Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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ガレスちゃんのマイルームボイスは極上の癒し


第七話 ガレスの憂鬱、モードレッドの快哉

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 高機動型大広間・エハングウェン。

 

 水着獅子王の座乗艦──もとい、巨大な飛行宝具は、水着獅子王、アルトリア・ペンドラゴンその人の所有物だ。

 これだけ荘厳壮麗な飛行船舶を展開維持し、さらには永続航行まで可能にしているというのは、にわかには信じがたい魔力量である。

 しかし、それを可能にするのが、ガレスたちの無二の君主、ブリテン王、アルトリア・ペンドラゴンその人なのだ。

 そんな水着獅子王の誇る飛行宝具の居住区画にあって、円卓の騎士が一人・ガレスは、沈鬱な表情を浮かべていた。

 

(……ああ、もう朝)

 

 上空数千メートルの丸窓から見える、暁光の輝き。

 広い一等船室もかくやという室内で、壁に立てかけた馬上槍(ランス)が、朝焼けに照らされ眩しく煌めく。

 

(朝ということは、もう、そろそろ……皆の出陣の時)

 

 ガレスは重い息を吐いた。

 今日の戦闘には参加しなくていいと申し渡されたガレスは、昨日までの偵察任務の功として出陣のメンバーから外された──表向きは。

 

(一応は、これも罰のひとつなのかな──)

 

 結局、魔力節約という名目での睡眠はとれず、徹夜で悶々と項垂れ続けていた。

 与えられた船内の私室で『別命あるまで休息してよい』などという、サーヴァントには不必要な命令を受けていたが、何しろ彼女のマスター……現界を維持している主君は、慈悲深き騎士の誉たる王なのだ。この程度の寛恕、度量の広さ深さは、驚嘆するに値しない──しかし、ガレスの胸中は嵐の夜のように乱れていた。

 

(……昨日の、任務)

 

 ガレスは槍兵(ランサー)として、冬木市内で捕捉しうる限りの敵との戦闘を行い、そのすべてにおいて“生きて戻る”という務めを与えられた。

 敵情視察は戦場の常。

 英霊として、聖杯戦争という魔術儀式に参加した円卓の騎士たち──10年ぶりに我らが王の召喚に従い、契約を結んだ我が身は、どのような難事であろうとも遂行してみせるという自負があった。

 たとえ、その中途において、無関係な一般人──戦いの現場に行き会った、不幸な少年を始末せねばならないという判断も、ごくあたりまえな務めの範疇にあった。聖杯戦争──魔術の戦いは秘されるべし。サーヴァントとして現界している以上、ガレスにもその程度の判断は容易であった。

 

「なのに──私は──」

 

 思わず声がこぼれた。

 それほどまでに、昨夜の出来事はガレスの精神に負担を強いていた。

 騎士として、無辜の民を巻き込むなどあってはならない。無論、場合によっては、戦場において非情に過ぎる決定を下すことも覚悟している。さらに、サーヴァントである以上、聖杯戦争のルールに則した状況判断を徹底せねばならない。それは理解している。

 だからこそ、追った。

 赤い弓兵(アーチャー)との戦闘を切りあげ、校舎内を霊体化して追い、抹殺の対象となった一般人・少年の心臓を確実に突き穿った。

 

「最後に『ごめんなさい』まで言ったんだけどな」

 

 巻き込んでしまってごめんなさいと──

 なのに、生きていた。

 とんでもない失態であった。

 円卓の騎士に加わった、第七席の座を与えられた騎士でありながら、その名誉と期待を完全に汚す大失態であった。

 相対する強敵を仕留め損ねるならばいざ知らず、まさか、何の力もない、ただの一般人を殺せなかったなどと──円卓の騎士失格である。

 

「……いえ、何の力もないわけではありませんでしたが」

 

 それは言い訳に過ぎない。

 和風の邸宅に侵入者感知の結界を張り巡らせてあったことには驚いた。

 さらに、あの少年が強化の魔術を用いて、殺戮者であるガレスと切り結ぼうとしてきたことに、純粋な賞賛を送っても良かった。少年が生き残った理由は、なるほど魔術の薫陶を受けていたからなのだと納得がいった。

 

 しかし、それでも殺さねばならなかった。

 ガレスは殺さなければならなかった。

 殺すことなど容易に過ぎた。

 殺せて当然の存在であった。

 

 あの時、殺してさえいれば──

 

