SAOUW~if《白夜の騎士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 二日ばっかし遅れました。予定の把握を失敗すると良くないですね、当たり前ですが。
 さて、やっとのことで決着です、どうぞ。


#23 決着

 アドミニストレータに斬りかかったキリトの手にあるのは、彼が元から使っていた黒い剣ともう一振り、ユージオが使っていた氷の剣だった。

 呼吸を整える――仮想空間であっても呼吸は重要だ――ついでに後方を確認すれば、腹部に大穴を開けていた黄金の騎士はまるで外傷などなかったかのように床に横たえられていた。床に染みついた出血の跡が痛ましいが、本人の顔は至って穏やかで、気を失ってはいるが天命の量も安全圏だろう。

 更に視線を動かして青薔薇の剣士を見る。彼は恐らくはアドミニストレータの手によって氷漬けにされており、身体が半分以上赤い氷に飲み込まれてしまっている。あのまま放置されれば凍傷が原因で死に至るだろう。だが、カーディナルの小さな背中がユージオに寄り添っている。依然として氷漬けの状況は変わらないが、ユージオの顔に青白さはなく健康的な血色をしている。後少しすれば氷の除去も終わるだろう。

 二人の生存は嬉しいが、カーディナルの現状を見るに彼女を現在の戦力としてはカウントできない。チュデルキンの大神聖術はこのフロアの空間神聖力の大半を消費したものだった。そしてその後もアドミニストレータが残りを消費してしまっている。残り僅かな神聖力の奪い合いでは、圧倒的なシステム操作権限を持つアドミニストレータには勝てない。今のカーディナルは二人の治療に、恐らくは自身の身を削って神聖力を捻出しているはずだ。その証拠に、ユージオに寄り添う背中はむしろ寄り添わねば立ってもいられなさそうである。

―――つまり、援軍はなし。

 僕とキリトの二人であの最高司祭を倒す。鉄の城の最終戦を思い出す。ヒースクリフと戦ったときを。

 武者震いする右手を軽く押さえ、フッと鋭く息を吐く。同時に右手の剣を構えて駆け出す!

 空間神聖力が枯渇し出したことで、アドミニストレータは高みから神聖術でこちらを嬲り殺しにすることを諦めたようだ。自らの剣――確か《シルヴァリー・エタニティ》だったか――を残った左手で握り、キリトと地上戦を繰り広げている。

 僕の足音に気づいたキリトがアドミニストレータの剣を大きく弾いてブレイクポイントを作る。そこに滑り込みながら、四連撃ソードスキル《ホリゾンタルスクエア》を放つ。アドミニストレータは舌打ちを漏らしながら、正確に僕の剣の腹に下から膝蹴りを入れて上に逸らした。

―――やはり、か。

 全コマンドリストを参照した彼女のことだ、システムに規定されたソードスキルも余さず把握していると思ってはいた。それを確認できたなら重畳。

 腹部に薄皮一枚分の赤い線を走らせたアドミニストレータは、憎々し気に僕らを睨んだ。

 

「なぜそうも私の愛を受け入れない! なぜお前達はそうも抗うッ!」

 

 キリトが目を金色に輝かせて叫び返した。

 

「それが、それだけが俺がこの世界にいる意味だからだ!」

「外部からの接続者が何を言うか! ここは私の世界だ。お前達の居場所ではない!」

 

 アドミニストレータは柳眉を吊り上げ、どす黒い覇気を全身から放出する。重力が増したかのように全身の動きに制限がかかる。

 ふと、須郷伸之を思い出した。ALOでのオベイロンも同様のことを叫び、重力魔法を操っていた。

 キリトがあのときと同じように反駁する。

 

「この世界の民を愛さない者がこの世界の主にはならない! 俺は、お前を認めない!」

 

 分かり合えない思想。『愛』の定義に根差す問題。話し合いを尽くしたとは言いがたいかもしれない。だが、彼女の強硬な態度は十二分に伝わったし、《ソード・ゴーレム》の悲劇を繰り返さないためにもここで決着をつけねばならない。

 僕は軽く地面を蹴り、キリトに続いてアドミニストレータへと向かう!

