Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第二十話 救援 -2

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 柳洞寺にて。

 

「────いざ、すべてを白日の下に」

 

 騎士の布告する言葉に、魂の底から戦慄するメディア。

 彼女は、宗一郎の手首の裾を掴み、恐怖に震えるしかない己を自覚する……自覚せざるを得ない。

 もはや完全に勝ち筋が見えない相手、絶対的光輝を(まと)う強力なサーヴァント、太陽の騎士に抵抗しようという気概さえ消失してしまった。

 

「に……逃げて、ください。宗一郎、さま」

 

 そう告げはするものの、メディアは彼の衣を掴む指先の力を、緩めることができない。

 

「ここは私が喰い留めます──あなただけは──どうか!」

 

 捨てたくない。

 捨てられたくない。

 やっと手に入れた幸福(しあわせ)を、己の手で放り出す勇気が、どうしてもキャスターには湧きあがってくれなかった。

 そうやって文字通りに手をこまねいている間にも、ガウェインは確実に歩を刻み、その暴力的な輝煌(きこう)の圧力を近づけていく。

 

「──おまえが逃げるというのであれば、私も逃げよう」

 

 思わず心臓が温かい早鐘を打った。

 ────もはや聖杯戦争などどうでもよい。

 この人と共に生きるためならば、いくらでも逃げ続けようと思える。

 しかし、

 

「逃げられるとは思われないことです。

 我が聖剣“転輪する(エクスカリバー)勝利の剣(・ガラティーン)”の刃からは、何人(なんびと)であろうとも(のが)れられはしない」

 

 敵は容赦なく振り下ろされる鉄槌のごとき声で、告げる。

 ただでさえメディアにとっては攻略の難しい対魔力スキルを有する剣士(セイバー)が、今では謎のスキル──“聖者の数字”によって力が三倍にまで膨れ上がっている。

 これで宝具など展開されれば、キャスターとそのマスター──メディアと宗一郎には、万に一つの可能性すら残されない。

 それは厳然たる事実であった…………だが、

 

「む?」

 

 ガウェインが足を止めて振り返った。

 何事かとメディアが勘繰るよりも先に……寺の山門から爆音が響き渡った。

 

「こ、今度はなにっ!?」

 

 メディアは思わず身構えた

 これ以上の敵襲など対処不能である。

 弱気に駆られるキャスターを守るように、宗一郎が即座に彼女の前へ。

 しかし、それは敵襲とは…………一応ではあるが…………違っていた。

 

「チッ、くそが!」

「モードレッド?」

 

 ガウェインと共に柳洞寺の攻略を命じられ出陣した同輩にして異父妹が、大量の炎熱から逃れるように境内へと転がり込んできた。

 叛逆の騎士は不快感を露わに叫んだ。

 彼女の真っ赤に染まった意識は、遅れて山門をくぐり抜ける黒コートの女性サーヴァントに向けられる。

 

「ナメやがって! いったいドコの英霊だよ、女ァ!」

「教える義理はないし、知ってどうなるわけでもないでしょ? ──アンタらがここで、燃えカスになる運命に変わりないんだから」

「んだとぉテメェ! 上等だ、ゴラ!」

 

 荒々しい口調と共に燦然と輝く王剣(クラレント)を振り上げるモードレッド。

 先ほど発動し損ねた宝具の輝きが、柳洞寺の空を赤々と照らし貫く。

 

「三秒後! どっちが燃えカスになっているか! こいつで試してやろうじゃねぇか!」

「待ちなさい、モードレッド! 状況を説明しなさい!」

 

 ガウェインに肩を掴まれても、赤雷を纏う邪剣の輝きは衰えない。

 

「放せ! 優等生野郎! あの女ァ! 俺たちの事を、何より! 俺の父上のことを侮辱しやがったんだぞ!」

「そりゃあそうでしょ?

 ──『こんな狂犬を野放しにするなんて、アンタの飼い主(マスター)はどうかしてるんじゃないの~?』」

 

 一言一句違わぬ侮蔑の言葉を舌に乗せた、銀髪の乙女。

 

「っだと、ゴラァッ! ブッ殺してやる!」

 

 火薬庫に火がついたような有様(ありさま)(てい)するモードレッド。

 そんな騎士の無様を、ケラケラと腹を抱えて嗤いながら、謎の乱入者は呪わしい色の“旗”を振るってみせる。

 もはや怒り狂う獅子のごとく暴れだす異父妹を、ガウェインはどうにかこうにか抑え込む。

 

「安い挑発に乗ってはなりません。頭を冷やしなさい────でないと、拳骨(ゲンコツ)ですよ?」

 