 彼が、少年が、“あの方たち”を召喚することもなかっただろうに。

 

「……七体の、英霊召喚」

 

 しかも、召喚された英霊すべてが、ガレスが──円卓の騎士の皆がよく知る最高位の存在。

 アルトリア・ペンドラゴンその人たち(・・)であった。

 ふと、ガレスは面を上げる。

 自分の部屋の前に、よく知る魔力の気配を感じたのだ。

 

「どうぞ?」

 

 部屋主の許可を得て現れた騎士は、ガレスの感じた通りの騎士であった。

 

「おーう! 元気してるか、ガレス!」

「モードレッド……」

「──んだよ。んなしょげたツラしてよ? シャキとしろシャキと! 休んでなかったのかよ?」

 

 異父姉に対して何の遠慮もない言い草だが、その近さがガレスには心地よい。

 しかし、少女の口は貝になったように閉ざされたままだ。

 ガレスと同様に分厚い鎧装束を解いたモードレッドは、何の気兼ねもなく少女騎士の座るベッドに並んで腰かける。

 

「ったく。召喚直後は『もっと話したいです!』って、仔犬みたいにキャンキャンついて回ってたくせによ~?」

「うん。ごめんなさい。今は、えと、その……」

「──おまえが見たっていう、召喚された“父上たち”の事か?」

 

 正鵠(せいこく)を射抜くモードレッド。

 

「……うん」

「別に。そんなのおまえのせいでもなんでもねぇだろ? 水着の父上も言ってたじゃねぇか。『(けい)が気に病むことはない──』ってよ?」

 

 微妙にその時の獅子王の声音を真似るモードレッド。

 王を敬愛し補佐するアグラヴェインあたりが聞けば、きっと叱責の雨が降り注ぐだろうが、そんなことを気にする彼女ではない。

 ガレスはモードレッドの軽口に頷いてみせた。

 

「はい────でも…………」

 

 それでも、渦巻く思考は霧がかかったように晴れてくれない。

 

 英霊、アルトリア・ペンドラゴンが、七人──

 

 いかに聖杯戦争が常軌を逸した事象であることを(かえり)みても、敵対する者たちの中に、まさか自分たちの王が参陣するなど、想定の範囲外だ。それが複数人など、埒外(らちがい)すぎて逆に笑えてくる。否、まるで笑えない。

 英霊を呼び出す聖杯の仕組みを解せないガレスではあるが、これでは円卓の騎士を主たる戦力とする水着獅子王の陣営は、いろいろな意味でまずい事態を引き寄せかねない。

 話を聞いた昨晩、ランスロットもガウェインも、あの冷徹無比を誇るアグラヴェインすらもが、ガレスの報告した事実を疑ってかかった。

 ありていに言えば狼狽(ろうばい)すらしていた。

 自分たちの主君はただ一人──だが、召喚された敵もまた主君であるという異常事態。

 水着獅子王の一言で、その場は静まってくれたが、ガレスの報せは思っていた以上の威力となって、不動不朽を誇る円卓の結束に一撃を見舞ってくれたのだ。

 

 それを思うと、あの少年を殺せなかった自身の責任を思わずにはいられない。

 

「私がちゃんと、目撃者の少年を、あのマスターを確実に完全に仕留めていれば、きっと、絶対、こんなことには……」

 

 ならなかったはずだ。

 ガレスは優しい。円卓の誰もがそのように彼女を評する。

 無辜の民を、無関係な人間を、戦闘を目撃しただけで殺される運命を強いられた少年を殺すことに、躊躇を覚えなかったはずがない。彼女自身も心当たりがないわけではないのだ。王から頂いた“猛り狂う狼”という異名が霞んでしまいそうだった。それが無念で、たまらなく情けなくて、ガレスは未熟な自分を呪わずにはいられない。もしかしたら、このことが遠因となり、将来的に我等が召喚主である水着獅子王に、もしものことが生じれば──ガレスは死んでも死にきれない。英霊なのですでに死んでいるのだとしても、ガレスは罪の重さと巨大さを感じずにはいられないのだ。

 自決しても許されるものとは思えない。

 だから、ガレスは悩みながら、憂鬱な夜を過ごしたのだ。

 

「モードレッド、やっぱり、私は、円卓の騎士には」

「バーーーカ」

 

 ポコリと頭を小突かれる。

 

「もう終わったことでウジウジしてる方が、円卓の騎士にふさわしくねぇよ。みっともねぇ」

「うー……だって」

 

