SAOUW~if《白夜の騎士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 暇ゲフンゲフン余裕があるので頻度高めに更新です。どうぞ。


#36 飲下

 隊の編成が終わった。遊撃隊には僕、アリス、ユージオ、ベルクーリ、シェータ、レンリと整合騎士戦力の半分近くが割かれている。実力面を考えれば半分以上と言っても良いだろう。対して通常戦力である兵士は全軍のおよそ三割ほど。囮や挟撃役に十分で、かつ最小を狙った割り振りだ。挟撃の成果次第では戦全体の趨勢が決まるといえど、防衛線を突破されたら終わりなのは変わりなく、防衛部隊を無暗に減らすことはできなかった。

 峡谷の回廊に兵が整列している。その後方には物資を背負った移動式天幕の荷車が並び、上空を僕ら整合騎士が飛竜に乗って押さえている。アリスの大神聖術もあって敵陣は総崩れになってはいるが、《東の大門》を通過するには更にある程度の無茶が必要になる。飛竜のブレスでそこを焼き払う予定だ。

 僕は補給部隊の中に一際大きな荷車を見つけ、思わず呆れてしまった。あのフリーオは自分が老人であることを忘れているのか、激しく動くことになるだろう遊撃隊にしれっと自分を組み込んでいた。首都のオブシディア城に向かう道以外は暗黒界をまるで知らないから突貫したいのだと、元より寿命でいつ死んでもおかしくないのだから最期くらいは思いきり楽しみたいのだと周囲の反対を押しきってだ。最期くらいでなく散々楽しんできただろうに、そういう場面だけ自分の年を押しつけてくるのだから困ったものだ。

 遊撃隊は敵陣を強行突破したら南へと向かう。現状、内部から唯一ログアウトできる《ワールド・エンド・オールター》が南にあるため、僕の望みとして南進を提案した。地形に詳しくない暗黒界で他に当てがあるわけもなく、遊撃隊の進路はそのまま南に決まった。

 ベルクーリが剣を掲げる。そして振り下ろした。雄叫びは上げず、奇襲のように部隊は発進する。まずは敵を突破しなければならないのだから相手に陣形を組ませる隙を与えずに迫るのだ。

 峡谷を部隊に先行して飛び抜ける。するとアリスが耳に手を当てた。

 

「この音は……術式の多重詠唱!? なぜ、この辺りの神聖力は尽きたはずでは!」

 

 アリスの隣を飛んでいたユージオ――飛竜は四旋剣の乗騎を一頭貸してもらっている――が耳を澄ませた。

 

「それに――悲鳴?」

 

 悲鳴が聞こえたとして、前方から聞こえるのだからそれは間違いなく人界軍のものではない。神聖力の足りない峡谷での神聖術と合わせれば、その答えは導き出される。

 

「ッチ! 奴ら、何て真似を!」

 

 ベルクーリが事態を察して吐き捨てる。敵の術師は、自軍の兵を生贄に術式を発動させようとしているのだ。

 同じ頭を持っていても倫理観の違いがあるのだろう。ファナティオもこの方策を思いつき、事前に僕に危険を喚起していた。彼女は僕のことを高く買っているようで――どちらかと言うと買っているのは他の騎士の潔癖さかもしれないが――、計略やら謀略やらの話は常に僕に回してくる。その中には実行されなかった作戦の数々――卑劣、卑怯、下劣なものが多数を占める――が含まれていた。

―――いや、倫理観よりも合理性の問題か。

 兵を生贄にした術式は、有象無象の多数を強力な一撃に変換する行為だ。元より少数精鋭である人界軍には必要性の薄いものであるし、兵の数で負けているのにこれ以上人員を減らすわけにもいかない。逆の立場であればファナティオも同様の戦術を取ったのかもしれない。僕はそうは思わないが、人間どうなるかは分からないものである。

 

「……はぁ」

 

 溜め息が零れ、前方を飛んでいたユージオがあり得ないものを見るような目でこちらを振り返った。唖然とする彼の脇をすり抜け、更に先頭のベルクーリよりも前に立つ。

 

「流石にお前さんの神器でもあれは無茶だ!」

 

 ベルクーリの叫びに叫び返す。

 

「敵の思惑を考えればあれは指向性……強い反応に向かってくるはずです。僕が一部を引き寄せます。まさか連発はできないでしょうし、分割して処理します」

「……おう!」

 

 前方から黒紫色の禍々しい魔弾が迫りくる! 細かく観察すれば、その球は蛆虫のような細長い術式の塊であった。あれが散開したら厄介なことになる。

 

