Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第三話 冬木教会にて

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「……なぁ、遠坂」

「──なに、衛宮君?」

「これってさ……いろいろと、その……」

「ええ。実に怪しい集団よね。いまの私たち」

 

 夜の街を渉猟し、非行の道を歩む若者グループ、などとは絶対に形容しがたい珍奇な光景だ。

 レインコートを身に帯びた乙女の数は、七人。

 

「マスターの配慮は、その、誠にありがたいことなのですが」

 

 セイバーは気恥ずかしそうに視線を落とす。

 

剣の私(セイバー)よ。何を恥じ入る必要がある? マスターが我等のために考案した、市井に溶け込むための装いを信じよ」

槍の私(ランサー)……わかってはいるが、我等が聖杯から与えられる常識的に見ても、この状況は」

「ふん。最優と謳われる身でありながら、まさか怖気づいているのか?」

「だ、だまれ黒い私(オルタ)! 私は常識にてらした話を!」

「つまらんことで口論するな私たち──まぁ、王たる者が一堂に会してしまえば、多少の不和は免れぬことではあるがな」

 

 ランサーオルタに取り成され、剣の騎士二人は睨み合うのみで互いを牽制する。ちなみにではあるが、ランサー二人の騎乗していた駿馬(しゅんめ)二頭──白馬ドゥン・スタリオンと黒馬ラムレイについては、彼女らの主武装の一部として霊体と化しているらしい。彼女たちが武装すれば、二頭は聖槍と同様に展開される。

 

「も、申し訳ありません、マスター。私たちが、とんだご迷惑を」

「リリィ。謝るのは、セイバーたちを霊体化できない……ちゃんとしたマスターじゃない俺の方だから、気にしないで──って、これ何度目かな?」

 

 幼い騎士に苦笑で返す士郎。

 そんな少年の善意に、リリィは頭を振った。

 

「ちゃんとしたマスターじゃないなんて、そんなことはありえません」

「その通り!」

 

 水着の上にレインコートという姿が、いろいろな方面で物議を醸しそうなアーチャーも、士郎の自虐に物申した。

 

「もっと自信を持ってください。あなたは間違いなく、我等全員のマスター! 何ら恥じることはありません!」

「あ、ありがとう……アー、チャー」

 

 手をガシッとつかんで激励するアルトリアのアーチャーに、士郎はぎこちなく笑う。

 彼の視線の先に飛び込んでくるものを考えれば無理もない。レインコートの前面から覗き見える女性の慎ましさ、白い肌の描く曲線美の様は、水着のデザインの秀逸さと相まって、非常に目のやり場に困るというもの。

 

「なにニヤニヤしてんのよ」

「べ、別にニヤニヤなんて!」

「いいや、してるぞ。我がご主人様はこういうのが好みか?」

「ししし、してないって!」

 

 凛やメイドオルタにまで指摘され、アーチャーはようやく己の無意識に行っていた痴態を自覚した。

 慌てて胸元を抑えるが、士郎が即座に「ごめん」と謝るので、彼女もぎこちなく笑うしかない。

 

「ほら、急ぐわよ」

 

 強く促す凛。

 士郎と凛が一般的な冬物を着込んでいる後ろを、雨合羽を纏った集団がついていくというのは、いろいろな意味で悪目立ちする。

 こんな行列を、市内を巡回するパトカーなどに見咎められれば、職務質問は免れまい。

 

「やっぱり、何人か家に残して来た方が良かったんじゃないの?」

「でも、誰を残しても角が立ちそうな状況だったし。かと言って、誰も連れて行かないっていうのも、問題なんだろ?」

「まぁね。一応は聖杯戦争は始まっているわけだから、サーヴァントを一人もつけずに出歩くマスターなんて、獲物にしてくださいって言ってるようなものよ」

「そういうものなのか?」

 

 確認するように振り返る士郎に、セイバーは生真面目に応じた。

 その隣を歩くオルタ、ついてくるランサーたち、リリィとアーチャーとライダーについても、自分のマスターから離れることには消極的であった。

 

「マスターの安全は何よりも優先されます。我々サーヴァントは、貴方の魔力によって現界を可能にしているのです」

 

 士郎は実感に乏しい相槌を打ちかけるが、オルタの鋭い眼光にあてられ背筋をただす。

 

「そんなに重要な役割なのか…………いや、だったらなんで、俺みたいな未熟者なんかがマスターに?」

「さあね。しかも七騎を同時召喚なんて、異常事態にも程があるっての」

「遠坂には無理なのか?」

「あのねぇ、──私もそれなりの魔術師であるという自覚はあるけど、それでも一騎を召喚するだけでも、いろいろと大変だったんだから」

「凛のサーヴァント──彼、あの赤い弓兵(アーチャー)ですね」

「そう。ウチの弓兵(アーチャー)

 

 凛はつい先日の失敗(うっかり)を思い出したように顔を顰める。

 士郎は唐突に思い出す。

 

弓兵(アーチャー)で思い出したんだけどさ。遠坂たち、放課後に学校で誰かと戦ってたよな? グラウンドでさ」

「え……ああ、ええ、そうだったわね」

 

 あの現場に居合わせたせいで、士郎は追われる羽目になった。

 追いつかれ心臓を一突きされ、それを誰かが助けてくれた。綺麗な赤い宝石を残して。

 士郎はそれが誰だったのか、覚えていなかった。ほとんど臨死体験みたいな状況だった上、日の落ち切った校内は暗かった。

 

