SAOUW~if《白夜の騎士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 レントはアスナと合流できました。今回は戦闘シーンはありませんが、どうぞ。


#37 談話

「私はアスナ。この世界の『外』、リアルワールドでアンダーワールドの支配権をかけて争っている一勢力であるラースの使者です」

 

 アスナは軍議でそう切り出した。この世界の住民――主に整合騎士――の世界への理解度については前もって伝えていたが、それにしても情報量の塊のような台詞だ。それでも一般兵の隊長格には僅かな動揺が見えたが、整合騎士の面々は淡泊な表情でアスナを眺めていた。

 軍議の前に僕とアスナで情報の摺り合わせは終えていた。今回の勝手な行動(ナーヴギアによるダイブ)はひとまず見逃されたが、向こうの様子を語る口振りの端々に棘があったのはご愛敬だ。アスナ――とラースの面々――は敵方のダイブを未だ掴んでいなかったようで、《暗黒神ベクタ》の存在は彼女を激しく動揺させていたが、反面、アリスとユージオの外への脱出の同意が取れている点がその緊張を和らげたようだった。

 

「そのラースってのはレントが所属している陣営と見て間違いないのか?」

 

 ベルクーリが僕へと水を向ける。

 

「……所属している、と断言するには苦いものがありますが、形式的にはそうなっています」

「苦いねぇ。それは何でだ?」

「彼らの目的と僕個人の望みが大きく乖離しているからです」

「っレント君」

 

 アスナがそのまま話し続けようとした僕の言葉を遮る。腕を組んで考えていたアリスが口を開いた。

 

「私は情報の秘匿を望みません。それ相応の理由があるなら話は別ですが、既にレントには一度警告しています。徒に愚を繰り返すような真似はしないでいただきたい」

 

 アリスの口調は硬い。《暗黒神ベクタ》のときにも話した『皮』の件がアスナにも適応されているため神への崇拝の念がないのは良いとしても、それ以外の点で僕ら(リアルワールド人)は悪感情を稼ぎ過ぎた。

 

「……私は、アリスさんやユージオさんには自分の目でこちらの世界を判断してほしいと思っています。この世界に比べたら私達の世界の方がずっと醜く、汚れています。でも、そんな部分ばかりじゃないんです! ……ですから、先入観を与えたくはありません」

「なるほど、貴女の主張は分かりました」

 

 一度アリスは瞑目して頷く。

 

「時に、ユージオ。今、貴方は『外』の世界にどのような印象を持っていますか?」

「そう、だね。……僕にとって『外』はキリトの世界です。レントの出身であり、ベクタの本拠地です。キリトやレントを見る限り、きっとアスナさんは善人です。ベクタは……分かりませんが、リアルワールドにはキリトやレントみたいな人がいっぱいいて、同時にアドミニストレータみたいな人もきっといる。面白い世界だと思っています」

 

 ユージオの言葉に、アスナは目を瞬かせた。

 

「私の意見も概ねユージオと同じです。一を見て十を判断するなど、私達には到底できません。ですから、たとえどんな話を聞かされようと、自らの目で見たものを、レントやキリト、それから貴女を信じましょう」

「――キリト君は、とても良い友人を持ったんですね」

 

 アスナの顔が綻んだ。

 

「分かりました。レント君、遮ってごめんね。続けて?」

「僕も同じことをしたからね、人のことは言えないさ。――僕らの背後にいるラースや、ベクタの陣営の目的は一つ、この世界の住人の奴隷化です」

 

 今度こそ、整合騎士の間にも同様が広まった。

 

「この世界と『外』の世界は時間の流れが異なります。『外』からそれは調節できるのですが、あちらの一秒をこちらの千秒にすることすら可能です。つまりたったの数日で成熟した大人を徴用できるようになります。その軍事転用性は非常に高い。そしてそれ以外も」

「でも、私達はそれに反対する立場を取っています。ですから、ラースと目的を一にしているとは言いがたいのです。ベクタの陣営と私達は言葉を交わすことができませんが、ラースに対してはそれが叶います。そのため、私達はアリスさんとユージオさんをベクタの陣営に渡らないようにしつつ、ラースを説得するつもりです」

「理解しました。蓋を開けてみればその程度でしたか。洗脳や剣に変換する段階が挟まらない分、最高司祭の方が悪辣でしたね。確かに『大局』を見れば、それで犠牲になる人界の民は数えきれないものにはなりますが」

