Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第五話 監督役と補佐役、あとアッシリアの女帝

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 冬木教会。

 新たな聖杯戦争の参加者となった少年への説明を終えた神父たち。

 七騎のサーヴァントを従え、戦う決意を固めた衛宮士郎の背中を見送り、二人は微苦笑をこぼし続ける。

 

「随分と変わった少年(マスター)でしたね」

 

 衛宮士郎への一通りの説明を終えた言峰綺礼は、補佐役という体で共に行動している青年──天草四郎に向き直った。

 

「確かに。七騎のサーヴァントと契約を結んでいながらも、その異常性に無自覚でいられるとは」

「それもですが」

 

 天草は苦笑ぎみに告げる。

 

「ただ巻き込まれた、巻き込まれてしまったという割に、すでに覚悟は十分という印象を受けました。時臣氏のご息女──凛からそれなりの手解き、聖杯戦争に関する情報を教授されたとしても、あれほど見事なまでに『戦う』と口にするのは」

「まったくの異常だな。齢十数年で至れる境地ではない。血気盛んなサーヴァントに脅されたという単純な話でもなさそうだ」

 

 あの“衛宮”に拾われたが故の成果、というだけでは説明がつかない異常者である。

 

「十年前の災厄から生き延びたことも関係しているのであろう」

 

 そう自説を唱える美声は、暗闇のごときドレス──ではなく、現代日本でもよく見られる冬服のタートルネックを纏う、退廃的な美女のもの。

 

「前回の戦争──否──あの水着獅子王の陣と、聖杯を巡り争った“大戦”の末に起こった大災害。あれは我の眼から見ても酸鼻を極めた」

「確かに。不測の事態が重なったとは言え、我等冬木の陣営が敗北し、あの災害が起こった──止められなかった」

 

 天草は痛恨の思いを瞳の底に沈め、微笑みの相をより強める。

 

「十年前、私がもっとうまく立ち回っていれば、あるいは違う結果が得られたのかもしれない」

「そのような戯言(ざれごと)を──我がマスターの口が述べるものではない」

()マスターですよ、セミラミス」

 

 アッシリアの女帝は不愉快げに眉を顰めた。

 

「やはり……おまえと同じように受肉なんぞすべきではなかったか」

「おや? 私は、今のあなたとの関係も気に入っているのですが?」

 

 セミラミスは思わず顔を背ける。表情を隠すのには覿面な効果があったが、耳の先に関してはその限りではなかった。

 堂々と惚気(のろけ)る補佐役にして信仰の先達に対して苦笑しつつ、聖杯戦争の監督たる神父は訊ねた。

 

「天草。()ルーラーである君の知覚できたサーヴァントの数は?」

「衛宮君が今夜召喚した七騎、我等冬木の陣営が揃えた七騎、冬木のどこかに潜んでいる円卓の陣営が七騎──合計で二十一騎というところです」

 

 ちなみに、受肉したサーヴァントである天草四郎とセミラミス……もう一人いる前回の生存者(サーヴァント)は除外されている。

 

「……聖杯戦争のルール上、ありえることなのか? サーヴァントが二十一騎などと」

 

 セミラミスは思わず訊ねた。

 

「冬木の大聖杯でも、そのリソースで賄えるのは十四騎まででしょうね。一勢力に七騎のサーヴァントが属することで生じる安全装置として」

「獅子王の陣営、あの円卓の騎士たちは前回と同様に、獅子王の召喚によるもの。あの獅子王がもつ聖杯の力に他ならない」

「とすると、あの衛宮の(せがれ)が七騎を召喚…………できるわけがないのだったな」

 

 そう。

 一人の魔術師では、サーヴァントを二体使役するだけでも、魔力の消耗に耐えられず自滅するだけとされる。七騎分の魔力など途方もない。

 それを可能にしている衛宮士郎という少年は、未熟なその身にどれほどの魔力が蓄えられているというのか。

 

「しかも召喚されたサーヴァントが、全員同一人物の霊基違いというのは、さすがに聞いたことがありませんね」

「真名は不明だが、かなり高名な英霊だろうな。あれほどに多彩な霊基を備えられる事例は多くない」

「……しかも、あの水着獅子王と酷似しているというのは、いろいろと勘繰りたくなる」

 

 天草、言峰、セミラミスの懸念をよそに、信徒席の隅にいた銀髪のサーヴァントが席を立った。

 

「おや? どちらに行かれるのです、アヴェンジャー?」

「興味があった七人目のマスターとやらの顔も拝んだし。ここにはもう用がないわ」

「よろしいのですか? あなたのマスターは、外出の許可を?」

「とってるに決まってんでしょうが。ま、とってなくても出歩かせてもらうけど?」

 

 天草は肩をすくめた。

 エクストラクラス──復讐者(アヴァンジャー)として現界した彼女(サーヴァント)を留める権限など、教会の監督役や補佐役には存在しない。

 銀髪の乙女は当世風の格好──ブティックで強奪もとい購入した、セクシーなファッションモデルのような佇まいだ。夜の街に繰り出すには危険な装い──魅力的かつ蠱惑的なルックスであるが、見た目に吸い寄せられて群がってくる有象無象など、彼女の能力で悉く焼殺されかねない。──それが一番困る。

