Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第八話 黒い巨人と白い少女

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 衛宮邸。

 朝のリビングにて行われた、すったもんだの末。

 

「そっかー。セイバーさん達は、切嗣さんのお知り合いかー」

 

 士郎はどうにかこうにか冬木の虎を御した──藤村大河の納得を取り付けることに成功した。

 セイバーたちの弁明も功を奏し、藤村は七騎のサーヴァントを衛宮家の亡き家主──切嗣の海外旅行先の知古であるという感じに理解した。

 

「それにしても、大変でしたね。ランサーさんとランサーオルタさんの荷物が届いていないなんて」

「私たち二人の荷物は一つにまとめていたのですが、それがこのような事態を招くとは。シロウに着るものを貸していただけて、本当にありがたいです」

「そんな、気にしないでランサーさん。切嗣さんの着物も、箪笥にしまわれっぱなしでいるよりも、人の助けになれるなら本望でしょうし」

 

 会釈する和服姿のランサーの物腰や口調は、淑女として完成された振る舞いに満ちていた。士郎は内心で安堵の息を吐く。昨夜、遠坂から衣服を提供されていて本当に助かった。七人分の荷物がすべて配達不備を起こすというのは、いささか考えにくいものである。

 

「切嗣さんに、こんな美人な知り合いがいたなんてなぁ……しかも、七人……七姉妹」

 

 不機嫌そうに喉を鳴らす冬木の虎。

 ぶー垂れていながらも、セイバーたちが亡き切嗣を訪ねに来た姉妹だという話を聞いて、無下に追い払うという選択には至れないらしい。

 

「──ふぅ。うん。事情については相わかりました。切嗣さんの知り合いなら仕方ない! そもそもここは切嗣さんの家だし!

 皆さん! この家で思う存分、下宿していってください!」

「ありがとうございます、タイガ」

「士郎ー。今日はセイバーさんたちの身の回りのお世話してあげてねー。学校の方は特別に休みってことにしておいてあげるからー」

「あ……ああ、助かる藤ねえ」

「重ね重ねのご厚情とご配慮、痛み入ります」

 

 謝辞と共に華やぐ笑みをこぼすアルトリアたち。大河も明るい笑みで何度も頷いてみせた。

 セイバーオルタとランサーオルタ、ライダーは大量に追加された手作りバーガーやフライドポテトをガッついたままだが、大河は気にすることなくハンバーガーパーティーの輪に加わる。さすがにマスターの保護者的な立場にある女性を無下に追い払うような剣呑さはなりを潜めているが、ぶっきらぼうにつっけんどんに──険悪な感じ一歩手前という状態で応対する様子──特にセイバーオルタの不愛想な調子に、士郎は内心で冷や汗を浮かべざるをえない。

 

「そういえば、外国のお知り合いっていえば、アイリ(・・・)さんやイリヤ(・・・)ちゃんとも知り合い?」

 

 訊ねられた士郎はキッチンで片づけをしつつ、首を振った。

 

「ああ。いや。アインツベルンの家とは、その、違う知り合い、だな」

 

 士郎の意を得たセイバーたちが数ミリほど頷く。

 セイバーたちは“アインツベルン”という単語をまったく知らない(・・・・)ながらも、それが切嗣の、衛宮家の関係者であることは推察できた。

 

「そっかー。『困ってる人を助けに』って、何度も旅行してたからね、切嗣さんは……」

 

 大河にしては珍しくしんみりとした雰囲気で微笑んだのも束の間、

 ──ピンポーン

 という玄関チャイムに全員が意識をむける。

 

「あれ? 桜ちゃんかな? 今日まだ来てないよね?」

「確かに今日は顔を見せてない……けど」

 

 士郎は小首をかしげた。

 壁時計を見上げれば、もう一人の半同居人──間桐(まとう)(さくら)が訪問する時間をとっくに過ぎている。しかし、桜には合鍵を渡しているので、わざわざチャイムを鳴らす理由がない。場合によっては、士郎よりも先に台所にたって朝の支度を手伝ってくれる。それほど衛宮家の事情に馴染んでいる後輩が、玄関の前でチャイムを鳴らす可能性は低いだろう。

 しかし、チャイムは再び鳴らされる。ピンポンピンポンと忙しなく。

 施錠を外す気配もなく、続けざまにチャイム音が重なっていく。まるで小さい子供がするように遠慮なく。

 宅配便か回覧板か何かしらの来客──それにしては不作法な客だなと(いぶか)しみつつ、士郎は大河を振り返った。

 

「おい、藤ねえ」

「ごめーん、お姉ちゃん今ちょこっとバーガーとポテトを食べ過ぎて動けなーい」

 

 ちょこっと、という量ではなかった。

 おなかをおさえ、頬を相撲取りのように膨らませる怠惰な大河の様子に、士郎は肩をすくめるしかない。

 アルトリアたちのおかげで見事にカラッポになった冷蔵庫や戸棚の状況をみれば、どれだけの食材が一夜で消え失せたのか容易に判断がつくというもの。これは今日中──否、昼までに大量の買い物を余儀なくされるだろう。無論、家事全般にノータッチを決め込む大河にはあずかりしらぬことであったわけだが。

 

「まったく。オルタたちの胃袋と張り合うから……はいはい、ただいまー!」

 

 連続するチャイム音にせっつかれるまま水仕事を切り上げ、脱いだエプロンの裾で手を拭う士郎。

 セイバーたちに応対を頼もうかと思ったが、一応この家の正しい意味での住人は士郎であることを(かんが)みた結果、リビングを小走りに駆けだした。

 

「……! シロウ! 待っ」

 

 何事かを直感したように、セイバーが腰を浮かせた。その騎士王の腕を、何故か隣に座していたランサーが留める。

 そちらには気づかず、士郎は玄関のつっかけをはいて、扉を開ける。

 

「はいはいはい、どちらさ────ま?」

 

 士郎は鴨居のあたりを見上げた。

 玄関の格子戸をスライドさせたそこに、来客の姿は見えない。客ではなく、黒い壁が(そび)えていたというべきか。

 そのようにしか形容しようがない巨躯の怪人──隆々と膨れ、(いわお)の如く絞られた胸筋と腹筋の壁が、玄関の先に立ちはだかる。

 

「な」

 

 あまりの異常事態に声も出ない。

 ズシンと片膝をついて屈み込んだ黒い巨人は、ギリシャの彫像の如く整っていながらも、暴力的かつ狂気的な眼光で士郎の全身を睨み据えた。

 

「……な、な」

 

 その圧倒的な存在感に、内臓をすべて地面にぶちまけられたような死の恐怖を錯覚する直後、

 

「じゃーん!」

 

 怪人の風貌からは想像もつかないほど愛らしい少女の声が、青ざめた士郎の耳を優しく(くる)む。。

 ふわりと巨体の影から姿を現したのは、雪の妖精かと見まがうばかりの絶世の美少女。

 少女は悪戯に大成功した子供のように目を輝かせながら、士郎の胸に飛び込んだ。

 

「びっくりした? ねぇ、びっくりした?」

「え、えと」

久しぶり(・・・・)お兄ちゃん(・・・・・)!」

 

 士郎は茫然とした脳で、少女の名前を思い出す。

 

「イ、イリヤッ?!」

 

 見た目十歳かそこいらという可憐な少女。

 衛宮切嗣の実子であり、養子である士郎とは血の繋がらない姉であり妹。

 

 ────イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、朝の衛宮邸を訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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