Fate/Unlimited Engel's cofficient 作:空想病
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間桐邸の庭の植え込みに隠れ潜みながら、桜と慎二は事の成り行きを見守っていた。
「ラ……ライダー」
震えた声で自分のサーヴァントを呼ぶ少女。
彼女たちの視線の先で、メドューサは倒れ伏している。
宝具と宝具の激突を制したのは、湖の騎士ランスロットと相なった。
「どういうことだよ。なんであいつ、ライダーの宝具をまともに受けて、立ち上がれるんだよ?」
思わず震え声で誰にともなく問いただした慎二。
使用中はライダーのすべての能力値が1ランクアップし、その効果と威力はランクA+に相応しいものであり、ほとんど無敵と言っても過言ではない。
それを、他ならないライダー自身が理解していた。
にもかかわらず、彼女は敵である騎士の足元で、四肢を投げ出していた。
「い、いったい、なに──が、──っ」
メドゥーサの魔眼が捕らえた、激突の瞬間、その最後の光景──
ランスロットはいかなる手段を用いたのか、ライダーの宝具に耐えてみせた。
まるで瞬間的に、彼の防御ステータスに「何らかの変更が加えられた」かのような、そのような印象を受けた。
宝具の超突進を受け切った騎士の一刀によって、天馬は斬り散らされ、ライダーはこうして地面に転がされることに。
「“この力”を、このような序盤に使うのは気がひけたのですが、あなたほどの魔獣──否──英霊が相手では致し方ない。私の誇るAランク宝具を凌駕する宝具を行使された以上は」
「く……っ!」
なんとか這い上がろうともがくライダーだが、劇痛に邪魔され全身が言うことを聞かない。もはやその身に、土を掴むほどの余力すらなかった。
「ここまでです、冬木のライダー──
せめて、これ以上の痛苦なきように、取り図らせていただく」
「ッ……」
「やめて!」
今にも首斬られようという時に、場違いなほどか弱い少女が飛び出してきた。
ランスロットが剣を振り下ろすのを迷う間に、桜はサーヴァントの前に割り込みながら、ライダーの治癒を試みる。
「い、……いけ──ない。逃げ──桜」
「いや! ライダーを消させなんてしない!」
直接ライダーの傷口に触れ、今まで以上の魔力をサーヴァントに送る桜。
それでも、彼女の負傷の度合いでは、万全に回復するには及ばなかった。
「どきなさい、ライダーのマスター」
怯えすくむ少女の背後に突き付けられた、
「騎士として、
ら、と言い終える前に、ランスロットの鎧に小石が飛んできた。カン、という小さな音が、眉目秀麗な騎士の面を歪ませる。
二つ三つ、石くれが騎士の甲冑を汚していくが、もちろん、この程度の攻撃でどうにかなるようなサーヴァントなど皆無だ。
ランスロットは、視線を庭の植え込みの方へ。
そこにいる人物は、お手本のようなへっぴり腰で、そこいらからかき集めた
「この、この、この! ほら、こっちだ! 僕が、おまえの、相手に、なってやる!」
「……」
湖の騎士は無言で、その攻撃とも呼べない投石を受け続ける。
「ひぇ…………ぼ、僕の妹に手ぇ出して、た、ただで済むと、お、おお、思うなよ! このッ!」
騎士の鋭く険しい視線を受けて、
ランスロットは肩をすくめ、慎二の放った小石を払いのけるように弾き返した。
途端、亜音速で返球された投石が、少年の足元を盛大に抉り弾き飛ばす。
「ひ、ひぃぃ!」
せっかく集めた石ころをすべて取り落し、無様に尻餅をつく、失禁しかけという様子の慎二。
ガタガタと歯を震わせ、涙目で騎士を見あげる様は、命の危機に瀕した仔犬よりも憐れを誘った。
騎士は一歩ずつ、この場にふさわしくない存在──なんの魔力も武力ももたない少年の方へ歩み寄る。
「妹を守ろうとする行為と勇気は買いますが──所詮は無力だ。
「ひ、ひひ…………へ、へへ、へへははは! あッひゃははははは!」
まるで
なにがそんなにおかしいのかと問いただすよりも先に、ランスロットは直感した。
騎士が振り返った先で、桜がライダーに肩を貸して、逃げの一手に出ているのが見えた。だが、ライダーの高身長を、華奢な少女はうまく運べていない。
「ッ、時間稼ぎのおつもりか? 無益なことを」