 キリトが両手の剣を振るい、それをアドミニストレータが一刀で纏めて受ける。重み、勢いから見ればキリトの圧勝だったが、彼女の背後から滲み出る黒い気が剣に纏わりついてキリトの剣を弾き飛ばす。ブレイクされた形のキリトを守るように僕が飛び出し、アドミニストレータの剣――今は刀――を横に受け流す。その流れで神器を突き出すも、アドミニストレータは軽く身を捩って剣先を躱す。

 身体が伸びきった僕の影からキリトが現れアドミニストレータの逆撃を抑止し、むしろキリトの方から攻め込む。左右の神器による連撃はアドミニストレータに防戦を強い、後退させる。

 剣と剣がぶつかる魂の音が響き渡る。体勢を立て直してキリトに加勢しようと思い、その進路に目を向けた。

 フロアの中央部で戦っていた僕らだが、そこからどちらかが攻め立てれば向かう先は決まっている。外周部の壁際だ。キリトはそこにアドミニストレータを追い込んでいるのだ。

 ならば、直線でキリトの後を追うよりも外周部を伝って挟撃に持ち込むのがベターだろう。

 僕は真っすぐキリトに向けていた爪先を壁際に変え、そこから駆け出す。キリトもその優れた身体感覚で背後の僕の動きを察知したようで、より一層の熾烈さをもってアドミニストレータを壁へと押し込む。

 だが、彼女も一筋縄でいく相手ではない。僕とキリトの行動から狙っている挟撃を悟った彼女は、優れた身のこなしでただ一方向に追いやられることを防ぐ。そうされてしまえば、僕はどの方向から潜り込むべきかの慎重な見極めを求められる。

―――まあ、それをさせるかという話だけれど。

 僕は彼女の思惑に振り回されることなく、()()()()()()()()外周部を駆ける。壁に沿って円を描くようにしてキリトとアドミニストレータの交戦地へと向かう。

 アドミニストレータは人界で最高の――暗黒界を含めても恐らく最高の――神聖術師だ。そしてそれに加えて、向上心を失わない彼女は人界でも有数の剣技の持ち主でもある。多才な彼女は剣才も――ベルクーリのような者には劣るが――当然のように備えており、そして人並み以上のそれを常人では到底敵わない年月を費やして育て上げた。結果として、剣士としても彼女は一流の実力者になっている。

 だが、それはキリトとて同じだ。元々SAOではソードスキルを除く全てが我流だった。剣道の心得を持っていたキリトも、西洋剣の扱いとなってしまえばアドバンテージはない。ソードスキルを参考にはできたが、そんな劣悪な環境下で、手探りの日々の中で、研鑽を重ねてキリトや僕は自らの剣技を磨き上げた。二年の短きに凝縮されてはいるが、それは立派に誇るべき年月のはずだった。

 そして今のキリトには実地で学んだ我流剣術だけではなく、修剣学院を通して改めて学んだ剣の基礎がある。彼の強さはこの世界に来る前とは比べ物にならなくなっているだろう。

 キリトは巧みな体捌きを見せるアドミニストレータに完璧に対応し、僕が到着するまでは決して逃さないとでも言うように、彼女本人よりもむしろその周囲に剣閃の檻を作って退避を許さない。足の置き場を頻繁に交換する、社交ダンスにすら見える立ち合いの中でも絶対に彼女に壁を背にさせる。見事と言うべき戦いぶりだ。

 そして、いざ僕がそこに参戦する。

 キリトが一瞬、アドミニストレータに隙を見せる。ようやく見えた一筋の光明。アドミニストレータは迷いなくそこに足を踏み込んだ。それがキリトの狙いとも気づかずに。

 アドミニストレータに欠けたもの、それは経験だ。剣力を鍛えたとは言ってもそれを実戦運用した経験は少ない。ましてや劣勢になったり、読み合いをした経験はなおさらだ。そこを突く。

 アドミニストレータが横にズレた瞬間を見定めて、僕は剣を振り抜く。僕の一閃をまともに受けてしまえば、生身のアドミニストレータは瞬きの内に両断されるだろう。彼女は焦燥を強く表情に浮かばせながら両手剣サイズまで大きくした剣を挟み込む。

 腰を据えたガードでも勢いのあるパリィでもないただ置かれただけの大剣は、しかし一旦は攻撃を防ぐという役割を果たして見せた。

 アドミニストレータは《白夜の剣》を防いで跳ね上げられた剣を、扱いづらい両手剣サイズから通常の細剣サイズに戻すが、その重さに振り回された体勢はそう簡単に修正できはしない。

―――取った!