 頭を押さえ、親犬とはぐれた仔犬のように瞳を潤ませる“猛り狂う狼”。

 モードレッドは「しようがねぇな」と前置きして、ガレスに向き直る。

 

「俺はさ、むしろよ、すっげー感謝してるぜ、ガレスに」

「感謝? されるようなことなんて?」

「まぁ聞けって──これは水着父上にも、他の奴等にも内緒な?」

 

 刃のように鋭い眼差しで念押しされたことで、ガレスは居住まいをただす。

 モードレッドはいつになく真剣な表情で、少女騎士の勲功を述べ立てた。

 

「おまえがそのマスターとやらを仕留められなかったおかげで、父上たちが七騎も召喚された──これって、つまり──」

「……つまり?」

 

 

「叛逆し放題じゃあねぇかあああああああああああああああああああああああああ!」

 

 

 めちゃくちゃなことをめちゃくちゃ上機嫌(ハイ)になって叫ぶ“叛逆の騎士”モードレッド。

 

「いやー、水着(ルーラー)の父上に召喚された以上、俺は父上の忠実な下僕(サーヴァント)でしかないだろ?

 でも、今回はなんと、叛逆し(たたかっ)ていい父上が七人──七人もいるとか! あは! これはやりがいしかねぇだろうが!! アハハハハッ!!」

 

 ガレスの背を叩いて呵々(かか)大笑(たいしょう)する赤いセイバーの様は、実に痛快で、そこには真実そのとおりに思っているという意思しか感じ取れない。

 

「──だからよ。ガレスは気にする必要なんてねぇぞ!

 七騎のアルトリア・ペンドラゴンは、このオレ、モードレッドが全員叛逆しちまえばいいだけのことなんだからよ!」

 

 立ち上がり腕を組んで、居丈高に豪語する異父妹の姿に、ガレスは瞳にたまった感情が、まったく別の感情であふれさせてしまった。

 慰めてくれた、ということでいいのだろう。

 おかげで、ガレスの胸の(つか)えはとれた。

 

「うん。ありがとうモードレッド」

「あ? 俺が感謝する側だって話だろ?」

「うん。それでも。ありがとう」

「ぅぬ────はん!」

 

 モードレッドはそっぽをむいてしまったが、どういう表情をしているのか、ガレスには手にとるように分かった。 

 

「せいぜい頑張って、オレの代わりに父上以外のサーヴァントを狩ってこいよな!」

「わかった──あの頃と同じく、全力を持って戦うまで……がんばります!」

「おし! その意気だ! 我が麗しの異父妹(いもうと)よ!」

 

 ニッコリと微笑むさまは、不敬かもしれないが、実に我が王と似ていた。

 しかし、ガレスはひとつだけ言っておきたいことができた。

 

「それはそうと……私の方が、お姉さんなんですけど?」

「はあ? 後から円卓に入ったおまえが、オレの姉なわけねぇっつーの!」

「ひっどーい! もっとお姉ちゃんを甘えさせてくださーい!」

「いや、姉だってんなら甘えるなっての! 逆だろ逆!」

「じゃあ、モードレッドが私に甘えてきてくれるんですね! ほらー! お姉ちゃんだよー!」

「一言も言ってねぇだろ、そんなこと! 腕広げんな! 抱・き・着・く・な! だいたい、俺が姉だっつー話で……ああ、もう!」

 

 どちらにせよ結果は大して変わらないことに気づいた叛逆の騎士。

 ガレスは久しぶりに笑ったように頬を緩ませ続けた。

 モードレッドも相好を崩してみせる。

 

「と、やっべ。そろそろ出陣の時間じゃねぇか。んじゃな、ガレス!」

 

 昨晩の会議にて、本日の作戦は決していた。敵の戦力は、ガレスの尽力によってあらかた調べがついていたからこその決議。

 モードレッドは、任務を終えたガレス以外のサーヴァント──他の円卓の騎士たちと共に、撃って出るのだ。

 

「うん! いってらっしゃい! モードレッド! がんばってね!」

「おう! 任せとけ!」

 

 黒い髪房を大きく揺らし、手を振って見送る同僚の様子を満足げに振り返り見ながら、モードレッドは出陣の準備をすべくガレスの部屋を後にする。

 そんな異父妹に心の底から感謝し、ガレスはようやく穏やかな心地で休眠に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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