 

「くれぐれも一般の方を返り討ちにして、騒ぎを起こさぬように留意してください。やるにしても病院送りまでで。お約束できないのであれば」

「っるさいわね。わかってるわよ! ガキじゃないんだから、自制くらいできますー!」

「あと、先ほどあった衛宮君たちにちょっかいをかけるのもナシでお願いしますね。特に、セイバーオルタさんには」

「は? なんでよ? ていうか、どうして一人だけ指名?」

「いえ。なんとなくです」

「はん! 私だって暇じゃないんだから、あんな冷血そうな女になんて、こっちから近づくわけないでしょ?」

 

 バカバカしいと言って、復讐者ジャンヌ・ダルクは教会を後にした。 

 

「ああ、どうせならマクレミッツ氏と槍兵(ランサー)への言付けを頼むべきでしたね」

「──本当に大丈夫なのか、あやつは? あんな破滅願望の塊を自由にしておいて?」

「一応、今のところは軽症者は六人で済んでいますし。想定の範囲内ですよ」

 

 心配するセミラミスをよそに、天草は素知らぬ顔で言峰に振り返った。

 

「今後はこういった事後処理も多くなることでしょう。頑張ってください、監督役」

「ふむ。せいぜい精進いたしますよ──義兄(にい)さん」

「君にそう呼ばれるのは嬉しいですが、今の私は“天草”ですので」

 

 わかっておりますと薄く微笑む言峰。応えるように頷く天草。

 

「さて、此度の戦争はどうなるのだろうな──」

 

 窓外に映る夜の静寂(しじま)を眺めながら、セミラミスは嘆息を吐いた。

 

 

 

 

 

 今夜、冬木教会の周囲で、戦闘らしい戦闘は起こらなかった。

 

 

 

 

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 神父二人からの説明を聞き終え、教会を後にした士郎とアルトリアたちは、帰り道の途中で凛と赤い弓兵と別れた。

 

「はい、これ」

「これは?」

「教会で話をしている間に、アーチャーに頼んで、最低限必要そうな服とか見繕ってもらってきたの。夜まで空いてる洋服店とかでね。あと、ウチにあった服も、何着かあるから」

「でも、いいのか? 言峰や天草さんの話を聞くに、俺と遠坂は、その」

「ええ、敵同士よ──そこは変わらないと思いなさい」

 

 宝石のように冷徹な輝きを灯す、凛の瞳。

 

「でも、ま。おいしい夜食のお礼分はしておかないとね?」

 

 一瞬の後に、柔らかな笑みを浮かべてくれた。

 実に義理堅い。

 おにぎりと唐揚げで、ここまで用立ててやる必要などないだろうに。

 

「ああ、念をおしておくけど、次に会ったら敵同士だから!」というセリフと共に去って行った少女の背中を、少年と七騎のサーヴァントは見送っていく。

 

「じゃあ。俺たちも帰ろうか」

「はい、マスター」

 

 凛と赤い弓兵から受け取った衣服を片手に、士郎とアルトリアたちは自宅に戻る。

 

 衛宮邸はそれなりの広さと部屋数はある。空いている部屋を割り振るのにも、

 

「貴様と同室などお断りだ」

「それはこちらのセリフだぞ私!」

「申し訳ありません。この衣服は、サイズが合わないようです、マスター」

「既製品では胸が苦しいな。……家のもので代用できるものはないのか?」

「この和服というものであれば?」

「おお、名案ですね、幼い私!」

「メイド服の替えがないぞ、マスター、どういうことだ?」

 

 などという一悶着の後、明日の朝食の準備も万端に整えた士郎。

 

(やれやれ。今月から食費がえらいことになるな)

 

 霊体でありながら睡眠すら可能──魔力の節約──というアルトリアたちが寝静まったのを聞いて、目を閉じる。

 

(聖杯戦争…………)

 

 正直なところ、実感もまだ薄い魔術儀式のことを脳内で整理しつつ、言峰たちが告げた“十年前の災厄”に思いを馳せる。 

 

(聖杯…………)

 

 ……十年前。

 士郎はすべてを失った。気がつけば焼け野原にいた。

 家も人も何もかもが、火の底に呑み込まれていった。

 

 誰もかれもが死に絶えた炎の中で、手を取ってくれた切嗣(ひと)のことを思い出す。

 死の直前にいた自分がうらやましいと思った。心の底から、こうありたいと思った。

 

 誰かを救う者でありたいと。

 誰かを助ける正義の味方(ヒーロー)に。

 

 けれど──

 

(もう、二度と……あんな、ことが……起きない、ように…………)

 

 彼は、いろいろなことがありすぎた一日を振り返りつつ、深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

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 ほぼ同時刻。

 

 彼女は空港に降り立っていた。

 

「ふふ────────待ってなさい、士郎!」

 

 雪の妖精のごとく愛くるしい少女は、傍らに御付きのメイドと、常人には視認しえない狂戦士を連れて、日本・冬木の地に到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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