Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第十九話 救援 -1

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 間桐邸の庭の植え込みに隠れ潜みながら、桜と慎二は事の成り行きを見守っていた。

 

「ラ……ライダー」

 

 震えた声で自分のサーヴァントを呼ぶ少女。

 彼女たちの視線の先で、メドューサは倒れ伏している。

 宝具と宝具の激突を制したのは、湖の騎士ランスロットと相なった。

 

「どういうことだよ。なんであいつ、ライダーの宝具をまともに受けて、立ち上がれるんだよ?」

 

 思わず震え声で誰にともなく問いただした慎二。

 

 騎英の手綱(ベルレフォーン)は、ランクA+を誇る超級の宝具。

 使用中はライダーのすべての能力値が1ランクアップし、その効果と威力はランクA+に相応しいものであり、ほとんど無敵と言っても過言ではない。

 それを、他ならないライダー自身が理解していた。

 にもかかわらず、彼女は敵である騎士の足元で、四肢を投げ出していた。

 

「い、いったい、なに──が、──っ」

 

 メドゥーサの魔眼が捕らえた、激突の瞬間、その最後の光景──

 ランスロットはいかなる手段を用いたのか、ライダーの宝具に耐えてみせた。

 まるで瞬間的に、彼の防御ステータスに「何らかの変更が加えられた」かのような、そのような印象を受けた。

 宝具の超突進を受け切った騎士の一刀によって、天馬は斬り散らされ、ライダーはこうして地面に転がされることに。

 

「“この力”を、このような序盤に使うのは気がひけたのですが、あなたほどの魔獣──否──英霊が相手では致し方ない。私の誇るAランク宝具を凌駕する宝具を行使された以上は」

「く……っ!」

 

 なんとか這い上がろうともがくライダーだが、劇痛に邪魔され全身が言うことを聞かない。もはやその身に、土を掴むほどの余力すらなかった。

 

「ここまでです、冬木のライダー──

 せめて、これ以上の痛苦なきように、取り図らせていただく」

「ッ……」

「やめて!」

 

 今にも首斬られようという時に、場違いなほどか弱い少女が飛び出してきた。

 ランスロットが剣を振り下ろすのを迷う間に、桜はサーヴァントの前に割り込みながら、ライダーの治癒を試みる。

 

「い、……いけ──ない。逃げ──桜」 

「いや! ライダーを消させなんてしない!」

 

 直接ライダーの傷口に触れ、今まで以上の魔力をサーヴァントに送る桜。

 それでも、彼女の負傷の度合いでは、万全に回復するには及ばなかった。

 

「どきなさい、ライダーのマスター」

 

 怯えすくむ少女の背後に突き付けられた、無毀なる湖光(アロンダイト)の切っ先。

 

「騎士として、無辜(むこ)なる民を傷つけるは恥ずべき悪徳。──なれど。あなたが我々の「敵」であるというのな」

 

 ら、と言い終える前に、ランスロットの鎧に小石が飛んできた。カン、という小さな音が、眉目秀麗な騎士の面を歪ませる。

 二つ三つ、石くれが騎士の甲冑を汚していくが、もちろん、この程度の攻撃でどうにかなるようなサーヴァントなど皆無だ。

 ランスロットは、視線を庭の植え込みの方へ。

 そこにいる人物は、お手本のようなへっぴり腰で、そこいらからかき集めた(つぶて)を投げ続けている。

 

「この、この、この! ほら、こっちだ! 僕が、おまえの、相手に、なってやる!」

「……」

 

 湖の騎士は無言で、その攻撃とも呼べない投石を受け続ける。 

 

「ひぇ…………ぼ、僕の妹に手ぇ出して、た、ただで済むと、お、おお、思うなよ! このッ!」

 

 騎士の鋭く険しい視線を受けて、怯懦(きょうだ)に震えた腕では、まともに標的へ当てることもできない。

 ランスロットは肩をすくめ、慎二の放った小石を払いのけるように弾き返した。

 途端、亜音速で返球された投石が、少年の足元を盛大に抉り弾き飛ばす。

 

「ひ、ひぃぃ!」

 

 せっかく集めた石ころをすべて取り落し、無様に尻餅をつく、失禁しかけという様子の慎二。

 ガタガタと歯を震わせ、涙目で騎士を見あげる様は、命の危機に瀕した仔犬よりも憐れを誘った。

 騎士は一歩ずつ、この場にふさわしくない存在──なんの魔力も武力ももたない少年の方へ歩み寄る。

 

「妹を守ろうとする行為と勇気は買いますが──所詮は無力だ。()く去りなさい。さもなければ」

「ひ、ひひ…………へ、へへ、へへははは! あッひゃははははは!」

 

 まるで(きょう)したかのように、尻を地面につけたまま笑う慎二。

 なにがそんなにおかしいのかと問いただすよりも先に、ランスロットは直感した。

 騎士が振り返った先で、桜がライダーに肩を貸して、逃げの一手に出ているのが見えた。だが、ライダーの高身長を、華奢な少女はうまく運べていない。

 

「ッ、時間稼ぎのおつもりか? 無益なことを」

「逃げろ、桜!」

 

 叫んだと同時に、慎二はランスロットの背後にしがみついた。満身の力を込めて、足止め役に徹する。

 

「き、貴様!」

「お、おお、おまえが、本当に本物の騎士だっていうなら! 僕のような“一般人”を殺すなんて、そんな恥ずかしいこと、す、するわけないもんなァ!」

 