 完璧に無防備に晒された胴体。アドミニストレータの左腕は真上に跳ね上げられ、両脚は爪先が辛うじて床に残っているが膝が伸びきっている。後ろに倒れ込むように重心も崩れている。彼女が次の動作に移れるのは一歩足を引いて腰を落としてからだ。その時間にしては僅かな間隙で、僕の『英雄』は事を成し遂げてくれる。

 

「キリト!」

「ああ!」

 

 両手の剣を十字に構えたキリトは身を投げ出すような勢いでアドミニストレータに向かう。勝ちは目前。だが、僕はどこか違和感を覚えていた。

 ここまでの戦いの中で、何か不審を感じたのだ。それが明瞭に判別できず、ただ一つの不安材料であった。

 だからこそ、僕は直前でその強襲に気づくことができたのだ。

 

 

 

「ぇぇげえええぇぇぇぇいくあぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 もはや、それは炎の塊としか形容できなかった。巨人のような形を取るでもなく、術者が身に炎を纏うでもない。術者自身の身体を燃料に、術者自体を炎に変換しながら宙を飛来する塊。

 ()()()()()()だ。

 そうだ、それが僕の違和感だ。外周部を駆ける中で、()()()()()()()()()()()()こと。確かに、灰に変わるように僕は彼の身体を焚きつけた。だが炭も灰も、その痕跡すらも残っていないのはあり得ない。ただのVRワールドではないこのアンダーワールドではポリゴン片になって散ることはない――神聖力へと還元されることはあるが――。

 だが、チュデルキンの天命は僕が燃やし始めたときには既に尽きていたはずだ。

―――これも、心意か……!

 死してなお、敬愛する者のためにその身を燃やす。自身が敵対していなければ素直に美談と思えたであろうに!

 いくら種を考えたところで、現在飛来する彼を止める手立てを僕は何一つとして持たない。アドミニストレータを崩すために全神経を注いだ僕は、一撃を放った直後で彼女と同様に行動までワンテンポ必要だ。

 そしてチュデルキンに捕捉されているキリトも、あの勢いで到来する塊に対処するには腕が足りない。だが、受けるしかない!

 キリトは左足を踏ん張って急ブレーキをかけ、アドミニストレータに向けていた身体を半回転させて炎の塊に右手の黒い剣を突き込む! だがその一撃だけでは炎塊の勢いは僅かに鈍っただけであり、中心部を貫かれているにも関わらず、自らの中に切先を潜り込ませながらもキリトをひたすらに目指す。痛みも、恐怖も、死すらも踏み倒した猛進は圧倒的な力で振り払うことでしか止められない。

 キリトは左手の氷の剣でも同様に貫き、剣を中心に冷気が漏れ出るが、それも何事もなかったかのように炎に飲み込まれてしまう。

 

「舞え、花達!」

 

 しかし、あわや双剣の鍔まで炎に呑まれるかというとき、炎の塊を黄金の花弁が薙ぎ払った! 見れば、片腕だけを上げたアリスが息も絶え絶えに《金木犀の剣》を突き出していた。炎に対して花弁は相性が悪い。だが、彼女の渾身の一撃はチュデルキンの命の炎を細かに切断し、ほんの小さな灯火にまで分断した。それで彼女は再び気を失ってしまったが、最上のアシストを受けたキリトは最後の火も黒剣で消し去る。

 僕はここでようやく二歩目が動かせ、流れていた体をキリトに向けて転換させることに成功する。

 だがそれは同時に、僕がガードブレイクしたアドミニストレータまでも動き出せることを意味する。

 再びの刹那。まだ、キリトは遠い。どれだけ手を伸ばしても、肩を入れても、剣を差し出しても届かない。チュデルキンの火を消さねばならなかったキリトが何とか身体を反転させるが、そこには細剣を掲げて勝ち誇った顔をするアドミニストレータがいた。

 

「――はァッ!」

 

 細剣六連撃技《クルーシフィクション》。アスナもよく使い、あの《赤眼のザザ(死銃)》も使った技。素早い六連突きが胴体に満遍なく降り注ぐ。《シルヴァリー・エタニティ》と呼ばれたあの剣の高い優先度を加味すれば、キリトには看過できないダメージが入ってしまう。

 フラッシュバック。

 見たことのある光景が、繰り返される。

 鉄の城で。あのときも勝利を確信した瞬間であった。

 あのときも誰も動くことなど、間に合うことなどできないと思っていた。

 だが、あのときはアスナが。そして今回は――ユージオが、キリトの前に立った。

 彼の得物である《青薔薇の剣》はキリトの手の中にある。ユージオは全くの徒手で、恐るべき細剣の前に身を置いたのだ。その瞳に迷いはない。自身も氷漬けからカーディナルの尽力で解放されたばかりだというのに、その震える身体をここまで運んだ。

 キリトがその黒瞳を見開くのが分かった。思わず、足に力が籠る。一歩一歩が重い。いや、周りが遅く再生されるがために、意識だけが先行するために、思うままにあの若者を助けられない自分への悔しさが募る。

 僕らの目の前で、システムアシストに裏打ちされた六流の閃光が煌めく。

 ゆっくりと流れる視界の中で、僕はユージオの奮闘を目撃する。

 初撃の突きは半歩分重心を脇にズラしてすかし、二撃目ではその流れのままに足を横に置いて身を守る。既にソードスキルのターゲティングはユージオに移っているため、後は彼がどれだけ避けられるかにかかっている。

 そのまま三撃目と四撃目は身を縮こませることで掠らせるに留める。しかし、とうとう五本目の突きが彼の右肩を貫く!