 

 アリスはお道化たように言った。それにアスナの張っていた肩がストンと落ちた。僕も知らずにかいていた手汗を拭う。

 

「あー、ところでレントよ。その説明だと、お前さんらが右目の封印にこだわる理由が分からん。兵士として使うだけなら別に関係ないだろ?」

 

 ベルクーリの質問を受け、僕は全員を見渡した。

 

「……皆さんは、同じ人間にその剣先を向けることができますか?」

 

 その一言でベルクーリは全てを理解したようだった。

 

「はぁ、つまり、何だ。『外』じゃ()()()()で争っているのか」

「はい。むしろ暗黒界の住人のような亜人種は存在しません。《禁忌目録》を破れなければ、兵士としては使い道がない。アリスちゃんやユージオ君のような存在を解剖し、それを乗り越えられる人間を量産するつもりなのです」

「一気に悪辣さが増しましたね」

 

 アリスが辟易とした表情を示した。

 

「……私達が必ずラースを説得します。改めて、『外』に行くことを許していただけますか?」

「ユージオ?」

「騎士に二言はない。そうだよね、アリス」

「上出来です。構いませんよね、小父様?」

「ああ。お前さんも説得に力を貸してやれ。人界を守った後は人間を守るんだ。騎士の領分だろう」

「そういうわけで、ご心配は要りません。ひとまずは人界を守ることを優先させてもらいますが」

「ええ、もちろん。ベクタがリアルワールド人である以上、私も『外』に行く前にその脅威を排除したいところです。私も皆さんと一緒に戦います!」

 

 衛士長らが歓声を上げる。話を聞いただけだが、《創世神ステイシア》の『皮』に設定された《無制限地形操作》の有用性は計り知れない。人界軍にとってはこれ以上ない援軍だった。

 

******

 

「みんなにはああ言ったけど、本当に説得できるのかな……」

 

 軍議が終わりキリトの天幕へ向かう中、アスナがそう零した。

 

「できると思ってるよ、僕は」

 

 間髪入れずにそう返した僕にアスナは困惑の声を上げる。その自信がなければ『大局』を見た判断として、僕はアリスとユージオをベクタの前で斬り殺さなければいけないのだから理論を固めておいたのだ。

 

「まずAIの軍事転用の利点って何だと思う?」

「えっと、肉体を持った兵士の損耗が抑えられること?」

「そうだね。それから今回は兵士の量産も含まれる。一人の兵士を育てるには二十数年の年月とともに多額の費用がかかる。昨今はVRを利用した訓練で訓練費が削られつつあるとは言っても、兵士を養うのには場所代や設備費がかかり、ついでに給金も出さなきゃいけない。AIにはそれが全部不要で、電気代だけの負担で一週間で兵士が完成するんだから圧倒的に得だ」

 

 アスナは露骨に嫌悪感を表した。僕もそれには同意するが、現実はそれとして見つめなければいけない。

 

「だけどAIの軍事転用はそれ以上に大きなメリットがある。それが人権問題だ」

「……AIだから、いくら殺しても良いってこと?」

「端的に言えばそうだね。もっと詳しく言えば国民感情の話だ。兵士一人一人には当然家族がいる。兵を損耗することと遺族が増えることは同義であり、それが現在の世界で戦争が少ない一番の理由だ。民主主義において多くの国民が負の感情を抱く可能性の高い戦争を主導するのは、余程の大義か絶対的な支持、もしくは世論がない限り難しい」

「AIが兵士になれば、それを気にしなくて済む……」

 

 AIがいくら損耗しようと選挙権の持つ遺族が生まれることはない。政府としては望外の喜びだろう。

 

「まあ戦地の住人には被害が出るだろうから人命にまつわる問題自体は尽きることはないけど、自軍の兵士に関してそれが起きないのは大きな利点だ」

 

 僕は足を止めてアスナに向き直った。

 

「ここで、AIの軍事転用を達成して一番得をするのはどんな国だと思う?」

「どんな……国?」

「大国か小国か。先進国? 発展途上国? もっと具体名でも構わないよ。日本? アメリカ?」

「……それは、日本みたいな国じゃないの? 徴兵制に対して大きな反感があって、自衛隊も装備や資金は潤沢だけど兵士の数で見ると軍事大国には遠く及ばない。AIでその嵩増しができれば大きな力になる」