「引きつけて上昇! その後は各自散開して回避行動に移れ!」

 

 ベルクーリの指示のもと、僕以外の整合騎士が上空へ舞い上がる。反対に僕は《陽纏》を地面に降ろした。

 案の定、魔弾は二手に分かれる。《陽纏》は得意の地上を駆け、魔弾の一方と僕は相対する。

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

 僕がファナティオに注意喚起された理由は、僕の神器が対神聖術で非常に有利なものであるから。しかし今前方から迫る魔弾は、一部でしかないにもかかわらずあのチュデルキンの炎の巨人にも迫る圧を持っていた。

 呼吸を整え、その魔弾に剣をぶつける! ぶつかった瞬間に蛆虫は散り、群がるように《白夜の剣》に食らいついた。それらを端から神聖力に還元し剣の内側に溜め込み、即座に《白夜の剣》の天命へと変換する。しかしこの虫は天命を吸収する作用を持っているようで――さながら蛭だ――、回復が間に合わない!

 

「くっ」

 

 足で《陽纏》に指示をし、そのブレスでもって蛆虫との間に一瞬の空隙を作る。その間に剣に絡みついた虫を天命に換える。これでもまだ僕に向かってきた魔弾の三分の一ほどしか消費できてはいない。

 片目で空を眺める。五人の整合騎士は三方向に分かれ、それぞれが少しずつ虫を削っているようだ。アリスの《金木犀の剣》がこれ相手には相性が良い反面、ベルクーリやシェータのものは対抗策にならず、レンリの《雙翼刃》では物量で分が悪い。これが地上を走る蛆であればユージオの《青薔薇の剣》での一掃も叶ったかもしれないが、空中では彼の武装完全支配術が凍らせる媒体が存在しない。

―――頑張るしか、ないか!

 上空の五人の方が、一人残った僕よりも余程苦しい状況だ。早くこちらを片さねばならない。

 再び僕は武装完全支配術を展開し、蛆虫を呑み込む戦いに取りかかる。先程ので要領は把握した。この術式で恐ろしいのはその物量であって、質ではない。質で見るならばアドミニストレータの雷撃の方が数倍吸収には手間取った。この術式は普段僕らが使うものとは違う負のエネルギーであるためそのまま反射することこそできないが、神聖力に解く分には問題はない。

 しかし量だ。何よりも相対せねばならない量が問題だ。蛆虫の集団は分裂して背後からも僕をつけ狙う。それが恐ろしい。これに一度捕まってしまえば、天命が尽きるまでその坩堝から抜け出すことは叶うまい。

 

「エルドリエ!」

 

 アリスの叫びが聞こえた。そちらへ視線のみを向ければ、エルドリエが記憶解放術を使用するところだった。彼の使う《霜麟鞭》は大蛇を素材にした神器であり、虫には有利だ。しかしそれにも限度がある。

 記憶解放術は解放の言葉通り周囲に強烈なオーラを放つ。それに吸い寄せられ、目の前の蛆虫が揃ってエルドリエへと狙いを変えた。

 僕の目の前のもの、上空で三方に分かれていたもの、それら合わせて四つの魔弾がエルドリエへと殺到する。彼の神器はその内の一つに食らいついた!

 一対一であれば拮抗。それがエルドリエの記憶解放術と魔弾の相性だ。具現化した蛇と蛆虫は互いに互いを食らい合っている。

 だが、現実は一対四だ。まともに接触すれば一息でエルドリエは飲み込まれてしまう。

 僕の脳裏に彼の最期が浮かぶ。彼の覚悟なら確かに人界軍は守れる。しかし彼自身の命は散っていく。数少ない僕の後輩の整合騎士が。

 

「させる、ものか!!」

 

―――イメージしろ。

―――巨大な圧を持った、虫に対抗できるもの。

―――全身が武器のようで、周囲全てを破壊するような化け物。

 

 体が熱い。

 

 熱いのは体ではない、頭だ。

 

 いや頭ではない、魂だ。

 

 STLでもできないような芸当をナーヴギアで押し通す。その無理を肌で感じる。しかし僕はやらねばならない。《白夜の剣》の内に残った虫のリソースを掻き集める。剣自体の天命も、そして僕自身の天命も限界まで供給する。

 イメージする。僕の剣よりその怪が飛び出て、あの虫らをまとめて取り込み食らい尽くす様を。

 イメージする。全員が生き残る未来を。

 イメージする。イメージする。イメージする。信じる。絶対にそこに()がいると。信じる。信じる。信じる。

 締めつけるように頭が痛む。鼻血が噴き出した。知るか。何より大事なのは、今この瞬間にあの若い騎士を助けることだけだ。

 

「さあ、来い!

