は同時に距離をとった。

 

「はん。結構やるじゃねぇか!」

 

 赤い騎士は白銀の邪剣を肩に担いで呼吸を整える。

 アサシン・佐々木小次郎と戦闘を繰り広げる騎士・モードレッドは、兜のうちにある表情を快活の色に染める。

 

「こんなド辺境、極東の田舎剣士なんざ、俺たちの故国(ブリテン)──円卓の騎士に()するわけもねぇと思っていたが、その認識を改めてやってもいいかもしれねぇな?」

「フ。貴様こそ、だ」

 

 小次郎は、断ち切られた着物の裾に視線を落とす。

 傷こそ負いはしなかったが、モードレッドの剣技の質と量が、徐々に佐々木小次郎のそれを上回りつつある証左と言える。

 それに加え──小次郎は柳洞寺一帯を包む結界を一瞬だけ見遣った。

 

(女狐の奴。かなり苦戦しているな?)

 

 あれほど濃密かつ重厚な山の結界に、揺らぎが生じている。

 さらに言えば、マスターから佐々木小次郎に流れる魔力についても吝嗇(ケチ)る必要に迫れるほどであった。

 キャスターは山門を易々と突破したガウェインとの戦闘により、これまでに用意できた魔力を蕩尽(とうじん)しかねない勢いで消耗し始めている。

 

(まぁ無理もない。あのガウェインとやら、かなりの手練れだ。魔術師程度には荷が勝ちすぎるというもの)

 

 それでも、キャスターは神代の魔女であり、佐々木小次郎を召喚し使役するマスターに他ならない。

 加勢に来いと命じられれば馳せ参じるのもやむなしだが、目の前の赤い騎士・モードレッドを自由にするだけである以上、戦略的にはどうしようもない。

 今になって「なるほど」と得心を得る。

 モードレッドとガウェインの会話を思い出した。

 ──「わぁってるよ! 足止めしてりゃいいんだろ! ったく、とっとと行きやがれ!」──

 

(いずれにせよ。この身は、与えられた務めをまっとうするより他になし)

 

 万が一、彼女が敗北し消滅するに至ったとしても、別段悔いはない。

 彼が望むのは、己が認める最高の剣士と交わす剣戟──モードレッドとの剣花の(しのぎ)合いは、今のところ十分すぎるほどに申し分なかった。

 

(欲を言えば、先日夜偵に現れた槍兵の娘や、あのガウェインとやら──他の英霊たちとも、あいまみえたいところであったが……)

 

 内心で結論と決断をくだした侍は、臆面もなく微笑んだ。

 

「確か、モオドレッドと呼ばれていたか……おぬしこそ、当初の猛牛がごとき突撃をやめてからは、随分と剣の冴えが増したようだ。ただ感情のまま暴れ狂うだけの獣でないことが知れて、私も嬉しいぞ」

「は! たりめぇだろ! 俺はまぎれもなくセイバーだぜ? 狂戦士(バーサーカー)のようなゴリ押し野郎と勘違いしようものなら、魔力放出でブッ潰してやったところだ!」

 

 それは恐ろしいなと肩をすくめるアサシン。

 

「ふむ──しかし、そうなると妙ではないか?」

「は? 何がだよ?」

「さきほど、ここを通られた貴公の仲間、ガウエイン殿、かの騎士もセイバーではないのか?」

「おう。──それが?」

「私は寡聞にして……さらには特殊な召喚をされた影響とやらで、聖杯戦争のことはあまりよく理解はできておらんが、それでも、同じくらす(・・・)の英霊が呼び出されるということが、そのような事態があるものなのかと、ふと思ってな?」

「は。なんだ、そんなことが気になったのか? くだらねぇな!」

 

 モードレッドは剣を石段に突き立て、天気の話でもするような軽口で語った。

 

「俺たち円卓の陣営には、俺とガウェイン、あと不貞野郎(ランスロット)、合計で三人の剣士(セイバー)がいる」

「ほう? 剣使い(セイバー)が三人?」

「そうさ。何せ俺たちは、別におまえらのように、『冬木の大聖杯』とやらから“召喚されたわけじゃあねぇんだ”。

 俺たち、円卓の騎士を召喚し、この地に現界させたるは我が父上……“水着獅子王”にして“裁定者(ルーラー)”であるブリテン王、アルトリア・ペンドラゴンなんだからよ」

 