 

 アスナの分析は冷静だ。だが視点が足りていない。

 

「いいや、違うよ。AIで兵士を追加補充できて喜ぶのは資源に満ち満ちた軍事大国だ。彼らが戦争を断念する理由は兵士の問題と国民感情の問題にしかないんだから」

 

 それだけでアスナは僕の理論の勘所を掴んだようだった。

 

「そう、ね。日本は軍需物資は輸入で対応できるくらいの資金を供給できるかもしれないけど、確かにどこも売ってくれなければ継戦能力が大きく落ちる。だけど自国内で十分な物資を準備できる国なら、AIの軍事転用と合わせて自国だけでいくらでも戦い続けられる……」

「日本はその点、AIの軍事転用をしても利益は小さい。物資面に不安を抱えていて、国民の反戦感情は兵器や基地の存在にすら向かうほど根強いものだから兵士や遺族の問題だけでは解決しない。特に大戦の教訓があるから、ね」

「じゃ、じゃあなんで菊岡さん達は……」

「そんなのは当然自国が先に保有するためだよ」

 

 アスナは怪訝な色を隠さない。

 

「核兵器と一緒だよ。他所が持ってなくて自国だけ持っているなら、それだけで非常に強力な牽制になる。さっきの前提は他国も同じ設備を持っている場合の話だよ。日本だけがAIを軍事転用できるなら、また話は変わってくる」

「でも、そんなこと」

「もちろん、無理だ。今回みたいな強奪や、スパイを使った奪取、はたまた内通者による漏洩など、軍事機密を他所が手にする手法は多い。そもそも他国は他国で開発しているだろうし、戦っているうちに理解されてしまう部分もあるだろう。だけど、それでも、一番最初に軍事転用して兵器として構えるということには一定の利がある。だから防衛省もそれを狙っている」

「ッ……」

 

 僕はアスナに笑みを向けた。ここが、僕の勝算だ。

 

「だけど、それは非常に不安定なものだ。核と同様にすぐに無意味になる。むしろ日本はAIの利点を活かせないからこそ状況は不利になるだろうね。()()()()()の『AIの人権問題』だ。そもそもどこの国の軍事転用も封じてしまえば、状況が悪化することはない。ついでに技術独占して軍事転用以外の部分で利を生めば良い。軍事転用できない技術の開発は遅れるだろうから、日本は経済面で一歩進むことができる」

「……それを主張する、と」

「うん。菊岡さんにもこのヴィジョンはあるはずだよ。それを可能にできていないのは、きっと『上』の判断だ。その意味では今回の事件は僥倖だったね」

「これを理由に、技術独占の危うさを知らしめることができる」

 

 アスナは凛々しい表情で頷いた。

 

「流石はおじい様と歓談するレント君ね。希望が見えてきたわ」

「あー、話は終わったかな?」

 

 そのタイミングで、少し気不味そうにユージオが物陰から歩み出してきた。その後ろにはアリスもついている。

 

「盗み聞きする気はなかったんだ。ちょっと、キリトのことで話したくて」

「ああ、別に構いません。隠し立てすることでもないですし、ね?」

「……まぁ、どこまで理解できたかは分からないけど。『外』に行ったら向こうの事情をいっぱい詰め込むことになるから、頑張って」

 

 そう言うとユージオは目に見えてげっそりとし、力強く返事をしたアリスに背を叩かれていた。

 

「それで、キリト君の話とは?」

「『外』の世界でのキリトの様子が知りたくて。僕が知る限りのキリトのことも話しますから」

 

 僕とアスナは視線を交わし、同時に承諾した。

 その晩のキリトの天幕での交流会にはキリトの傍つき修剣士や、キリトを傍つきにしていた衛士長まで参加したのは想定外だったが。

―――まぁ、女の子引っかけてるのは想定内かな……。

 ユージオが男であっただけ良かったと思おう。

 

******

 


 

******

 

~in:オーシャンタートル~

 

「どうなの、比嘉君!?」

 

 神代はそんなことしている場合ではないと頭では理解しつつも、隣に座る比嘉に詰問することを耐えられなかった。

 

「……ッ、状況は、厳しいっす」

 

 キーボードを叩き続けながら比嘉は零すが、その視線は神代には一切向かない。ホロウィンドウには次々に新たな文字列が浮かび上がり続けている。

 

