Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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『衛宮さんちの今日のごはん』的な回


第六話 手作りハンバーガー

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 ・

 

 

 

 

 夢を見た。

 

 燃え盛る炎。

 一面の廃墟。

 黒こげの塊。

 絶対の地獄。

 

 何故これほどの大災害で、自分だけが生き残ることができたのか不思議でたまらない、赤い世界の片隅で。

 

 大量の火傷と、呼吸困難で倒れ伏した俺は、切嗣に救われる前に、

 

 誰かと────

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「…………?」

 

 奇妙な夢だった。

 いつも見ていた夢とは、少し変わった夢。

 夢なのだから、細部がその時々で変わるというのは、よくある事であるはず。

 しかし、士郎のあの夢は、いつものように始まり、いつものごとく終わる──そういう類の記録であったはず。

 なのに、今回の夢には、違うものが紛れ込んでいた。

 

「マスター、お目覚めでしょうか?」

 

 基本的に一人暮らしの衛宮家に、ありえない挨拶が飛び込んできて、ようやく意識が目覚めていく。

 薄暗い室内で上半身を起こした──枕もとの時計は六時にもなっていない。

 

「ああ、いま起きたとこだ、セイバー」

 

 襖越しに届く清廉な少女の声。昨夜、士郎が召喚し契約したサーヴァントの一人が、家主の了承を得て室内に顔をのぞかせる。

 凛から譲り受けた白いブラウスと青いスカートが、実に眩しく見えた。

 

「よく眠れましたでしょうか?」

「あ……ああ。大丈夫だ。セイバーたちの方こそ、その」

「はい。本来であれば不要な機能ですが、おかげで魔力の(せつ)や」

 

 くぅ

 

「……」

「……」

 

 ぼっと顔を赤らめお腹をおさえるセイバーに、士郎は苦笑気味に首を傾げる。

 

「──えーと」

「も、申し訳ありません、マスター。起床直後で大変恐縮なのですが」

「ああ、悪い待たせて! すぐ用意する!」

 

 起き上がった士郎は夢のことを綺麗さっぱり忘れ、セイバーを伴いキッチンへ。

 リビングには既に集まっていたサーヴァントの姿が。

 

「おはようございます。マスター」

「マスター、おはようございます」

「おはようございます! マスター!」

「ランサー、リリィ、アーチャー、おはよう」

 

 いつもの居間なのに、こんなにも大勢の人がいるというだけで快いものが胸に満ちる。

 全員がそれぞれ凛から貰った衣服や、衛宮家に私蔵されていた和服の類に身を包んでいて、なんだかおもしろい。

 

「ふん。寝坊とは良いご身分だな、マスター」

「うん。おはよう、オルタ」

 

 すぐに準備をと士郎が告げる前に、黒い上着にスポーティーなホットパンツという格好のセイバーオルタは、無遠慮にも掌を突き出してきた。

 意図が読めず困惑する士郎に対し、サーヴァントは掌を上下させる。

 戸惑う士郎は、ふと、オルタの手に自分の手を置いてみた。

 

「なんのつもりだ?」

「え?」

「貴様の軍資金を寄越せマスター。我等の分の食事費用を。──手料理などというもの、口に合わんのでな」

 

 眉を(ひそ)めて士郎の手を振りほどくオルタ。

 

狼藉(ろうぜき)が過ぎるぞ、(オルタ)!」

 

 これに対し、真っ先に反発するセイバー。二人は互いに殴り掛かれる位置で顔を突き合わせる。

 セイバーは激昂した。

 

「衣服と住居を提供されておきながら、その上で金銭を乞うなど、それが王たる者の振る舞いか!」

「ふん。“王”だからこそ、だ。

 臣の財を徴収することに躊躇する王侯が存在するとでも?」

「どこまでも卑しい! 貴様、本当にこの私、騎士王アルトリア・ペンドラゴンなのだろうな?」

「ほう? ならば我等の剣で語るとするか、(セイバー)

「ま、待て待て、ストップ、ストーーーップ!」

 

 今にも剣を抜きかねない空気を、士郎は二人の間へ割り込むように追い散らす。

 

