Fate/Unlimited Engel's cofficient   作:空想病

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第九話 招かれざるロクデナシ

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 士郎は見慣れぬ巨人の前で、はにかみながら抱き着く少女の微笑を交互に見返す。

 

「イ、イリヤ。な、なんで日本に?」

「えへへ。昨日の夜に、日本に着いたの。もちろん、アインツベルンのプライベートジェット機でね」

「な、なるほど──いや、ていうか、そっちのデカいのは──、いったい?」

 

 人と呼ぶには超然的すぎる魁偉な大男は、依然として士郎の方を睨み据えたままだ。

 衛宮邸のチャイムを連打していた真犯人は、雪のように儚く白い頬を士郎から離す。

 

「こっちは、わたしの“狂戦士(バーサーカー)”。わたしが契約した、わたしのサーヴァント」

「サーヴァント……ってことは!」

「うん。──その様子だと、どうやらシロウも英霊を召喚しちゃったようね……でも」

 

 一瞬の沈黙。

 士郎の左手に刻まれた令呪に目を(すが)めたイリヤは、視線を士郎の背後へ向ける。士郎もつられるように振り返った。

 そこには、武装こそ展開していないが、セイバーとリリィとアーチャー──士郎のサーヴァント三騎が、イリヤの従える狂戦士を警戒し、今にもマスター二人の間に一刀をもって割りこもうという剣幕を振り撒いていた。

 イリヤは微苦笑を浮かべつつ、セイバーたちを諭すように語りかける。

 

「心配しなくても大丈夫。わたしはお兄ちゃんの、シロウの味方だから」

「…………その言葉、信ずるに足る証拠は? いきなりマスターの自宅に、狂戦士のサーヴァントを引き連れ現れるなど」

「信じられないというのなら、今ここで、わたしのバーサーカーと殺し合いでもする?

 近くにタイガがいるのに騒いだりしたらどうなるか、考えれば分かりそうなものだけど?」

 

 セイバーたちの眉間に青筋が奔ったのをマスターである少年は幻視した。

 

「お、おい、イリヤ」

 

 氷雪の女帝とも評すべき玲瓏な笑みを浮かべる童女の様子に、彼女を抱きかかえる士郎の腕が強張った。

 状況の推移についていけないマスターの手前、さらに、強壮かつ強靭な魔力に満ち満ちた狂戦士を前に、セイバーたちにどれほどの勝機があるものか、彼女たち自身も測りかねた。

 

「やめておけ、私たち」

「ランサー……」

 

 凍結したような一触即発の空気を、遅れて現れたランサー……切嗣の残した和服姿の女性が解きにかかる。

 

「そこもとのマスターが、我等のマスター……シロウを殺すつもりであれば、このように粗雑な児戯に興じるはずもない。第一、仮にもマスターの妹御(いもうとご)を手にかけるというのは、些か以上に心苦しいところではないか」

「……確かに。戦うのが目的であるのなら、悠長に語らう道理などない。敵であるなら、リビングにいる大河諸共、我等を奇襲強襲しても、不都合はない……か」

「フフ。そーいうこと。ランサーのあなた、切嗣の格好をしてるだけあって、少しは物分かりがいいわね」

 

 イリヤの年相応に可憐でにぎやかな笑みに、セイバーたちは身構えるのをやめた。

 

「ですが。説明を願えますか、シロウ?」

「何故、聖杯戦争のマスターが、ここに? しかも妹御というのは?」

「というか、そんな、お姫様抱っこをしたままなんて──男女としてあるまじき行為では?!」

「え、ええと、イリヤはなんというか」

 

 小猫のように頬をすりよせ、「久々のシロウ分」を摂取しようと甘える童女のことを、どのように説明したものか迷う少年の姿に、セイバーとリリィとアーチャーは憮然とした瞳で睨みつける。

 六つの翠玉の輝きに圧倒される士郎であったが、助け船はすぐに訪れた。

 

「なになに? 皆、急にどったのー? って、あれー! イリヤちゃんじゃん! どしたの? 去年のクリスマス以来じゃない?」

 

 大河がリビングから現れた。

 それよりも先んじて、玄関先に待機していたバーサーカーが一瞬にして霊体へと転じた。

 士郎の保護者にして半同居人は、久しぶりの再会に頬を緩ませる。

 

「ドイツのお(うち)の方はいいの? 引退したおじいさまの代わりに、ゴトウシュ様になったから忙しいって、言ってなかった?」

「うん、久しぶり、タイガ♪ ごめんね、驚かせようと思って連絡もしないで来ちゃった!」

「ううん! イリヤちゃんならいつでも大歓迎!」

 

 大河の様子に、魔術的なものは一切感じとることができない。

 セイバーたちはようやく、イリヤへの警戒レベルを下げ始める。

 

「──大河……申し訳ありませんが、こちらの方は?」

「ああ、セイバーさん達は初めましてよね? この子は切嗣さんとアイリさんの娘さんで、イリヤちゃんっていうの。士郎とは、義理の兄妹(きょうだい)っていうか、とにかくそんな感じ!」

「……言っておくけど、タイガ。私の方がシロウのお姉ちゃんだからね?」

「んあれー? そうだったかにゃー?」

 