「あの槍兵(ランサー)、やっぱり衛宮君の家に?」

「ああ、襲われた。『──仕留めそこなってしまって、ごめんなさい』って。強化の魔術で何とか打ち合ったけど、まるで歯が立たなかった」

「当然です。生身の人間で、サーヴァントに拮抗できるはずがありません。無謀も良いところです」

「むしろ、よくあの程度の手傷で済んだと評すべきだろうな。──蛮勇にも程があるぞ、マスター」

 

 セイバーとランサーに窘められ、士郎は頭を掻くしかない。

 

「ふーん……直接戦った身としては、どんな感想? あの槍兵について、どう思う?」

 

 士郎たちのやり取りを見ていた凛は、霊体化している己のサーヴァントに話しかけた。

 

『随分と優しく、高潔な槍兵(ランサー)だったよ。『私は、敵情視察が任務ですので』と、まるで本気を出していなかった』

「そう。

 随分となめられたのか、随分と慎重だったのか──きっと後者ね──と、着いたわ」

 

 冬木市の郊外、丘の上の教会に。

 

「────?」

「セイバー?」

「ああ、いえ。なんでもありません」

 

 ふと足を止めた少女に首を傾げる士郎であるが、セイバーは粛々と歩を刻む。他のアルトリアたちも然り。

 ゆっくりと鉄扉を押し開け、敷地内へ。──全員で(・・・)

 西欧諸国に匹敵する本格的な造りの礼拝堂は、実に荘厳な空気を内包していた。

 十字架を掲げる祭壇に向けて並べられた信徒席には、夜だというのに人の影があった。

 それも三人。

 一人は黒髪の女性。

 一人は銀髪の女性。

 一人は白髪の青年。

 その礼拝堂の奥に、来訪者が来るのを()っていたかのように、聖杯戦争の監督役は佇んでいた。

 

「再三の呼び出しに応じぬと思えば、変わった客を連れてきたな。──凛」

 

 凛は信徒席から興味深そうに振り返ってくる女性二人を見止める。

 黒髪の女性は女帝のごとき怜悧な微笑みを浮かべ、銀髪の女性は随分とガラの悪い復讐者じみた目つきで、凛の視線を睨み返す。

 

「────まだ礼拝中? 時間を改めたほうがいいのかしら?」

「気にするな。ここにいる者は皆、聖杯戦争の関係者だ」

 

 神父は実直かつ厳格な口調とは裏腹に、彼はどこか愉しむかのように士郎の相貌を眺める。

 

「彼が七人目というわけだな?」

「ああ……そのことなんだけど……どうなんだろ?」

「ほう? 凛にしては珍しく歯切れが悪い。

 何やら、訳あり、というところか?」

「見てもらった方が早いわね──入って」

 

 扉を完全に押し開けて、士郎と凛は連れてきた七騎の乙女を招き入れる。

 七人は一斉にフードを下ろした。 

 

「ほう? これは……」

 

 さしもの神父も瞠目するに値する光景であった。

 彼女たちの典雅な美貌と壮麗な鎧姿に──ではない。

 礼拝堂の入り口付近に並び立つ女騎士たち、七騎すべてがサーヴァントであるという事実に、神父は微笑みを鋭くする。

 

「なるほど。こちらが感知していた通りだったというわけだな」

「教会の『霊器盤』ね」

 

 凛は事も無げに告げてみせた。

 

「さすがに、こんな異常事態は私の裁量を超え過ぎてるから、監督役であるアンタたちから、いろいろと教えてやってちょうだい」

「いいだろう。(うけたまわ)った」

 

 監督役は祭壇から降りて、士郎のもとに歩み寄る。

 

「少年、君の名は?」

「──衛宮士郎」

「──衛宮」

 

 その名を聞いた瞬間、神父の笑みはさらに深まった。

 士郎は思わず足をひきたい衝動に駆られるが、なんとか踏みとどまる。

 

「君は、此度の聖杯戦争におけるマスターであるということで、間違いないかね?」

「それは──正直よくわからない。マスターというものがちゃんとした魔術師がなるべきものだとしたら、俺は相応しいものだとは言えない」

「そのようだな」

「けれど」

 

 士郎はセイバーたちを振り返った。

 

「けれども俺は、俺をマスターだと言ってくれる彼女たちのために、ちからになりたいと思う。でも、俺は聖杯戦争をこれっぽっちも理解していない。だから、監督役に詳しいことを聞きたいと思って、いまここに来ている」

「なるほどな」

 

 何事かを納得した神父は、迷える子羊を導くがごとき口調で、言葉を連ねた。

 

「あらためて自己紹介しよう。私は言峰綺礼。聖杯戦争の監督役として、聖堂教会より派遣された者だ。そして」

 

 言峰は信徒席の最前列に腰掛けていた白髪の青年を振り返って示した。

 

「彼は、私と共に聖堂教会より派遣された──監督補佐だ」

 

 青年は立ち上がり、その日に焼けた肌色を来訪者たちにさらしてみせる。

 

「はじめまして、衛宮士郎君……私は」

 

 彼は名乗った。

 

 

 

 

 

「天草四郎と申します。以後、お見知りおきを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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