SAOUW~if《白夜の騎士》の物語   作:大牟田蓮斗

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 SAOアニメ延期悲しいですね。本当ならシノンさんのカッコいい姿見れたというのに……。本作ではいつになればカッコいいシノンさんが見れるんでしょうか。とはいえ六話です、どうぞ。


#6 旅立

 その夜、ダーニホグ村はいつもと異なり陽が沈んでも轟々と焚火が燃やされ昼のような明るさを保っていた。幼児や乳児のような余りに幼い者を除けば、村民のほぼ全員が広場に集まっていた。

 

「それでは! 我らがダーニホグ村を長きに亘り苦しめ続けた《災厄の岩》を見事打ち砕いた彼、フリーオを称えて、乾杯!」

 

 村長の声に唱和して乾杯という声が轟く。行商団にまで回されたジョッキに入るのは薄味の酒だ。この世界に未成年という括りは存在しない。若過ぎると良くないという認識はあるようだが具体的な決まりはなく、個人の判断で子供に酒を飲ませている。

 初めて口にした酒は味が薄いだけでなくアルコール度数も低いのか、水と大して変わりなかった。それでも場の雰囲気もあって、俺は酔ったようなどこかフワフワとした感覚を覚えた。

 広場の中央では丸太が組み上げられ大きな炎が燃え盛り、その周囲ではゆったりとした音楽に合わせて社交ダンスが行われている。元の世界にもあるフルートのような楽器や見知らぬ管楽器などを使う音楽隊も、晴れやかな表情で楽しげな音を奏でている。祝い事だからと肉や魚が贅沢に皿に載り、行商団から提供された各地の珍しい食品が彩を加えている。

 宴は陽が沈む頃から、夜空一杯に星が煌めくようになるまで続いた。僅かに騒ぎが落ちついてきたとき、この宴のメインイベントがやって来た。

 

「さあ! ダーニホグ村の若き英雄、フリーオよ!」

 

 村長に引っ張られ演壇にフリーオが立たされる。その様子を見て村民も歌や踊り、会話を止めて演壇に視線を集中させる。一気に大勢の人の目に晒されフリーオは唾を呑んだ。

 

「この度、お前は自らの天職である《砕き手》を無事に全うした! 与えられた天職を全うしたお前には、新しき天職を選ぶ権利が与えられる! さあ、お前は何を天職に選ぶ?」

 

 観客である村民の間から、勧誘のような声が上がる。パン屋に農家、革細工師に精肉店、果ては衛士までから酔った声が飛ぶ。

 フリーオらしくもなく逡巡した彼の視線は観客の上を彷徨い、少し離れて騒ぎを眺めていた行商団、そしてその中の俺に留まった。

 

 

 

 

「――俺は、……行商団に、ついて行きたい」

 

 

 

 

 水が引くような沈黙が広場を満たす。痛いほどの静寂に包まれフリーオの表情が硬くなる。チラリと横目で眺めれば行商団の面々は苦虫を嚙み潰したような、それでいて呆れながら喜ぶような複雑な表情を見せていた。

 

「……あー。なんだ、フリーオ。明日の朝、もう一度天職の希望を聞いて最終決定とする! だから今晩ゆっくり考えるといい。決定を急いてしまった私が悪かったな。みんなもそれで良いだろう?」

 

 ゆっくりと観衆から賛同の声が上がる。フリーオは憮然とした表情をしながら演壇を下りた。

 その後も宴は続き、ややギクシャクとした空気を残しながらも、夜半が過ぎれば段々と人々は自らの家に帰っていった。

 行商団は次の太陽が昇る頃には村を出ることになるので、他の村民よりも早くに宴から離れ出立の準備を始めた。

 荷造りが終わり後はロバさえ繋げば村を出られる状況になる頃には、広場の中央の炎も消え、宴の痕跡が残る広場には誰一人として残っていなかった。

 広場の噴水に腰を下ろす。小振りだが石造りのそれは趣味が良かった。

 

「――フリーオ、いるんだろ」

「……ああ」

 

 声をかければ、広場を囲む建物の陰からフリーオが出てくる。スタスタと真っすぐこちらへ歩いてくると、俺の隣に並んで腰を下ろした。

 

「……行商団について行きたいってそんなに駄目なことなのかな」

 

 フリーオが暗い顔をして呟いた。

 

「行商団は明日の朝この村を出て行くんだろ? ……ってことは、端から行商団について行くっていう選択肢を消した上で俺に天職を選ばせようとしてるんだ。――駄目なら、駄目って言ってくれればいいのに」