 イリヤの見た目は、完全に年少者の──それも「背伸びをしたいお年頃」のそれでしかない。

 呵々大笑する大河からの完結明瞭な説明に、ひとまずの納得を得るセイバーたち。

 士郎本人もセイバーたちへ曖昧に頷くので、敵対者ではないという判を押す。

 

「でも、ごめんねーイリヤちゃん。私、そろそろ学校いかないとだから」

教師(センセー)のお仕事でしょ? うん。だいじょうぶ。今日は顔を見せに来ただけだし」

「あ、そだ! せっかくだから、セイバーさん達と士郎と一緒に、冬木を観光していってよ! 士郎は今日休ませる予定だから、存分に使い倒していいよー!」

「ほんとに! やったー!」

 

 お気に入りのオモチャを手に入れたという風に喜ぶ少女であるが、イリヤもまた聖杯戦争のマスターの一人であることを思えば、セイバーたちは気を緩めきることはできない。

 

「これからよろしくね、セイバー」

 

 士郎の腕から飛び降り、玄関で靴を脱いだイリヤスフィールは握手を求めた。

 アルトリアたちを代表するように、セイバーはイリヤと初めての邂逅を果たした。

 

「士郎ー! セイバーさん達とイリヤちゃんのことよろしくねー! あと桜ちゃんのこともー」

「わかってるよ」

「んじゃあ、晩御飯までには戻るからー!」

 

 元気に出勤していく大河を、士郎とセイバーたちと共に門前にて見送った後、

 

「……それで? なんだって日本に?」

 

 士郎は改めて問いかける。

 イリヤは再び年不相応な物言いを繰り出した。

 

「言ったでしょ? わたしはバーサーカーのマスター、この冬木の聖杯戦争に参加するマスターの一人よ?」

 

 確かにそう聞かされはしたが、いまいち実感できていない士郎の様子に、イリヤは小さな肩をすくめてみせる。

 

「──士郎は戦った? あの“槍兵(ランサー)”と」

「戦った? ランサー……」

 

 瞬間。昨夜、学校のグラウンドから、屋敷の土蔵まで追ってきたサーヴァントのことを想起する。

 

「まさか、イリヤも?」

「そ。戦ったわ。短い金髪に、黒髪が混じった、女の槍兵」

 

 イリヤはバーサーカーに再び実体を与えながら、士郎の問いに答える。

 

「昨日の夜。冬木の上空に入った途端、いきなり挑まれたわ。バーサーカーの全力だと一瞬で機体がバラバラになりそうだったから、そこが面倒ったらなかったわね。……なんで落ち込んでるのよバーサーカー。別に怒ってないってば!」

 

 狂化して理性のないサーヴァントの様子を目敏く感知するイリヤ。

 士郎やセイバーたちには(いわお)の巨人は不動の様子で佇んだままなのだが、マスターであることが影響しているのか、それともイリヤ本人の気質か、巨躯のバーサーカーとは確実に意思疎通が取れているらしい。

 イリヤは傷心するバーサーカーを宥め終えると、昨夜の状況を思い出してムカっ腹をたてていく。

 

「相手もそこまでやる気がなかったから、すぐに逃げられちゃった。もう。ちょっかいをかけるだけかけて逃げるとか、迷惑この上ないわね」

「そっか。イリヤが無事でよかった」

 

 そう言って頭を撫でてくれる兄の言葉に、イリヤは口の端を持ち上げるしかない様子だ。

 士郎は思わず呟く。

 

「一体、何者だったんだ、あの槍使いの女の子」

「さぁ。……セイバーたちは何か知らないの?」

「さて──実際に戦ってみないことには、なんとも言えません」

 

 いまだにイリヤへの警戒感が深いセイバー。

 銀髪の少女はきょとんとした瞳で剣の英霊たちを見渡した。

 

「え? 戦ってないの?」

「我等七騎が召喚されたのと同時に、敵が退却を選んだもので。

 よほど勘の鋭い傑物か、あるいは単なる斥候……敵情を視察するだけの────! シロウッ!」

 

 一瞬すぎて反応が遅れた。

 叫ぶセイバーに肩を掴まれ強引に背後へさげられる。

 

『その疑問なら、私が説明してあげよう』

 

 その声は唐突に表れた。

 イリヤがバーサーカーの剛腕に護られ、士郎もまた四騎のアルトリアたちに囲まれる。

 しかし、

 

「まさか、……そんな」

 

 そのセイバーの顔色は、驚愕の一色に染まっていた。

 彼女たちの視線の先──衛宮の屋敷の瓦屋根に腰掛ける、白いローブ姿の魔術師の姿を仰ぎ見る。

 頭巾(フード)の裾に隠れた表情はまったく窺い知れないが、その人物の声音は優しく、まるで花が咲くような笑みの温もりに満ちていた。

 

「馬鹿な!」

「な、なぜ……あなたが」

「ありえん。貴公も、否、貴公が──サーヴァントとして召喚されたというのか?」

 

 アーチャーが水鉄砲の照準を震わせ、リリィがカリバーンの剣先を落とし、ランサーが聖槍の先端を現れたサーヴァントに向けるのを躊躇した。

 セイバーが、アルトリアたちすべてが知悉する存在──騎士王の助言者にして予言者──アーサー王伝説の宮廷魔術師──湖の妖精ヴィヴィアンによって、楽園の“塔”に幽閉されしもの──

 

 

 

 

 

 

「────マーリン……」

 

 

 

 

 

 

 

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