 太陽の騎士の声に宿る熱が、凍り付きそうな温度に転化する。

 さすがに、日没まで無敵状態のガウェインの物理攻撃を受けるような事態は、たとえ叛逆の騎士であっても回避して当然の災禍であった。

 

「……ッ、くそが」

 

 一気に大人しくなったモードレッドを手放して、ガウェインは新たな敵と対峙する。

 

「何者でしょうか? 我が方の斥候(せっこう)からの報告には、あなたのようなサーヴァントは存在しませんでしたが?」

 

 ガウェインの妹──ガレスが捕捉できた冬木の英霊は、六体まで。

 弓兵(アーチャー)との戦闘後に行き会った、アルトリア・ペンドラゴンたちが七騎目という扱いだと思っていたが、どうやらガレスの──もっと言えばルーラーである水着獅子王が感知しえない場所に、このサーヴァントは隠れていたか、あるいは隠されていたと考えるべきか。当世風の衣装──ファー付きの黒いコートという出で立ちは、彼女の出自や時代を見事に看破させないカモフラージュの役目を果たしている。

 太陽の騎士は瞬きの間に考える。

 

(前回から生き残っている“天草四郎”の仕業でしょうか? しかし、いかに()ルーラーとはいえ、そのような魔術的措置を講じられるものでしたでしょうか?)

 

 脳内で推論を組み立てる騎士は、とりあえず敵の出方を見ることを選ぶ。

 

貴女(あなた)は聖杯戦争の英霊……いずこかの時代で活躍された女性だと見て、間違いないでしょうか?」

「はん? 人様にものを尋ねるときは、まず自分からって教わらなかったわけ? 円卓の騎士様?」

「おお、これは失礼を────私は、水着獅子王、アルトリア・ペンドラゴン陛下の配下、太陽の騎士、ガウェインと申します。レディ、貴女(あなた)のお名前を(わたくし)めにお教え願えませんか?」

「言うわけないでしょ、バーカ」

 

 つれなくあしらう銀髪の乙女。

 あまりにも粗忽かつ横暴な遣り取りに、太陽の騎士は納得する。なるほど、モードレッドの短い堪忍袋の緒がぶち切れるのも、やむなしだ。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 ここへ来て、趨勢(すうせい)を見守るしかなかったキャスターが声をあげる。

 

「何よ? アンタも私に質問?」

「山門にいたアサシンは? 小次郎はなにをやってるのよ!」

 

 彼女の左手には、今も令呪の輝きがある。

 そのため、アサシンが存命であることは確かだが、こんな珍客の通行を許すとはどういうことなのか。

 

「ああ。あのサムライなら今、冬木のランサーと戦ってる真っ最中よ。尋常な勝負を邪魔したことへの……詫び寂び、だっけ? 日本語難しいわね?」

「な、え、冬木のランサー、え、昨日のランサー? え、違うの? え、なに、どういうことよ?」

「ま、とりあえず。

 私らがマスターから受けた命令は、アンタらの救援だから──焼かれたくなかったら、自分の大事なマスターと一緒にさがってなさい」

 

 簡潔に来訪の目的を告げた乙女は、即座にキャスターへの興味を失う。

 

「で、どうすんの? 太陽の騎士様?」

「──どう、とは?」

「このまま私に焼かれたいなら、その宝具でもなんでもブチ込んできなさいよ。────我が旗は、その(ことごと)くを返り討ちにするだけ」

 

 ガウェインは黙考する。

 意気軒昂、自信満々に勝気な笑みを張り付ける女の真意をはかる。

 

(我が宝具を返り討ちに? ハッタリか何かか? それとも本当に、そのような反撃手段(カウンター)を? ……ありえない──と言いたいところですが、これはなにしろ聖杯戦争(・・・・)

 

 相手がいつ、どこの、どのような英霊なのか分からない以上、様々な可能性が考えられる。

 実にもどかしいが、これもまた戦の醍醐味として、太陽の騎士は甘受するほかなかった。

 何より、ガウェインたちには最後の切り札にして、反則級の贈り物(・・・)を授けられている──この程度の不利を跳ね除けることもできなければ、王へ仕えるに値しない。

 騎士の本懐は、艱難辛苦の道程にあって、障害と恐怖に敢然と立ち向かうことなり。

 

「いいでしょう──我等の主君、騎士の王が持つ神造兵器の姉妹剣──我が誇りたる“転輪する勝利の剣(ガラティーン)”に、敗北はない──」

 

 太陽の騎士は聖剣を構えた。

 嘲笑(あざわら)う銀髪の乙女もまた旗を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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