「向こうの技術者のハッキング技術は相当高いっすし、ついでに言えば単純に当然メインコンの向こうの方が優先度が高いっす」

 

 流れ落ちる冷や汗が机に落ちた。

 

「何とか抵抗してるっすけど、もって二時まで。それでもちょっとずつ下げられちまうでしょうから、実動時間はかなり短くなります」

「……それでも時間稼ぎをすることは無意味ではないはずだ。中にいるレント君やアスナ君の実力を信じよう」

 

 菊岡も苦々しく呟く。その視線は、ウィンドウの一つに表示されているFLA倍率を貫いていた。その数字は三から五の間を不安定に行き来している。

 

「内部時間はどのくらい経ったの?」

「……レント君がダイブしてから考えると、こちらで五倍まで下げるまでの約三十分間はナーヴギアの耐用限界である百倍で動いていましたから、それだけで約二日。アスナ君がダイブしてから五時間の間は五倍を維持していたので約一日。それからは平均して四倍の速さだったが――」

「菊さん、訂正。二時までもたない。なので凛子先輩、大体三日だけっすね。あの子達に与えてあげられたのは」

「たったの、三日……」

 

 神代は顔を歪める。ナーヴギアで翔がダイブしたと聞いたときは、五倍までFLA倍率を下げなければいけなくなればアスナに与えられたはずの時間の猶予が奪われたとやや憤る部分もあったのだが、蓋を開けてみれば結局敵方の工作でそれも奪われてしまうので単純な増援である。

 それにレントのこともあって比嘉はFLA倍率を確認していた。ナーヴギアはハードウェアとしては百倍でも何とか動くが――一時間も耐えずに壊れるだろうが――、それに繋がれた人間は非対応機体で無理しなければいけないため危険性が余りに高い。そのギリギリを攻めているのが五倍という数字だ。それが変動したら即刻レントの命に関わってくる。

 その緊張感があったからこそ、敵の妨害工作に気づくことができたのだ。そうでなければこうした抵抗もできないままに現実世界の時間と同期させられ、アスナの仕事の遅さを呑気に尋ねる事態になってしまっていただろう。そういった点でも怪我の巧妙であった。

 

「本当に厄介ね。私達だけが内部に干渉できるという利点を上手く潰されてしまった。何か他の策を取らないといけないんじゃない、菊岡さん?」

「……そうですね」

 

 菊岡は再び顎に手を当てて思案顔になる。そこで二人の自衛官がサブコンに入ってきた。

 

「ああ、柳井さんの尋問と部屋の捜索はどうだった?」

「ありゃ、駄目ですね。完全にやられてます」

 

 片方の自衛官が肩を竦めて首を振った。

 

「アンダーワールド人の最高司祭、アドミニストレータって女に洗脳されてました。何でも、彼女の言う通りにこちらの世界に彼女を脱出させられたら第一の(しもべ)にしてもらえる、だとか。あそこまで見事に篭絡された人間を見たのは初めてですよ」

 

 その場にいた全員が暗い表情になった。この事態を引き起こした人間の底がそれほど浅いことに非常に惨めな気持ちを感じていた。

 

「須郷伸之が持っていた()()()とのルートも握っていたようで、それも確保できました。無事に帰ったら大掃除にかかる必要がありそうです」

 

 その自衛官は調書であるプリントを菊岡に差し出した。悠長にプリンターなど使えない現状では手書きであったが、その内容に菊岡は嘆息する。

 

「果たして、掃除できるかは微妙なところだけどね」

 

 もう一人の自衛官がチャックつきのビニール袋二つを持ち上げた。片方にはUSBメモリやスマートフォンなどの電子情報媒体、はたまたメモ帳のようなものまでが大量に入っている。

 

「これが対象の部屋、及び所持していた情報媒体です。全て回収しました」

 

 そしてもう一つの袋に入っていたのは、一見情報媒体のようには見えない黒々とした立方体だった。

 

「こちらはアンダーワールドより脱出した件の女性、アドミニストレータのライトキューブです」




 アドミニストレータ、脱出! 彼女のこれからは特に決めていませんが、取りあえず生存です。
 本当は二月の間は隔日投稿するつもりだったんです。それが気づけば月末になっていて……。完結は遠いですね。
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