「逃げろ、桜!」
叫んだと同時に、慎二はランスロットの背後にしがみついた。満身の力を込めて、足止め役に徹する。
「き、貴様!」
「お、おお、おまえが、本当に本物の騎士だっていうなら! 僕のような“一般人”を殺すなんて、そんな恥ずかしいこと、す、するわけないもんなァ!」
これまでのやり取りで見抜いていた。
必死に妹とライダーの脱出する時間を稼ぐ慎二。
ただ縋りつく腕を引きはがすという行為だけでも、ランスロットの身体機能では骨折の類は免れないだろう。先ほどのような宝具の展開を行ってライダーと敵マスターを追撃しようものなら、その余波だけで間桐慎二の身体は消し炭のように炎上する。だが、そのようなことはあってはならない。ランスロットは湖の騎士。円卓一の勇武を称えられし英傑が、無関係な一般人を焼殺したなどと、騎士としてあるまじき行為だ。何より、彼の主君は決して許してはくれないだろう。
だからこそ、慎二は食らいついた。
こうする以外の方法で、桜たちが無事に逃げられる方法が、どうしてもわからなかった。
故に実行した。
ただ、妹たちを護るために。
「逃げろ桜ぁ! 僕にかまうなァ!」
兄の声を背にしながら、少女は進み続ける。
桜もまた必死にライダーの体重を支え、確実にランスロットから距離をとっていく。
兄が稼いだ時間を無駄にすまいと、懸命に足を前へ前へ動かしていく。
「っ、がんばって、ライダー、あと、少し!」
そんな間桐家の抵抗を前に、ランスロットは脱帽という面持ちで、固く決意した。
「“逃がしはしない”」
慎二が腰にまとわりついた状態で行える戦闘手段を、彼は冷静に採択した。
──“
彼が目を付けたのは、慎二がさんざんランスロットを妨害し誘引すべく投げ続けた、足元の
足甲の先で器用に蹴り上げ、騎士の手中に掴まれたただの石ころが、彼の『宝具』に変換される。
騎士の白い魔力を帯びた小石は、湖面のごとく澄んだ輝きを放ち始めた。
「お、おい、なにしてる、よせ、おい、やめろよ、おい!」
騎士の手中で起こったことを間近に見た慎二は、直感で理解した。
ただの
騎士の振り上げる腕を両腕で掴もうとしたが、手遅れだった。
「やめろぉ──!!」
投剣のごとく音もなく、一瞬で放たれた投石。
狙いすまされた弾道は、弱りきったライダーの背骨を貫き、心臓を穿つ軌跡を描く────はずだった。
「■■■■■■■──────────!!!!」
次の瞬間、この世のものとは思えない絶叫が、突如、空から降ってくるように現れた。
そして、まさしく空から降ってきた黒い巨人が、宝具と化したはずの
「な!」
唐突に乱入してきた狂戦士の姿に驚愕し、瞠目するランスロット。尋常でない衝撃波と風圧で、その場に踏みとどまることができたのは彼だけだ。
「っ!」
「な、なに!?」
消耗したライダーと桜が前のめりに倒れ、
「んなぁあああああああああああああああああッ!!」
慎二は盛大に間桐邸の壁に激突して、綺麗な
轟音と土煙がやむのと共に、狂戦士はゆっくりと立ち上がった。
「ふぅ、間に合ったぁ────危ないところだったわね、桜」
それもそのはず。
その声の主は、狂戦士の肩に担がれた
そして、その少女を、雪の妖精とも見まがう存在を見知っているのは、この場にただひとりだけ。
「え、イ、イリヤ、さん?」
「うん、久しぶりね、桜。それと────はじめまして。桜のサーヴァント?」
「さ、桜。あの少女は、いったい?」
ライダーの紡ぐ当然の疑問。
そちらを背にして、イリヤとバーサーカーは事情を簡潔に伝える。
「桜たちがピンチだって聞いたから、バーサーカーと一緒に、超特急でやってきたの。もう大丈夫だから、安心して」
「あ、ありがとうございます、イリヤさん──」
深く頭をさげる桜。
「馬鹿な──何故、襲撃があること察知した──誰が、何者が、あなたがたをここへとやって来させた? ──我等の王の策を、此度の攻勢計画を、誰の口から聞かされた? ッ────答えよ!
ランスロットは
それに対してイリヤは、
「さぁね?」
けんもほろろに
「まー。とりあえず。もうこれ以上、あなたたちの好きにはさせないからっ!」
「■■■───!」
「ほざけ!」
ランスロットは
ワカメ「……ぼ、僕、今回、割と頑張ったよな? ……がんばったよね?」ガクッ