 

 村長の手口は、確かに卑怯だった。考え直してほしいのは分かる。以前も述べたがこの世界で行商団とは異質な存在であり、助かりはするが究極的にはどこにとっても異分子。そんなところに望んで子供を入れたがる人間は少ない。既に両親が他界しているフリーオは、言わばこの村全体の子だ。誰も望みはすまい。

 しかし、親の心子知らず。いや、親の心を知った上でその庇護下から抜けようと決意するのが子だ。フリーオとて行商団に参加させたくない村の皆の気持ちは分かっている。彼が一番気に食わないのは、その気持ちを素直に伝えてくれないことだった。

 

「駄目って言われたらフリーオは諦めるのか?」

「……諦め、ない。俺はこの小さな村を出たいんだ。毎日毎日同じことの繰り返しは嫌だ。……行商団に夢を見過ぎと言われたらそうなのかもしれない。だけど、俺はお前の話を聞いて思ったんだよ。俺も、そんな旅がしたいって」

 

 フリーオは目を輝かせる。キラキラ、キラキラと。まるで夜空を見上げたような輝きを俺は瞳に見出す。

 

「ここじゃない景色を見たい。知らない道を歩きたい。様々な人と言葉を交わしたい。もっと、この世界を知りたい」

「……本気、なんだね」

「ああ!」

 

 力強く言いきるフリーオだが、すぐに目を伏せてしまう。

 

「だけど、明日の朝にはもうお前たちはいない。……俺は、この村でしか生きられないのかな」

 

 俺は右手を挙げた。それを合図に、続々と噴水の周りに人が集まり出す。慌てたフリーオも、それが皆行商団のメンバーだと分かると今度は疑問を浮かべる。

 フリーオの目前に歩んできたグルトが、右手を差し出しながら告げた。

 

「さて、フリーオ。私達は予定を変更して今からこの村を発とうと思っているんだ。それで一つ提案なんだが、……我々と共に来ないかね?」

「えっ……。でも、俺は――」

「君は天職を全うした。そして今は何の天職にも就いていない。つまり、どんな制約にも君は縛られていないんだ。ダーニホグ村の掟を確認したが、『新たな天職は村長に決められる』とも『行商団に参加してはいけない』とも書いてはいない。《禁忌目録》にだって『天職を全うしたら次の天職は自分で決められる』としか書いていない。――さあ、フリーオ。君は次の天職を何にしたい?」

「俺は、俺は! 行商団に入る!」

「よし、決まりだ! となれば、早くこの村を出てしまおう! 行商団に入りこの村を出てしまえばもう村長なんて怖くないからな!」

 

 フリーオはグルトの手を掴み立ち上がった。

 こうして新しく人員を増やした行商団は、陽も昇らぬうちにそそくさと村を抜け出した。

 

******

 

 ダーニホグ村を出て半日が経つ頃には、フリーオはもうすっかり行商団の面々と打ち解けていた。それが少し複雑でもある。

 傾き始めていた太陽を見て、俺は少し疑問を抱く。

 

「……ジーギス」

「ん? どうした?」

「あの町に向かうなら、さっきの分かれ道は違う方じゃないのか?」

「――ああ、そうか。お前はまだ知らなかったな」

 

―――え?

 ジーギスはどこか言いにくそうに口を開いた。

 

「俺達は、もうあの町には向かわん」

「……なぜ?」

 

 胸の中で一瞬沸き立った激情を抑える。こういったときは何かしらの理由が必ずあるのだから、猛ったところでどうしようもないことだってある。

 

「――そうだな。その前に、そろそろこのボーグル行商団について教えようか」

 

 ジーギスは悩みながら、少しづつ言葉を紡ぎ始めた。

 

「このボーグル行商団の団長は、今でたしか四代目だ。初代の団長は元は行商人でも何でもない人だったんだが、天職を全うしたときに行商をすることに決めた。……それには商売がしたかった、違う場所に行きたかったってのと別にもう一つ、理由があった。それはな、団長には村の掟を破った親友がいたんだよ。団長はそいつを助けたかった。そいつは木工だかの天職だったらしいんだが、掟を破った罰で村の外で暮らし、日々村民の仕事を大量に手伝わさせられていた。だがそれは村の掟でも何でもない。村民による虐めでしかなかったんだ」

「それは、酷い……」

「ああ。だから初代の団長はそいつを連れて行商に出たんだ。木工の天職は別に村に定住する必要がなかったからな。そうして二人で旅に出て……ボーグル行商団は段々と大きくなった。何でか分かるか?」

