Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第二十五話 それぞれの帰陣

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 冬木市、上空。

 飛行宝具・エハングウェンにて。

 

「申し訳ありません、我が王!」

 

 戦いから帰陣し、広間にて片膝をついて(おもて)を伏せる、四人の騎士。

 ──“湖の騎士”ランスロット、“太陽の騎士”ガウェイン、“叛逆の騎士”モードレッド、そして“哀しみの子”トリスタン。

 唯一、頭なんてさげられるかとふんぞり返っていた異母妹(モードレッド)を、半ば強引に後頭を掴んではなさない太陽の騎士が、一行を代表し、むざむざと撤収してきた非を詫びる。

 

「此度の速征によって、冬木陣営のサーヴァントを掃滅できなかった失態、まことに弁解の余地も無き」

「よい、ガウェイン卿」

 

 玉座にて、傍らにアグラヴェインとガレスを控えさせるルーラー・アルトリア。

 鎧甲冑に身を包む騎士たちの主君は、豊満かつ艶美の極致ともいうべき総身に「バニー」の衣装を纏いつつ、その威を一切損なうことなく王者の微笑をうかべ見せた。

 

「貴公らの此度の働きには、十分に納得と満足を得ている。──いや。正直に申しましょう。此度の出征で、冬木陣営を刈り取ることは、そこまで考えていなかったのです。アグラヴェイン卿を攻撃の(かなめ)から外した時点で、この事態も考慮しておりました」

 

 驚きをそれぞれの面貌に浮かべる騎士たち。

 とくに、モードレッドは不平不満の相をこれでもかといわんばかりに眉根に刻んだ。

 

「はァ? それってどういうこった? いくら父上でもふざ痛ァ!?」

 

 バシバシバシという快音が、彼女の頭頂を乱打し、口を強引に(つぐ)ませた。

 王の言葉を塞ぐ狼藉者への刑罰としては軽かったが、ルーラー・アルトリアはむしろ、ガウェインたちの挙をたしなめる。

 

(けい)ら。そう熱くならずともよい。モードレッドの言行は致し方なき事。何より──これは、計画の全容を明かさぬ、私の(とが)です。どうか、同胞同士で相争わぬよう、お願いします」

「な、何を!」

「我が王!」

「そのようなことは断じて!」

 

 忠臣達は腰を浮かせて狼狽する。

 自分たちの王に咎などあるわけがないと、そう声を紡ぐ直前に、

 

「────失礼いたします」

 

 騎士たちの集う広間に、高く澄んだ声と、杖を突く美音が響く。

 

「ご報告にあがりました、我が王」

魔術師(キャスター)、例の件は?」

「はい。“(とどこお)りなく”」

 

 ガウェインやアグラヴェインたちが見やった先にいるのは、ルーラー・アルトリアが従える宮廷魔術師だ。白い頭巾(フード)付マントを目深にかぶり、その全貌は明らかにされていない。王の御前(ごぜん)にあって、己の(かお)をさらさないというのは無礼千万な態度であるものの、キャスターと水着獅子王は互いにまったく気にせず言の葉を交わす。

 

「わかりました。それと、私が察知するに、冬木の此度のルーラーが、“彼”と接触しましたが?」

「問題ありません。その方面についても、術をかけてあります」

「よろしい。では引き続き、“彼”の件を任せます」

「かしこまりました。それでは」

 

 たったそれだけのやりとりを終えて、魔術師は杖を突いて退出していく。

 騎士たちは一様に疑問を懐いた。

 そんな彼らの内心を表出するように、モードレッドが独言を吐く。

 

「…………あの魔術師(ジジイ)、あんなカンジだったっけ?」

 

 実に、騎士たち全員が(いだ)いている違和感。

 自分たちが知っている宮廷魔術師は、騎士王の師ともいうべき(マーリン)のはず。

 しかし、どうにも雰囲気というか、気配というべきか、何かが自分たちの認識とズレがある──そういう印象だ。

 

「では皆、此度の出征大儀であった。次の命があるまで、各自十分な静養を」

 

 王の粛々とした宣告に対し、円卓の騎士たちは跪拝(きはい)して従った。

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 冬木市、衛宮邸。

 

「ここが、あなたがたの、衛宮士郎くんのお(うち)、ですか?」

 

 うんと頷く士郎。

 視線の先には古めかしい屋根瓦の門構え。

 振り向けばセイバーたちと共に横にいるのは、長い金髪を三つ編みに結った美しい少女──彼とセイバーたち、ついで凛と赤い弓兵が商店街でばったり遭遇した、冬木における第五次聖杯戦争に召喚されたルーラー。

 この異様かつ異常な聖杯戦争における中立役を果たすべき存在、

 であるが、

 

「お、おかしいです。

 ルーラーの私でも、このような事態は理解不能です」

 