 騎士の告げた説明を聞いて、侍は一言。

 

「ふむ? ──よくわからんということだけは、わかった」

 

 そのような返答がされるとは思っていなかったモードレッドは、軽く前のめりに転げそうになる。

 

「ったく……おまえ本気で状況が分かってねぇのかよ……まぁいい。どちらにせよ、これから起こる結果は、変わるわきゃねぇ」

 

 言って、赤い騎士は初めて「兜」を外した。

 宝具としての機能が解除され、兜が鎧に格納された後に顕れたのは、金髪碧眼に勝気な笑みを刻んだ、華奢で可憐にすぎる少女の面貌。

 そのような外見を目にした佐々木小次郎は、少しばかり意表を突かれた様子で眉を寄せた。

 

「……女子(おなご)か?」

「チッ! ──テメェ、俺を女扱いしようもんなら、容赦なくブチ殺すぞ?」

「む──そうか。相済まぬ。これほどの剣の使い手に対して、男か女かなどと、斯様(かよう)に小さきことへ(こだわ)るなど──いや実に無粋であったな。許されよ、セイバー」

「おう! わかりゃいいんだよ、わかりゃあ!」

 

 暴力的に微笑むモードレッド。

 彼女の手中で、燦然と輝く王剣(クラレント)が、赤黒い血の色に染まって、醜く歪む。

 

「“向こう”も、いよいよ大詰めって感じだ──こっちも全開でいかせてもらうぜ?」

 

 振り返るまでもなく、まるで地上に太陽でも発生したかのような光輝が、柳洞寺の境内から立ち上がっていた。

 異様な事態であることは火を見るよりも明らかだが、小次郎の意中にあるのは、目の前の敵との(いくさ)──モードレッドの赤雷を纏う光剣──尋常なる勝負の結末のみである。

 

「たのしかったぜ、冬木のアサシン!」

 

 必殺必滅の暁光を振り下ろすモードレッド。

 英霊の宝具の開帳に対抗するには、やはり宝具をおいて他になし。

 

「こちらもだ、モードレッドとやら──」

 

 宝具の発動は、ほぼ同時。

 雷光で山林を焦がす王剣に対し、小次郎は長刀“物干し竿”を静かに構える。

 彼の宝具は、神域にまで錬磨され研鑽された「秘剣」──必殺必中を誇る太刀筋は、空を飛ぶ燕を斬るとも称される。故にその名は──

 

「“我が麗しき父への(クラレント・ブラッド)”────!」

「“燕返(つばめがえ)”────!」

 

 激発寸前だった両者の間に、疾風迅雷のごとき朱槍の嵐が割って入った。

 

 

 

「──お楽しみなところ申し訳ねぇが、ちょっとばかし、邪魔させてもらうぜ?」

 

 

 

 戦地にあっても勇猛果敢な戦士の布告。

 突如、山門の戦いに参陣した存在に対し、騎士と侍は刃を向けた。

 

「ちっ────ナニモンだ、てめぇ!」

「……我等の勝負を邪魔立てするか?」

 

 モードレッドと小次郎の苛烈な視線を受けて、“槍兵(ランサー)”は飄々(ひょうひょう)(わら)う。

 

「俺個人としても、文字通り横槍なんてあんまりしたくはなかったが、一応、俺んとこのマスターの指示でな。止めに入らせてもらった……」

 

 青い装束に蒼い頭髪。

 血のように赤い瞳に、誇り高き武人として、戦場における好敵手を探し求める色を宿した魔槍の持ち主。

 

 冬木のランサー、クー・フーリン──参陣。

 

 そして、

 

 

 

「はいはい。ちょっとそこ通らせてもらうわよ──」

 

 

 

 漆黒のファー付きコートを着流し、ポケットに両手を突っ込んだ銀髪の美女が、石階段を一段一段のぼり進む。

 モードレッドと小次郎が、怪訝そうに顔を(しか)めるのを見て、彼女は告げる。

 

 

 

「邪魔する奴は、燃やすわよ(・・・・・)?」

 

 

 

 現れたサーヴァント、彼女の名は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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