「……人を、助けていたから」

「ふっ。ああ、その通りだ。ボーグル行商団は誰でも受け入れる。《禁忌目録》を破ることはできないが、行商団であるために地域の決まりには従わなくていい。そこで、うちは地域の決まりを破ってしまった連中を受け入れることにしているんだ。今の団員もほとんどがそういった人間さ。皆、大なり小なりやらかして元の場所にいられなくなった人間だ」

 

 ずっと、不思議だったのだ。この行商団の団員のバラエティが余りに豊かであることが。ジーギスも元々は衛士であったと言うし、中には元シスターの人や様々な手工業者もいる。どれもフリーオと違って全うすることのない天職であり、そもそも『元』という言葉があり得ない天職のはずなのに。

 これで納得がいった。彼らは皆、地元を追われた逃亡者なのだ。法の穴を縫って身を寄せ合って生きている。他に行商団の噂を聞かないのも当然の話だ。こんな集団、一つでもあったことが驚きだ。

 

「それでボーグル行商団の掟がある。『誰かを助けたなら、すぐにその地を離れよ』だ。きっと昔、何か問題が起きたときがあったんだろうな。それ以来、メンバーが増えたら行商する地域を変えることにしているんだ」

「……つまり、サザークロイスとはもうお別れ、と」

「ああ。――もしも後の三帝国でも次々に人を増やせば、また戻ってくるが」

 

 まあ、ないだろうな。その言葉は音にならなかったが、確かに俺には伝わった。

 俺は少し後ろを振り返って、頭を下げた。

 その夜、翌日には西帝国に入るとグルトは宣言し、皆が眠りに就いた。

 俺は妙に目が冴えてどうしても眠ることができず、簡易的な寝床から這い出た。

 少し小高い丘に今夜の野営は陣取っており、西を眺めれば高く聳え立つ白亜の壁が見えた。あの壁が帝国同士の境界であるらしい。

 疲れからぐっすりと眠るフリーオを眺めつつ、俺は荷台から剣と、それと同じほどの長さの包みを音がしないように取り出し行商団の一団から少し離れた。

 《災厄の岩》を砕いた後、あの木剣は木端微塵に砕けた。木屑でしかなくなったそれを眺めて、ジーギスは俺に一振りの剣をくれたのだ。紛れもない金属製であり、木剣と違ったズシリとした重みを感じる。

 疲労すればまた眠れるようになるだろうと思い、俺は素振りを始める。元の世界では考えられなかった行為だ。実剣での鍛錬など。この世界に来てからのことなど様々に思い浮かべつつも、剣筋に乱れはない。半年の訓練は確かに身になっていた。

 薄っすらと汗を掻くほどに剣を振って、俺は柔らかい草の上に大の字になった。横に置いておいた包みを手に持ってみる。

 包みを解けば、中に入っているのは薄っすらと白みがかりながら夜空が透けて見える大きな結晶。《ティタンクォーツ》の欠片だった。

 粉々に砕け散ったあの岩の、丁度真ん中の辺りが丸ごと破片になっていたのだ。その美しさに惹かれ、こうして俺はその破片を持ってきていた。当然ながら砕けていても硬さは変わらないので、これで殴れば相当痛いことは間違いない。

 しばらく星の煌めきがクォーツに反射する光景を何とはなしに眺めていると、俺の耳は静かな夜に不似合いな音を聴き取った。

 

ザアワ、ガシャ、オォ

 

 それはある程度の数の集団が原因だろう。話し声のような騒めきと統一されない足音、草を乱雑に掻き分ける音がする。そして、何か金属のようなものが揺れ、擦れ合う音も。

 慌てて俺は立ち上がる。こんな夜中に出歩く一団なんて碌なものじゃない。

―――いや、そんなものいるか?

 パッと思い浮かんだのは山賊や野盗。しかし行商団と違って禁忌目録に縛られているそれらは存在しないはずだ。かと言って別の行商団なんて噂も聞いたことがない。それに、この金属音は鎧や刀槍のような武器の音ではないのか。

―――武器の音?

 鋼鉄の剣も今日初めて持ったような俺が、なぜ武器の音に聞き覚えがあるのか。ふつりと猜疑心が鎌首を擡げるが、今はそれどころではないと頭を振る。

 丘の方に戻り、耳を澄まして音源の位置を探る。荷台から双眼鏡を取り出し、音源があるであろう場所に目を向けた。

 暗い。暗くてよく見えないが、少なくとも十から二十ほどの影が動いているのが分かる。そして、それらがこちらは向かってくることも。

 

「システム・コール、ジェネレート・ルミナス・エレメント、インプルーブ・オーガン・アビリティ」

 

 声を潜めて詠唱し、視力を向上させる。光素を使っている分、暗視効果も含まれているはずだ。

 じっと影を見つめれば、段々とその姿が露わになる。

―――ゴブリン!?