 これまでのやり取りで見抜いていた。

 必死に妹とライダーの脱出する時間を稼ぐ慎二。

 ただ縋りつく腕を引きはがすという行為だけでも、ランスロットの身体機能では骨折の類は免れないだろう。先ほどのような宝具の展開を行ってライダーと敵マスターを追撃しようものなら、その余波だけで間桐慎二の身体は消し炭のように炎上する。だが、そのようなことはあってはならない。ランスロットは湖の騎士。円卓一の勇武を称えられし英傑が、無関係な一般人を焼殺したなどと、騎士としてあるまじき行為だ。何より、彼の主君は決して許してはくれないだろう。

 だからこそ、慎二は食らいついた。

 こうする以外の方法で、桜たちが無事に逃げられる方法が、どうしてもわからなかった。

 故に実行した。

 ただ、妹たちを護るために。

 

「逃げろ桜ぁ! 僕にかまうなァ!」

 

 兄の声を背にしながら、少女は進み続ける。

 桜もまた必死にライダーの体重を支え、確実にランスロットから距離をとっていく。

 兄が稼いだ時間を無駄にすまいと、懸命に足を前へ前へ動かしていく。

 

「っ、がんばって、ライダー、あと、少し!」

 

 そんな間桐家の抵抗を前に、ランスロットは脱帽という面持ちで、固く決意した。

 

「“逃がしはしない”」

 

 無毀なる湖光(アロンダイト)を消したランスロット。

 慎二が腰にまとわりついた状態で行える戦闘手段を、彼は冷静に採択した。

 ──“騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)”。

 彼が目を付けたのは、慎二がさんざんランスロットを妨害し誘引すべく投げ続けた、足元の(つぶて)

 足甲の先で器用に蹴り上げ、騎士の手中に掴まれたただの石ころが、彼の『宝具』に変換される。

 騎士の白い魔力を帯びた小石は、湖面のごとく澄んだ輝きを放ち始めた。

 

「お、おい、なにしてる、よせ、おい、やめろよ、おい!」

 

 騎士の手中で起こったことを間近に見た慎二は、直感で理解した。

 ただの石礫(いしつぶて)など投げたところで、サーヴァントには一切傷を与えられないが──『宝具』ともなれば話は別。

 騎士の振り上げる腕を両腕で掴もうとしたが、手遅れだった。

 

「やめろぉ──!!」

 

 投剣のごとく音もなく、一瞬で放たれた投石。

 狙いすまされた弾道は、弱りきったライダーの背骨を貫き、心臓を穿つ軌跡を描く────はずだった。

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■──────────!!!!」 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、この世のものとは思えない絶叫が、突如、空から降ってくるように現れた。

 そして、まさしく空から降ってきた黒い巨人が、宝具と化したはずの礫弾(れきだん)を、強靭無比な斧剣の一撃で大地に叩き落とした。

 

「な!」

 

 唐突に乱入してきた狂戦士の姿に驚愕し、瞠目するランスロット。尋常でない衝撃波と風圧で、その場に踏みとどまることができたのは彼だけだ。

 

「っ!」

「な、なに!?」

 

 消耗したライダーと桜が前のめりに倒れ、

 

「んなぁあああああああああああああああああッ!!」

 

 慎二は盛大に間桐邸の壁に激突して、綺麗なY字(ローマ)を作ることに。

 轟音と土煙がやむのと共に、狂戦士はゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

「ふぅ、間に合ったぁ────危ないところだったわね、桜」

 

 

 

 爆心地(ばくしんち)仁王立(におうだ)つ巨兵には似つかわしくない、(おさな)(いとけ)い少女の声。

 それもそのはず。

 その声の主は、狂戦士の肩に担がれた主人(マスター)に他ならなかった。

 そして、その少女を、雪の妖精とも見まがう存在を見知っているのは、この場にただひとりだけ。

 

「え、イ、イリヤ、さん?」

「うん、久しぶりね、桜。それと────はじめまして。桜のサーヴァント?」

「さ、桜。あの少女は、いったい?」

 

 ライダーの紡ぐ当然の疑問。

 そちらを背にして、イリヤとバーサーカーは事情を簡潔に伝える。

 

「桜たちがピンチだって聞いたから、バーサーカーと一緒に、超特急でやってきたの。もう大丈夫だから、安心して」

「あ、ありがとうございます、イリヤさん──」

 

 深く頭をさげる桜。

 

「馬鹿な──何故、襲撃があること察知した──誰が、何者が、あなたがたをここへとやって来させた? ──我等の王の策を、此度の攻勢計画を、誰の口から聞かされた? ッ────答えよ! 狂戦士(バーサーカー)のマスター!!」

 

 ランスロットは怒髪天(どはつてん)()くがごとき形相で訊問(じんもん)する。

 それに対してイリヤは、

 

「さぁね?」

 

 けんもほろろに一蹴(いっしゅう)してみせた。

 

「まー。とりあえず。もうこれ以上、あなたたちの好きにはさせないからっ!」

「■■■───!」

「ほざけ!」

 

 ランスロットは聖剣(アロンダイト)を抜き払い、死の嵐のごときバーサーカーへ挑みかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ワカメ「……ぼ、僕、今回、割と頑張ったよな? ……がんばったよね?」ガクッ
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