 

 

 

――《骸骨の刈り手(ザ・スカル・リーパー)》!」

 

 

 

 叫ぶと同時に剣を振る。そこから僕がイメージする、多数を最も効率的に殺戮する怪物が、人間の頭蓋骨の後頭部を引き伸ばしたような髑髏がぬるりと抜け出る。その髑髏だけで縦に三メートル以上あり、四つの眼窩には不気味な赤い光が灯っている。下顎が四つに割れながら開いた口から呻き声のような咆哮が轟く。

 僕が一人で顕現させられたのはそこまでだった。《心意》で無理矢理再現したが、圧倒的なリソース不足までは誤魔化せなかった。奴の最大の武器である鎌すらも作ることは叶わなかった。

 しかしそれで十分だった。記憶解放術を用いただけで引きつけられる虫だ。これだけの質量を持つ、神聖力を《心意》で無理矢理塗り固めたような存在に引き寄せられないはずがない。元々僕に向かってきていた魔弾が百八十度方向を変えて僕に再び襲来する。それは端からザ・スカル・リーパーの口腔に吸い込まれていった。

 元が負のイメージであり、最初の顕現で虫の神聖力を用いたこの怪物にとって虫は手頃な栄養剤にしかならない。《白夜の剣》を媒体にして現したこともあって、他の神聖力を取り込むことがザ・スカル・リーパーには容易だった。

 数えきれない数の虫が来るのに対応して髑髏が前進する。術式の神聖力を吸収しながら骨ムカデの首より下が形成されていく。特徴的な大鎌が現れ、人の背骨と肋骨のような上半身が続く。一本一本の足が触れた者を抹殺するムカデの下半身が抜け出て、最後に破城槌のごとき破壊力を持つ長い槍のような尾が剣から抜ける。

 魔弾を全て吸収して完全体になったザ・スカル・リーパーが鎌を振り回して絶叫した。刻一刻と存在を大きくした骸骨へ虫は絶えず襲いかかり、とうとうエルドリエに向かう虫よりも骨ムカデに向かう虫が多くなった。

 そうなればエルドリエの記憶解放術が虫を殲滅するのは時間の問題だった。虫の数が減り、ザ・スカル・リーパーはその鎌と尾を使って飲み込むのではなく虫を切り刻み始めた。そして遂に一匹の蛆虫も残さずに骸骨の刈り手は平らげてみせた。

 勝ち誇って再び咆哮するザ・スカル・リーパーの上で、アリスが《金木犀の剣》の武装完全支配術を使用した。《光の巫女》としての名乗りを上げながら、術式の失敗に狼狽える敵の術師団へその剣先を向ける。つき従う飛竜達が一斉にブレスを放って突破口を設け、その間を兵が駆け抜けていく。

 それを見届けた僕の意識は暗転した。

 

******

 

「はっ!?」

 

 跳び起きる。体の下にあるのは簡素な寝台。これは医療用に補給部隊が運搬しているもののはずだ。その枠に立てかけられていた《白夜の剣》を掴む。全身に着けているのは鎧の下のラフな装束で、僕がいるのは補給部隊の荷車――今は天幕になっている――の中で、隅に鎧が置かれているのを確認した。意識をなくした僕は――遊撃隊か防衛隊かはわからないが――人界軍に回収され、テントで休まされていたのだろう。

 現状をある程度把握した僕は、戦況の確認をするために天幕の外に出た。空は暗く、大地は赤茶けている。ここが暗黒界であることは間違いなく、また夜であるようだ。夜が未だ明けていないのか、半日以上も気を失っていたのか。

 暗黒界にいるということは遊撃隊であるから、その長であるベルクーリを探すために一歩を踏み出したとき、耳に剣戟の音が届いた。方向転換しつつ駆け出し、抜剣する。既に交戦状態に入っている中で実戦訓練を行うような兵士はいないだろうから、敵襲である。天幕を張り陣を築いた状態での敵襲は、退却の用意の時間を稼ぐためにも実力者による奮戦が必要とされる。

―――動けよ、身体!