 このままその命が散ってしまうのかと恐れたが、ユージオは強かであった。六撃目――ユージオはこのソードスキルを知らないであろうから、何撃目まであるかすら知らないだろうが――を回避もままならないままに受ければ、それこそ心臓を貫かれてしまう。ゆえに、被弾した五撃目を逆に利用して後方に跳んだのだ。ソードスキルを受けた激痛の中、彼は最良の選択肢を掴み取った。アドミニストレータの六撃目は何もない空間を漁るだけに終わる。

 ユージオの身体が後方に投げ出される。肩口からは鮮血が散り、床の染みに変わる。

 入れ替わるようにして、キリトが身体を前に倒しながら吠える。

 

「ぁあああああああ!!!!」

 

 燐光が両手の剣に宿る。

―――《二刀流》ソードスキル……!

 たしか名前は《ダブルサーキュラー》。二刀流突進技だ。

 二本の剣がアドミニストレータに迫る。《クルーシフィクション》の硬直時間はそれほど長くない。キリトが彼我の距離を詰める間にその猶予は過ぎ去り、アドミニストレータは再び左手の剣を構える。

 

「死ね! この無法者がァ!」

 

 アドミニストレータが叫ぶと同時に、その背中から前よりも強力になって質量すら備える黒いオーラが立つ! 足元に転がっていた、《ソード・ゴーレム》を構成していた黄金色の刃にそのオーラは纏わりつき、キリトを取り囲むように数本の刃を浮き上がらせる。

 《青薔薇の剣》と《シルヴァリー・エタニティ》が衝突し、強い衝撃のためにその両方が所持者の手から滑り落ちる。だが、キリトは二刀の使い手。彼が持つ刃は今一つある!

 キリトの黒い神器がアドミニストレータの左肩を奪う。ズルリと床に落ちた腕は空しく細剣を握り締めている。しかし、彼女は表情を一切崩さない。お返しだとでも言うように、彼女が目を瞠ると同時にキリトの周囲の刃が一斉に黒衣の剣士に襲いかかる!

 

「キリト!」

 

 やっと、やっとだ。ようやく、僕の剣が彼に届くところまで辿り着いた。アドミニストレータの黒い心意だけで動く刃を目一杯伸ばした剣で払い飛ばせば、その中でキリトは両腕を肩から失って座り込んでいた。

 

「行け、レント!」

 

 彼の無事を確認し、僕は脚を動かす。アドミニストレータは両腕を失って満身創痍だ。だが、不屈の意志を持つ彼女を放置すれば何をするかは分からない。

 今、走れるのは僕だけだった。

 アドミニストレータへと駆ける。彼女がこちらを睨めば、殺気の籠った瞳が僕を突き刺す。

 

「おのれ、小癪なァ!」

 

 彼女の長い髪が槍衾のように僕の視界一杯に広がる。鋭いその毛先と、反対にしなやかに衝撃を吸収する毛筋は確かに奥の手の武器としては脅威だろう。

 だが、知ったことか。

 彼女の髪に全身の手足を次々に突き刺される。細い針から釘、楔、杭を打ち込まれているように段々と傷口は広く、深くなる。

 だが、知ったことか。

 鋭い痛みが走り、脳がパンクしそうになる。溢れ出す血流を感じる。全身から力が抜ける。

 だが、知ったことか。

 僕はSAO以降の記憶を取り戻した。だが、それ以前の記憶が消えたわけでも、ましてこのアンダーワールドでの記憶を失ったわけでもない。

 いくら表面を繕っていようが、僕の(はらわた)の中では未だにアドミニストレータへの収まらない怒りが煮えたぎっていた。それを糧に、痛みも何もかもを超える。足を進める。刃を構え、害する意志を抱え、怨敵に迫る。

 

 気づけば、《白夜の剣》はアドミニストレータの胸に深々と突き刺さっていた――。




 というわけで、無事に三連戦終結!
 残りは戦後処理ですね。まさかまさか、最終戦でこれだけ文量を消費するとは思っていませんでした。アニメと同じ話数というものが達成できてしまいましたね。引き延ばしたわけではないのですが、戦闘シーンはやはり好きなんですよね。つい筆が乗ってしまいます。
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