Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第二十四話 士郎と聖女とアルトリアたち

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「こ、これは!」

 

 マッケンジー一家と別れ、冬木教会を目指し市街地を訪れたルーラーは目を(みは)る。

 

「なんてかぐわしい香り──目にも鮮やかで楽しい──これが、現代のお茶菓子ですか」

 

 聖女はディスプレイに並ぶショートケーキの類に釘付けとなった。まるでルビーの宝石のごとき果実までもが、工芸品のごとき色彩の精緻ぶりを遺憾なく発露している。

 

「はわわわ……」

 

 まるで年端もいかぬ少女のような反応に、店員も、道行く人々ですら、彼女の微笑ましさに相好を崩している。

 

(はっ!? いけません、いけません! 己の使命と役割を忘れては、ルーラー失格です!)

 

 そう自制を呼びかける内心とは裏腹に、どうしても現代の甘味料への興味は尽きない。

 否。甘味だけではない。

 市井(しせい)のそこここから、食欲を誘う匂いが満ち溢れ、聖女ジャンヌ・ダルクの好奇心をくすぐるのだ。

 ベーカリーの焼きたてフランスパン。レストランのふわふわオムライス。定食屋の和食メニュー。スーパーの前では試供品のタコさんウィンナーを受け取る児童の列が。

 

(って、いけませんってば!)

 

 ジャンヌはルーラーの知覚能力でもって、己のとらえた冬木市内の“異常”を察知している。

 教会に向かう予定を変更して、こうして食欲の坩堝をさまよう理由がそれだ。

 ひとつところに群れなすサーヴァントの気配──数は四つ。

 セイバーが一体に、ランサーが二体。遠方から近づいてくるのは、霊体化しているがアーチャーの気配だ。

 

(やはりこの聖杯戦争はおかしい。何故、このような?)

 

 はやる気持ちを抑え、少し早足に石畳を蹴り歩く。

 ──感知しているサーヴァントの数が、著しくそぐわない。ランサーが二体召喚されているというのは「大戦」という状況から推して知るべしだが、それが敵対するでもなく、まるで同じ陣営であるかのごとく連れ立つなどあるものだろうか? ルーラーが到着するより前に、マスター権の奪取なり、サーヴァントの叛逆があったなど、到底考えにくいことだが。

 疑念は彼女自身の胸中で灰色の渦を巻くが、とにかく、現状を把握せねば話にならない。

 そして、商店街の魚屋の前で、ジャンヌはついに目標を捕捉する。

 見える人影は、四人。

 一人の少年の周りを、三体の見目麗しい女性──当世風の身なりをし、大量の買い物袋を両手にかかえている──英霊が、あろうことか取り囲んでいるさまが見えた。

 

「まったく、(オルタ)のやつ。シロウの買い出しを放置して、一人で帰るなどと」

「そういってやるな(セイバー)。前のようにシロウの財布をせびらなくなっただけ、良しとしよう」

「ふん。もっとも、あれが道草を()み、騒ぎを起こさないという保証もないが」

「大丈夫だよ、三人とも。オルタは『約束する』って言ってくれてたし。それに、皆と一緒に持ってきていた着替えにも袖を通してくれてたから、そんな物騒なことにはならないんじゃないかな?」

「お待ちなさい、貴女方!」

 

 彼女らが一般人めいた少年と何事を話していたか聞こえていなかったジャンヌは、正面から食って掛かった。

 

「英霊ともあろうものが! 一人の少年を取り囲んで、何をしているのです!」

「え?」

「は?」

「ん?」

「何?」

 

 硬直する四人。

 ルーラーは少年に近づき、その手を掴んで自らの腕の中に引き寄せる。

 

「な、んっ!」

「シロウッ!」

 

 尋常でない気迫と力量を垣間見せたジャンヌ・ダルク。

 まるで見えない剣を突きつけるがごとく現れた金髪の乙女の挙動に、一瞬対応が遅れ、刹那の間に甲冑を身に纏おうと買い物袋を放しかけたセイバーの肩を、ランサーアルトリアが制する。

 

「な、(ランサー)?」

 

 彼女らの後を継ぐように、ランサーオルタが問いただす。

 

「貴殿の素性は知らぬが、我等の正体が英霊と見抜いた慧眼から見て──聖杯戦争のルーラー殿──かな?」

「然様です! ならばこそ、一般人への乱暴狼藉というルール違反は見過ごせ」

「あ、あのう」

 

 ほとんど胸に押し付けるようにしていた少年の口から訴えがたい陳情が漏れる。

 

「俺が、その、この三人の、マスター……なんですけど?」

「……………………はい?」

 

 赤面する少年に聞き返したジャンヌ。

 振り返れば、三人の英霊たちも、いちように頷きをもってジャンヌを見据えていた。

 聖女は自身こそが狼藉者になっていた事実に気づく。

 

「しし、失礼しました! でも、えと、なん、あれぇ?」

 

 ジャンヌの腕と胸から解放された士郎をセイバーが受け止める。

 おかしいどういうことだと不可視の疑問符を頭上に浮かべるルーラー。

 

「さ、三騎の英霊と、え、契約? そんなこと、どうやって? ええ、ええええ?」

「えーと、衛宮くん。どういう状況、これ?」

 

 さらに振り返ると、霊体化した弓兵を背後に控えさせつつ、買い物リスト通りのものを買ってきた凛が合流する。

 セイバーたちもどういう状況なのか説明しあぐねる中で、士郎は一言ルーラーに言い添えねばならない事実(こと)があった。

 

「えーと、一応言っておくけどさ。俺、他にもあと四人──全部で七人の英霊と、契約、してるんだけど?」

 

 少年が告げた事実に、ジャンヌは絶句し、

 

「えええええええええええええええええええええええええっ!?」

 

 ついで情けない叫びを奏でるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ちょうど、同時刻。

 

「…………」

「…………」

 

 美味しそうな香り漂うハンバーガーショップの前で、とある二騎の英霊が相対していた。

 ひとりは金髪の乙女。

 もうひとりは銀髪の乙女。

 当世風のパーカーを身に纏う金髪の乙女が(ただ)した。

 

「なんだ、貴様。私に言いたいことでもあるのか?」

 

 横柄(おうへい)にたずねるセイバーオルタに対し、

 

「────ほんと、サイアク」

 

 ジャンヌオルタはバーガーショップの紙袋を抱えつつ、これ見よがしに嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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