 体色は緑で、簡易的な防具を下半身に着けて上半身は裸体だ。その背格好は猫背で大きさは人間と大して変わりはない。顔は鼻先と耳が尖って長い人を逸脱したものであり、全身を独特の染料で模様づけしたその様は、正しくゲームで敵対mobとして登場するゴブリンの姿だった。そしてそれはこの世界においても《果ての山脈》の向こう、ダーク・テリトリーに住むと言われる存在だった。

 俺は血相を変えて眠る行商団のもとに急ぐ。一瞬迷った後、グルトを叩き起こす。

 

「おい、グルト! 起きろ!」

「……ん? まだ、夜中じゃないか……」

「そんなこと言ってる場合じゃない! ゴブリンだ!」

「!? ――何!?」

 

 その肥満体からは想像もつかない俊敏さでグルトは立ち上がり、俺が持っていた双眼鏡を奪うようにして俺の指差す方を眺めた。

 

「……まさか、そんな。いや、あの噂が真実だったのか!?」

「どうする?」

「――逃げる。それしかない。ゴブリンにバレないように全員を起こすぞ」

 

 グルトの冷静な声に、俺も少し頭が冷える。俺とグルトは手近な者から目覚めさせ、すぐに全員が覚醒状態になった。皆、緊張で声が出ない様子だ。目もウロウロとあちこちを動き、落ち着きがない。

 グルトが手を挙げて注目を集めた。

 

「我々はこれより西帝国に全力で向かう。壁門まで行けば衛士隊が常駐しているはずだから助かる。全速で向かう。……ジーギス」

「ああ、分かっている。俺は殿で少しでも奴らを足止めする。その間に皆は逃げろ」

 

 ジーギスが重々しく頷いた。

 

「……俺も残るよ、ジーギス。一人よりも二人の方が良いだろ?」

 

 俺はジーギスの瞳を真っすぐと見つめる。試すような視線から目を逸らさず、むしろ押し返すように力を込める。

 

「良いだろう。というわけでグルト、レントも俺と共に残る」

「レント! それなら、俺も……」

 

 フリーオが俺の袖を掴む。俺は、フリーオの瞳を覗き込んだ。

―――本当に、残る気か? ほぼ確実に死ぬぞ?

 僅かに殺気を滲ませれば、フリーオは軽く足を引いた。

 

「駄目だ、フリーオ。お前は皆と逃げろ。そうだろ、ジーギス?」

「……ああ。悪いが、レントはまだしもフリーオは足手纏いにしかならない。逃げるんだな」

 

 真っすぐと俺達に言いきられたフリーオは、少し目線を左右に振ってから頷いた。

 

「よし! それじゃあ、総員、出発!」

 

 グルトの声と共に行商団員は全員小走りで進み出す。俺はフリーオの頭をぐしゃぐしゃにしてから背中を押した。

 

「また、朝日が昇ったら会おう」

「……! ああ!」

 

 フリーオは振り返らずに走っていった。

 どれだけ気を遣って行動しようと、この静かな夜では物音は非常に目立つ。荷車が走り出したときには、周囲を探っている様子だったゴブリンの一団も真っすぐこちらに向かっていた。

 

「レント。今は確かに俺の方が強いが、お前の才能なら生きて成長すればもっと役に立つだろう。……犠牲にするなら、まずは俺からだ」

 

 ジーギスは街道を塞ぐように構えながら、静かに言葉を吐いた。

 

「…………うん。分かった」

「ふん、お前は本当に物分かりが良いな。少しは俺の心配をしないのか」

 

 茶化すように言うが、ジーギスの視線はゴブリンが来る方から外れず、その口角も上がることはない。

 

「自分の心配で精一杯だよ。……それから、行商団の心配でね」

「そう、その通りだ。衛士たる者そうでなくてはな。さて、俺からの最終訓練、実践編だ。生き残れよ」

「ああ!」

 

 ゴブリンが、大声を上げながら走ってくる。

 それに合わせて、俺とジーギスは雄叫びを上げた。




 キリトとは逆の順番ですね。ゴブリン退治とオブジェクト破壊が。というかフラグ建て過ぎでこの人達本当に生き残る気あるんでしょうか……?
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