 数分前。

 ルーラーである彼女──真名、ジャンヌ・ダルク──は、衛宮士郎と出会った。

 それと同時に、ただ一人のマスターによって召喚され契約を果たした七騎のサーヴァント──円卓の騎士王、アルトリア・ペンドラゴン──そのうちの三騎であるセイバー、ランサー、ランサーオルタとの邂逅を果たした。

 

「うぬぬ。どう考えてもおかしい……ステータスも真名も読める……読めはしますが、どういう理屈であなた方が召喚されているのか、この(ルーラー)の看破能力でも、よくわからないなんて」

 

 そう正直に告げる女性は、己の不甲斐なさを本気で嘆いた。

 ルーラーは、聖杯戦争における絶対的な権能を有するサーヴァントである。どこにどのサーヴァントが存在し、その強さや真名にいたるまで、あらゆる情報を一瞬で網羅する“裁定者”である。槍も出していない英霊をランサーだと看破し、戦ってもいないのに英霊の真名やそれに連なる伝承、神話、英雄譚をも読み解ける。それがルーラーだ。──だというのに、こと“衛宮士郎”という存在が成した偉業……ないし()業については、本当に、彼女は何の情報も得られなかった。持ち得なかった。だからこそ、セイバーたち英霊三騎に取り囲まれている少年が、彼女たちの仕えるマスターだと理解することは、初見ではまったく不可能であったのだ。

 

「ふむ……ルーラーであれば、我々が(おちい)っているこのおかしな状況について、何らかの解を得られるかとも思っていたのだが?」

「うぐ」

 

 ランサーオルタの至極真っ当な意見に、ルーラー(ジャンヌ)は胸にグサリと刺さるものを感じ、一歩よろめく。

 

「言ってやるな(ランサーオルタ)。ルーラー殿にも解せぬ事態が、我々と我等のマスターの身に降りかかっている。その事実を認められただけでも、良しとせねば」

(セイバー)の言う通りです。それだけ、此度の聖杯戦争はおかしい、ということに違いはないでしょう」

 

 残るアルトリア二人からの弁明(フォロー)に苦笑するしかない中立役。

 

「しかし、本当に良いのか? ルーラーが我等の拠点を、シロウ(マスター)の邸宅を訪れるというのは?」

 

 ランサーオルタの指摘は(もっと)もだ。

 ルーラーは公平性を期すために、どの陣営にも参画せず、よほどの事態に進行しなければ協調も助力もありえない。

 しかしながら、今回の一件──衛宮士郎の状況については、さすがにルーラー自身もどう裁定すべきか迷う、迷って迷って、ルーラーの監督下におくべき重要案件であると結論できた。

 何しろ、衛宮士郎は半人前以下の魔術師であり、まったく意図せずに“七騎のサーヴァント”を同時に召喚・契約できたという超級の異常性が、ルーラーには……否、ルーラーだからこそ、看過(かんか)できなかった。

 

「士郎くんは、おそらく此度の聖杯戦争における重要なピースです──これを放置することは許されない、然るべき存在が、然るべき時に導ける位置にいなければならない、と、私は思います」

 

 そういう名目で、衛宮士郎をルーラーの保護下に置く……という体裁で、彼女は士郎の家へと転がり込むことに相成った。

 

「にしても、飯まだ食ってないというのは、さすがにどうかと思うけど」

「ぐ。こ、ここまでの旅費がかさんでしまってですね。──教会につけば、それなりに融通していただけるとは思いますが──すいません、お邪魔してしまって」

「いいって、いいって。どうせみんなの分の昼飯もつくらないとだし」

 

 今さら食客がひとり増えようが関係のない士郎。

 彼の言葉に甘えて、彼らの買い物袋のひとつを握り運ぶルーラーは、恥ずかし気に頬を染めた。

 

「で。私もまたご相伴(しょうばん)にあずかるわけね」

「いやだったか、遠坂?」

 

 そう気負うことなく聞いてくる(マスター)に対し、遠坂凛もしようがなしに買い物袋片手に肩をすくめる。

 

「別に。衛宮くんには今回の件……一応、助けられた借りができちゃったし。ま、一時休戦ってことで」

「そうか。助かる」

 

 本気で安堵したように微笑まれて、たじろぐ凛。

 

「ただいまー」

 

 衛宮邸の門を越え、石畳を歩み、玄関扉を横に動かす士郎。

 そして、

 

「おかえりなさい、マスター」

「やっと戻ったか、マスター」

「おや? (セイバーオルタ)はどうしました、マスター?」

「おっかえりなさーい、シロウ!」

「お……おかえりなさい……先輩」

 

 セイバーリリィ、ライダーアルトリア、アーチャーアルトリア、イリヤ、そして桜の順に出迎えられる士郎。

 衛宮邸は、家の主人というべき少年を迎え入れ、さらに、史上空前の来客数を収容しつつ、その扉を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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