「とりあえず、二人とも落ちつけ!」

 

 マスターの令呪による強権──というわけではないが、二人とも、戦意を腹の底におさめた。

 

「ご命令とあらば従いますが──」

「──よかろう。だが、我が空腹を満たすことができなければ、わかっているのだろうな?」

 

 さすがにセイバーをはじめ、他のアルトリアたちも止めに入ろうとするが、

 

「うん。任せろ」

 

 士郎はしっかりとした調子で微笑み、頷いてみせた。

 すっかり毒気を抜かれたオルタは鼻を鳴らし、ランサーオルタとメイド・オルタの隣、長卓の隅にちょこんと座る。

 とりあえずは衛宮邸が崩壊するような戦いは避けられたようだ。

 

「マスター……あの、差し出がましいようですが、(オルタ)たちの朝食でしたら、私どもが買いに」

「ええ。その程度のおつかいでしたら、容易にこなしてみせますが」

「いや、たぶん大丈夫だよ。アーチャー、リリィ」

「──何か策がおありか?」

 

 ランサーに(たず)ねられ、士郎は頬を()いた。

 

「どうしようもなくなったら、皆に買い出しを頼もうかな」

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、セイバー……昨日、帰ってから用意したのがあるから。ちょっと時間はかかるけど、待っててくれるか?」

「──はぁ?」

 

 セイバーは首を傾げつつ了承する。

 ジャンクフード系が好みだというオルタ組。

 それに寄せた朝食のメニューを、士郎は考えていた。

 

「トマトとレタスは残ってるけど──ピクルスがないのは、まぁ大目に見てもらおう」

「マスター、いったい何を作るおつもりで?」

「出来てからのお楽しみ」

 

 微笑む士郎は冷凍庫を開け、丸く成形し寝かせておいたパン生地を解凍。照り用の卵を塗って、白ごまを適量に散らす。

 170度のオーブンで10分から15分、こんがり焼いたパンを取り出し、これを上下で切り分ければ、バンズの完成。

 バンズができる間に、昨夜、生地と一緒に作っておいたハンバーグのタネ10個にも、フライパンを二つ使って手際よく火を通す。

 数分後、焦げ目の隙間からジュウジュウあふれる肉汁と焼きたてパンの薫りが、なんとも食欲のそそられる空気をリビングに満たした。

 

「もしや、あれは?」

「ほう」

「マ、マスターはこんなものまで料理を」

「なるほど、このように作るものだったのですか!」

 

 興味津々にリビングから作業を覗き見るアルトリアたち。

 オルタたちは長卓の席に陣取ったままだが、お腹の音をおさえることはできそうになかった。

 きゅうきゅうと可愛い声を立てるオルタの腹。

 

「ふむ……実にうまそうだな」

「フライドポテトとコーラはあるのだろうな、マスター?」

「────チッ」

 

 舌を打つオルタ。

 そして程なくして、

 

「よし。──完成」

 

 食卓に並べられるのは、ちぎったレタスと輪切りのトマト、さらにスライスチーズとケチャップソースをバンズではさんだ、士郎特性“出来立てハンバーガー”であった。

 副菜としてはフライドポテトと、昨日の唐揚げの残り──ドリンクは各々の好みで、オレンジジュースや炭酸飲料を用意。

 

「マスターは……本当にすごいです。ハンバーガーを自宅で調理するとは」

「準備に相当手間と時間はかかるけどな。慣れれば誰にだって作れるぞ?」

 

 あっけらかんと告げる士郎に、セイバーは圧倒される。

 

「なるほど、昨夜のあの作業が今に──」

 

 寝る前に何か熱心に準備をしていたことは知っていたが、このような結実を迎えたことに感動を禁じ得ない。

 セイバーだけではなく、リリィやランサー、アーチャーも感慨深げにハンバーガーを眺めた。

 

「もしや、マスターは魔法使いなのでは?」

「ふむ。円卓の宮廷料理人に招きたいところだな」

「ああ……マッシュポテトばかりは、……さすがに……」

 

 賛辞(?)を唱えるアルトリアたちに照れ笑いつつ、士郎はオルタ組にも、手作りハンバーガーの皿を並べた。

 