 気絶したのだ。まだ全身の疲労が抜けているとは言いがたい。何より薄っすらとではあるが頭痛が未だ止まない。万全とはほど遠い。

 天幕の間を抜け、剣戟の場に到達する。しかしそこで僕の足は止まった。

 交戦していたのは二人。片方はユージオだ。ではもう片方が襲撃者かと言えば、そうは断言できなかった。

 ()()の見かけは人であり、軽鎧を身に着けている。これらの情報からは暗黒騎士のように思えるが、彼らの鎧は基本的に暗黒界での保護色も兼ねた暗い色調をしている。しかしこの軽鎧は白を基調としたもので、戦闘用と思えないほど華やかであった。

 そして何より、ユージオと互角の戦いを繰り広げる彼女の剣閃や容姿は僕のよく知った、()()()のものだった。

 

「お前は何者だ! なぜキリトの天幕から出てきた!」

「なぜ、って。キリト君は私のだからよ!」

 

―――お、おう。

 二人の剣幕に思わず声を失ってしまった。確かにユージオから見れば素性の知れない何者かであるからアスナを警戒するだろうし、突如として斬りかかられればさしものアスナも動転して言葉足らずになるだろう。

 一つ咳払いをして、この混乱を収拾にかかった。

 

「アスナちゃん、ユージオ君。そこまで」

 

 剣閃の間に入り、それぞれの剣を《白夜の剣》の剣身と鞘で受け流す。キリトの面倒を見ていた二人の修剣士がほっと一息を吐いたのが見えた。

 

「か、翔君!」

「レント! どうして……。まさか、君が言ってた援軍が彼女か!?」

 

 二人の間を取り持てる僕がいなければお互い殺し合うことになっていただろうに、僕の姿を見ただけで二人は剣を引いた。ありがたいことではあるのだが、余りの素直さに少し拍子抜けしてしまう。

 

「お、レント。起きたか」

 

 騒ぎを聞きつけてか、いつの間にかベルクーリまで集まってきていた。その後ろではアリスが心配そうにこちらを見ている。

 

「レントも起きたことだし、改めて軍議にするか。そこの嬢ちゃん達、他の騎士や衛士長らを呼び集めてくれ。熱いお茶と、俺には菓子も準備してくれ」

「は、はい!」

 

 修剣士の二人が天幕へと駆け、ベルクーリらも本営へと向かっていけば、その場には僕とアスナ、ユージオだけが残った。僕が意識をなくしてからのこともあるし、さっさと情報のすり合わせを行いたかったのでありがたい。

 

「さて、二人とも突然の出会いで驚いたかもしれないけど、これからはキリト君を支える者として仲良くやろうね」

 

 二人は不承不承頷く。一応剣は引いたが、互いに不信感が残ってしまっているようだ。二人には打ち解けてほしいのだが。

 

「ユージオ君、こちらはアスナ。キリト君の恋人で、キリト君を探して……そうだな、帝国の間の壁を乗り越えて皇帝の館に侵入するくらいの無茶をした人」

 

 アスナを片手で示しながらユージオに紹介する。帝国の間の壁は《果ての山脈》と同じくらいの高さがあるもので、それを乗り越えるなど人間業ではない。ユージオは想像して何とも言いがたい顔をしていた。

 

「アスナちゃん、こちらはユージオ。この世界でのキリト君の相棒で、幼馴染の女の子を取り戻すために……そうだね、網走監獄に侵入してから一緒に脱獄して冬山に逃亡するくらいの無理をした人」

 

 今度は逆にユージオをアスナに紹介する。二人がやったことを思えば、正直なところそう大差はない。アスナもユージオの所業に呆れた顔をしていた。その呆れの何割かは、相棒としてそれに同行したキリトに向けられているのだろうが。

 

「ユージオさん、キリト君をありがとう。一人だと突っ走っちゃう人だから、この世界で相棒がいたって聞いて安心しました」

「えと、こちらこそ、キリトには凄いお世話になったから。アスナさんも、これからよろしくお願いします」

 

 二人は硬く握手を交わした。




アスナ(相棒、幼馴染の女の子……。よし、流石のキリト君でも男の子は大丈夫、よね?)
ユージオ(恋人、本当にいたんだ。でもキリトを後ろから支える人、かぁ)

 セーフッ!

 主人公に無茶苦茶させるのは楽しいです。《ザ・スカル・リーパー》とかいう懐かしすぎる代物が暴れ回りました。ディー・アイ・エルは大混乱でしょうね、あんなものを撃てる空間暗黒力はないのに、って。実際は砒素蟲の神聖力を流用しているので元を正せばオークの天命で動いてたわけですが。ちなみに主人公が気絶したらただの神聖力に崩壊しました。
 ナーヴギアでダイブしている弊害で、主人公はかなり無理をしなければ《心意》が扱えません。無理をすれば扱える時点でズルいんですが、STL使ってたらもっと酷かったってことですね。
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