「──お口に合うといいけど」

 

 沈黙しつつハンバーガーを睨み据えるオルタ。

 長卓の上座に座った士郎は、自分の分の小さ目なハンバーガーに手を合わせた。

 

「じゃあ、いただきます」

「? ──ああ! この国での食前の祈りですね。それでは私もマスターに(なら)い、“いただきます”」

 

 セイバーを起点に広がった、「いただきます」という合唱と合掌。

 士郎と六人のアルトリアが、ハンバーガーにかぶりついた。

 

「! こ、これは美味しいです!」

「なるほど。このような料理だったのですね」

「こんなにふわふわなパンは、初めて食べました!」

「私どもの生きた時代、パンといえばとても堅いものでしたからね」

 

 セイバー、ランサー、リリィ、アーチャーが驚嘆の表情を浮かべる一方で、

 

「手作りのジャンクフードか……これはこれでアリだな」

「うむ、モキュ、中々、モグ、美味(うま)いぞ、モム、マスター」

「…………………………………………」

 

 ランサーオルタとメイド・オルタも食事を楽しむ横で、ただ一人だけ手を付けないセイバーオルタ。

 彼女は、全員の視線が徐々にオルタの方へと注がれのに気づく。

 そのなかでも料理人の──士郎の視線をいやでも認識してしまった。

 

「……やっぱり?」

 

 だめか、と。

 困ったように笑いかける、少年の表情。

 

「……ふん。──こんなもの」

 

 恐るるに足らずと挑みかかるオルタ。

 ガツリとバンズとパテを諸共に咀嚼する。幾度も。幾度も。

 さらに、もう一口。

 ついで、もう一口。

 また……もう一口。

 ビッグサイズのバーガーを二口で呑み込んだオルタとは思えないほど、長い時間をひとつのハンバーガーに費やした。

 揚げたイモや鶏の唐揚げ、黒い炭酸飲料もガブガブ飲み干し、とうとう最後の一切れを口内に。

 一同が見守る中で、オルタは、一言。

 

 

「────美味であった」

 

 

 士郎はセイバーと顔を見合わせた。

 しかし、オルタはすぐさま不満を述べる。

 

「だが──量が足りんぞ、マスター」

「あ……ああ! すぐにおかわりを」

 

 用意しようとして、オルタの前で空になった皿をとった時だ。

 

 

 

「士郎~」

 

 

 

 リビングの扉付近から、士郎にとっては聴き馴染んだ、しかしこの場にいるアルトリアたちには初めて聞く女性の声。

 

 

 

「これはいったい、どういうことかにゃ~?」

 

 

 

 士郎はロボットのようにぎこちない所作で振り返った。

 すっかり忘れていた。

 この家で、半ば同居人じみた存在その(いち)が来る時間であることを。

 

 

 

「ふ、ふじ、ねえ──」

 

 

 

 タイガーこと藤村大河は、なんとも言い難い表情で、猫のように手招きしている。

 

「ちょっっち、詳しい話を聞かせて欲しいかにゃ~??」

 

 これまた怪しく胡散臭い猫のような目つきで彼女が眺めるのは、衛宮家の食卓に集った、見目麗しい──大も中も小も揃った──金髪碧眼の外国人美少女たち。それが七人──七名。

 どのような弁解を聞かせてくれるのか楽しみだ……そう顔に書いてある藤村。

 

「ごご、誤解だ、藤ねえ!」

「問答無用にゃーーーッ!」

 

 詳しい話を聞きたいという、先の言動はどこへやら。

 にゃーではなく、がおーという感じに繰り出される空中殺法の妙技。

 セイバーたちサーヴァントが止めに入る間もなく、士郎をホールドアップしていく冬木の虎。

 

「桜ちゃんの時はギリギリのギリで免じてやったが! よりにもよって七人! 七人も連れ込むとは! 今度という今度はおねえちゃんの堪忍袋の緒がプッツンときた! 目にもの見せてくれるぁ!」

「なんでさーーーーーーーーーーっ!」

 

 ──士郎の必死の弁明がはじまったことで、オルタのおかわりはだいぶ待たされることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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